【SIDE:敵視点】攻略ラストタワー ~にゃんこ(強)と愉快な仲間達~その4
【SIDE:ペンギン大王アン・グールモーア】
最上階のダンジョン領域ボスフロア。
本来なら、黄金の時代を象徴する黄金竜がラスボスとして配置されていたエリア。
そこにいるのは主神クラスの神。
彼はペタペタと鳥の足で歩き。
水晶球モニターを覗き込み、赤い鳥目をギラギラギラ。
勝利を確信し、その記念にとカメラ撮影を行っていたのである。
遠見の魔術に映るのは――ボスを消されて経験値が入手できないと、毛を逆立て憤怒する、生意気ザコな黒猫の姿。
大魔帝ケトス達が腕を組んで作戦会議をしている、愚かな状況である。
上層への扉を守っていた領域ボスのかき消しを完了した神は、ふーん♪
鼻息を荒く、興奮気味にクチバシの下を撫でる。
「作戦成功。いやあ吾輩の完璧なる策略、我ながらすえ恐ろしい!」
フリッパーと呼ばれる「強靭な黒きツバサ」をくねらせたのは――。
異界の主神アン・グールモーア。
彼はイワトビペンギンに似た――いや、ペンギンそのものな、寸胴な鳥身体をうねらせ。
ぐふり。
眉毛に似た黄金色の飾り羽をキラキラキラ。
鳥顔に濃い笑みを浮かべていた。
モニターの中で困り果てる大魔帝一行を眺める、その瞳は輝きに満ちていたのである。
なにしろだ。
もうすぐようやく、復讐を果たせるのだから。
否が応でも興奮と期待は高まる。
「ぐふ、ぐふふふふふふ! 完璧、完璧である! これで奴らはレベルを上げる事ができない。アイテムの補充も皆無! 吾輩の勝利は揺るがない! 雑魚雑魚生意気なクロネコの無敗伝説もこれで終わるのだ!」
高らかに勝利宣言をし、アン・グールモーアはワインを顕現させ。
ぐびびびびび!
クチバシにジャバジャバと注ぎ込まれる高級酒、溢れて垂れるワインの雫がダラダラダラと床に零れるのだが。
構わず。
ぐびびびびびび!
翼で掴んだグラスを掲げ、ペンギン顔で――ふーん♪
「さあ皆のモノ、乾杯である! 我等、アン・グールモーアの勝利の宴を!」
「勝利の宴を!」
掲げるグラスに応じるのは、魔力を吸収した人間を使った分霊。
グールモーアの人格をコピーした、分身端末である。
それぞれがかつて異界に召喚されていたモノ。
人間としては力のある特殊能力者達。
その魔力によって生み出された無数の戦力だった。
姿こそ人間だが、その中身にはアン・グールモーアの疑似人格が埋め込まれている。
魂はない。
ただ命令に従い動く、ゴーレムのような存在だ。
「貴公らに問う! この世界で一番偉いのは、誰であるか!」
問いかけに、皆が大きな声で応じる。
「それはアン・グールモーア様。あなたでございまする!」
「この世界で一番高貴なのは、誰であるか!」
「それはアン・グールモーア様。あなたでございまする!」
ふむふむ、満足げに頷き。
ぐびびびび!
ワインを飲み干し、ペンギン顔でぐへぇ!
「貴公らに問う! この世界で一番強く賢いのは、誰であるか!」
「それは……」
ひそひそひそと、端末達が集合。
「はて、どうしましょう」
「本当のことを言うべきでしょうな。本体の言葉には逆らえませぬ故」
「では、せーので」
一号、二号、三号。
端末が揃って声を上げる。
「大魔帝ケトスではありませぬか?」
「な――!」
フリッパーからグラスを取りこぼし、がちゃーん!
