死せる国の王女 ~荒ぶるラスボス~ その3
王女暗殺未遂事件をきっかけに発生したドタバタ。
異界の地にて起こった騒動。
冥府の国での内乱は、既に大きな戦いへとステージを移行している。
あれから一時間ほどが過ぎていた。
戦いの火蓋が切られた果ての大乱闘。
シリアスな激戦が、繰り広げられているのだが――。
一番大きな事件といえば、姫殿下カナリアが呼び寄せてしまった――大いなる闇の顕現。
彼の者の名は大魔帝ケトス。
その存在とそのすばらしい頭脳による、データ解析事件があった事か。
そう、既にゲーム化空間が乗っ取られていたのだ。
『そんなわけで、聞こえているかな、お城の諸君! 君達のゲーム化結界は私がありがたくいただくこととなった。私がラスボスで君達がプレイヤー。まあせいぜい頑張って私を倒しておくれ、そうすればこの空間からも解放されるし。君達の無事も保証される』
響く声もラスボスっぽい反響音。
『ああ、そうそう! 私は姫殿下、カナリア嬢の味方だからね。今回は彼女の暗殺事件を防ぐために推参したんだ。なにか問題があっても、それは全部、暗殺を行おうとした弟殿下とやらのせいだからね? もし、ついうっかり城ごと世界を壊しちゃっても、私のせいじゃないからね? そこんところは、うん、はっきりさせておくよ!』
よーし、どさくさ紛れに責任も押し付けた!
ともあれ。
私……じゃない、大魔帝ケトスは証拠となる記録聖書を、いつもの記録クリスタル代わりに起動!
自動書記されていく。
ゲームを乗っ取りラスボス化したあの闖入者によって、朝だというのに空は暗く染まっている。
雷を纏う天は暗澹と淀んでいたのだ。
偉大なる猫の闖入者、その名を何度も繰り返そう!
大魔帝ケトス!
ああ、なんと素晴らしい響きだろう!
きっと、素晴らしい御方の部下に違いない!
なんて!
まあ、もう分かっているだろうが――私なんですけどね!
いやあ、なんかこのゾンビ系ガンシューティングゲームに設定されていたラスボスと、相性が良かったらしく。
バグが発生!
ゲーム化世界を丸々ハッキングできちゃってるんだよね~。
で、今何をしているかというとだ。
バグを悪用しての、データ改竄!
ふつうなら、ゾンビを薙ぎ倒してボスに到着!
刀と銃によるスタイリッシュアクションで敵を討つ!
そんなゲームなのだが。
私に適用されているのは敵の、それもラスボスのデータ情報。
これが実に面白い。
倒せないような怪物が延々と追いかけ回してくる、脱出イベントとかを思い浮かべて欲しい。
主人公側はただ逃げるだけ。
体力が無限状態のラスボスやら大ボスやらに追跡され、えっちらこっちら逃げ回る、難易度によってはちょっとイライラっとするイベントである。
それを敵側の視点で行っているのだ!
だって今や私はこのゲーム化世界のラスボスだからね!
とりあえず逃げる例のコヨーテマンを追いかけ、大魔帝は大暴れ!
という大魔帝プレゼンツな新イベントをやっているのである。
ちなみに――猫としての私の狩猟本能も刺激されるので。
……。
滅茶苦茶たのしい!
◇『ラウンド:1』◇
追うモノと追われる者。
大混乱の城内は、大魔帝ケトスから逃げる衛兵で溢れている。
シリアスな空気の中――暗闇に包まれた戦場には、濃い緊張が走っていた。
私はこっそりと闇の中を移動中なのである。
赤い絨毯が目立つ廊下。闇の戦場となった狭い空間。
ここにももちろん敵がいる。
わずかな魔力照明に照らされる兵士たちが数人。
彼等は大魔帝を相手にするということで、かなり動揺と緊張をしていた。
狩られるニンゲンの吐く息は、とっても重々しい。
武器を握る手にも、強く血管が浮き上がっている。
まあ、冥界っぽい地なので、彼等も純粋なニンゲンってわけでもないんだろうけどね。
ともあれだ。
こんなにオドオドしていると、嫌がらせをしたくなってしまう。
それが悪戯ネコの心というもの。
神父姿のまま私は闇の中から影だけを伸ばし、ニョキ♪
チェシャ猫のようにニヤリ!
