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王国奪還、その3 ~事後処理ってニャンコにはだるい~



 大規模な魔力が展開された影響で、王国の暗雲は散っていた。

 太陽もさんさん、風も爽やか♪


 イイ日光浴、びより!


 いやあ、太陽で温めたモフ毛って、お布団みたいな香りがするから魔王様も大好きなんだよね~♪

 本当なら赤レンガの上で、ゴロゴロ♪

 のば~っとしたいのだが。

 それよりも先にやることがあるので我慢我慢!


 そんなわけで!

 とある天才ニャンコの大活躍により復興したデルトライア王国。

 生贄――。

 すなわち魔術コストとして使用された人々が再生した首都には、賑わいが戻っていた。


 街の人々は神によって救われたと思っているらしいが――。

 彼等を救ったのは何を隠そう麗しのモフモフ。

 そう!

 大魔帝ケトスこと、最強ニャンコな私なのである!


 いまだ大魔王は健在。

 すぐにここを取り戻そうと戦力を送ってくるだろう。


 だが、しかーし!

 アフターケアも完全な私は素敵な、大魔帝!


 国境付近の警備を完璧にしたいと呼ばれたのは――異界より顕現したと思われるレイドモンスター。

 それらの魔物はデルトライア国全体を囲うように複数配置されていて――その指揮官は千の魔導書を操る人間との話だ。


 まあ、他人事みたいに言ってるけど――私が呼んだんですけどね!

 ヒトガタくんっていう、新しい部下に頼んだんですけどね!


 私の眷属となったことで強化された元魔物で人間で新魔族。

 個体名サウザンド。

 その部下達も大魔帝ケトスの眷属化の影響でパワーアップ!


 強力な上司と、膨大な部下の数だけ強くなる固有スキル持ちのヒトガタくん。

 彼は召喚されている異世界勇者よりもはるかに強いので、彼自身の安全も確保済み!


 どうして連絡が取れなくなっている彼らを呼べたかって?


 にゃふふふふふふ!

 その答えは簡単!

 あの極大魔法陣を展開したついでに、このデルトライア王国全土をそのまま私のダンジョン領域へと塗り替えたからである。


 ヒトガタ君たちは、分類上は魔物。


 ダンジョン支配者となった私なら、呼べちゃうんだよねえ♪

 もちろん、彼らはダンジョン領域ボスである私と契約済み――私という存在が真の意味で消滅しないかぎりはダンジョン。

 すなわち王国内でリポップしつづける。


 よく考えたら、集団戦闘が必要な強力なモンスターと。

 それを操る元魔導学園の学長。

 けっこうエグそうだね?


 まあ実際。

 さきほども敵として送られてきた大魔王軍、一万を足止めし捕縛。

 私の影領域へと転送してくれたし。


 悪党転移者共は生命のクリスタルへと変換済み。


 他の幹部よりも優先して呼ばれたことで張り切っているし!

 これぞ!

 新人部下を手厚くフォローする上司ニャンコのかがみと言えよう。


 あ、でもたしか――サバスくんが「彼はまじめで優秀過ぎるから、ちょっとケトス様のためにやりすぎるかもしれませんね」って笑っていた気もするけど。

 ……。

 ま、大丈夫か。


 新しい魔王軍に、デルトライアが乗っ取られたって変な噂が立たなければいいけど。

 ヒトガタくんには悪党以外は殺さないで、捕縛。

 どうしても勝てないなら連絡をくれって言ってあるし。平気平気♪


 領域全体に猫魔獣も湧き始めてるし。

 守りは完璧!


