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我が愛しき魔王様 ~ニャンコと白ワンコ編~



 魔王様お目覚め儀式の本番、当日。

 かつて魔王様と勇者の戦いがあった地――暗黒大陸には、神も魔もニンゲンも集まり大賑わい。

 グルメを通じて、心を通わせていた。


 こんな大事な日なのに。

 ニワトリを担いで、わっせわっせ♪

 ニャンコで大魔帝ケトスで最高幹部な私は、酔いつぶれた友を抱えてネコ眉を、うにゅ~ん♪

 静かな場所を歩いていた。


 友を介抱していたのである。


 酒瓶を抱えて、クワークワーっと眠ってしまったロックウェル卿。

 珍しく酔いつぶれてしまった友鶏を、魔力で浮かべて部屋に運びながら。

 魔王城の廊下を、トコトコトコ。


 酔ったニワトリを運ぶネコって。

 けっこうレアだよね。

 いや、まあ食べるって意味で運ぶネコなら、稀に見る事もあるだろうが……。


 ともあれ!

 えらーいニャンコな私は、モフモフな身体をぶるりと震わせ。

 ネコ鼻をスンスンさせてしまう。


 廊下にまで届くヨダレ必須なグルメの香りに、心まで癒されていたのである。


 いやあ!

 グルメっていいよね! 人間への憎悪を和らげてくれるし♪

 なにより美味しい!

 主催者じゃなかったのなら、今頃グルメ会場で私も大暴れ(しょくじを)していたのだろうが。


 私は、最高責任者代理だからね。

 こんな日にも、ちゃーんと仕事をこなしているのだ。


 ふぅっとネコの息を吐くと、私の魔力吐息に反応したのはニワトリさん。

 白き翼を、くわぁぁぁぁっと伸ばし。

 酔いつぶれたロックウェル卿が、寝言を漏らす。


『ケトスよ……、魔力……魔王様の……魔力の、香り? が、する、のぅ』

『ああ、君にも分かるかい? 順調だね。懐かしい魔力の香りが……するよ、ロックウェル卿。君もそろそろ起きてくれないと、私が一人で先に、魔王様に会っちゃうよ? なーんて……あれ、君。本当に酔いつぶれてるんだね』


 思わず、寝言に答えてしまったのだが。

 私の言葉に反応はない。


 お目覚めになった魔王様と最初に会うのは、私とロックウェル卿とホワイトハウル。

 この三獣神の予定なのだが。


『おーい、起きてくれないと。困るんですけどー! 私ー! 先に、魔王様と会っちゃうんですけどー!』

『むにゃむにゃ……あと、五十年……』


 卿はトサカを赤く染めて、くわぁぁぁぁあぁぁっと欠伸。

 そしてまた、スヤァ……。

 ダメだこりゃ……。


『魔王様のお目覚め、か』


 私は魔王城を見渡す。


 周囲に広がる儀式の魔力。

 成立しはじめている再臨儀式の波動を感じたモフ毛が、モコモコっと更に膨らんでしまう。

 まあ、猫毛を膨らませる私も当然かわいいのだが。


 私はシリアスな顔で考え込む。


 あまりにかわいすぎて、魔王様が驚き過ぎてしまうのではないか。

 ちょっと心配になってきてしまった。


 ともあれ。

 宴会儀式は順調だった。


 遠くの方で歓声が聞こえる。

 今は芸術を得意とする職業の者達が種族を問わず、合奏。

 舞を得意とするラミアや踊り子、猫魔獣たちが曲に合わせてダンスを披露しているようだ。


 会場の空気が盛り上がっているのだろう。

 声も熱気も魔力も、どんどん大きくなっていく。

 こうした宴の盛り上がりも、目覚めの儀式には必要不可欠。


 重要な要素でもある。


 だから遊びなのだが、遊びではなく。私の側近であるジャハル君とサバスくんの進行で、演目を進めているのだ。

 にゃはは。

 私はこうして舞台裏にいる状態になっているので、ちょっと申し訳ない気もする。


 でも、このニワトリ……本気で強いからね。

 運んでいる最中に酔っばらいが目覚め、ちょっとでも暴れたら――まあ、並以上の魔族であっても大けがを負ってしまうだろう。

 と、なると――当然、会場の中にいる強者がニワトリさんの持ち運び役となるわけで。


 うん、私だね~。


 しかし、私は裏に下がってみて――気が付いた。

 たぶん間違いない。

 もう、儀式は成功している。


 目覚めの波動が、ラストダンジョンを覆い始めていたのだ。


 ◇


 おそらく、もう準備はできている。

 きっかけさえあれば、いいだけ。


 後は魔王陛下の寝室の前でバーリバリバリ。

 爪とぎでもして。

 ドアをノックすれば――あの方は目覚めてくれる。


 だから儀式自体はもう止めてもいいのだが。

 盛り上がっている宴会を、わざわざ止めるのも。

 ねえ?