影だけでダンスを踊って、どこかにいるよアピールをする。
「来たぞ――!」
影の私に向かい、衛兵が刀を突き刺し――ギギギギギギ!
鬼の形相で、食いしばった歯を震わせ。
目を血走らせ吠える。
「うぉおおぉぉぉりゃぁぁっぁぁぁっぁ! や、やったか――!?」
「いや、ただの影だ! そこにはいない――っ!」
きょろきょろと、やはり緊張した面持ちで彼らは周囲を警戒。
ここで敢えて私は何もせず。
闇の中で、休憩!
調理場を通り抜けてきたので、いつものように保存食を吟味!
そんな強盗グルメ……じゃなかった。
略奪グルメ……いや違うな。
ともあれ! グルメを楽しむこちらの空気とは裏腹。
ゲーム世界の刀を構える衛兵の喉が、ごくりと鳴る。
生唾を呑んだのだ。
近くにいるのに、なにもしてこない。
それが恐ろしくて堪らないのだろう。
嫌がらせに心臓の鼓動を煽るようなBGMを流してやる。
おー! ぶにゃはははははは!
背中から飛び上がってるでやんの!
そしてしばらく、濃い緊張の中に置かれ……精神が安定しなくなってきたのだろう。
やがて衛兵の男は、緊張に耐えられなくなり。
擦れた息に、絶叫を乗せた。
「ど、どこだ……っ、く、くるなら、来やがれってんだ――ッ!」
「な……っ、挑発するんじゃねえ! こっちに来ちまうじゃねえか……っ」
カツカツカツ!
神父の硬い靴の音が――闇の中で響く。
実はこれ、缶詰の蓋を壁に当てているだけなのだが――演出としては問題なし。
「近づいている!?」
「に、逃げるか? ここで俺達が戦っても、殺されるだけだろう!」
本当はすぐに目の前。
彼等の影の中にいるのだが、ゲームには演出も重要だからね。
まあ、こんなもんでいいか。
「しかし、このままでは我らが城が――う、うわぁぁぁああああぁっぁぁあ!」
影から這い出る神父姿の私が、彼らの背後に立ち――。
『はい、君たちの負けだ。ペナルティだよ――少し痛いけれど、我慢しておくれ?』
手刀で……ずぶしゅ!
一撃必殺――!
全員の影の腹を貫いていた!
「死にたくない……しにた……く……――」
声は途絶えて、ぷらーん。
動かなくなってしまう。
いや、影を攻撃し――魂を一時的にマヒさせただけ。殺してないし、状態異常でいえば気絶させただけなんですけどね。
『ふむ。影渡りはゲーム化結界の中でも使用可能か。次は何を試すべきか』
凛々しく涼やかな顔で悩む私。
麗しいね?
さあ、次に行ってみよう!
◇『ラウンド:2』◇
次々と消えていく衛兵や仲間達。その恐怖はそれなりに大きいのだろう。
城内は更に大混乱。
異界から大魔族が攻めてきたという事で、パニック状態になっている。
地鳴りが起きる程に走り、混乱して逃げ回る衛兵。
死の気配の中――。
クリスタル城ともいえる冥界の王城では、色んな存在の悲鳴が上がっていたのだ。
とある素敵な大魔族。
大魔帝な私は――フーンと周囲を見渡し。
端整な唇をつまらなそうに動かす。
『これでまた三人、撃退スコアは……なんだ、雑魚だね。あんまりポイントになってないなあ。それとも、こっちは敵側のデータだからバグってるのかな? さて次の獲物は――っと』
わざと大きな声を発する独り言はもちろん――嫌がらせ!
