最終決戦 ~二匹の巨鯨猫神(ケイトス)~ その3
現在、魔王様への愛が鯨のように膨らんで――絶賛超絶大暴走。
魔王城へ進撃するのは大魔王ケトス。
空を駆けるモコモコ、巨鯨猫神こと異界の私である。
『魔王様! 魔王様! 魔王様! 魔王様に会って、ナデナデして貰うのニャー!』
と、こんな感じで突き進み。
進路上にある空間も魔力も次元も、なんもかーんもぶっとばしてわっせわっせ♪
その横や後ろをコソコソコソ。
炎の大精霊の腕の中で、モフ尻尾ともふ耳を風に靡かせパタパタパタ♪
モコモコまっくろな麗し猫魔獣こそが、この私!
何をやらかすか分からない暴走ニャンコを止めるため、正義のニャンコ。
大魔帝ケトスは今日も行く!
ビシ!
炎熱国家エンドランドからも送られてきた黒コショウの効いた牛串や、巨大サツマイモタルト!
色んなグルメをがつがつ喰らう。
魔王軍のみならず、人間達からも愛される皆のアイドルである!
そろそろ魔力も回復してきたけど、まだ足りないと訴えて。
世界各地のグルメを貪り。
全回復をしようと仕方なく、お腹いっぱいに食事を味わう私。
かわいいね?
仕方ない!
これは世界平和のためなのだから♪
『ぶにゃははははっははは! 向こうの方からグルメがやってくるなんてー! 私、やっぱり日頃の行いが良いんだろうね~!』
魔王様会いたさに暴走する魔猫。
グルメに大満足で暴食する魔猫。
いやあ、私さあ。これ世界を救う側だからいいけど、魔猫二匹に世界全部が大慌てっていうのは、ちょっと気分がいいよね♪
なーんて口にしてしまったら怒られるから、言わないけどね!
さて――そんなわけで!
戦いはというと――。
氷の大陸を抜け、グルメ帝国付近の人間連合軍とは一時お別れ中。
人間達は特殊な転移空間を利用しているのだろう。
場所と地域を変え――。
何度も前線を切り替え、大魔王との戦闘を行っていた。
大規模魔術を扱えるナタリーくんや、ヤキトリ姫といった規格外な魔術師。
彼女達が交代で海を凍らせたり。超特大ウミガメのような巨大アンデッドの大陸を作り――足場を確保。
転移を繰り返し暴走ニャンコを待ち伏せ。
海の上に作られた大陸を変え――なんどもなんどもデバフの嵐を、大魔王に付与しているのだ。
もちろん、その度に私は各地のグルメを受け取り。
にゃふふふふ。
ニャハハハハハハハハハ!
にゃっはぁぁぁぁぁぁあああああああああああああぁぁぁぁぁ!
仕方なく。
しかたなーっく! 世界平和のための犠牲となるため、お腹いっぱいにグルメをムッシャムッシャくははははは!
となっているのである。
そして――今!
私は!
ななななななーんと!
料理の腕だけならば超一流! 性格破綻者でおそらく異界の魔王様の弟子と思われる、ネクロマンサー、リベル伯父さんの手作り料理を味わっていた!
そう。
エンドランド大陸の皆も、このデバフ合戦に参加してくれているのである。
ヤキトリ姫が顕現させたアンデッド海亀大陸。
その甲羅状の背に乗るのは、やはり見た事のある私の関係者たち。
キリリと豪快に叫ぶ女性たちの影がずらり!
「ほらほら! あんたたち! 魔族になったあたしら巨人族の活躍、大将代理のケトスさまに見せつけてやるんだよ!」
「へい、ボス!」
「ボスじゃなくて族長とお呼び! さあ、放つよ!」
ネフィリム巨人族の女傑風な女族長さんが、門番巨人君から受け取ったのは――天才錬金術師ファリアルくん製の魔道具だろう。
どうして分かるのかって?
そりゃファリアルくんは猫好きで、自作の魔道具全部に、ちょっとオデブでふてぶてしい顔のネコちゃんマークを刻み込むからである。
ゴゴゴゴゴゴオゴゴゴゴゴゴゴ!
デバフ誘導ミサイルに魔力を込めて――放出!
