鬼畜ダンジョンタワー攻略 ~極悪にゃんこの塔登り~最終フロア
傷心イケメンくんを引き連れて、天下で素敵な大魔帝ケトスこと私。
素敵ニャンコは今日も行く!
ビシ――!
あれから三時間ほど、私達は既に上層の最上階。
つまりラストフィールドまで到達していた。
こここそが終着点。
このダンジョンタワーの領域ボスが待機するフロア。
大規模戦闘エリアである。
ちなみに。
ここに辿り着くまでの間にも色々とあった。
数回、ついうっかり弟くんも罠に巻き込んだり。
魔物と一緒にぶっ飛ばしちゃったり。
泥だらけの肉球あんよで、そのまま頭の上に登って、ドヤァァァァァ! クールイケメンくんの髪をドロだらけにしちゃったりもしたんだけど――。
弟くんは私を怒ったりはしなかった。
お詫びに撫でさせてくださいと、なーでなでなで♪
寡黙な顔のまま。
じぃぃぃぃぃっと、ずぅぅぅぅぅぅっと。
人をモフモフし続けていたのだ。
なんか、ネコの魅力にかなり精神を支配されちゃってるみたいなんだよね。
まあ、一時的なモノだとは思うのだが……。
大丈夫かな。
ともあれ!
んで、なんだかんだでラストフロアまでたどり着き。
こうして、我等は既にラスボス戦の手前。
本来ならとっても危険な場所なのだが、モフ毛を靡かせ弟くんの頭の上に集る私は腕を組んで。
くははははははははは!
『さあ、ここの大ボスを倒せば――めでたくクリア一番乗り! 私たちが最初の踏破者になる絶好のチャァァァァァンス! さあいでよ! とっとといでよ! 我らが冒険譚の栄えある生贄となるのニャ!』
余裕の勝利宣言を行っていた。
既にダンジョン上層の敵は最上位を越えたインチキな敵ばかり、罠による巻き込み攻撃など効かない。
当然、そのラスボスとなると何時間も戦わないといけないのだろうが。
共に中層と上層を進んだ転移帰還者の弟くんが、覇気を纏う大剣を構え――。
キン!
ふっと口角をつり上げる。
「なんつーか――ノリノリっすね、ケトスさん」
『まあ、こういう時はテンションを高くした方が気分が出るからね~! んじゃ、結界とバフを多重に付与しちゃうね~!』
壮大なスケールのBGMがかかる中。
私は補助魔術をバッフバフ!
ソロだと破壊系統の魔術を習得。無双状態を維持して使いまくる所なのだが、コンビ攻略ならと集団戦闘用のスキルも習得したんだよね!
たまにはこういう補助プレイもいいかと、役割を変更したのだ。
せっかくなので、ゲームを楽しんでいるというわけでもある。
実際、かなり楽しいし!
肉球で握った扇子を開いて、バサササササ!
頭の上で華麗にダンス♪
ロックウェル卿の舞にも似た補助スキルで、行動速度を大幅アップ!
『あ、それ♪ あ、それ♪ ぶにゃにゃにゃ!』
びゅーん!
びゅーん! びゅびゅーん!
これで、全ての動作が三回行動に変化!
ターンなんて概念はないけど。
あるとしたら、一ターンに三回行動ができるようになったのだ!
「ありがとうございます――じゃあ、ケトスさん。行きますよ!」
『くははははは! 突入である! さあ行け、我が最強タクシー!』
もはやタクシー呼びも気にせず、私を肩に乗っけたまま殺戮騎士が駆ける!
鳴り響くのは――。
大規模パーティ戦のファンファーレ。
それを合図に、私達の背後の扉がガタン。
空間遮断。
戦闘が開始されようとしているのだ。
《参加者は二名》
《プレイヤー名、参照》
《大魔帝ケトス:本名ロスト》《立花トウヤ:本名同上》
《制限時間は十二時間。最速クリアタイム:該当なし》
《あなた方に光の導きがあらんことを――》
大いなる光収録による、神モードな女神のシステム音声で告げられ。
戦闘開始!