こうやって、徐々に、徐々に……。
敵をゆっくり狩っていく様を、城内に伝えているのだ。
『ああ、いたいた。次のターゲットは君たちか。いいよ。おいで。ああ、でも戦いを拒否するのも構わないよ、姫殿下と私に忠誠を誓うのなら、ね?』
「く、くそがぁぁぁああああああぁっぁ!」
『ま、上司に逆らえないからこうなるか。やっぱりまずはあのコヨーテマンを探し出さないと駄目かな。どーこ行っちゃったんだろう』
とりあえず衛兵君をまた一人撃退!
さあ!
そろそろ語ろうではないか!
更に敵を発見し。
絨毯と硬い床石の廊下をダダダダ!
颯爽と優雅に、エレガントに! ダッシュする影こそが、今回の騒動の犯人。
無双し駆ける、一人の麗しい神父。
黒衣に身を包んだ、赤い瞳の美丈夫。
その名も大魔帝ケトス!
……。
まあ、やっぱり私なんですけどね!
本日何回目の自己紹介であろうか!
しかーし、そんなことは関係ない!
なぜなら私はノリノリだからである――!
『ふははははははは! どうしたんだい、さあ私を倒してみせるんじゃなかったのかな? さあさあ! かかってきたまえよ! ふはははははは!』
闇の中で紅い瞳が輝き。
神父服の裾が、ブワワワワワワワ!
姿は人間のままなのに、影は異形なる猫。
再び逃げ惑う衛兵の群れを発見し、跳躍!
大きな猫のシルエットが壁一面に広がり――グシャ!
鮮血が――飛び散る。
『血に染まりたまえ』
「ぎゃぁぁぁあああああああああああああぁぁっぁぁ!」
が、実はこれ血糊による演出。
そして実験なのだが――血糊の鮮血で頬を濡らす衛兵は、自らの腹を割かれたと本気で思っているようで。
ガクガクガクと脚を震わせ、蹲って泣き崩れてしまった。
恐怖により上司との契約が消え、解放されたようではある。
つまり、これも人助け!
私がこうやって暴れないと、契約の印で主人に逆らえずに一生を終えていたんだからね!
『ははははは! 驚いたかい? 大丈夫、手品だよ手品。ほら、今の私ってゲーム状態の敵側のデータが適用されているだろう? だからね、イリュージョンっていうスキルを使って、ラスボスが見せる幻覚を……って、あれ。気絶しちゃったね……――』
あれ? もしかしてやり過ぎてる?
いや、でも……。
『んー……まあ、いいや♪ じゃあ次、行ってみよう!』
ノリノリうきうきで、私は駆ける♪
ラスボスのデータをハックしている状態なので、色々とスキルっぽいモノが追加されてるんだよね~!
バグで敵側のキャラを使っているような、そんな高揚感があるのである。
そんなわけで!
更に進撃!
姫殿下に忠誠を誓うモノは許し、それ以外の傍観者もセーフ。
ただし、向かってくる敵には――命は取らぬが容赦はせず! ゲームラスボス化現象の実験も兼ねて、ぶっ飛ばす!
単純なルーティンだが、まあ分かりやすくていいよね。
『ふはははははは! くははははははは!』
ずじゃずじゃ! ぐじゃじゃ♪
まるで悪役のように衛兵を薙ぎ払いながら進軍する――私こそが、偉大なる魔王陛下の腹心。
私こそが、破壊神!
私こそが、侵略者!
『女子高生ぐらいの年齢の御姫様を助ける。そんなデッカイ大義名分があるので、どんな卑劣な手段で無双しても許される! 多少どころか、超暴れても問題ない! 姫で、純粋な女の子のためだからね!』
ついつい言葉にしてしまい。
更に敵を薙ぎ倒す!
『つまりだ、免罪符の二重盛り! ようするに、ゲーム結界実験を兼ねて暴れ回っていても――問題はないという事さ? わかるかな? 正義の味方だということだよ!』
長くスラリとした脚で、ダッダッダッダッダ!
ゲーム化現象の空間を駆ける! 駆ける! 駆ける!
