学園生活 ~穏やかな時、忍び寄る影~その1
太陽は燦々! 気分もとっても上がってランチタイム!
やってきましたお昼の時間!
学食のニャンコ用特等席に座って、大魔帝ケトスたる私はネコ足をうにょ~ん♪
肉球をのばのば~!
鼻をひくひく、ヒゲもぴょこぴょこ!
まあ、なんと美しい顔立ちでしょ~!
長テーブルの中央で、モコモコな首を動かし――周囲を眺め。
瞳をギララララ!
肉球で机をパンパンパン!
『くはははははは! 我が所望するのはオムライス! 素敵で美味しい、ランチの王様! 我の前に学食オムライスを提供すると良かろうなのだ!』
「いや、ケトスっち……できたばかりの食堂じゃコックさんもいないでしょうし、無理でしょうよ。それに……オムライスって、王様ってほどのポジションだったっけ?」
と、冷静に呟くのは黒髪女子高生。
当然と言えば当然のツッコミをいれるヒナタくんに、私はチッチッチ!
『我が辞書に、不可能の文字は無し! ヒナタくんよ、君は甘い! 実に甘い! 既に準備は抜かりなし、朝に淹れて呑むホットココアより甘いのニャ!』
「うわ! あんた、テンション高いわね……ッ」
ちょっと引き気味なヒナタくんに、我が叡智を披露するべく。
ふっと微笑した私は――ビシ!
おいしそうな湯気が上がっている厨房を、明日を照らすほどに輝く肉球で示す。
新設された学食。
その厨房には精鋭が揃っている。
料理人姿の立花トウヤくんが既に厨房に入っていて、ジュジュジュジュジュ~!
無駄に寡黙クールな容姿を輝かせ――。
私のためのお子様ランチ、とオムライスセットを調理中!
学食を見に来た女子生徒の視線をキラキラオーラで集める、その横。
黄金の飾り羽が特徴的な恐怖ペンギンさんが、ビシ、ズバ!
ガァガァガァガァ!
「さあ! それではみなさん、始めるでありまするよ! ここは吾輩たちの新たな巣! 学食という戦場! 恐怖の大王の信仰度を稼ぎ、人類を胃袋から掌握! ゆくゆくは大ペンギン王国を建国するのでありまする!」
リーダーペンギンの声につられて、ツバサによる拍手が鳴り響く。
「さすがは吾輩の本体!」
「すばらしい吾輩!」
「吾輩たちの辞書に、不可能の文字はなしでありまするな!」
ペギギギギギギギギ――ッ!
と、謎のポーズを決める恐怖の大王と、その一味。
アン・グールモーアとその分身端末が、わっせわっせと他の生徒の注文分を調理中!
トウヤくんがいるんだから、その監視対象であるペンギンさんも当然いるんだよね。
しかしこのペンギンさんもだいぶ、こちらの世界に慣れてきたみたいかな。
もうグレイスさん達ともふつうに会話してるし。
畏怖の魔性としての感情の暴走はみられない。
うん……。
まあ、けっこう楽しそうである。
そんなほんわかな感情を隠しつつも、私はドヤ!
喉をゴロゴロ鳴らしながら。
ん? ん?
女子高生勇者、ヒナタくんを揶揄るように、ドヤヤヤヤ!
『ね? 問題ないだろう?』
「トウヤくん。ほんとうにあんたに懐いてるのねぇ……。まあ命の恩人なんだし、転移先で死んだ時に蘇生して貰ったようなもんらしいし。分からないでもないけど」
呟きながら――ふと、なにかを思い立ったのか。
ヒナタくんはキョトンとした様子で言う。
「ねえねえ! 思ったんだけどさ――最初からケトスっちが魔力で学食を作って、いつもの猫コックさん達を召喚すればよかったんじゃないの? あの子たち、料理もメチャクチャ上手じゃない? あたし、あの子たちの料理けっこう好きなんだけど!」
再度――私はチッチッチ!
『分かってないな~! 自分で作り出した施設や環境じゃなくて、他の誰かが用意して作ってくれた料理を食べたいんだよ! それが複雑な猫心ってやつじゃないか!』
「ええ! なーにそれ! 自分で作った料理じゃ味気ないってやつの亜種?」
オムライスを待ちながら、るんるん気分で私はニャハリ!