◇
ラストフロア、ボス戦特有のエフェクトがジャンジャンガラガラ鳴り響く。
敵は――植物系の魔術師が山ほど!
枯れ木の老人魔術師や、ハリガネムシのような細い身体の女植物魔術師。
キノコの小人魔術師に、薔薇で包まれた黒竜までもが同時に顕現。
本当は六人パーティを三組、合計十八人で戦う設定らしいのだが。
我らは二人でいざ行かん!
艶ある黒髪を靡かせて――。
キリっと端整に鼻梁を尖らせる弟くん。
「こちらの準備は整っています――ケトスさんっ」
『オッケー! じゃあ、リンク開始!』
その言葉に応じ。
肩に乗ったままの麗しい私は――魔法陣を展開!
モフしっぽが魔術波動で揺れる中。
カカカ――っと瞳をギンギラギン!
『冒険者スキル発動! 《悪戯ニャンコの帳簿改竄》!』
発動と共に、私と弟くんの瞳が赤く輝き出す。
一種の魂の共有状態。
リンク状態を作り出したのだ。
私の扱った魔術の効果は、パーティーメンバーとの数値情報の共有。
つまり、死亡回数や転移回数。
戦闘回数や歩数などの情報を、一時的に平均化し分け与えるスキルである。
本来の用途は関所を通過する時のもの。
情報を誤魔化し、何食わぬ顔で通過するために使用するセコイ魔術なのだが。
しかーし!
工夫次第で魔術とは色々と化けるモノなのだ!
弟くんがバッ――と、前方に長い手を伸ばし。
ゴウゥ!
まるで狂戦士のように瞳に魔力を点火。
「異界の冥帝アポリュオーンの加護の下、命じる――読み取りやがれ! 我が魂の罪を証明し、その悪食を体現する者なり!」
なーんか詠唱から察するに、レイヴァンお兄さんの魔術系統っぽいが。
能力向上の狂戦士化スキルのようだ。
「ふふふふふ、ふははははははははは! 我が魂よ吠えろ! 燃えろ、輝きやがれ――!」
う、うわぁ……完全にバーサーク系のスキルだなこれ。
そういやレイヴァンお兄さんも最初の戦闘で――狂戦士化の魔術だかスキルだかを使ってたもんね。
しかしあのお兄さんの魔術かぁ。
まあこの偉大なる私の存在も、異界魔導書を通じて知られている。
魔王様の兄の、あのキシシシお兄さんが知られていてもおかしくはないが。
……。
べ、べつに対抗心があるわけじゃないが。今度、私の力を借りた魔術を教えておこう。
自己バフと私の魔術リンクを受けた弟くんの姿は、まるでラスボスに操られる邪悪なる騎士。
まあこの場合、私がラスボスっぽい立ち位置なのだが――。
ともあれ!
一斉に動き出した敵に向かい――。
私は肉球を翳し、八重の魔法陣を展開!
『風よ――吹き荒ぶ暴風となり、我等が敵を戒めよ!』
シュバシュバシュバ!
荒れ狂う魔力竜巻が敵陣を乱し、縦断する。
範囲拘束魔術は、成功だ!
隙を読み取り――更に私の情報の一部を受け入れた弟くんが、ギン!
瞳を赤く燃え上がらせ。
禍々しい大剣を軽々と振り回し――大地に魔法陣を刻む。
「はははははは! 雑魚共が! 調子に乗ってんじゃねえぞ、こら! 滅び! 嘆いて! 吹き飛びな! 我が罪過の更なる贄へと昇華するがいい!」
どーも狂戦士化の自己バフって、さあ。
口調まで乱雑になるから人が変わったみたいに見えちゃうよね。
まあ……おそらく、これは一種の自己防衛。
異界にいる状態で精神を維持するため、あえて狂戦士化のスキルを習得。
過酷な環境でも、平常時の精神を保つための手段として選んだのが、このスキルだったのだろう。
地獄の中。狂戦士状態で生き抜こうとしたのだろうが――。
ともあれ。
冥府の力と共に殺戮のオーラを纏った弟くんが、ぐぎぎぎぎぎっと歯を食いしばり。
狂戦士化の影響で、髪を逆立て悪役みたいな顔で――ニヤリ!