 どうせだったら、そのまま楽しんだ方がいいに決まっているのである!

 ビシ!

 あれ? ちょっとビシの角度が甘かったかな?


 ……。

 ふむ。

 まあいいや、早くロックウェル卿を部屋に運んで寝かしつけよう。


 私はふぅ……と大きく息を吐く。

 認めるしかない。

 少し、緊張しているのだ。


 肉球でトコトコトコ。

 尻尾が左右に揺れる。


 そう、本当に魔王様がお目覚めになる。

 それが私のモフ胸を締め付ける。

 わくわく、ドキドキ。

 まるで夢物語のような、不快ではないが、どこかフワフワとした不安定な感覚が肉球に伝わっていた。


 ラストダンジョンの冷たかった床も――今はなぜだか冷たくない。

 同じ床の筈なのに。


 心も変わると、色々なものが変わってみえるのだろうか。

 ふと、私は周囲を見る。

 ここは魔王様を襲う勇者を噛み殺した場所でもある。


 皆が宴会場にいるから、妙に静かで。

 私は鼻先をヒクヒク。

 センチメンタルになってしまうのだ。


『にゃぁぁぁあああああああぁぁぁぁぁ! 大魔帝たるこの私が! こんなに緊張してどうする! 魔王様に会うんだから、もっとシャキッとしないと!』


 誰もいないから叫んでみて。

 はあ……。


 落ち着かない。


 ロックウェル卿を浮かべたまま、ペタペタと歩いていると。

 高潔そうな声が――私のモフ耳を揺らした。


『そろそろ魔王様がお目覚めになるようであるな――』


 この声は……あれ?

 こんな凛々しい声の魔族、うちにいたっけ?

 いったい、誰だろうか。


 振り返ると、そこにいたのはシベリアンハスキーのような白銀の魔狼。

 ホワイトハウル。


 私の友で――そして。

 この私よりも魔王様と長い付き合いの、異世界転生者。


 どうしたというのだろうか。

 今日のホワイトハウルはいつもよりも、凛々しい顔でワンコフェイスをシュッと引き締め。

 まるで神のように、悠然と佇んでいたのだ。


 ニワトリさんに毛布を巻いて、私はネコ眉を下げて言う。


『ホワイトハウル、君か――真面目な声だから、一瞬、誰だか分らなかったよ』

『魔王様がお目覚めになるのだ。我も気を引き締める必要があるからな――おまえとて、少し、いつもと様子が違うぞ?』

『そうなのかな? 自分だとちょっと分からないんだけど』


 まあ、少し。

 緊張しているのは確かで。


『いつものお前ならば、尻尾をもっと立てて落ち着かない様子でキョロキョロ! くははははははは! と、無駄に、偉そうに哄笑を上げながら歩いておるからのう~♪』

『いやいやいや、だって偉そうじゃなくて、実際に偉いんだからさあ。滲み出る威厳みたいな? そういう偉大さが透けてみえてしまうのは、仕方ないじゃないか!』


 ドヤァァァァァァァ!

 彼がいつもの口調で言ったので、私もいつもの口調で言い返してやる。


 ちょっとしたおふざけだったのだが。

 ホワイトハウルは、嬉しそうに口を緩める。


『心配する必要はない。儀式は成功だ、どうやらお前も既に認識しているようであるが――我が主、大いなる光も魔王様の魔力覚醒を確認している。後はきっかけさえあればいいそうだ。ケトスよ、案ずるな。お前の願いはいま、ようやく叶う。大魔帝ケトスよ――我は主神候補として、汝を祝福しよう。それだけの善行をおまえは積んだ。報われるべく報われるのだ、誇れ。我が友よ』