綿あめのような魔力弾頭が、大魔王ケトスの涙を吸い、その魔力を奪っていく。
……。
これ、対大魔王ケトス用に即興で開発したのか。
「そりゃそりゃそりゃ! ターゲット管理をしっかりね! 攻撃対象がニンゲンサイドに移ったら即死さね。けど、あたしらなら人間よりも強力な結界を張れる。いざとなったらあたしが防ぐから、こっちはどんどん行くよ!」
「ほら! 巨人さんたちに負けるんじゃないよ! ギルドの意地と感謝を見せてやるのさ! あの時ローカスターの襲撃から守ってくれたのはケトス様だ。これは恩を返す絶好のチャンスさね!」
と、後ろに続いたのはガイランの豪快女性ギルドマスターの声。
冒険者ギルドの皆もデバフ魔力砲台を操作しているようだ。
そして、その中央。
私と一緒に大暴れした、小さな女の子の姿が一人。
ビシ――ッ!
まるで私のようなカッコウイイポーズを取って、幼女がニヒヒヒ!
「なーはははははははははは! 良いぞ、良い! 実に豪奢な晴れ舞台ではないか! 妾の腕、今こそみせてくれようぞ!」
幼女シャーマンのコプティヌスくんも、いるのだろう。
人間としてのランクが違う彼女が魔力波動を纏い。
ビシ――バサ!
なんか、ロックウェル卿のようなポーズまでして魔力を放出。
複数の冥界神魔導書を顕現させ――呪符をバサァァァァァァァァァァ!
大魔帝ケトスである私。
そして、冥界神であるレイヴァンお兄さんの力を借りた混合魔術を詠唱するようだ。
「怠惰なりしも慈悲深き者――其は奈落の王に認められし傑物。祭司長にして死の巫女たる妾が命ずる! 汝等は神。汝は猫。それすなわち神とは猫であり、猫とは神。我、奈落の王の御力持ちて、冥府の扉を開ける者なり! 秘術! にゃんこ叡覧大舞踏会!」
以前、使っていた範囲即死魔術の応用なのだろう。
効果が即死ではなくなっている。
ガッコン、と開いた冥府の扉から、次々と黒猫達がヨチヨチヨチ。
這いずってきて――。
一斉にスチャ!
オペラ座の怪人がつけていそうな、ファントムマスクを装備し――死霊ネコ達が顕現。
「ケントよ! 今じゃ! 妾のファントムキャットにそなたの力を乗せぃ!」
すかさず竪琴を鳴らすのは――、一人の貴族青年。
冥界神の竪琴とかいう、結構ぶっこわれ性能な神器を冥界神から授かっている、ケントくん。
「唄え、奏で、舞い踊れ。これは英雄譚。あの方の勝利を願う希望の賛歌! さあ、あなたたちに冥界の加護を授けましょう!」
神器の冥界魔曲のバフを受け、ファントムマスクなニャンコ達はムフフフ!
能力低下の呪符を肉球で握って、空を駆け。
にゃにゃにゃにゃにゃ♪
大魔王ケトスに突撃する。
タゲを取らない範囲で、てい!
お札をペタ!
次の猫が、そろりそろり……。
タゲを取らないように、そーっと近づき。
てい!
お札をペタ!
まあ今回の大魔王戦ではお馴染み。
多段デバフ攻撃である。
度重なるデバフループ。
人間達や協力者による連携。
私達のグルメ散歩が刻んだ歴史をなぞるように――人々の心が結集していく。
もはや大魔王ケトスの能力は、普通の超厄介なラスボス程度にまで低下している。
……。
ま、まあやってることは攻撃ターゲットにならない範囲で、遠距離からチクチクチクチク。
能力を下げまくるっていう、微妙に卑怯な戦術なんだけどね。
たぶんだが――普段の私のせいだろう。
破壊のエネルギーを抑えるため、やりすぎないようにと考えた結果。私自身が、範囲バフや多重デバフによる戦法を好むようになっているからね。
関わった人間達も、そういう搦め手的な手段を習得しやすくなっているのだと思う。
よその世界から見たら、うちの世界って……デバフと防御結界。そして、嫌がらせ魔術が発展した世界。
なーんて、思われてしまうのだろうか。
これは絆の力ってことにしておこう。
うん、絆、絆。
けして。
地味な嫌がらせ攻撃ではない。
『君達ー! ありがとうー! あとでー! お礼にグルメをいっぱい食べに行ってあげるからー!』
「って、こっちが用意するのかい!? まあ、嬉しいけどね! そんじゃ! またこっちの番になったらデバフ連鎖計画に参加するから。期待しといておくれよ―!」
と、ガイランギルドのマスター。
その横にはギルド冒険者の面々もいる。
私に治療されて傷を治した武闘家の女の子だろう。
微笑んで。
あの時の感謝を示すように――ぺこりと頭を下げていた。
◇
場所を何度も切り替えて。
何度も転移を繰り返し待ち伏せをして――デバフのレースはどこまでも続いた。
そしてようやく。
もはや能力を下げる事ができない限界ラインまで下がった頃。
私は鑑定の魔力を働かせて、ネコ眉をうにゅうにゅ♪
じぃぃぃぃっぃいっと眺め。
げんなりと猫吐息。
『んーむ、まだまだ全然元気でやんの……さすが私』
『魔王様♪ 魔王様♪ もうすぐ、魔王様のいる大陸だニャ!』
無理ゲーじゃなくなっただけで、本当にありがたいんだけどね。
しかし、大魔王はデバフも気にせず猛ダッシュ!