ザン――ッ!
大地を薙ぐように弧を描き、オーラを放出する!
すかさず、私が味方にかける攻撃範囲化の、神狼魔術を展開。
『――《冥府魔狼の共振魔吠》――!』
「――《刻む虐撃・大虐殺》――!」
共鳴した二つの力が、天井に向かい飛翔し。
ザザザザザザザ!
オーラが閃光となり、必殺即殺の闇の矢となり雨あられ。
耐性も貫通する固定ダメージが降り注いで――。
はーい、終了!
どんどんどん!
ちゅどーん! ざばざばざば♪
「爆ぜろ! 爆ぜろ! 爆ぜやがれぇぇぇぇええ! ふふふふ、ふははははは! 俺様に逆らう輩は全てこうなる定めなんだよ!」
『くはははははははははは! やっちゃえー! やっちゃえー!』
赤き瞳を燃え上がらせる闇の騎士と、かわいいニャンコ。
両者共に仁王立ちで、くはははははは!
本来なら、非常に厄介な大魔術師だと思われる植物系統の大ボスさん達。
たぶん全員同時に倒さないとリポップし続ける仕掛けだっただろう大ボス達が、ぐぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!
一瞬で塵となって消えていく。
まあようするに、一瞬で壊滅である。
方法は簡単。
先ほども述べたが、固定ダメージ攻撃である。
ダメージ計算は、全ての計算式を無視した上で――キルカウントの半分。
異常なほどの殺戮数を持つ私と。
そして、キルカウントを利用し戦う殺戮騎士の弟くんって、相性がめっちゃいいんだよね。
ようするに文字通り桁違いな殺戮数な私。
そして。
悪戯ニャンコの帳簿改竄による数値共有状態。
二つの合わせ技である。
阿呆みたいな数値の私のキルカウント。その半分の状態で、キルカウントの量に応じた技を使うわけだからね。
オーバーキルどころじゃない超特大ダメージとなって、属性相性を無視して貫通。
しかも! 私の補助魔術で超範囲攻撃にできてしまうのだ!
結果、敵は全滅。
バランスブレイカーなコンビが誕生してしまったというわけである。
◇
戦闘が終わって、ラスボスを倒した報酬が宝箱となって顕現する。
閉じられた扉も開き――周囲の空気もボスの消失と共に穏やかなモノとなっていた。
まあ、ここまではいいのだが。
狂戦士化状態が解けたのだろう。
狂戦士化のオーラで逆立っていた弟くんの髪が元に戻り、目の色も元に戻っていく。
その顔も……。
既に寡黙な青年モードへと直り、荒ぶっていた気性も落ち着いていた。
ちょっと気まずそうに首の後ろに手を当てて。
弟くんがぼそり。
「あー、すんません。大きな声ばっかり立てて。その、ケトスさんは宝箱の確認をお願いします――俺は、あー……周囲を一応チェックしますんで」
ぶにゃはははは!
ギャップが凄くって笑いそうになるが、我慢我慢。
ダンジョン探査の魔術を展開する殺戮騎士君を横目に、私はシッポをふぁっさ~♪
『オッケー! 約束通り、宝箱のあれは貰っちゃうからね~』
「俺には必要ないですから、好きなだけどうぞ。あー、召喚カードだけは……その悪いんすけど」
『ああ、約束通り君が持っていっていいよ! ギャルゲーとか乙女ゲーにでてくる疑似人間を召喚しても、私にはなーんの意味もないからね』
宝箱の中に全身を突っ込み、ガサガサゴソゴソ!
これよ、これ!
ダンジョン専用の液状の猫おやつを回収した私は――にんまり!
