学園戦争 ~ネコの瞳はナニを見る~その3
闇の教室にて始まった最初の授業は、実戦形式。
大魔帝ケトスこと私。
赤く燃える憎悪の瞳が、生徒達の力と性質。
そして過去を覗き込んでいる。
とりあえず危険そうな人物がいないかチェック! チェック! チェック!
集められた転移帰還者達の能力を把握するべく、教師である私はドヤァ!
と、していたのである!
そんなわけで!
超てかげんモードで神父姿の私と、生徒達(仮)との戦いは順調に進んでいた。
もはやリーダー扱いの女子高生勇者。
異界の転生魔王陛下の愛娘、聖剣使いのヒナタくんが――範囲バフを発動!
「さあ! こっちはこれでも英雄の集いなんですから! 相手がラスボス級にやばいケトスっちだとしても、一発ぐらいはあてられる筈よ! みんな! 協力してね! このまま一方的に見下されるのは嫌でしょ! 少なくとも、あたしは絶対にイヤ!」
ロックウェル卿が得意とする支援の能力で、パーティ全体を強化!
言葉による扇動。
力ある鼓舞で大衆を操る能力こそが、やはり勇者の厄介な力である。
前にも言ったことがあったと思うけど。
ニンゲンって、群れとなると強化される種族なんだよね。
「じゃあ手筈通りいくわよ――! この駄猫に、たまにはガツンとダメージを与えてやるんだから――! 一発でかいのぶち込むから、時間を稼いでちょうだいね!」
『おや、なぜか一撃でもダメージを与えたら生徒達の勝ち。そんな空気になっているね……まあ、それでもいいんだけど。きたまえ――ヒナタくん、もし私にダメージを与えられなかったら、ロックウェル卿に訓練メニューを追加して貰うように頼むからね』
言われたヒナタくんが目をまん丸にして、口を――くわ!
カラスの濡れ羽色の髪を、ぶわわっと揺らし。
「はぁああああああぁっぁぁ! それはないでしょう! よーし、そっちがその気ならこっちだって容赦しないんだからね! アンタ――覚悟しときなさいよ!」
「ヒナタさま! 有名ランカーの大魔帝ケトスって、そんなにヤバイんですか?」
なんか舎弟っぽいポジションになっているヤンキー女子。
ゴテゴテピアスの似合うヤンキーに問われ。
既に魔力をチャージしはじめているヒナタくんが、頬に汗を浮かべ――笑う。
「ヤバイのは確かよ。少なくとも世界を生み出せる程のネコ神なのも、事実よ。このダンジョン領域の管理者で、この世界を作り出し今も尚、維持している主神の一柱。いま、ふつうに暮らしている異能をもたない日本の住人全員に、魔術やスキルを貸し出せる程の大魔族。そう言えば、ちょっとは分かってもらえるかしらね」
おお! なんかそれっぽい!
生徒達の視線を受け、あの方を想いながら私は眉を下げる。
『まあ、力を持たざる彼等にソシャゲというスキンの中で、魔術を伝授しているのは事実さ。だって、その方が平等で面白いだろう? いざとなった時の戦力ともなるし、なによりだ。あの方の技術の結晶ともいえる魔術、あの美しい魔術式が広がる事は歓迎すべきだと――私は思っている』
きっと私は――。
とても穏やかな顔をしていたのだと思う。
両手を広げ、私は朗々と語る。
『魔術とスキルが広がる。それは、魔王様の教えが広まるという事でもあるのだから。とても素晴らしい事だと、そう思わずにはいられない。魔王様、ああ魔王様……あの方の全てが、愛おしい。いつか君たちにも、理解できる日が来るはずだ。あの方こそが世界の全てで、あの方こそが中心で、あの方こそが三千世界を統べる王であるとね。そう……生きとし生ける者、全てが理解できる日が来ることを、私は願わずにはいられない』
影ネコ達が、そうだ! そうだ!
然り然り!
