止まる世界の大団円(裏) ―女神の心― 前編
全ての人々が神と少年の物語を追体験する中。
静寂の世界。
絶命の叫びにモフ耳を揺らしながら――私は一人、世界を独占しながら歩いていた。
「っ……――――ッ!」
大魔帝ケトス、殺戮の魔猫と呼ばれる私による、殲滅散歩である。
トテトテトテ。
本来なら音を立てずに歩く猫の肉球なのだが――滾る魔力の影響か。
いつも愛らしい音が鳴ってしまうのはご愛嬌!
まあそんな。
トテトテぴょこぴょこ音もかわいいと、魔王様がいつもデレデレして下さるので別に問題なし!
ちなみに、特別太っているというわけではない――。
だから今も、みなぎる膨大な魔力で肉球音を立て。
尻尾をもっふぁ~♪
とてとてとて♪
ざしゅ!
「ぎゃぁああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
とてとてとて♪
ざしゅ!
「ッ――あぁぁぁぁぁぁぁぁ――!」
ふむ。
やっぱり動かない敵を倒すのって、楽だけどあまり面白くはないね。
ちなみに現在いる場所は――例の女神教の研究所。
これで七箇所目である。
美しい自然の風景を観光しながら、世界各地のアジトを回っているのだ。
教皇様とやらが隠れているだろう場所を、しらみつぶしに探しているのだが……数、多すぎ……。
これほど堂々と殺戮して回っているのに、誰も、何も騒がない。
ただ殺される時だけに。
絞め殺される獣のような声を上げるだけ。
それもその筈。
強制的に意識をリンクさせた世界では、追体験が終わるまで結界に包まれた状態にある。誰しもが止まったままなのだ。
それはすなわち。
私だけの世界。
いやあ!
世界を独占って気分が良いね!
魔術師ならば分かるかもしれないが――強制的に、脳内で過去視の夢魔術を発動され続けているようなものなのだ。
供給される魔力の中、常に魔術を行使していると言ってもいいだろう。
動けないのも当然なのである。
だから、人間達が世界の秘密と真実を知る裏で――私はトテトテトテ♪
ザシュザシュザシュのザーシュザシュ♪
ただ、まあ――。
独裁者が最後、一人きりになってしまう世界。
なんてモノを体験できる魔法の道具があったのなら――今、この状態に近い状況を見せてくれるのかもしれないが。
一番大きな広間に出た私は――はぁ……。
思慮深い猫のため息を一つ。
『まーた、不老不死になろうと外道を働いている連中でやんの……』
あまり口にしたくないので詳細は省くが……。
なかなか悪趣味な肉の宴が行われていたようである――。
……。
まあ、消すか。
『はいはい、処分処分』
トテトテトテ。
殺戮と共に、コミカルな肉球音だけが響く。
今日一日は、全ての罪が許される。
この世界は私だけのモノなのだ。
どんなことをしても、何をしても、誰も驚きもしない世界。
ふと私は思う。
世界はこんなにも美しいのに、なぜ、人間の心は醜いのだと。
いや、まあ。
全部が全部、心が腐っているわけじゃないとは知っているのだが。
……。
あ、憎悪が膨らんできちゃった。
まずいまずい。
流れのまま、うっかり世界を壊しちゃうかもしれない。
こんな時の対策もばっちり!
観光した世界の美しさを敢えて思い出し、眉間をうにょうにょ!
ネコちゃんの賢い頭脳に、穏やかな心が広がっていく。
あの後、私は――大いなる導きが真実の映像を人々に刻んでいた世界の裏。
静寂の世界といえる中。
美しい世界をたっぷりと堪能した。
川のせせらぎや、葉擦れの音。
誰もいない町は本当に穏やかだった――。
ネコちゃんの昼寝スポットもいっぱいあった。
誰もいない噴水公園の広場も独占できたし。
大河の上を繋ぐ橋の真ん中を、猛ダッシュしたら気持ち良かった。
太陽の温かさをたくさん吸った赤レンガなんて、おへそを上にして寝たら最高に気持ちいいだろう!
そんな。
穏やかな景色。
世界の尊さ。
飽きる間もないほどにたっぷり沢山と、この世界の美しさを確認したのだ。
人類が滅んだら、きっとこんな沈黙の世界が永遠に広がり続けるのだろう。
けれど。
それが永遠ならきっとすぐに飽きてしまう。
だから今日一日の限定。
その方があの自然の価値は上がる。
にゃふふふふふ、私はこれでもなかなか風流なのである。
侘び寂びの分かる詩人ともいえよう!