『ダンジョンちゅ~にゅ、ゲットだニャ! 後で分裂させてみんなのお土産にしよ~っと』
「しかし、あー……なんでダンジョンにちゅーぬ? があるんすかね。俺には、よくわかんねえんすけど……、猫用のオヤツが報酬に設定されてるって。このソシャゲ世界を作り出した異界の神々って、なにを考えてるんだか……」
周囲の探索を終えたのだろう。
緊張を解き髪を掻き上げ、クールイケメン声で弟くんは言う。
「まあ、楽しいから――いいっすけどね」
ニコっと子どもみたいな笑みを浮かべるその姿は、さながら乙女ゲーの一枚絵。
まあ実際は、現実逃避をした転移帰還者による寂しい笑みなわけだが。
ともあれ!
このダンジョンに猫おやつが報酬設定されている、その理由を私は知っている。
犯人……というか、原因はもちろん私だ。
ランカーと呼ばれる程に塔を攻略しまくって。
最上階に辿り着いて宝箱を開け、いつも世界に向かってデデーン!
ネコちゃん専用の大満足おやつが入ってないじゃん!
どこか最上位報酬なんだい?
詐欺じゃん! 詐欺じゃん! 時間返してよ!
――と、文句を言い続けたせいだろう。
ダンジョンを自動生成するソシャゲシステム。
主神達によって作り出された疑似世界人格がようやく観念し、特別なネコちゃんおやつを自動作成。
晴れて、最上位レア報酬としてドロップされるようになっているのだ。
私とホワイトハウルとロックウェル卿と大いなる光。
四柱の力を使って生み出されているオヤツなので、回復アイテムとしての効果もかなりいいんだよね!
まあ、回復効果は猫魔獣専用なので、他の種族にとっては要らないアイテム扱いされているようだが。
親しくなった上で私を尊敬もし始めているのか。
穏やかな口調で、弟くんが私に近づき。
にっこり。
「あー、その……すみませんが。ゲージを回復させて貰いますね」
こうなると。
微妙にキャラが変わるんだよね、この子。
『えぇ? またアレをやるのかい? もう、ここで踏破完了だし……省略してもいいんじゃない?』
「いえ。するべきでしょう。するべきだと、我が魂の内から目覚める感情が訴えていますから――しないという選択肢などありますか?」
言って、真顔のまま弟くんは脇からモフっと私を抱き上げ。
太陽を眺めるように上を見て。
ぼふ!
私のお腹部分に顔を当てて――ふぅ……っ。
と息を漏らす。
図を説明すると、だ。
天を仰ぎ――ネコを顔面に乗っける、美貌の殺戮騎士。
である。
ものすごい謎の光景だと――おわかりいただけるだろうか?
困惑する私の尻尾がびにょーんびにょーん。
左右に揺れる。
ちなみに。
私がこうやって動揺するのはなかなか貴重である。
『あ、あのぅ……そろそろいいんじゃない?』
「いえ――もう少し。猫ゲージを回復させてください」
ね、猫ゲージ?
な、なんか……謎のステータス値を提唱しはじめているけど。
《猫ゲージの回復を確認しました》
と、謎のシステム音声も流れてるし……。
あの女神、なんでこんな音声まで収録してるんだ。
しばらくして、そのままガチャリと座り。
黒オリハルコン製の鎧を着こんだまま胡坐をかいて、私を膝に置き。
肉球を撫でて、優しく揉んで――ぷーにぷにぷにぷに♪
ちなみに、真顔である。
『えーと、殺戮騎士のスキルって私あまり詳しくないんだけど。それって、回復しとかないと駄目なヤツなの?』
「いえ、これは人間の種族スキルですね。どちらにしても回復は必須項目かと思われますね」
それはまるでお姉さんのグレイスさん。
彼女がソシャゲに夢中になって涎を垂らし、グヒヒヒヒっとなっていたように。
弟くんは寡黙なまま、なーでなでなで♪
いや、しかし。
マジで猫ゲージってなに?
私。
その手の謎なステータスにも結構詳しいんだけど、そんな項目初めて耳にしたんですけど。
しかもなんか怖い事に、彼の能力を鑑定すると……。
まーじで猫ゲージっていう。意味不明なステータスバーがでるようになってるんだよね。
私のステータスに刻まれている項目。
魔王様ゲージみたいなものなのかな?