 そうそう! 聖剣使いの女子高生、勇者ヒナタくんの報告によると何度か敵の襲撃があったらしいのだが……。

 うん。

 まあ、あそこのニャンコに敵う筈がなく――瞬殺だったらしいと報告書には記入されている。


 さて、報告と言えばだ。

 私も細くて軽い腰を上げて行動を開始していた――昨日の件を、お国の一番偉い人に「だけ」は報告しようと思っていたのである。


 病という仕方のない事情があったとはいえ。

 王権争いを引き起こしたともいえる、国の代表。


 そんなわけで今、私がいるのはグリフォンの国旗が特徴的な御城。

 デルトライアの王城。

 病に伏せるデルトライア老王の寝室で、密談を行っていたのだ。


 ◇


 王女の話をし終えて――。

 空をふよふよと浮かんだまま、私はぶにゃん。


『とまあ、そういうわけさ。あ、言っとくけど、もしこれを悪意をもって他人に喋ろうとしたら――その前に呪いが発動して動けなくなるからね、気を付けておくれよ』


 王女が最後に残した紫陽花。

 その花束と現実を伝えた私はふぅっと息を吐く。


 王女の裏切りと凶行を知った老人は、鷲を彷彿とさせる険しい顔を尖らせ。

 唸る。

 老王は私からの真実の報告を聞き、ゆったりと瞳を閉じたのである。


「そうか――あのバカ娘が……」


 デルトライア王国で暗躍していた裏切り者が第一王女ルビィだと、そう聞いてもこの薄い反応である。

 おそらく。

 薄々は察していたのだろう。


 まあたぶん。

 民を全て巻き込んだことまでは想定していなかっただろうが。


 実際、王の握る手。

 王者の印である紋章の刻まれた拳は、ぎしりと……鈍い音を立てていた。

 この紋章を継ぐことが、王位継承なのだろう。


 様々な波乱を呼んだ、その印に目をやりながら。

 私は淡々と告げる。


『他の王子やお姫様達に今回の顛末をどう伝えるのか――それは王様、君に任せるよ。身内ならば呪いは発動しないからね。今のところは――あの第一王女様、ルビィさんだっけ? 魔術の才を狙われた王女は、儚くも大魔王ケトスの闇の魔術に操られて手先とされていた――そこに彼女の意思はなく、最後に三女に向けて美しい紫陽花の花を咲かせた。ごめんなさいね……という言葉を残して。って悲劇の王女様的な扱いになっているけどね』


 王女は本心から人間を裏切っていた。

 その事実を知る者は、もういないのだ。


 みんな、消してしまった。

 悪事を働いた者は存在そのものを。

 悪事を行っていなかった者は、その記憶を。


 それが私にできる、最後の手向けだったのである。


『それでも君の家族を手にかけたことは事実だ、それは一応詫びておくよ。ただし――いいかい? 彼女は二十万の人を手にかけた、その事実も変わらない。私は自らの選択を間違ってはいなかったと思っている』

「詫びていただく必要はない。本来ならこれは人間の、それも我ら王族が対処せねばならなかった事態。異界からの来訪者である貴殿に手を汚させてしまって、申し訳なく思う。すまなかった――そして、ありがとう……異界の魔猫殿」


 互いに、この件に関しては苦い思い出として残るのだと思う。


 やはり。

 どんな相手であったとしても女性を手にかける事はあまり好きになれない。

 まあ、その感情も我儘といえるのかもしれないが。


 話題を変えるように、老王は言う。


「あの子は、シャーネスはいま、どうしておるだろうか」

『ああ、シアンくんのことか。街の民を安心させに行ってるよ――さすがに二十万の人々だ、蘇生させた時に元いた場所と座標が少しずれていたからね。今頃は、家族とはぐれてしまった子ども達を集めて、親が来るまでの待機所を作って働いている筈だ。誰よりも国を考えているイイ子だね、あの子。ああ、ああいう子は出世するね。うん、魔王軍最高幹部の私が言うんだから、間違いない』


 皮肉る私のモフ毛が、ぶわははははは!


 魔術の才が無いからと追放してしまった王に対して、くっちゃくっちゃと乾燥肉を噛みながら言ってやったのだ。

 当然。

 ちょっとした嫌味である。


「王子と姫たちは――」

『無事さ、一人だけ蘇生させるだけで私の目的は達成できたんだけど――ついでだ、一応全員が生存しているよ』


 冷静さを保っていた老王の瞳が、僅かに揺らぐ。

 親の顔を見せたのだ。

 息子と娘の生存を耳にし、安堵したのだろう。


 家族への愛はあったのだ。

 だからこそ、どこでこの王国は間違った道を歩んでしまったのか、それは私には分からない。

 分かるつもりもないけどね。


『今は、えーと……どこにいるのか――ああ、いたいた。会議室とやらで話し合いをしているみたいだよ。おや、シアン君に呪いの魔槍を渡したこの私を危険人物扱いして、追い出す追い出さないで揉めているようだ』


 老王の頬が、ヒクつく。


「そ、それは――おそらく三女を心配しているのであろうな」

『まあ、この世界に再生したばかりだから、記憶が少し混乱しているようだけれどね。虐めるつもりはない。そんなわけで――彼らは生きている生きてないで言えば、生きている。今のところはね』