ぷにぷに駆ける肉球から衝撃波が発生。
「回避します! ケトス様、舌を噛まないでくださいよ!」
腕の中の私を運ぶジャハルくんが緊急回避。
きゅーぅぅぅぅぅっぅん!
十重の魔法陣で炎の盾を顕現させ――再び、一定の距離を保ち並走。
巨大でぶ猫モードな大魔王ケトスを見ながら、言う。
「それにしてもケトスさま。オレも知らないうちに……本当に色んな人間達や、魔族じゃない種族とも知り合っていたんすね。まさかこんな風に魔族と別種族が、同じ目的のために集まるなんて……。ちょっと前までなら、考えられなかったすね」
『ああ、こんなに各地のグルメを運んできて来れるなんて。出会いって、悪くないモノなんだね』
現在、我等は既に大陸に到着してしまい――戦場を移行。
とはいっても、今はもう戦闘行為は発生していない。
先ほども述べたが、もうこれ以上デバフが効かない領域まで魔術深度を深めたのと――なによりも繰り返しの転移と作戦で人間達にも限界が来ていたのである。
まあそれでも問題はない。
私の計画通りに事は進んでいる。
私が予定している目的地。
決戦の場所まで、後はついていくだけなのだが。
私は地上をチラリ。
避難は完了しているモノの、大魔王の涙がドスドスドス。
大地や川を抉る勢いで落下しているが――気にしない!
って、わけにもいかないよね?
「これ、どうしましょうか……。涙の直撃を受けた大地は、虚無の空間へと侵食されてますよね? たぶん当分、人も魔も住めないどころか、植物すらも生えない危険地域になっちゃうんじゃないっすか?」
『あぁ……たしかにね。でも――人間達のデバフラッシュがなかったら、もっとやばかったね。あの粒一つが落ちただけでも、大陸そのものが割れて使い物にならなくなっていただろうから――これでも助かってはいるんだが』
そう、これでも最悪な状況どころか最善に近い状態なのだ。
「そうなんすけど――やっぱり直撃を受ける地域はマズいんじゃないっすか……?」
『ま、まあ……世界が滅びるよりはマシって思って貰うしかないかも? そ、そうだ! 使えなくなっちゃった場所には神が涙を落とした地とか適当な理由をつけて、聖域化。千年後くらいの聖職者たちに、祈りと祈祷で浄化して貰うとかってのはどうかな!?』
誤魔化そうとする私に、天から聞いたことのある声が響きわたる。
私のモフ耳センサーに引っかかるのは、聖女騎士の気配。
「ふふふふ! 久しぶりね、ケトス様! でも、心配無用よ! 天界もちゃんと仕事をしてるって事、忘れないで頂戴な!」
『その声は――カトレイヤくん!』
以前、私と出逢い、試練を突破し心身ともに成長した――救国の聖女である。
まだ姿が見えないのだが。
私がもう一度彼女に声をかけるより前に、天から光がキラキラと降り注ぐ。
天啓を与える者――人々が神と呼んでいる存在だ。
「それでは頼みましたよ――我が聖女騎士、救国の聖女よ。わたくしは打ち合わせの通りに……いや、ほんと、こういう時に活躍しとかないと、信仰が、と、途絶えてしまいますし。なにより……っ、だぁぁぁぁぁぁぁぁ! かわいいワンコに、見限られて消滅するなんて絶対にイヤ! ま、まあたしかに、サボり気味だった時期もあるけど……ッ。って、あ……ヤバ、天啓出しっぱなしだったじゃない! カトレイヤ! 主の命令よ、今のは聞かなかったことにして! いい! こほん、と――とにかく、頼みましたよ。我が騎士よ――」
あ、異界の自分がワンコに見限られたこと、知っちゃったのか……。
まあ、当時の神は奢っていた――かつて古き神々ですら厳格に処断したワンコに、そういうことをされてしまうほどサボり気味だったと、自覚はあったのか。
ちょっと可哀そうだが……。
どっかで聞いたことのある主神の声に、つい私はジト目を作り。
聖女の声が続く。
「主よ、どうかこのカトレイヤにお任せください――」
「では、参ります――我が子らに光の道を」
仕事モードの大いなる光の、輝きと導きが、世界を包む。
光の道が私の頭上を追従。
天から降ってきたのは――やはり救国の聖女騎士。
『やあ、カトレイヤくん! 久しぶりだね~! 元気にしてたかい?』
並走しながらも彼女は、はぁ……とため息を漏らし。
「ちょっとケトスさま!? 相変わらずみたいですけど、さっき思いっきり神のせいにしようとしたでしょう! なによ神の涙って! って、なに仕方のない犠牲だし~? 私、知らないし~? みたいに誤魔化しているのよ! あー! もうっ、本当にふてぶてしい顔をなさって! 全部、上から見ていたんですからね!」
私にもフランクに接してくる聖女騎士である彼女。
天界に遊びに行ってる時はよく邪魔をしに……いや、話をしに行ってるのでその亜空間の中に入っているモノも知っている!