 うっわ……。

 マジでふつうの神様みたいな事いいやがって。


 こいつ、私を待っていたな。


 まあ、報われるべく報われるって言ってもらえるのは。

 ちょっと、嬉しいけど。

 なんだか気恥ずかしくなったので、誤魔化すように私はしっぽをくるり。


『そっか、大いなる光も協力してくれたんだ。後で正式に感謝しとかないとね』

『ふん、我が主はいままで少々サボりすぎていたからな。これくらい、奇跡を安売りするぐらいの方がバランスも取れるだろうて。なにしろ、ケトスよ。おまえがいなければ、おそらく――自らの欠点を顧みることなく驕ったまま、天界は腐ってしまった。我に裁定されて、天界自体が既にこの世から消滅していた可能性も高い。魔王陛下がお目覚めになったら、むしろ天界から正式におまえに感謝をしなければならないであろう』


 自らの上司に、なかなか辛辣な反応である。

 まあ、信頼しているからこそ言える言葉のようだが。


 その辺りの話をしようと思ったのだが。

 酔いつぶれたロックウェル卿が、声を漏らし始めた。


『クワワワワ……っ、クワワワ……ケトスよ……。めざめた魔王様に会えて……よかったのう』


 寝言のようだ。

 まだ会えていないのに。


『こいつ、夢の中で未来視を使ってるのか。寝言で先に言われても、なんか変な感じだね。よーく、寝ちゃってるし』

『魔王様がお目覚めになると分かって、気が抜けたのであろうな。こやつ、魔王様から頼まれておったからな、お前が世界を壊す前に止めるように、と――ふふ、立派にその頼みを果たしたのだ。本当に、心から安堵したのであろう』


 酔いつぶれたロックウェル卿に目をやり。

 白銀の魔狼ホワイトハウルはやはり珍しく――優しそうに瞳を細める。


 バカワンコではない顔で、言葉を紡ぎはじめた。


『我もあまり深くは知らなかったが、ロックウェル卿め――存外、深酒をすると眠ってしまうのだな』

『こうしているとタダのニワトリなんだけど……、これで大魔族なんだから不思議だよね』


 おまえがいうな案件だろうが。

 まあ、ホワイトハウルだってそうなんだし、問題ない!


『なんだかんだ、こいつも魔王様のお目覚めが嬉しかったんだろうね。いっぱい、はしゃいで、いっぱい飲んで。まあちょっと暴れていたけど……卿はね、楽しいって、言っていたよ。私はその言葉を聞けて、少し……ほっとした。嬉しかった。私もね、よくわからないけど。きっと、楽しかったんだと思うんだ』

『そうか――おまえは魔王様の目覚めが嬉しくないのか? 先ほどから、落ち着かない様子だが』


 こいつ。

 真面目モードだと本当に神みたいに鋭いでやんの。


『私だって嬉しいけれど、落ち着かないのは仕方ないだろう。眠る魔王様にはいつも一方的にお話をしていたけど。本当の意味で、ちゃんと再会するのは百年ぶりになるわけだし。そういう君はどうなんだい?』


 問いかけに、犬眉を下げ。


『我は、おまえたち二獣ほど――魔王様への依存はないからな。ああ、だが勘違いはするでないぞ? 依存していないだけであり……我も、魔王様をお慕いしている。とてもな』

『ホワイトハウル……、君は……』


 私は言葉を途切れさせた。

 どう言うべきか、迷ってしまったのだ。


 今日という日は、どこまでも真面目な神狼は悠然と語る。


『その様子を見る限り、我がかつて楽園に棲んでいた。そして魔王陛下を監視する意味で、ずっと長く……それこそ、一つの世界の始まりを眺める程の時間。近くにいたのだと、知ったのだな』

『ああ、君と魔王様がラストダンジョンを作ったこともね。つまり、アレだ。君は私や卿の恩人でもあるわけだね。一応、感謝しておくよ。ありがとう、あの方と共に過ごしてくれて』


 感謝を告げる私に襲ったのは、沈黙だった。


 犬の瞳を広げたまま、ホワイトハウルが考え込んでしまったのだ。

 ワオン?