「やっぱり、ネコ様は最高ですね。あー……尊い……もし、滅ぶときは――そう、猫に包まれて死にたい。猫の中で、ネコに埋まって……ふふ、ふへへへへへ」
ど、どうしよう。
ものすっごいシリアスな顔で、声で――猫ゲージについて語りだしてるし。
「すーはーすーはーっ……あー、至福。辛い現実なんて忘れたまま……こうして、ずっと――」
『え、あの……息しにくそうだけど……だ、大丈夫かい?』
「お構いなく……あー、ケトスさん。マジぱないっすね」
真顔クールな美青年が、真顔クールなままにネコのお腹でスーハースーハー。
抱き方を変えてえ。
ネコの頭の上に顎を置いて――更にうっとり。
ダンジョンなのに寝ころんで、私を胸の上に置き――ぽんぽんと背中を優しく撫でる。
「回復のためです、そのまま肉球で顔を踏んで貰っていいですか?」
……。
いや、かなり怖いんですけど。
これ、絶対グレイスさんと同じ系統だよね。
間違いなく同類だよね。
気持ち悪さ……じゃなかった。
えーと、言葉を選ぶと……固執する状態がそっくりである。
肉球で顔面を、ぎゅぅぅぅぅっと押し返し。
落ち着いた声で、私は言う。
『ね、ねえ――夕ご飯までに帰りたいから、そ……そろそろよくない……?』
「そう……ですね。たしかに俺も病院を抜け出しているので……ケトスさまモフモフは帰ってから、もう一度することにしましょうか」
ガバっと起き上がり、真顔。
このテンション差もなんか怖い。
うんうん、と勝手に頷き決めちゃってるし。
弟くん、というか。
ダークエルフのギルマス君もそうだったけど。
異界召喚や過酷な人生で苦労した人って、どうも猫モフモフに溺れちゃう人が……多い気がする。
これ、精神状態が弱っている相手だったのが原因かな。
私、魅了を得意とする猫魔獣だし。
さきほどの軽いお節介による導きと――自動魅了が、重なって。かなり濃い深度で、精神魅了状態が突き刺さっちゃった可能性も……。
頭に浮かぶのは、わりと猫愛が重い連中。
ギルマスくんに、ファリアルくんに、ヒトガタくんに。
そしてこの弟くんである。
どれも共通点は、わりと悲惨な道を歩み人生に絶望していた事。
そして、私ほどではないが顔立ちが整ったタイプの人間。
んで――ネコに助けられ、落とし穴にはまったように溺れる。
やべえ連中が完成、と。
……。
どんな需要だ、これ……。
私、ちゃんとチェックしてないけど――そういう、心弱った存在の魂を誘惑するスキルでも習得しちゃってるのかな。
まあ単純に。
極みまで昇った猫魔獣専用の、種族固有スキルという可能性もあるが。
もう一つの可能性は、私が猫勇者という特性も持っている事か。
勇者って――他人を誘惑して扇動して、仲間にする能力に長けた職業だからね。
これでも私、真の勇者だし。
全部の可能性が正解。
合わさった結果の、重度な精神ネコ汚染だったら笑うけど。
ともあれ。
話題を逸らすように、私は言う。
『そういや君の名前ってなんていうんだっけ? さっきこの部屋に入った時もちょっと表示されてたけど。私さあ、ネコだからそういう記憶が苦手なんだよね。せっかく一緒に冒険したんだし、覚えておこうって思ってね』
「あー、そういえば――自己紹介をちゃんとしてませんでしたから、すんません。姉ちゃんと苗字は同じ、立花で――下はトウヤっすよ」
よっし、話題逸らしに成功!
肉球でにゃんスマホを起動し、タッチタッチ、スススス!