割れるガラスの音を聞きながら、その黄金の飾り羽がわなわなと揺れる。
「たーわーけーっが! 吾輩に決まっておろう! こういう流れの時は、そのままアン・グールモーア様と言わんか!」
「とはいっても、吾輩たちはあなたさまの人格を継承しているのです。心のどこかで敗北した時の屈辱と恐怖を、トラウマとして残しておりまする故。これは致し方ない事かと」
主神格の神としての力で、グラスを再生させ。
ぐぬぬぬぬ。
アン・グールモーアは椅子に座り直し、ペンギン足をクイクイ。
「まったく! こういう時だけ、要らぬことを言いおって。いったい誰に似たのか!」
けっして裏切る事のない手駒。
の筈だったのだが――。
アン・グールモーアは、グギギギギギっとクチバシを噛み締める。
何故か一体だけ、立花トウヤと呼ばれる戦奴隷の魔力を使った端末だけ、謎の反逆現象が起きた。
それも、よりによってあの憎き大魔帝。
自分の世界を滅ぼした邪神によって、その端末を回収されてしまったのである。
憎い。
憎いが、グールモーアは、ふぅ……とペンギン紳士な吐息を漏らす。
ピンク色の鳥足をくいくいしながら、ぐふり。
「まあよい――それも今日で終わり。奴はこのレベルが強制リセットされる塔で、自らが生み出した遊びによって滅ぶ! 罠にかかったとも知らずに、吾輩に魔力を吸われ消えるのである! そう、あの忌まわしき敗北の記憶を、完全に捨て去る瞬間が、もう間近と迫っているのだ!」
ガババババババ!
美酒を飲み干し、げぷぅ!
端末に追加の酒を用意させ、異界の主神はクチバシをきらり!
「飲めや歌えや、今日こそ勝利! 吾輩の世界を滅ぼしたあの糞雑魚ケトスに一矢報いる大チャンス! 嗚呼! 吾輩の完璧なる頭脳が恐ろしい!」
気を取り直して、最初からカメラ撮影を再開。
侵入者どもの悔しがる顔を想像し、ふふふふーん♪
アン・グールモーアはイワトビペンギンそのものの顔を、ニヤリ。
頭部に生える黄金色の飾り羽をクイクイ!
「さて、チーズでも食すとするであるか!」
勝利を確信した後の美酒は最高である。
そうほくそ笑むグールモーアであったが、そのペンギン顔が……んー? と歪む。
遠見の魔術の中。
もはや経験値を稼ぐことができなくなった、負け犬共が何かをし始めていたのだ。
「おんやあ。はてさて……彼奴等は一体何を――? 我が分身眷属達よ! アレは何をしているのか、分かるモノはおるか!」
ペンペンとペンギンの翼で大理石のテーブルを叩き。
ビシ!
問われた端末が、遠見の魔術の精度を高めて応じる。
「ふむふむ。どうやら狩人系のスキルによって敵召喚の罠を作成し、わざと踏み魔物を養殖。無限狩りをしているようですな」
「これは、無限稼ぎ。でしょうな」
「はてさて、これまたセコイ作戦でありまするが――いかがいたしましょう?」
魂無き端末たちに言われ、グールモーアの顔が沸騰しそうな程に赤くなっていく。
確かに。
魔物を全て消し去った筈のダンジョン内に、見知らぬ魔物が湧いている。
嘴を尖らせ、ペペペペペ!
「な、なんだと! ええーい、忌々しい! 罠も削除だ削除である! これ以上、奴らに経験値を一ミリたりとも稼がせるな! まだ吾輩の方が強いが、そのうち抜かれてしまうではないか!」
「は! ただちに!」
一号、二号、三号が同時に動き出し魔法陣を展開。
塔のシステムに介入、改竄。
魔術式を書き換え罠システムを削除していく。
「どうだ! うまくいったであるか!?」
「完璧でございまする。もはや奴らに罠の作成は不可能。吾輩たちの勝利となりましょう!」
ふぅ――、アン・グールモーアは安堵する。
レベルさえ上げさせなければこちらのもの。
後は憎々しいあの大魔帝ケトス。
その強大なる力と憎悪の核を奪うのみ。
ゆったりと瞳を閉じ、王者としての知的な思考で――考える。
――まったく、吾輩としたことが取り乱してしまったでありまする。雅に、優雅に。吾輩こそがこの世界全ての支配者。恐怖の王たる器なのでありまする故――っと、なんだ。また騒がしくなっているか?