スタンディングオベーションで、拍手を送っている。
何人かの生徒が、私の言葉と瞳を深く、心の奥にまで覗きこんでしまったのだろう――「はう……!」と声を漏らし、失神。
魅了状態に陥り、闇の中へ消えていく。
戦闘続行不能とみなされ暗転――強制退場させられたのだ。
「深く耳を傾けないで! 精神攻撃よ!」
一喝するヒナタ君の声が、生徒達の肌を揺らす。
魔王様。
ああ、魔王様。魔王様。
私はあなたのためならば、なんだってしてしまうのだから。
そんな心を今は鎮め――私は言う。
『おっと、すまない――少し話が逸れたかもしれないね。それじゃあ、ルール変更だ。君たちは私に一以上のダメージを与えたら勝利。そういう契約にしよう』
魔導契約書にルールが刻まれていく。
再契約を確認したヒナタ君が、ドヤ顔で――にひり!
「よっしゃ! ルール変更は成功よ! 後は一発ぶち込むだけ! それがメチャクチャ大変だけど、あたし達だって勇者とか英雄とか、なんかすっごい集団なんだから! いけるいける!」
再びの扇動の鼓舞。
シュゥゥゥゥッゥウ!
ヒナタくんの勇者の鼓舞に反応した生徒達の身体が、魔力で満たされる。
他の生徒達も動き出す――!
「行きますわよ――!」
「ああ、やってやろうじゃねえか!」
彼等の作戦は決まっている。
一番破壊力と魔力出力の高いヒナタくんがアタッカー。
チャージ系の魔術――いわゆる溜め攻撃の準備に入って、聖剣を構えてバチバチバチ!
刀身に魔力を纏わせ、威力と覇気を溜めているのだ。
まあ、たぶん……。
最大まで溜め切れば、この私の耐性すらも貫通するはず。
十ぐらいのダメージを与える事ができるだろう。
なにしろ最近、彼女は私達の訓練を受けているからね。
その時間稼ぎのため。
他の生徒が矢継ぎ早に私を攻撃。
闇を束ねるリーダーが吠える!
「光の女! 打ち合わせはしねえ、空気で察して合わせろ――!」
「分かっていますわ!」
応えたのは、お嬢様っぽい聖職者。
光っぽい属性の生徒達を束ねていたお嬢様が、破邪の力を聖書に浮かべ。
バリバリバリィィィ!
「主よ――! 大いなる地母神よ! 我等が前に立ち塞がる大いなる闇に、慈悲なる静寂を与えたまえ!」
『ふーむ。異界の聖神の力を借りた、魔術封じの奇跡かな? この大神もおそらく、元楽園の住人だろうが、善神か悪神か、ちょっと判断できないね』
ともあれ私は一瞬で模倣!
ぶわり!
同質の異界聖書を顕現させ――高速詠唱!
『主よ――! 母なる大地神よ! 我が前で迷いし子羊に、安らかなる惰眠を与えたまえ!』
相手の奇跡よりも高ランクな奇跡を、即興で発動させてみせて――完全相殺。
パタン!
顕現させた異界聖書を手のひらの中で、そっと閉じる。
驚愕する少女の前に、黒衣の神父教師が一人。
あくまでも穏やかに。
エレガントに私は教師の顔で、告げる。
『信仰心を力とする奇跡には裏技があってね、奇跡の対象と信仰の数値を改竄すれば――魔術式そのものを変更することもできるのさ』
しかし、相手の理解はまだその前の段階だったようだ。
「な……! どうして魔族が奇跡を発動できるのですか!」
『さっきも言っただろう? 何事にも例外は存在するという事さ――それじゃあ、お休み。君は脱落だね』
むふふふふ、たぶん結構カッコウイイ!
ドドドドド、ドヤァァァァァ!
手を翳し、一時的に結界外に排出させる闇の手を顕現させるが。
すかさず跳躍してきたのは、獣人の影。
「させるかよっ! 狂い屠れ、我がラビュリントス!」
闇っぽい生徒達を従えていた亜人種。犬耳獣人リーダーの生徒が、魔力を纏い――。
ズダダダダダダダ――!
猛ダッシュの突進!
両刃の戦斧で、私を――ズガン!
むろん。
ノーダメージである。
指の先端で両刃の斧を撫でながら、私は眉を下げる。
『おや、けっこう早いじゃないか――。可哀そうに……よほど苦労と修行をしたのだろうね』
「なっ……! 指先で、受け止めやがった――、だと!?」
グギギギギギギっと、獣人生徒が歯を食いしばる。
乱雑だが力ある攻撃のラッシュが、私目掛けて襲い掛かる。
しかーし!
ここはドヤポイント! 全てを指先だけでいなし――微笑!