 今の所。

 そこを敢えて口にした意味を理解したのだろう。


「もし、シャーネスを再び貶めるような揉め事を起こすのなら……兄王子たちは王たるワシの最後の仕事として処断しよう。この命と共にな」

『私はそこまで口にしていないけれどね』


 まあ、言いたいことは理解してくれたようである。

 ここまで勘が鋭いのだ。


 病に伏せる前は立派な王者。

 民や王宮を掌握し、導く、偉大な君主だったのだろう。

 残念ながら。

 子育てはあまり得意ではなかったのかもしれない、が。


 私の感情を読んだのか。

 昔話をするかのような声で、貫禄を滲ませた王は唇を動かした。


「第一王女のルビィは……かつては本当に、純粋な子だったのだ。魔術を愛し、魔術を極め……この国をもっと偉大な魔導国家にすると、そう何度も語っていた。無邪気に……悪意もなく……本当に。あの子を曇らせてしまったのは全てワシ。後継者争いをあの子らの実力や名声のみに頼ろうとした、王たる余の責任であるな」


 遠くを見て言葉を零す王の顔。

 長い歴史を感じさせる儚い顔を見て、くっちゃくっちゃくっちゃ。


 ルビィ王女の隠れ家から拝借した食料をバリバリバリ。

 むっちゅむっちゅ。

 ベチョっと干しイモを噛み切って私は、ヘンとヒゲを蠢かす。


『あー、ごめんねえ。悪いけど、そういう感傷に付き合う気はあまりないよ。冷たいようだが――それは私の知らない所で、人間同士で、勝手にやっていておくれ。まだ砦一つと王国一つを奪還しただけ、大魔王に侵略されている地域の方が多いんだ。第三王女の依頼もこれで完了したし、私は私の仕事に戻るよ』


 頬に皺を刻み、老王は苦笑してみせる。


「異界の魔族殿は、老体にも厳しいのであるな」

『何言ってるんだい、老体って言ってもたかだか七十過ぎだろう? まだまだ若造だし。それになにより自分に優しく! 他人に厳しく! それが猫のモットーさ。悪いかい?』


 モフ耳をぴょこん! 脚のふわふわ部分を、ずちゃ!

 胸を張って、ふふーん!

 言い切ってやったのである!


「ワシがまだ若い、か……そうだな。我が娘を手駒として使ってくれた大魔王とやらの滅びを見るまでは――少々無理をするとするか」


 言って、老王は瞳に濃い輝きを灯らせる。

 王の帰還となるのかどうかは、彼次第だが――。


 ともあれ、まあ悪い人間ではないらしい。

 だれに盛られたのかは知らないけど浸透している毒の病を――こっそりと治しておいて……っと。


 うん、やっぱりこれ。

 呪いの類だね。

 誰が呪っていたのかは……まあ、私の知るところではないか。


 ハッキリと言えるのは、魔術の才が無いシアンくん以外の王位継承権保持者だろう。


 私は浮かべていた身体を椅子に降ろし。

 表情を切り替える。

 声のトーンも大魔帝としての幹部ボイスへと変質させ。


『さて――本題に入らせて貰う。この大陸で暴れている大魔王ケトスについて、情報が欲しい。君は何かを知っているかい?』


 言葉を受け、王も真剣な顔を作りだした。


 ◇


 私の問いかけを受け、考え込み、デルトライアの老王は息を吐く。

 顎髭に指を当て。


「直接は知らぬ。なれど、かつて北部の共和国に住まう賢者が異国の魔族、全てを破壊するほどに強力な魔の研究をしていたと、噂を聞いたことがある。その賢者が研究していた魔族の名がケトス。すなわち、貴殿の名であった」


 ふむ――。

 意識を集中させるべく、肉球をチペチペしながら考えて。


『もう一つ確認したい。この大陸の者達は大魔帝ケトス、私の名を知らない。君も知らなかったという認識であっているかい?』

「申し訳ないが――この大陸に伝わるのは大魔王ケトスの名のみ。大魔帝という単語も、初めて耳にする。異界より伝わる書でも貴殿の名を冠する書はなかったと、記憶しているのだ。魔術師としてのワシの知識は自慢ではないが、並以上のモノだと自負しておるぞ」