『ま、そんなところだね!』
「じゃあさあ、ペンギン部隊と分担制にすればいいじゃない! いつまでこの学園を維持するのかは分からないけど、休暇も必要でしょ! 呼んでよ! 呼んで! あたし、あんたの眷属ネコちゃんの料理が食べたいのよ! お願い~、いいでしょ! ね! ね! あたしもけっこうあんたに協力して、頑張ってると思うんだけどな~!」
まあ、確かにそれもそうか。
それに食に関しては、ヒナタ君もかなり煩いからな~。
なんか妙にテンションが高いし。
あの猫コックたちは、他人にグルメを食べさせることでレベルが上がったり、スキルを習得する。それに他人の喜ぶ顔に生きがいを感じる、根っからの料理人ニャンコだから。
呼べば喜んでやってくれるとは思うが。
『分かったよ。明日になったら学長のヒトガタくんと相談してみるよ』
「ヒトガタさん……って! あの千の魔導書の異名を持つ美貌鉄面皮気味のイケメンさんよね! イイ感じの歳で、結構強かったケトスっちの部下! なーんだ! ケトスっち! あの人が学長をやってるなら、先に言ってよね~!」
後で挨拶しにいこう!
と、露骨にニコニコになるあたり、やっぱりヒナタくんって、イケおじ趣味なんだろうなあ……。
ん-みゅ。
時間軸的にはダンジョン領域日本の外――。
まだ海外旅行にでているご両親。転生魔王様とその奥さんの、勇者の転生体と思われるお母さん的には、どーなんだろうね。
考えているうちに調理が完成していたのだろう。
運ばれてくるオムライスとお子様ランチに、にゃは~!
アン・グールモーアがペタタタタ!
ペタ足で歩いてやってきて、ぼわんとお盆とメニューを顕現させる。
「お待たせでありまするよ! 学食特製オムライスにお子様ランチセット、今ここに献上いたしましょう!」
『待ってました~♪ トウヤくんもありがとうね――って、もう女子に囲まれてるね。声も届きそうにないか』
蜜に群がる蟻んこ状態になっている群衆。
その真ん中にトウヤくんがいるのだが……。
なんつーか、もはや呪いレベルの美貌だな、これ。
『うわ、凄いね……トウヤくんって、なにかそういうスキルでも取得しちゃってるのかな』
私も他者を惹きつけるネコ魔獣のスキルを持っているけど、それと類似する性質なのかもしれない。
大王ペンギンさんが、考え込んだ様子でふーむと唸る。
「そうなのでありまするよ。あの青年、どうも異性を惹きつける力が強すぎるようで。少し外に出るだけで、大変なことになりますので、ええ、はい。しかし吾輩にはあの小童のどこがいいのか、はて。さっぱり。人間種の顔の区別などつきませぬので、よく分かりませんな」
吾輩の方が、カッコウイイのに!
と、飾り羽をふふんとツバサで撫でるペンギンさんを無視して、私は言う。
『まあ単純にレベルも高いから、ステータスとしての魅力値も高いんだろうけど。私もネコになってからは人間の顔の区別って、あんまりつかないからな~。一応、美形とかそうじゃないとか、そういう顔の造詣のパターンで識別はできるんだけどねえ』
私の方がカッコウいいのに。
ネコ魔獣とペンギン魔獣で、首を傾げる中。
ヒナタ君が苦笑いをして言う。
「ケトスっちは気にしてないみたいだけどさあ? あんたの周りって、本当に美男美女が多いのよ? そう。このあたしのようにね!」
『ぶ、ぶにゃにゃ!? いや、たしかに君は美少女なんだろうけど。自分で言ってて恥ずかしくないの……?』
ぶわぶわっと私の猫毛が逆立ってしまう。
「たまにはいいじゃない! あたしだって、羽を伸ばしたいの。羽を!」
妙にテンションが高いヒナタくんだが、意外に学園生活が気に入ってるのかな。
まあ……ここは遠慮の要らない場所。
ソシャゲ化する前の、力を隠して生活をしていた学校とは異なる空間。
その開放感が、彼女のテンションを上げさせているのかもしれない。
……。
ここは分類するならばあくまでも夢の中。
終われば消えてしまう泡沫の世界。
あまり、浸り過ぎてしまうのも危険な気もするが――。
ともあれ。
ジト目を向けてやりながら、私はスプーンを装備!