シュンシュン! キキキン!
音が響く中、乾いた息を漏らし生徒が吠える。
「バ、バケモノか……っ、こいつ!?」
「だから言ったでしょう! 本当にヤバいのよ! このネコ教師は! 言い忘れてたけど、そいつ、基本的になんだってできるわ! 気を付けて!」
更に力を溜め続けるヒナタくんの周囲には、大きな魔法陣。
支援系スキルや魔術を扱える生徒が、アタッカーで砲台でもある聖剣を軸に、多重のバフを重ね掛けしているのだろう。
「気をつけろって言われても! どうしようもねえだろうが! ダダダダダダ、ダリャァァァァァァッァア!」
終わらぬ攻撃!
そのまま強引に、斧でダメージを貫通させようとしているのだろうが――。
私には届かない。
焦りに瞳を揺らす獣人生徒が、蹴撃まで更に追加しながらコンボとラッシュ!
吠えながらも、動揺に闘志を揺らす。
「クソッたれが、届かねえ――! 猫教師! てめえ、魔術師じゃねえのかよ!」
叫ぶ顔の真ん前に顔を突き付け、はははは。
嫌味な笑みを送ってやる。
『よくある論法だろう? 魔術師だからといって武術が不得意とは限らない。むしろ無防備になりやすいのだから、魔術師こそが武術を学ぶべきなのさ。だいたい、ヒナタくんとの戦いで、私の体術は見ていたのだろう? どうして君の技なら届くと思ってしまったんだい?』
挑発には――乗ってこないか。
獣人生徒は、犬歯を輝かせ――吠える!
「まあいい! どうせオレの攻撃は、届かない。それはかまわねえ! だがな! 大神と雷霆、迷い狂いし神の子よ! ラビュリントス! その真価を今こそ解き放ちやがれ!」
詠唱……!?
『おや! 私の逆だね。戦士系だからといって、魔術が使えないわけではない、か。いやあ油断したよ――そうだね、君の判断は正しい。さて、それで、今度はどんな魔術をみせてくれるのかな?』
これが相手の作戦だったのだろう。
攻撃と同時に詠唱することで効果を強制発動。魔術の性質は――混沌とした迷宮へと相手を誘い行動を戒める、そんなデバフ効果といったところか。
逸話魔術の一種を、魔術式として刻印。
武器そのものに刻んであるのだ。
たぶん異世界では本当に貴重な、神の武器として祀られていた可能性が高い。
「ハハ! そのお綺麗な顔を、動揺と混乱で満たしてやるぜ!」
私の周囲が複雑な迷宮結界で覆われていく。
続けて、獣人生徒が吠える!
「てめえら! いまだ――、迷宮ごと攻撃しろ!」
「あたしのチャージは間に合ってない、先にやって――!」
ヒナタくんの言葉を合図に、魔術やスキルの乱舞が迷宮に封印される私を襲う。
ズゴ-ンズゴーン!
ばきばきばき!
キイィィィィィッィィィィィン!
聖も魔も関係のない、多重の攻撃群。
発生した魔力波動と、世界の法則を書き換える度に発生する煙がモクモクと上がっている。
闇と光。
リーダーとなっていた両者が言う。
「やったか――……?」
「おそらくは……いけたのではないでしょうか? これで……一撃も受けていないなんてことになったら、本当に、神以上の存在でしょうしね」
まあ、やったか……?
なんて言われたら、こっちもお約束をやりたくなっちゃうよね?
煙と霧の中。
私はコツリコツリとわざと足音を立てて、悠然と進む。
「嘘……ですわよね?」
「はは、マジかよ……ッ、洒落になんねえな」
敗北の味を噛み締める生徒達を見ながら。
私はやはり穏やかに。
神父の声で――。
生徒達、それぞれの正体と履歴を見据えるように。
口を開いた。
『悪くない作戦だったけれど、残念だったね――届いていないよ』
魔力波動で靡く黒髪。
覗く赤い瞳。
憎悪の魔性たる私の美貌が、ギラギラギラギラ――輝いている。
『仕掛けるのなら、ヒナタくんのチャージが完了してからにするべきだった。それが君達の失敗さ』
むろん、ノーダメージである。
後は、指を鳴らし軽い大爆発でも起こせば、最初の授業は終了か。
と、思ったその時だった。
背後から、声が聞こえた。
「わ、わたしもやってみますねえ!」
『おや――まだ終わっていなかったのかな』
ふわりとした様子で巻き髪を靡かせるブロンド少女――おっとり気味なノスタルジアくんである。
おっとり過ぎて参加していなかったのだろう。
遅れて参戦した彼女が、キリリ!