グールモーアは瞳を開けて、黄金の飾り羽をきょろきょろ。
自慢の髪ともいえる部分を、フーンフンとツバサで整え、ドヤヤヤヤ!
勝利は確定。
その筈だったのだが。
ざわざわざわ。
なにやら端末部下たちが騒ぎ出している。
「どーした、我が分身たち。吾輩の完璧な作戦になにかあるとでも?」
「い、いえ――」
「問題ありませぬ」
と、答えてはいるが何かがおかしい。
「嘘をつくでない! おまえたちは吾輩と同じ思考なのだ! それは隠し事をしている時の顔であろう!」
「おや、それもそうか」
「主はこんな時だけ鋭くて、面倒でありまするな」
口々に勝手なことを言いだす端末たち。
その中のリーダー。
魂なきはずの端末一号が、珍しく声を荒らげて言う。
「た、大変でありまする!」
「なんであるか!」
ベンベンと叩かれる机が、強力なフリッパーでメシリと歪む。
端末たちが互いに顔を見て。
「そ、それが――今度は大魔帝ケトスが召喚魔術で石人形を生み出し……」
「その、それらを倒して経験値稼ぎを……」
「始めているようでありまするな」
一号、二号、三号に言われ――。
モニターをじぃぃぃぃぃっぃい。
たしかに、忌々しい黒猫が、ぶにゃははははと嗤いながらゴーレムを召喚している。
ガガガアっと鳥目を見開き、グールモーアは驚嘆する。
「バカな! 自らが召喚した使役獣を倒したところで経験値を入手できる筈が……ない! このダンジョンタワーのルールに反しておるではないか!」
乗っ取ったゲーム空間のルールは把握している。
膨大な魔術式の中に、そんな記述は存在していなかった。
悩み、頭部を沸騰させ――思考も視界もぐるんぐるん。
グアーグアーとペンギンの声を漏らし混乱する、恐怖の大王グールモーア。
そんな主に向かい二号が言う。
「おそらく、一度召喚した後にコントロールを放棄。野良状態にして倒しているものかと。システム的には味方判定ではなくなる、すなわち経験が得られる敵になるのでは?」
「な、なにを! そんな裏技――っ! いや、冷静になるのであります、吾輩。相手は――あのクソ生意気で悪名高き駄猫王。レベル制限状態であっても、それくらいは可能でありまするか」
頭の上に氷を浮かべてクールダウンし、恐怖のペンギン王は思う。
確かに。
モニターの中の光景は指摘された通りだった。
画面の中で黒猫がドヤ顔をしながら、くははははは!
忌々しい彼らはレベルアップを確認し、更に量産体制の構えに移行。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ!
一体一体が尋常ではない経験値の詰まったゴーレムを、いとも容易く量産している。
まるで最初から、こうなることを見越していたように。
よもや、手の内を読まれていた?
そう悩む中。
モニターでは高速狩りが既に始まっている。
黒猫の眷属共がそれぞれに武器を構え。
ベシベシがしがし!
「しゃああああ! 狩ってやるぜ!」
「ええ! 気付かれぬうちに、最上階まで上がれる領域に成長しましょう!」
「ははははは、嫌いじゃないわよ、こういうの! 卑怯な戦術には卑怯な戦術! 目には目をってね!」
人間達に続き、猫魔獣二匹が猫口をうなんな。
『にゃーっはっはっは! こんなこともあろうかと! 経験値の詰まったはぐれゴーレム召喚儀式を習得してあったのである! いやあ、さすが私! 先見の明まであるなんて、素晴らしい!』
「なるほど。吾輩の本体もおそらく、これは想定していないでありましょうな。なにしろ当時の吾輩は、驕り高ぶっておりまするからな!」
談笑しながら、べーちべちべち!
次々にゴーレムを殲滅し、パラララパッラーラ~♪
重なり過ぎて、音がバグるほどの連続レベルアップ音が鳴り響いている。
ぐぬぬぬぬ!
恐怖の大王ペンギン。グールモーアは怒り心頭。
怒髪冠を衝く勢いで、グアグアー!