 と呆けているワンコに、私はジト目で猫口を――うなんな。


『どうしたんだい? 狐につままれたような顔をして』

『いや、ふふ――すまんな。どうもその、お前がシリアスとも、いつものふざけた顔とも違う表情で我に礼を言うから……その、なんだ。驚いたのだ』


 更にジト目をきつくし、私は言う。


『あのねえ……私を待ち構えて、先にシリアス顔をしているそっちに言われたくないんですけど』

『そうであるな、柄にもない事をしている自覚はあるのだ。素直なおまえに感謝されて、少々驚いてしまっただけなのだが――ふむ、まあ……悪い気分ではない』


 こいつ、いつもと雰囲気が違って……。

 なんというか、まともな顔と態度だから調子が狂うな。


 まあその口の端には、ワンコ特有の食べ残し。

 パリパリに皮を焼いた鶏の香草焼きの脂を含んでいるので、その辺はいつものワンコなんだけど。


 これからが真面目な話なのだろう。

 空気を変えて。

 魔狼は言った。


『我等に遠慮せず、先に魔王陛下に会ってこい』


 言われた意味が、分からなかった。

 ネコの口は聞き返す。


『どういう意味だい?』

『どーせ、無駄にお節介で、変な所で気を遣ってしまうおまえのことだ。我の方が魔王様との付き合いが長いと知って、先に我と再会させるべきか――そう、悩んでおったのであろう?』


 まあ、たしかに。

 そういう心もちょっとあったのだが。


『買い被り過ぎだよ。私はわがままで好き勝手やるのが性分だ。君にそういう気づかいは』

『気付いてないかもしれぬが、ケトスよ。おまえ、身内や仲間と決めた相手にはとことん甘いからな。そういう気づかいをする猫であるよ、おまえは』


 ワンコ肉球で私の猫鼻をちょんちょん突き。

 苦笑しながら魔狼は言う。


『人払いもしてある。宴会場ではまだ神々による合奏も続いておる。今の内に――魔王様と会って、誰にも邪魔をされずに、泣いてくるといい』

『いや、私。泣かないし』


 そもそも私は猫なのだ。

 物理的な衝撃を受けてダメージの痛みで泣くことはあっても、そういうセンチメンタルな部分で泣く機能は持ち合わせていない。


『グハハハハハハッハハ! どうであろうかのう~♪ 泣く泣かないはどちらでも構わぬが――おまえは本当によくやった。魔王様に褒めて貰うといい』


 格好つけるように言って。

 ホワイトハウルは魔術で浮かせていたロックウェル卿を引き取ると、犬手を振ってみせる。


 酔いつぶれたニワトリの事は任せろ。

 そう言っているのだろう。


『ところでケトスよ。そなたに聞きたいのであるが――』

『うん』

『まさかおまえ、黒いのに浮気をしていたわけでは、あるまいな?』


 じぃぃぃぃぃぃっと私を見る、その目は真剣そのもの。


『もしかして君、ブラックハウル卿に嫉妬してるのかい』

『ガルゥゥゥゥゥゥゥ! あやつは我と同じ顔をして、我より先にケトスと思う存分に遊びおって! あやつがあの新大陸の主神でなかったのなら、その喉笛を噛み千切ってやったところだ!』

『顔、怖いって……』


 せっかく、シリアスでカッコウイイ所を見せたのに。

 うん。

 全部、台無しだね。


 もっと、その辺りを揶揄ってやろうと思って振り返ると。


 そこには既に、誰もいなくなっていた。

 いや、私がいなくなっていた。


『あれ?』


 一瞬のスキをつき、私を転移させていたのだろう。


 誰よりも強くなっているこの私を強制転移させるなど、さすがのホワイトハウルでも一柱ではできない。

 じゃあ誰が協力したかというと――まあ、あいつしかいないか。


『あのニワトリ。狸寝入りしていたな……』


 呟いて、私はネコ髯を揺らした。

 ネコの瞳が。

 扉を見上げる。


 今、私がいる場所は――眠る魔王様の寝室の前。

 先に会ってこい。

 私の友たちは、そう言いたいのだろう。


 まあ、せっかくだ。

 友のお節介を受け入れてやるのも、悪くない。


 肉球とツバサに背中を押された気がして。

 私のモフ毛は自然に動いていた。

 肉球が、駆ける。


 私は――扉を開けた。








 本編エピローグ ~ホワイトハウル編~

 ~おわり~

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― 新着の感想 ―
[一言] いよいよ次回最終回か…… 2部も楽しみにしてます!
[良い点] いよいよ次で魔王様が目覚めるんですね("⌒∇⌒") [一言] ホワイトハウル様がブラックハウル卿に嫉妬シテイマシタネ。(。-∀-) 黒くても自分なんですけどね~自分に嫉妬ってどうなんでし…
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