そう、天界グルメ!
『ねえねえカトレイヤくん! 君は何を持ってきてくれたんだい!』
「って、その辺も……相変わらず。ぜんぜん人の話を聞いてないわね。たしかに、天界のアップルパイを持ってきたけれども! よく聞いて! 大事な話があるの!」
『大事な話を聞くにはー! グルメをー! 先にー! 欲しいんですけどー!』
カトレイヤくんは光と闇の炎を纏いながら、ジャハル君をちらり。
ジャハル君が、申し訳なさそうな顔をして頷く。
本当に、グルメを受け取ってからじゃないと話を聞かないと伝わったのだろう。
肉球で受け取った私は、焼きたてアップルパイの甘い香りに鼻をスンスン!
「確かに、天界からの回復グルメはお渡ししましたからね。で、大陸への攻撃については心配する必要がないって言いに来たのよ。今、主が――大いなる光さまが大いなる導き様と一緒に世界を包む結界を展開しているの。あーでも……わたしには、ちょっと難しくて理解はできなかったんだけど、バックアップ? を取ってこの騒動終了後に元に戻すことができるらしいのよ!」
『へー、あのワンコおバカな大いなる光もたまには役に立つんだね』
アップルパイをがーじがじしながら笑う私に。
「あのねえ……一応わたしも主の御使いなんだから。目の前で言わないで欲しいんですけど?」
『いいじゃん。こういうことを言えるのはカトレイヤくんぐらいだし。ほら、他の人だとマジになって怒りそうだし。君だから言えるって事さ。駄目だった?』
何故か顔をかぁぁぁぁぁぁっと紅く染めて。
聖女騎士カトレイヤくんは、目線を逸らす。
「だ、ダメじゃないわよ! もう、そういう所があなた……っ、まあいいわ。それじゃあジャハルさま。ケトス様を宜しくお願いいたしますわ。今度ジャハル陛下も一緒にケーキのお茶会をしましょうね。アイラがあなたにも会いたがっているから」
私も知る名前が出て、呼び止める。
『あ、ちょっと待って! 黒の聖母教の皆はちゃんと避難できているのかな? 連絡を入れても通じないんだけど』
「ああ、あの娘の……聖女アイラの権能で、世界各地に魔術メッセージと物資転送を行っているから、魔力通信が繋がらないのね。ふふ、誰のおかげで人間達があんなに迅速に動けているのか、転移をして繰り返し待ち伏せできているのか。騒動がおわったら影君にも一緒に感謝しときなさいよ!」
言って、カトレイヤくんは地上に降り。
天の楔を展開。
きぃぃぃいいいいいいいいいいいいいぃっぃぃぃぃぃん!