 この私、大魔帝ケトスは異世界の勇者たちでも知っているほど有名なのに。

 なーんで、同じ世界の筈の王様たちが知らないんだろ。


 まあ、意図して情報を封印されていると考えるべきか。

 つまり。

 相手は私を知っているのである。


『賢者が大魔王ケトス本人という可能性は?』

「どうであろうな……」


 髯を擦り、考え――魔術師の王は続ける。


「魔術師とは知識と名声を求めるモノ。侵略とはいえこれほどの偉業なのだ、名が知られている高位存在の名を借りるならばまだ分かるが――この地でケトス殿の存在は知られてはおらん。賢者本人なら自らの名で戦争宣言をしたと思うのだよ、貴殿の名を借りる意図が分からぬ――ゆえに、おそらくは賢者と大魔王は別人ではないかと、そう感じる」


 まあ、ジジイの勘であるがな――と繋げる王様。

 これに関しては私も同意見だ。


『だよねえ。まあ私個人に恨みがあって、責任を押し付けようとしてるって可能性もあるけど。ちなみになんだけど、その賢者さん、どういう魔術を扱っていたのかな。にゃんか情報ある?』


 ふむ、と記憶を辿るように息を吐き。


「あくまでも密偵による報告であると前置きをさせて貰うが。世界の構造を研究する魔術師であったと報告されておった」

『世界?』

「うむ――共和国の中での役職は魔術師顧問――勇者召喚や異界召喚、果ては世界生物論の研究を経て、異界より強者を招いていたとも噂をされていたそうだ。まあ、あくまでも噂。北部に行けば何かが分かるやも知れぬが、西部での情報収集はあまり期待できんだろうて」


 世界の構造を研究する魔術師。

 ……。

 ぜったい、碌なことをしないタイプである。


『そいつが大魔王ケトスを名乗って何かをしているのか。それともそいつが呼んだ何かが、大魔王ケトスを名乗っているのか。なんにしても迷惑な話だよ』


 うへぇ……と。

 尻尾をパタパタ振る私に、老王は問う。


「それでケトス殿はどうなさるおつもりで?」

『もちろん勝手に名前を使われて、虐殺まがいな凶行まで人のせいにされちゃあ堪らないからね。まあ私にはそういうヒューマニズムや道徳を語る資格はないだろうけど、胸糞も悪いし――大魔王は滅ぼすよ。その一件に関して、私と聖帝国の皇帝さんとの利害は一致しているからね。一度、あちらに戻るつもりだ』


 意外そうな顔をして、王は言う。


「この国の事は――いかがなされるのかな。第三王女シャーネスを気にかけてくれているようでありますが」

『彼女さえ無事なら後はどうでもいいよ。君達の好き勝手にしておくれ』


 乾燥イモの粉で汚れたお手々をチペチペチペ。

 綺麗好きな私、かわいいね?


 お手々をかわいくチペチペしながら、一瞬、瞳を紅く染め。

 私の猫口が蠢く。


 ぎしり――魔族としての私が、告げた。


『一応警告しておくぞ人間の王よ。現在、我が部下をこの国に配置している。それは国境より来訪せし敵から無辜なる民を守るため、そしてもう一つ。基本は人間として潜み、穏やかに暮らしておるのみであるが――もし我が心に触れた第三王女を貶めようとする愚か者が現われたその時、我が部下は千の魔導書をもって不逞の輩を惨殺するだろう。強く我が命じたのはそれだけだ、覚えておくとよい。後は知らん――人の営みなど、真の意味で我にはどうでもいいのだ』


 魔王様以外の事はな。

 と、闇の吐息を漏らしながら告げる私。


 その本心を感じ取ったのだろう。

 ごくりと息を呑み。

 王は頷く。


 それを同意とみて、私は魂を切り替えネコちゃんの声で言う。


『ああ、そうそう! 今現在王国を守っている事と、民二十万人の蘇生代は平和になった後でグルメ報酬として受け取りに来るからね? そこはちゃーんと、頭に入れておいておくれよ!』

「不勉強ですまぬが、その、グルメ報酬とは?」


 言葉を受け。

 ででーん♪


『我にグルメを献上することに決まっているであろう!』


 くわっとネコちゃんの威嚇顔をし!

