表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
378/701

プロローグ ~ニャンコと錬金術師の策略~



 前回の事件も解決して、もう憂いは無くなった!

 さあ、魔王様の日記を読み解いて――お目覚め儀式のために掻き集めたグルメの厳選を!

 ……。

 と、言いたい所だったのだが。


 私はとある部下から、やべえ連絡を聞き。

 肉球の表面をじとじと。

 モフ耳をイカの頭のように後ろに下げて、かわいく汗を浮かべていた。


 いやあ、まさか――。

 世界一つ分の闇の眷属を連れ帰ったせいで……ウチの世界で新たな勇者召喚が行われることになるなんてね。


 世界が増えすぎた闇の眷属とのバランスを保つために、運命を改変するなんてね。

 どこか私も知らない大陸。

 私も知らない国で。

 我等に対抗するための強力な勇者召喚を企み始めているなんてね。


 にゃはははははははは!

 いやあ、そういやあったねえ! 世界がバランスを取ろうとする現象!

 魔王様と私と研究してたね!


 前は私も気にしてたし――。

 かつて敵だった時の色欲の魔性、魔狐で魔女のフォックスエイルも大陸に猛吹雪を起こす結界を利用して、世界に見つからないようにしてたのにね。

 最近おとなしかったから、すっかり忘れていたんだよね。


 ぶにゃははははははは!

 はは……。

 は。

 ……。


『しまったぁあああああああああぁぁぁぁぁっぁあっぁぁ! 世界生物説なんて最近はもう効果発揮してなかったのにぃぃぃ!』


 と、魔王城の隠し部屋を行ったり来たり!

 うにゃうにゃ叫ぶ麗しいモフ毛なニャンコこそが――。

 偉大なる存在。

 現在、緊急事態で大慌てな大魔帝ケトスこと、魔王軍最高幹部で最強ニャンコな私である。


 意味もなく隠し通路を、ダダダダダダダダ!

 行って、戻って――ダダダダダダダダダダ!


 そんな。

 モフ毛を逆立て混乱する私を見るのは――紅き瞳。

 かつて人間世界の英雄だった稀代の錬金術師の男。


 闇の中。

 ピクニック用、紙パックジュースを手にする男は、薄いが端整な形の唇を苦笑に緩め。


「その反応からすると――やはり、今回の勇者召喚の件は、まったく未知。あなたですら可能性を考えていなかったのですねケトス様」

『うん……だって、最近はもう世界も私を認めてくれたのか、そんなに大きな介入はなかったし? 実はあの理論が間違ってたんじゃないかってぐらい、空気になってたし? もう好き勝手にして大丈夫かなあ、とか思ってたんだもん……』


 同情を誘うように、ニャンコな瞳でうるうるうる。

 私の赤い瞳の先にいるのは、私の部下。


 かつて血染めと呼ばれた憎悪の魔性候補。

 現在、魔王軍でエゲつない研究と作戦指揮でも大活躍中の人間、ファリアル君である。


 目深な骨兜をかぶった、翳はあるがかなりの美形の青年なのだが――。

 その性格……。

 というか、戦略は結構苛烈。

 人間の身でありながら魔王軍と渡り合っていた常勝無敗の存在。


 この私をドン引きさせるほどの作戦や研究を行ってしまえる。

 まあ一言で。

 変人である。


 あ、ちなみに。

 いつもピクニックジュースをくれるイイ子である!


 なぜ普段はフォックスエイルと行動を共にしていることの多い彼が、今ここで私と相談しているのか。

 その理由は明快だ。

 彼は私を気遣い、内緒話をしにきてくれているのである。


 私のせいで勇者が召喚されるかもって話だしね。

 他の人に聞かれたら、絶対に怒られる。だから一早く察知した彼は、他の幹部にも内緒でこうして教えに来てくれたのだ。


「まあ今回は見方を変えれば異世界から世界創生規模の魔物軍勢が侵入――つまり、侵略してきたと見る事も出来ますからね。バランスを保とうと今のあなたのように大慌ててで、世界が動いてしまった可能性は高いですね」

『いや、でもさあ。大いなる導きも連れ帰ったじゃん? だったらバランスは取れてると思うんだけど。なんで世界がいまさら勇者なんて召喚しようとしてるんだろう』


 魔術師としての顔で唸る私に。

 魔術師としての顔で答えるファリアル君。


「そうですね。あくまでも仮説にはなりますが――ケトス様のお話を聞く限り、大いなる導きはあなたによる裏技、世界の祈りと聖遺物を利用した大魔術での蘇生顕現にて降臨した、つまりは召喚されているわけです。それが使役している、イコール、闇の眷属サイドと判断されてしまった……という可能性はどうでしょうか?」