彼女は魔術を発動させようと、魔術式を展開。
「えーと、魔術式のここを、こうして……こう!」
しかーし!
甘い! 咄嗟であっても魔術式を盗むことくらい、私にとっては朝飯前のなんとやら!
少女が星の形をした杖を翳し――。
「訓練魔術、明日への箱庭!」
『模倣魔術、明日への箱庭!』
私も模倣し、発動!
当然、今回もコピーして相手の魔術を盗んだわけなのだが。
あれ?
そういや、咄嗟だったから魔術式も確認せずにコピーしたけど。
なんかこの魔術、支援系でもないし……何の効果があるんだろう。
疑問を浮かべる私の前に現れたのは、四角い箱。
いわゆるダンボール。
ノスタルジアくんは、ダンボールの中に入って。
「はぁ……やっぱり落ち着きますねえ。先生もいかがですか?」
『えーと、これ……四角い狭い箱を召喚して、中に入る……術かな?』
困惑する私――。
そんな動揺も素敵な神父教師に、箱の中からふわふわブロンド巻き髪少女が言う。
「そーですけど、ここで精神修行をするんです! 引きこもりって言われるけど、落ち着くんですよねえ。それが何か?」
『えぇ……ヘンリーくんといい、今回は引きこもり案件、多くない?』
思わず言葉に出してしまったのである。
しかしだ。
憎悪に染まる魔性なケモノ。
大魔帝ケトスたる私の瞳は――自らが生み出したダンボールに吸い込まれ。
じぃぃいいいいいいいいいいいいいっぃぃぃぃぃ!
……。
ネコの瞳が見るのは、とっても魅惑的なダンボール。
ダンボール。ダンボール。ダンボール。
ポンと私の姿が猫に戻ってしまい。
ジャンプ!
用意されていたダンボール空間に、ずじゃ!
ジャストフィット!
『くはははははは! せ、狭くて心地の良い空間! なんと素晴らしいステキ空間ニャ!』
ネコの本能に負け、ダンボールにイン!
蓋を閉めて――ニャハっとたまに顔を出して、周囲をきょろきょろ。
ああ。
もう、ここから出たくない。
昏くて狭くて。
四方が囲まれていて、ついでにほんのりとひんやりしていて、極楽!
生徒達がざわめきはじめ――はっと私は気が付いた。
で、でられない!
『ぶ、ぶにゃ! ぜ、絶対にで、でたくない! し、しまったぁああああああああぁっぁぁぁ! こ、これは罠にゃぁあぁああああああああぁぁぁ!』
なんでこんな意味不明な魔術を覚えたのか、ノスタルジアくんの謎な魔術に動揺しつつも。
私は、箱の中でぐるりと回転。
出ないと、この場で攻撃されてしまうのだが!
『あぁ……落ち着く。やっぱりダンボールっぽい空間っていいよね~♪』
「しめた――! ネコの姿に戻りやがったぞ! 弱体化しているいまのうちだ! やっちまうぞ!」
生徒達がそれぞれに神器や伝説の装備を構えて、魔力波動をドドーン!
これ幸いと襲い掛かってくるが。
私はまったく慌てていない。
ダンボール空間で、のんびりと肉球をのばし。
しっぺしっぺと毛繕い♪
むしろ、動揺しているのは一人、危険度を知っている女子高生勇者。
チャージを続けているヒナタくんが慌てて、くわ!
制止の叫びを解き放つ。
「ちょ! ストップ! それ、不味いわよ! ケトスっちの場合、神父姿の方が超てかげんモードで、ネコの姿は本気の――って、ああぁぁぁぁっぁぁ。もう全員で飛びかかってるし!」
『このダンボールは私のモノにゃ!』
時すでに遅し!
モコモコぶわぶわ籠城ネコモードな私の瞳が、尖って赤く輝きだす。
私はネコ!
ダンボールは絶対に死守する!
『魔力解放ニャ――ッ!』
そんな使命感に燃えて、ぶわぶわぶわっとモフ毛を膨らませ!