『トウヤくんねえ、ああ、グレイスくんがやってるソシャゲのセイヤくんと、名前の響きがちょっと似てるから覚えやすいかも』
「あー、あのゲームっすね――姉ちゃん、ずっとやってますからね。泣きながら」
泣きながらゲームをし続けるってのも凄いな。
『あー、最近の病院ってスマホも問題ない所が増えているんだっけ。場所によるんだろうけど……昏睡状態の時に、君はあの子の看病もずっと見てたわけなのか』
お姉さん的には、どうなんだろうね?
まあ、心配されていたとは伝わっているだろうが。
「ええ……まあ。姉ちゃん、鼻水垂らしながら、ごめん……ごめんねって、すげえ真面目な顔で……いや、そこまではいーんすけど。泣き過ぎるとスマホを起動して、ナンバー十五? のボイスの、なんか姉さんは悪くない的なボイスを延々と再生し続けるんすよ。看護師さんの中で、ちょっと噂になってたくらいだったんすけど……」
『なかなかカオスな病室だね……』
それでも弟、トウヤくんの顔はまんざらでもなさそうだ。
微笑するその顔からは、ちょっと優しさを感じ取れる。
たぶん、姉弟の仲も近い内にうまくいくだろう。
そんな未来を読み取って、私はモフ毛をふわふわモコモコ。
やっぱり、幸せになって欲しいから――まあちょっとだけ、安心したのだ。
『えーと、にゃんスマホに登録しとかないと。トウヤ……トウヤ、ねえどんな漢字だい? 冬に矢とかかな?』
「あー、いえ。タワーとかの意味の塔に。朝とか昼とかの夜で――塔夜です」
私は猫手で、スマホ画面をぶにゃにゃにゃ。
『塔に夜――っと。あれ、なかなかでてこないな……なんでスマホって肉球だと反応しにくいんだろう……ねっ――と!』
ふと、塔で変換していた私のネコ手が止まる。
急にピーンと来たのだ。
いや、たぶん本当に偶然なのだろうが。
ここは鬼畜難易度のタワー、すなわち攻略の難しい塔を攻略する――。
塔を攻略。
まったく気にせず突破できていたが。実は塔夜くんを乙女ゲーム的な意味で攻略していなかったら、クリア扱いになっていなかったりしてね。
なーんて。
にゃはははははははは!
ははははは。
ははは。
……。
え?
いやいやいやいや。
なぜか私の鋭き勘が、センサーをビビビとさせている。
モフ毛がモコモコモコモコモコ!
このダンジョンタワー。乙女ゲー的な意味での攻略も、混ざっちゃったりしてないよね?
まあ世界ベースが乙女ゲーで、更に補助にギャルゲーが設定されてるわけで。
攻略を難しくするために、色々と自動でシステムを組む鬼畜ダンジョンだから……、可能性はゼロじゃない。
……。
そりゃ確かに、こんな傷心青年の攻略なんて、乙女ゲーでも難関ルートだろうが。
……。
いやいやいやいやいや。
まさかまさか。
さすがにないか。
塔の名前は偶然なんだろうし。
今頃、どこか別の塔でヒナタくんが――お姉さんのグレイスさんの方を攻略してたら笑っちゃうんだけどね。
まあ、気のせいだろう――と。
私はオヤツをしまって、ホクホク顔!
ニャンコとイケメンは見事塔を攻略!
報酬を獲得し、最初の突破者となったのだ!
◇
ちなみに――ちょっとした後日談であるが。
ヒナタくんもこの同時刻、何故か別の塔でグレイスさんと共に新たに顕現した塔を攻略していたらしい。
色々と悩みを聞いて、彼女は号泣――ヒナタくんの胸の中でわんわんと泣いたとのことだ。
そう――ヒナタくんに攻略、されたようなのである。
報告を受けながら夕食のミートボールを食べていたその時――思わず私は、ぶびゅ!
疑惑が確証に変わった瞬間であった。
このソシャゲ世界の主神四神。
にゃんこワンコにわとり白鳩。
大慌てでダンジョン塔から、乙女ゲーとギャルゲー要素を取り除くアップデートをしたのだが。
それはまた別のお話である。