 ビシっ! と天を指さし、涎をダラダラさせて私は言う。


『海鮮料理、ああ、なんたる甘美な響きよ。脂の乗ったマグロ丼、醤油で食べる新鮮なシュリンプ。イカさんリング! くくく、くははははははは! 今から腹が鳴るというものよ!』

「さ、さようでありますか……」


 あまりにも大きな要求に老王は狼狽しているようだ。

 無理もない。


 美味しい海鮮料理は、まさに至宝!

 私も魚をさばけるが、やはり職人の手によるお寿司とかも食べたいし。

 わさび醤油!

 パリパリな焼きのり!

 ウニ軍艦とか、イクラ軍艦だって食べたい!


 噛んだ時に、ぷにゅっと弾けるイクラ♪

 よ~く醤油漬けにされた、甘く輝く紅い身の食感を思い出し。

 じゅるり♪

 空を掴む肉球が、自然と醤油をつけるようにトントンと椅子の表面を叩き。

 ぶにゃ!


『老王よ、我が腹を満たすグルメ――ゆめゆめ忘れるでないぞ!』


 ぶぶぶ!

 ぶにゃーっはははははははははははは!


 お寿司を食べるニャンコって絶対にかわいいじゃん!

 魔王様も喜ぶじゃん!


 食と可愛さを満たせる、パーフェクトなグルメ♪


 嗤う私にジト目を作って老王は頬をぽりぽり。

 膨らむモッフモッフな私の猫毛を眺めて、えぇ……なんだ、この面白おかしな生き物は――っと内心でぼやいている。


 すぅっと嗤いをおさめ、私はぼそり。


『悪いけど、私。人間の心がある程度読めるからね?』

「そ、そうであったか。いや、貴殿のような愉快で強力で、アンバランスな魔族の方を見るのは初めてでな……その、すまぬ」


 私の祝福が聞き始めてきたのだろう。

 病による状態異常が徐々に解けてきているようだ。


 魔術師としてその変化に気付いたのだろう。


「ところで。貴殿と会話を続けている影響か、なにやら身体が軽いのだが……」


 王は告げるが、私は素知らぬ顔でチペチペチペと毛繕い。


『おや、ネコちゃんの祝福でも効き始めているのかな』

「よもや……っ」


 老王は血が巡り始めた自らの手のひらを眺め、ハッと息を漏らす。

 どうやら。

 それが誰の手による奇跡だか気付いたのだろう。


 最初から教えてあげても良かったのだが。

 ま、演出というヤツである。


 自分の口からは言わず。

 相手に言わせる。

 これもドヤの奥義である。


『二十万人の人々を蘇生できるんだ、老王一人の病を癒すぐらい――ねえ?』


 鋭い王者の眼光が私を見るので、うんと頷いてやる。

 どれほどの期間、病に伏せていたのかは知らないが――さすがに驚いているようだ。


 まともに顔色を変え。

 声と手を震わせ、老王は言う。


「感謝、いたします。魔猫様……あなたは、あなた様は、神の使い――なのですかな?」

『使いではなく神そのものだよ。まあ天の神様じゃなくて、ステータス情報として神属性をもっているというだけだけどね。ちなみに、ちゃんと天の神様も現存しているよ。彼女は彼女で働いているんだが、この大陸にはなぜか彼女の光が届いていない。それも謎なんだよねえ』


 老王が、私に平伏すように頭を下げる中。

 私はニヒィっと悪い顔をしてみせる。


『さて、まあ私が求めるのは君達のグルメ文化だとは理解して貰えたと思うけど。どうかな? もう一つ仕事をしてみる気はないかい?』

「ふむ、猫の神よ――この老体になにを望まれますかな」


 肯定と受け取っていいのだろう。


『貫禄ある魔術師の王ってのは良い御旗になるからね。ちょっと――ついて来てもらえるかな?』


 にゃふふふふふと嗤ったまま。

 悪戯ネコの顔で私は肉球を翳す。


 準備を進めているのだ。


 床に広がる十重の魔法陣。

 魔術師でもある老王の漏らす驚嘆の息を感じ。


 ぶにゃ~ん♪

 にゃはりと歪んだ口元の先、かわいいオヒゲがびにょーんと跳ねた。


 私は魔猫。

 こちらの大陸にも大陸の事情があるのだろうが。関係なし!


 好き勝手にやらせて貰おうと思っているのである!



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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、とりあえずこれにてこの国の王族については一件落着(。-∀-) [一言] ちゃっかりグルメを追加ゲットしましたねケトス様。 それにしてもここで初情報の何かヤバイ研究していた賢者さんで…
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