『あー、なるほど』


 あれ、でもそうなると……。

 召喚される勇者って、世界一つ分の闇と主神一個分に対抗してくる存在になるわけで――かなりのレベルになるんじゃ……。


「何も知らないこの世界にとっては……たった一日で世界一つ分の闇の眷属と、闇の眷属代表のあなたに付き従う主神クラスの神が顕現したことになります。勇者が召喚される条件としては妥当ではないでしょうか?」


 私は口に出していないのに、この同意見。

 だよねえ……。

 魔術師としてこの問題を見ると、みんなその答えを出しそうだよねえ。


『う……っ、言葉にすると、確かに世界のピンチっぽいけど……えー! 今はもう、天界とも上手くやってるんだし、そもそも大いなる導きはいま天界で休んでるんだし! ぜんぜん闇の眷属じゃないじゃん!』


 プンスカと猫毛を逆立てキシャーキシャー!

 ネコ手、ネコ足をバタバタぷにぷにさせる私に――ふっ。

 ファリアル君は骨兜を傾け微笑む。


「あなたは気軽に世界を救ったり、気軽に神や人を助けているから――感覚が鈍っているのかもしれませんが……基本的に関わった相手を幸福にしていますからね。ワタシがそうであったように、おそらく、あなたに蘇生してもらい助けられたと感じた大いなる導きは、ケトス様に感謝しているのでしょう。協力を惜しまない存在となっている筈。つまり――」

『世界は大いなる導きも、いざとなったら私に協力する存在……つまり、心から闇の眷属となっていると判断したってことかい?』


 私の答えに満足したように瞳を細め――彼は言う。


「可能性の問題ではありますけれどね。ともあれ事実として勇者召喚の兆候があるのです。まだ他の者には伝えていませんが、いかがいたしますか? あなたの判断を仰ぐべきだと――まっさきに飛んできたので、まだ一部の協力者以外は誰も気づいていないと思いますが」


 あいかわらず、有能でやんの。


『そういや、単純に興味があるんだけど――ロックウェル卿でも予知できなかった勇者召喚の兆候をなんで君は察知できたんだい。君の事だからたぶん正確に察知したのは確かなんだろうけど』

「勇者の召喚。それはおそらくケトス様、あなたの害になる存在となりましょう。可能性の問題として、いつかあるとは思って警戒しておりましたから。勇者の魂であるブレイヴソウルに協力して貰い、いち早く勇者を抹殺するべきだと――次元に仕掛けをしておいたのですよ。忍者やレンジャーが使う気配を察知して音を鳴らすスキルがあるのはご存じでしょう? アレの応用です」


 黒マナティ―と仲良いからなあファリアル君。


『おーい、黒マナティクイーン! 新しい勇者がきそうって言うのはマジなのかーい!?』


 モキュキュキュキュ!


『あー、本当だ。次元の狭間をちょうど移動してるってさ……』

「いっそのこと、そのまま妨害して――黒マナティの仲間を増やしてしまいますか? 何も知らず召喚の途中で消える異界の存在には可哀そうではありますが、今なら召喚妨害も可能ですよ」


 屈託のない黒い笑顔である。

 あー、文句のつけようのないイケメンが爽やかに外道発言してるって、なんかすごい。

 ふむ。

 モフモフ尻尾をくるりと回し。


『召喚の兆候のある場所って、確か、こことは違う大陸だって言ってたよね。具体的な場所は分かるかい』

「申し訳ありません。場所が離れすぎているので、正確な場所までは――」


 言葉を区切り。

 把握できている場所までの世界地図を顕現させ、彼は続ける。


「ただ、今まで関わった国々とは何の関連も無い海を隔てた先の、さらに先にある大陸だとは把握できております。貿易どころか互いの存在すら認知していない状態の場所となりましょう。既に遠距離攻撃で大陸ごと消滅させる準備は出来ておりますが」


 と――しれっと大量破壊魔術兵器を申告するファリアル君。

 んーむ、あいかわらずだなあ。

 これ、ファリアルくんができるって言ってるなら、マジでできちゃうんだろうなあ……。


 今の彼。

 魔王軍の技術力も取り入れて、錬金術師の枠を超えたヤベエもんを量産できる存在になってるし。


『いや、さすがに勇者召喚を阻止するのに大陸を吹き飛ばしたらまずいね……民間人もいるだろうし』

「ふふ――あなたならそう仰ると思って、多段次元崩壊ミサイルへの魔力点火はしておりませんよ。ですので、代わりの手段も用意させていただきました」


 私が混乱して意味もなくダダダダダ。

 猛ダッシュしている間に書類をまとめていたのだろう。


『おや、悪い顔をしているね。具体的にはどうするつもりなんだい?』

「召喚を妨害してしまうと次元の狭間に勇者になる筈だった魂が取り残され、ブレイヴソウルとなってしまう。これは人道的な意味でも、ケトス様の御意向にもそぐわぬ結果となるので除外して――次に考えたのが召喚への干渉であります」


 スッと差し出される魔術式。

 覗く私の猫目が、ぶにゃっと開く。


『へえ、こんな魔術式は初めて見たよ。召喚に介入するのか――』


 提示される魔術式を眺める私は、目をキラキラキラ!