「主よ――我等をお導き下さい!」
バックアップ領域を維持するための神力を、大地に充填させているのだろう。
祈り、聖光を放つその横顔は――まるで聖女のよう。
……。
まあ、本当に聖女なんだけど。
各地に天の使いが舞い降りて、世界を覆う程の超特大結界を展開しているようだ。
私達はそのまま大魔王ケトスを追い。
さりげなくを装うように、ジャハル君がぼそりと言う。
「アイラさん……って、誰の事っすか?」
『冒険散歩の中でであった大司祭で人間の聖女様さ。たしかに彼女が属するのは裏の組織、各地に支部を持つ宗教団体。こういう異なる組織、異なる団体を繋げる連絡が得意なんだろうね。人間達の通信網、物資転送、意志疎通を一手に担ってくれているみたいだ』
ジャハル君がまともに顔色を変えて、叫ぶ。
「それって、半端なく大変じゃないっすか!?」
『だろうね』
そう。
いや、半端なく……というかこの私ですらおそらく不可能。
それをやってのけるには事前の準備や、伝手が必須。それなのに、実際にやってみせているのだ。
まるでこの日のために、組織が存在していたかのようにさえ、思えてしまう。
都合の良い奇跡。
私の脳裏を過るのは、賢者が残したという皇帝が持っていたあの黒い書。
そして、アイラくんの教団が崇拝していた偶像魔道具。
黒の聖母像だ。
彼女たちの謎の御神体。
あれも、異界の魔王様が各地に残した布石だった可能性はある。
そこまで都合よく、いくものだろうか?
そう思う気持ちもあるが……。
私の知らないあの方とはいえ、魔王様だしなあ……。
我が愛しき魔猫へ――か。
もしそうなら――。
これは、あの魔王様が愛しき魔猫を止めるために紡ぎ続けた物語。
今、目の前で魔王様を求めて暴れ突き進む異界の私。
この魔猫も、私が魔王様に愛されているように――とても愛されていたのだろう。
大魔王ケトスの足を止め、その能力を下げ続けてくれた彼等。
冒険散歩で出逢った人々の光。
道は用意されていた――けれど、その道を選び人々を救い続けたのは、あくまでも私の意思だ。
つまり、この奇跡は全部!
わたしのおかげなのである!
えらい、さすが私! 魔王様に愛されし大魔帝!
よーし、言い切った!
必ず、止める。
それが、私を拾い美しく育ててくれたあの方への恩返しだ!
『ともあれ! 騒動が終わったら、確かめてみる事がいっぱいあるね!』
「それでケトス様、この異界のケトス様とはどこでやりあうつもりなんすか? まさか魔王城に連れていくわけにもいかないでしょうし」
私はふむと、考えて尻尾の先を揺らす。
今、ラストダンジョンは最大警戒態勢。
黒マナティやハンドくん、フォックスエイルに幹部連中。
そして。
私の世界の神鶏ロックウェル卿と白銀の魔狼ホワイトハウルが、本気モードで待機している。
なぜこちらの援護に参加しないのか。
その理由は単純。
私がそう命じているからである。
考えても見て欲しい。
異界のホワイトハウルが封印された状況を思い出せば――今、魔王城こそがもっとも守らないといけない場所なのである。
もし、警備を緩めたら――その途端に動き出す連中がいると、私は確信していた。
絶対にだ。
陰険な古き神々や、勇者の関係者が魔王様に嫌がらせをしてくるだろうからね。
だから。
その前に終わらせる!
『ラストダンジョンの守りは絶対に崩せないからね――事前に決着をつけるよ』
「分かりました――それで、答えて貰ってないんすけど……決戦の地はどこに?」
私はんーむと悩んで。
しかし黙っているわけにもいかず、言葉を口にする。
『かつて大魔帝ケトス、つまり私が一度本気で世界を滅ぼそうとした地。世界が救われた地。ロックウェル卿すらも召喚してしまう瘴気が封印されていた、ダークエルフの隠れ里のある場所。そしてなにより、超腕のいいコックなギルマスくんがいる、冒険者ギルドがある街さ』
あそこは魔王城へ向かう進路上にあり。
なおかつ大きな事件があった影響で、いまだに魔力の流れが大きい場所。
まあようするに。
大魔帝が暴れたり、ロックウェル卿が顕現したりダークエルフの怨念が長年蓄積された場所。
魔術的に結界も張りやすいし、なにより私が本気で暴れたとしてもそれなりに耐えやすい地となっている。
決戦の地には丁度いい場所なのだが。
……。
「あのぅ……それってもしかして、オレが投資した、西帝国の辺境にある街なんじゃ……」
『あ、やっぱり。そう思う?』
人間の街のギルドに投資したって言ってたし。
投資した先が壊滅の危機に遭うっていう、変な属性をもっているっぽいジャハル君だし。
そんな気はしたんだよなあ……。
まあ、あそこの街は知り合いが多いし。
壊れちゃったら魔王城に招待すればいいよね?