シャァァァァァァァ!
肉球型のプレッシャーが、ずぅぅぅん!
『我がダンボールを奪うモノに呪いあれ!』
瞬殺!
当然。
一部の生徒を除く、全員が退場。
戦闘続行は不能である。
「あーあ、一網打尽じゃない……。もう、あとちょっとでチャージ完了したのに! でも、そりゃあ……普通なら、人間形態の方が強いって思っちゃうわよねえ……。本性はネコだって、あたしもケトスっちも言ってたのに……こりゃ、こっちの惨敗ね」
苦笑して、ヒナタくんはチャージを解除。
戦闘の終了を知らせるように、聖剣を戻し――魔力を弱める。
私のダンボールをパカっと開けて、ジト目で彼女は言う。
「ほーら、出て来なさいダメ教師。あんたの勝ちよ、勝ち。みんな吹き飛ばしちゃって、どーするつもりよ?」
『にゃはははは! 大丈夫、ちゃんと治療もするし、猫状態の私はヤバイってこれで学習もして貰えただろう? 最初の授業で一番大事な事を覚えたわけだろ? ほら問題なし! 全て計画通りなのニャ!』
ニヒィっと嗤う私に、ヒナタくんははぁ……と大きなため息。
溜め息の正体は知っている。
これで、鬼教官ことロックウェル卿の追加授業が確定したからだろう。
「で? あんたの事だからたぶんダメージを与える解答も用意してたんだろうけど。どうすりゃダメージを与えられたわけ?」
「それにはボクが答えてやるよ」
言ったのは、生徒達の中に侵入者がいないか探っていたヘンリー君。
ダンボールの中からぴょこっと顔を出し、私は言う。
『おや、どうすればよかったと思っているんだい?』
「簡単な話じゃないか。脳まで筋肉でできてるヤツばっかりで、困るが――まあ教えてやる。こういうアイテムを使えば良かったんだよ」
言って取り出したのは、お饅頭。
「いや、饅頭でしょ? これ」
「ただの饅頭なわけないだろう? 冥界の名物なんだけど、味は美味しいけれど副作用があってさあ。食べると一定の固定ダメージを受けるんだよ。もちろん、レジストすることもできるが――ダメージを受けないとちゃんとした味には、ならない。そしてこの駄猫は食欲の化身。もう分かっただろう?」
「えぇ……じゃあ戦うんじゃなくて」
まあ、正解である。
饅頭が欲しくて猫手を伸ばし、ぐぐぐぐっとする私。
とってもかわいいね?
私に固定ダメージ饅頭を手渡し、ヘンリー君は小馬鹿にしたように。
ぶわはははは!
「そう、自分からダメージを受けるように仕向けるしかなかったってことだよ! ボクならこの饅頭を使うが、他にももっと手段はあっただろうね。なにしろこれだけの異世界を旅した英雄がいたんだ、特殊なアイテムや魔術ぐらい知っていただろうに、それを正面からダメージを与えようだなんて――はは! 脳筋どもはこれだから嫌だねえ!」
ヒナタくんが何も言い返せないのは、まあ仕方がない。
どんな手段を使っても良かった筈なのに、戦い以外の手段を探らなかったのは失策だった。
固定ダメージを受けながらも、美味しくお饅頭を食べながら私は言う。
『まあノスタルジアくんが咄嗟に使った魔術が、もし自傷魔術だったら――模倣したその時点で私もダメージを受けていたわけだしね。やり方はまだまだいっぱいあったと思うよ?』
それが彼女にも分かっていたのだろう。
がくりと肩を落とし、とほほほほ。
これで初めての授業は完全に終了!
とりあえず、私という存在がどんなモノなのか。
生徒達にも伝わっただろうと思う。
ちなみに。
ダンボールから私が出てきたのは、それから三十分くらい後。
トウヤ君の手によって。
ついに学食が建設されたと、報告を受けた時の事だった。
いやあ、転移帰還者であるトウヤくんがこの場に居ないのは、なんでなのかな~。
と思っていたけど。
私のために急いで施設を追加するために、単独行動してたんだね!
やはり持つべきものは、私をよく理解している存在!
生徒達を起こした私は、急ぎ――食堂のオムライスを食べに廊下を駆けたのであった!