『さて、冷めないうちにいただかないとね!』
「それでは吾輩は行くでありまするよ、あのメスの群れの中からトウヤ殿を救出しなくてはなりませぬからな!」
と、いいつつもアン・グールモーアは自らの羽毛を整え。
クイクイっと飾り羽を梳かし。
クールダンディとかいう、わけのわからん自己バフを発動させて、ペタタタタタ!
『あのペンギン……トウヤくんに対抗して、女の子たちを魅了するつもりなのかな』
「ま、まあ……ペンギン自体は可愛いけど、たぶん……アレで魅了しても、勝負になってないわよね?」
ともあれ、私はグルメタイム!
トロトロではないが、丁寧にチキンライスに巻かれたタマゴにケチャップを――じゅび、じゅび~♪
タマゴ全体に濃厚トマトの香りを伸ばして~。
スプーンを通して! グリーンピースと鶏肉とライスをぱくり!
お肉とコンソメ♪
タマゴに包まれた絶妙なハーモニーが、我が舌の上で踊る!
『くははははははは! これぞ学食のオムライス! レストランとも違う味!』
「トウヤくん、料理店でバイトでもしてたのかしら。もし、あんたのためだけに練習してたんなら笑っちゃうんだけど、さすがにないか」
呟いて、なぜかヒナタくんは頬に汗を流し。
「さすがに……ないわよね?」
『なにがだい?』
「え!? いや、ううん。なんでもない、もしあたしの勘、というか予知が当たっていたならちょっと、涙ぐまし過ぎるから……気にしないで」
私が美味しく、むしゃむしゃむしゃ♪
お子様ランチの、衣サクサク! 中は海鮮汁でプリプリなエビフライを、バリバリする中。
黒猫と黒髪女子高生が見守る前で、ペンギンさんのアピールタイムが始まっている。
あ――。
あのペンギン、自分の種族特性を利用したペンギンダンスでどんどん魅了していってるな。
……。
なんか、対抗意識がでてきちゃったので。
あとで私も魅了しとこ。
「って、いけない! 鬼教官の訓練の時間だからあたしは行くわね!」
『ああ、ちゃんと強くなっておくれよ。せめて私にダメージを与えられるぐらいになってくれると、心配しなくて済むからさ』
転移魔法陣を展開しながら、ヒナタくんが呆れ顔を見せ。
「いや、あんた……それ、なにげに要求高過ぎよ?」
『まあ、あくまでも希望さ。それじゃあ気を付けてね、卿によろしく』
シュン――!
去っていく彼女に肉球を振って、さて!
『後はオムライスを食べるだけなのである!』
「じゃないだろう、駄猫! このボクに調査をさせておいて、なーに、スッキリした顔をしてやがるんだよ!」
と、突然声を上げたのは――いままで影に隠れていた王子様。
ヘンリー君である。
『にゃはははは! ごめんごめん、でもちゃんと君の分もオムライスを頼んでおいたから怒らないでおくれよ。それで、どうだった?』
「やっぱりナニカが入り込んでいる……たぶん、間違いなくね」
そう。
なんか学園生活をエンジョイしていたが。
本題はそっち。
滅びの予知を回避する、それが一応の優先事項だからね。
シリアスにならないといけないわけだ。
肉球を顔の前で組み、会議室のお偉いさんの顔を作り。
キリリ!
口の周りについたケチャップをペロペロしながら、私は穏やかな声で言う。
『詳しく聞かせて貰おうか――』
「あぁぁぁ! そのまえにちゃんと顔を拭けよ、きたないなあ! べっちゃべちゃだぞ、この駄猫!」
潔癖症気味なのだろう。
クマの目立つ顔を尖らせたヘンリー君が細い手で、布巾を片手に私の顔をフキフキフキ♪
こうして世話を焼かれるのは、ネコちゃん的にはやぶさかではない!
私は、にゃは~っとネコスマイル!
『おー、なかなか拭き方が上手いじゃないか! 君、このまま私の執事になる?』
「動くな! うまく拭けなくなるだろう!」
ともあれ。
私は彼の報告に、モフ耳を傾ける事にした。