「ぐわぁぁぁぁ……っ!」
「ひぃ! こ、こいつ……は、いったい、なんなんだ!? 大魔帝ケトスと、聞いていたが……っ」
「バカな、この男は細身だ! 大魔帝ケトスは太ったデブね……ぐぶ!」
無礼な言葉を吐こうとした男にそのまま飛び蹴り!
必殺の強制沈黙。
スマートな私は神父モードでフフン!
今の私はちゃんと手加減ができるから、敵も生きている!
なんと私は優しいのだろう!
『だから言っているだろう? 大魔帝ケトスだって、私の伝承は君達にもお伽噺として伝わっていると聞いていたのだが、知らないのかい? って、ありゃ。こっちのみんなも気絶しちゃったね……また、やりすぎたかな?』
振り返ってみると、王城を抜け別の城へと顕現していた。
こちらは例のコヨーテマンの上司、弟殿下がいる城なのだろう。
姉弟でそれぞれに城を持っているとは、随分とまあ贅沢だが。
だからこそ王族か。
ちなみにここも既にゲーム結界内。
ワゴンセールで売っているような、量産型ゾンビ系ガンシューティングゲームと似たフィールドである。
ゲーム要素を抽出した結界なので色々と制限はあるのだが、まあ制限されても私――。
強いからね。
暴れまくり続行なのである。
ラスボスのデータを吸い込んだ影響で、頭上に体力ゲージを浮かべながら。
賢い私は考える。
『ここにカナリアくんの弟たち、今回の騒動の暗殺未遂事件の首謀者が立てこもっているわけだね』
救出対象であるカナリアくんの無事は確保済み。
後は敵を殺さずに倒すだけなのだが――いやあ、こっちはスキルも魔術も権能も制限されているからね。
誰が敵なのか、心を読みにくいのでちょっと判断しにくい状況なんだよね。
心を読もうとすると、ノイズが走るのである。
……。
面倒だし。
『ま、いっか。全部やっちゃえば』
言って私は走り出す。
誰が敵か分からない。
そこで出したエレガントな答えが、これ!
武力制圧。
とりあえず、この城で姫殿下の敵っぽい連中を全て、武力で屈服させることにしたのである。
物騒とは言うなかれ、やられたことをやり返しているだけだからね。
どうせ――さ?
後で面倒な御家騒動や、ギスギスとした話し合い! なんていう流れになるだろうし。
そういう――さ?
ネコちゃんの頭を悩ませる諸問題を解決するには、権力こそが一番!
領域全部を支配するのが手っ取り早いのだ。
そういうことで。
名も知らぬこのクリスタル城を、大魔帝ケトスの領域とすることにしたのである!
乗っ取りじゃぁぁああああぁぁぁ!
本来敵側だった筈のラスボスデータの悪用もしたいし!
こっちは正義の味方!
何をしてもたぶんきっと。問題なし!
◇『ラウンド:3』◇
ゴガゴガゴゴドォォォオオオオオオオオオオォォッォォォン!
パラパラパラと土煙が舞う。
もちろん、犯人はゲーム空間でラスボス化している私である。
弟殿下の城の扉を掌底で破壊!
麗しの神父姿のまま、珍しくノリノリで私は両手を広げ――。
朗々と宣言する!
『さあ、反逆者諸君! 私がケトス! 大魔帝ケトスさ! 全面降伏か瀕死の重傷か。好きな方を選びたまえ。もちろんこの私を倒して騒動を終了、平穏を取り戻すという手もあるよ』
言いながら私は、衛兵が詰まった中央エントランスホールに突入!