ペペ! ペペペンペン!
地団太を踏み、黄金の眉毛を尖らせ、跳ねる!
「すぐにシステムに介入せよ! ええーい、本当に忌々しい! なんなのであるか、次から次へとセコい方法を考えおって! 強力なネコ魔獣の分際で、搦め手まで得意にしおって! どこまでも吾輩の邪魔をしおって」
しおって! しおって! しおって!
鳴り響く怒声の裏。
ペンギン大王アン・グールモーアの部下たちが――わっせわっせ♪
端末達の迅速な対応で、再び封殺。
これで問題ない。
「ふぅ……いかんいかん。吾輩としたことがまたムキになってしまったのでありまする」
王者の貫禄を取り戻すように、黄金の飾り羽をクイクイ♪
整え、鏡を見て。
ペンギン顔を左右に傾け角度調整!
よし、完璧だ。
そう思った、次の瞬間。
ざわざわざわ。
一号、二号、三号が騒ぎ出す。
もう分かっている。
絶対に、あの駄猫の仕業だ。また何か抜け道を使って、レベリングをしているのだろう。
「今度はなんだ!」
「それが、あの大魔帝めが……中層フロアボスのデータを引き抜いて、大量にコピー……ダンジョン内に配置したらしく、あり得ない数のボス狩りをしはじめておりまして」
モニターの中には消したはずの中層領域のボスが一体、二体、三体……。
どうやって召喚したのか!
その答えはすぐに分かった。
大魔帝ケトスがシステムに接続。
膨大なゲーム化領域の魔術式を全て解析し、手打ちで書き換えているのである。
それは世界を一つ書き換える作業と同じ。
主神クラスの神とて、こんな短時間で対応できるような魔術式ではない。
それでもブニャブニャっと嗤う黒猫は、いとも容易くやってのけている。
ごくり。
アン・グールモーアの嘴の奥。
呑み込む唾で喉が鳴る。
文字通り、バケモノなのだろう。
この魔猫神は。
ぐぬぬぬとフラッパーを握り、ダン!
大量のレベルアップ音が鳴り響く中――グールモーアは考える。
これ。
どうみても、ヤバイのではあるまいか?
と。
「逃げるしかあるまいか――いや」
ダンジョンタワーを放棄し、空間を渡るべきか考える。
が。
塔の外の様子を遠見の魔術で探ると――そこには邪悪なる闇のニワトリが、グワワワワ!
別の方角には厳格なる魔狼が、ガルウゥゥゥゥッゥウ!
更に別の次元には、ふぁ~と欠伸をしながらも光に満ちた神聖なる鳩が。
別次元の魔力を溜めて、待ち構えている。
それぞれが世界を生み出せる程の主神クラスの神。
恐怖の大王ペンギンはハッと気が付いた。
自分が魔猫を罠に嵌めたつもりでいた。このレベルが初期化される空間を乗っ取り籠城。攻め込んできたところを安全に吸収するつもりだった。
しかし。
むしろ、閉じこめられたのは――。
「吾輩の方であったと!?」
まさか、これほどまでに厄介な敵だったとは。
アン・グールモーアは、ぐぬぬぬと嘴を食いしばる。
しかし逃げられないのなら、どうにかするしかない。
しかけるのなら、早ければ早い方がいい。
レベルは加速度的に上がっている。
「やるしか――あるまい。吾輩は神。人間どもの信仰より生まれし、恐怖なる存在! 人の心と恐怖より顕現し、生み出された大王なのであるからな!」
そう。
彼は自らの出自に思いを馳せ、その役割を果たすべく魔力を高める。
その心の中には、ある一節が浮かんでいた。
ノストラ=アダムスの大予言。
かつて人間の予言者が観測した魔導書。世紀末の時代――七の月。世界を滅ぼす神を呼び起こすとされた、空からの使者。
その使者の名が――恐怖の大王アン・グールモーア。
人の心より生まれし恐怖の大王が、終わりを齎す神を顕現させる物語。
それがあの占い。
終末黙示録である。
人々が思い浮かべた終わりの予言。
その伝承より生まれ、恐怖の信仰と共に大王となり。
一つの世界、一つの次元を治めるまでの主神となったペンギンは決意する。
まだ自分は神に出逢っていない。
役目を果たせていない。
――吾輩には、終わりを齎す神を顕現させる義務がある!