 モフ毛もぶわぶわと膨らんでしまう。


「勇者を異界より招き入れる際、巻き込まれて無関係な者が召喚される現象が確認されていますからね。それを装い潜入する。つまり、ケトス様も一緒に召喚されてしまうのですよ。あくまでもそのような形に見せるだけなので、主従関係が結ばれる事はありません。どうでしょうか?」


 魔術構成を見る限り、可能である。

 モフ耳をぴんと立てて、興奮気味に私は言う。


『なるほどねえ! いいんじゃにゃいかな! 私も巻き込まれ召喚ごっこをしてみたいし! もし召喚主が、魔王様に仇をなしそうな国家とかなら――問答無用で大陸ごと滅ぼしちゃえばいいし! 説得できるなら、こっちに敵意はない、天界とも既に和解してるって話し合いをするって事もできるしね!』

「ええ、話し合いができないのなら。勇者を強制帰還させ――召喚主の方を始末するという手段も取れますからね。これは強制的にこの世界に連れてこられる憐れな勇者を想う、救助活動です。我等には何ひとつ非はない。後の歴史においても、ケトス様の行動は善行として語られる事でしょう」


 すぅっと冷徹な顔を見せ。

 魔王城の闇の中。

 ファリアル君が言う。


「それに――召喚主は、相手の了承も得ずに無関係なものを勇者として召喚し、危険と相対させる外道です――自らも滅ぼされる覚悟は当然持つべきだと、ワタシは考えますが?」

『だね、同意見だよ』


 ファリアル君は私の過去を見たことがあるからね。

 身勝手な召喚に巻き込まれて苦労した、私の心情も汲んでくれているのだろう。


 善は急げですぐに出発したい所なんだけど。

 逸る私に、超有能なファリアル君はニヤリ。


「それでは、今から召喚に割り込む術式を展開します。準備は宜しいでしょうか?」


 うーむ、さすがである。

 ヒトガタ君もフォックスエイルもそうなのだが、私、かなり優秀な人材をスカウトできてるよね~♪


『オッケー♪ みんなにはうまいこと伝えてくれると助かるよ。そうだね、魔王様お目覚めのグルメ儀式のために遠く離れた大陸に散歩に行った。これなら実際グルメも集めるし、言い訳としては悪くない。頼めるかな?』

「全て、あなたの御心のままに――」


 恭しく礼をするファリアル君の足元へトテトテトテ。

 スーリスリスリ♪


『褒美に我をナデナデしても良いのだぞ?』

「よ、よろしいのですか!」


 そう。

 何を隠そうファリアル君は、超がつくほどのモフモフ好きなのである!

 ででん!

 いやあ、なんか精神的ダメージをけっこう受けた経験のある人間って、モフモフに弱いんだよね~!


 更に畳みかけるべく、私はニヒィと悪い猫微笑。


『くはははははは! ナデナデだけでなく、ななななななんと! 抱っこも肉球プニプニも許そうではないか!』

「あ、ありがたき幸せ!」


 頷く私に、ほわほわ~っと笑顔を浮かべてファリアル君が私をモッフモフ。

 ふっふっふ!

 部下をちゃんと労える私、偉いね?


 モフモフ抱っこで、肉球ぷにぷにされる中。

 私はまだ見ぬ大陸のグルメと観光に、心を躍らせる。


 せっかくだから、勇者対処と魔王様へのグルメ儀式計画。

 両方を同時進行しないとね~♪


 さーて、どんな勇者が召喚されるのか分からないけど。

 いっちょ。

 この世界の魔王陛下の部下の素晴らしさってもんを、教えてやらんといかんニャ!



 ◇



 こうして。

 魔王城の隠し部屋。

 鬼畜錬金術師と可愛いニャンコの秘密会議により――今回の散歩は幕を上げたのであった!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 今度は勇者を魔王様陣営に引き込むのかぁ できれば元の世界に帰してあげてほしいが、果てさてどんな勇者が来るのか なろう系お馴染み人の話を聞かないバカか 異世界チートヒャッハアアアアアなバカか …
[良い点] お?新たな勇者召喚??(。-∀-) [一言] 大波乱の予感(^_^;))) どうなることやら
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