今回の暫定的な敵であるコヨーテマンこと、顔だけは整ったアメントヤヌス伯爵が、バッと手を翳し。
何も知らない衛兵に号令。
「侵入者だ! ええーい! 既にゲーム結界は適用済みである、者ども、かかれ!」
『君は逃げ足だけは早いんだね。そういうゲームスキルかい?』
返事の前に更に奥へと逃げる男。
その背を追う私の前に立ちふさがるのは、上司に逆らえない衛兵の山。
前衛職が使うバフでお馴染みの狂戦士化を使用する、彼らがギリリ。
目を血走らせ、歯を食いしばりこちらに突撃してくる。
『おお、怖い怖い――聖職者に向かって刃物を向けるなんて、倫理的にどうなんだい?』
揶揄いに返事はない。
けれど代わりに飛んできたのは、投擲型の爆弾。
これもゲーム内アイテムだろう。
ひゅーんどばどばどば♪
それなりの衝撃がエントランスホールを襲う。
さすがにこちらもゲームのラスボス化している状態、ダメージを受けてしまう。
体力ゲージが……小数点以下ぐらい、減ったかな?
あ、自動回復したね。
これ、私の自動発動型のスキルは結構残ったままなのか。
その時、私の天才的頭脳に一つの魔術式が走り出す。
新しいスキルなどではない。
天啓や、未来視に似た直感。しかも悪い勘が脳裏を過ったのだ。
あれ? これ、たぶん……。
私が介入したバグのせいで、ラスボス――つまり私を倒さないとゲーム結界化現象を、解除できなくなってるだろうけど。
大丈夫かな……。
ふと、私は声を上げる。
『アメントヤヌス伯爵だったかな!? 聞こえているなら返事をして欲しいのだけれど! 君! このゲーム化現象を解除できるかーい! 私、たぶん死なないラスボスになっちゃってるんだけどー!』
「解除できるならとっくに解除している! 貴様がラスボスを取り込んでしまったその時にな!」
すごく嫌な予感がして、私は両手を広げ――緊急詠唱。
ゲーム化状態を解除する魔術を即興で組み上げるが。
《システムエラー》
《繰り返します、システムエラー》《シスシス、シススススス……ピーピーピー》
あ、システム音声っぽい天の声さん壊れちゃった。
……。
うーん。
これ、私たち全員。
ゲーム化空間から抜け出せないんじゃない?
ゲーム化対象は全領域だし。
ラスボス設定されちゃってる私は、どうやっても倒せないだろうし。
私が倒れないと解除できないし。
この世界、終わったっぽくない?
……。
まあいいや、とりあえず国家を乗っ取ってから考えよう。
今回、私は正義の味方だし。
全部敵が悪いんだし。
うん。
私はスナック感覚で無双を再開した。
ラスボスまで取り込んだ私に、ただの一流な死神が勝てるはずもなく鎮圧。
当然、すぐに戦いは終結した。
◇
ちなみに。
国家転覆にかかった時間は、わずか三時間ほどだった。
流れのまま――私は異界の冥界を、占領してしまったのである。
老王は無事だし、弟殿下も捕らえただけで生きている。
アメントヤヌス伯爵も洗脳されているだけっぽいし、命までは取っていない。
けれど、だ。
既にクリスタル城は、ラスボス猫魔獣ケトスの城と領域名が書き変わっている。
私は転覆させた国家の象徴、玉座の上で猫モード。
肉球でサワサワ。
座り心地を確かめ、ニヒィ!
まあ、悪くない! 悪くないのである!
そんな私に跪くのは新たな家来。
「さあ、新しき我が主、我らにご命令をくださいましニャ!」
「麗しきモフ毛の君」
「いと慈悲深き、冥界魔猫王ケトス様!」
新たな眷族、冥界ネコ魔獣も顕現して――私に平伏。
期待に応えるように、私は肉球を掲げ。
高らかに宣言する。
『くははははははは! 我らの勝利である!』
歓声が鳴り響く。
拍手も鳴り響く。
「ケトス様!」
「新しき冥界神!」
「我らが希望! この世界は今日からあなた様のモノでありますニャ!」
肉球の拍手を受けながら、実は私はちょっと汗を滴らせる。
これ。
やり過ぎちゃったんではなかろうかと。
いや、まあ今回、妙にテンションが高くなっている自覚はあったのだが。
……。
完全に異世界ネコに侵略されたよね、この世界。
ゲーム化は解けてないし。
カナリアくんが目覚めた時にどう説明しよう?