人間が望み、生まれた邪神は鳥目を尖らせ。
ビシ!
ビョン――っと、輝きの魔杖を顕現させ。
赤いマントを装備。
恐怖を齎す者としての王冠を頭に乗っけて、ガアガア!
「ならば、この場で直接魔術を叩きこむまでよ――!」
魔法陣を展開し、忌々しげに黒猫を睨み。
アン・グールモーアは星屑の杖を掲げ――天体魔術を詠唱する。
「天に集いし流星よ。流れて華麗な恐怖星。遍く広がる――」
が。
突如、遠見の魔術のモニターに向かい、大魔帝ケトスがニヤリ。
ギロギロギロ!
モニターが真っ赤に染まっていた――ネコの目が、間近で覗き込んでいるのである。
『膨大な魔術反応――君が黒幕か。ようやく見つけたよ。やっぱり見ていたんだね』
言って大魔帝は、禍々しい黒い死霊を召喚。
くぉぉぉぉぉっぉぉぉぉおお。
まるで顔のない人魚のような、しかし形容しがたき、見るも恐ろしい――悍ましい存在が顕現していた。
アン・グールモーアは唸りを上げる。
――これは、次元の狭間に取り残された勇者の魂! ブレイヴソウルであるか!?
かつての世界の隙間にも、これは存在していた。
けして滅びぬ、憎悪と怨嗟のままに蠢き続ける邪悪なる死霊。
まさか、これを操る存在が実在したとは。
ペンギンの足に、濃い汗が浮かぶ。
シリアスにギリリ。
その嘴が恐怖に揺れる。
もはや直接対決は避けられない。
いまだモニターの中にいる魔猫めがけて、恐怖の大王ペンギンは杖を振りかざす。
「何を召喚したのかは知らぬ。いや、知っていたとしても、吾輩は認めぬ! それがなんであろうと構わぬ――もう遅いのである! こちらの魔術は完成しておるのでな! その場もろとも、吹き飛ばしてくれるわ!」
名もなき魔術が、ゲーム内の言霊となって響き渡る。
《降り注ぐ恐怖流星群》
それは、ゲームにも登録されていた星の魔術。
宇宙に広がる星の力。
その膨大な力を制御し、解き放ち、破壊の魔術として物理現象に変換。
超特大の魔力隕石として落下させたのだ。
最上階を残し、塔は崩壊するだろう。
それは不可避の一撃。
レベル制限下にある大魔帝には避けようがない。確実に――消せる!
「お節介で吾輩の世界を滅ぼしてくれた、その非礼! 死をもって償うといい!」
『ぶにゃはははは! 引っかかったね! やーいやーい! 相手の性質を見極める前に大魔術をぶっ放すなんて、君、三流だね?』
モニターの前で踊り出す黒猫の頭上。
顕現した邪悪なる人魚が、闇の渦を纏い――ぎひり♪
十重の魔法陣を展開!
世界が異なるのでその規模は不明。しかし、その魔法陣の輪の数に応じて規模が変わる、それだけは理解できる。
おそらく。
計測限界のラインが十重。それ以上は、魔法陣が魔法陣の形を保てず、他の魔力現象が起こる。
たとえば――。
波打つ派手な魔力波動や、精密な呪印となって、十重の魔法陣を煌びやかに飾るのだろう。
そして、今。
大魔帝に呼ばれた黒き魂は、暗澹とした魔力を放つ十重の魔法陣を操っている。
その性質は――。
大王ペンギンの顔が、軋む。
「これは……っ、しまった――魔術反射であるか!」
『そ、君の負けさ!』
ドドドドド、ブォォォォォォォォッォォオォォォォッォォォォォン!
恐怖の大王として、天を操る魔術。
宇宙属性ともいえるその力が――ダンジョンタワーの最上階を揺らした。