喧騒の中では味わえない世界はなかなか興味深くて、魔王様がお目覚めになった後に語ることができる物語がまた一つ、増えたのだ。
それはきっと喜ばしい事で。
けれど、やるべきことはまだ残っていて。
だから。
私は一人、暗い細道をまた歩き出した。
『さて、続きもサクっとやっちゃおうか』
私は普段はあまり表に出さない残虐な部分を隠さずに、ザシュザシュザシュ。
ネコがとことこ歩いて。
ざしゅざしゅざしゅ。
女神を刻んだ狂信者たちの魂を燃やしていく。
金赤君にちゃんと組織の場所やら、今も行われていた外道の不老不死実験を報告すれば――厳格に動いてくれるのだろうが。
うん。
面倒だし。
私ネコだし。
この外道たちは本当に外道なのだ。
大いなる導きに見つかったらそれこそ世界の終わり。
絶対に危険。
滅亡ゲージがマックス超え、しちゃうだろうし。
私の独断で全部、歴史から消しちゃっていいよね。
いやあ、だって。
こいつらを残したままだと、確実に……十年後に世界、滅ぶし。
改心するのを待つなんて正直、面倒だし。
だいたいだ。
女神を滅ぼしておいて、罪もない女子供を切り刻んでおいて――本当に反省されちゃって殺せない、なんてなったらなんかムカつくし?
それにだ。
モフ毛を膨らませた私は、少しシリアスな顔をする。
心優しい女神で、どちらかといえば芸術系に強い女神だったとはいえ――大いなる導きは主神。
私よりは遥かに弱いが、人間が太刀打ちできるレベルの存在ではない。
なのに。
人間は主神を殺したのだ。
神をどうやって滅ぼしたのか、その手段を知っておきたかった。
それは弱者が強者を倒す手段。
万が一、私の魔王様にすら通用する方法であったのなら――私は私の世界で、それらを全て排除しなくてはならない。
何を犠牲にしてでも、だ。
シリアスに唸る私、かっこういいね?
そんなわけで!
情報を集めて殺戮♪ 殺戮♪
おそらく。
正義感のあるモノが今の私を見たら、虐殺者と罵るだろう。
他人の世界で。
他人の国で、法の裁きにかけることなく――外道たちを外道な手段で殺戮して回っているのだから。
独善と言えるだろう。
けれど。
構うことなく、私は転移を繰り返す。
彼等のアジトは孤児院や修道院。
洞窟寺院や教会。
ありとあらゆる宗教施設の地下に存在した。
アジトを探した手段は単純。
あの時、祈るように肉球を合わせた私が神話規模の極大魔法陣を展開した瞬間。
魔術を行使する私は、全ての命と一時的に繋がった。
かつて主神であった大いなる導きの権能を悪用して、世界に生きる全ての命と位置情報を盗み見たのである。
厳密にはだいぶ違うかもしれないが――。
世界全ての命と再接続した大いなる導き、彼女のアドレス帳を使い全員に同時にメールを送った際に、アドレスを無断でコピーした。
と思って貰えばいいだろうか。
当然。
暗躍していた女神教の連中もこの世界に生きる命だ、場所も数も把握できている。
私の肉球は止まらない。
世界を渡り歩き、とてとてとて――。
音を鳴らし続けていた。
◇
あれからいろんな場所を回って、世界一周!
世界殺戮散歩もかなり大詰め!
各地で手に入れた情報をもとに、ついに教皇様のいる場所を発見したのである!
いやあ、長かった!
錆びた扉に、コケの生い茂る壁。
錆びた鉄の香りが広がる。
かつてヴァルスくん達の同胞も歩いただろう神殿の冷たい床を、とてとてとて。
今いるアジトの場所は――灯台下暗し。
この世界に召喚された時に、私が自宅とするべく即座に乗っ取った南の学園の神殿。
コタツが置かれていた絨毯の下。
封印されていたので気が付かなかったのだが――この学園の創立時からこっそりと、入り口が作られていたのだろう。
隠されていた地下施設があったのである。
学長であるヒトガタ君も、後からこの学園に侵入した魔物の中ボス。
ここの事は知らなかったのだろう。
この神殿を拠点として、なにやら動こうとしていたようなのだが。
彼等はまったく動けなくなっていた。
その裏には、とんでもない事情があったのだ。
なんと。
恐ろしいことに――。
教皇を中心とした連中は、ここから出られなくなっていたのである。
うん、なんつーか……。
だって。
突如顕現したネコちゃんが、偶然――結界で……囲んじゃったからね。
ようするに、だ。
神殿をリメイクした私の魔術に巻き込まれ出入り口を完全に潰され。更にこの領域を乗っ取った私に支配権を奪われ――転移することもできなくなり。
脱出することができなくなっていたようなのだ。
ものすごい焦っただろうが、自業自得だし。
食料が無くても不老不死なら、死なないし。
私、悪くないよね?
周囲をきょろきょろしながら、脱出を図って掘っただろう穴をちらり。
私の結界に阻まれて、途中で掘れなくなっている。
うーむ。
きっと、ここから脱出するために色々とやってたんだろうなあ。
しかし各所の神殿にこんな秘密の地下があったのだから、よっぽど大きな組織だったんだろうね。
それこそ国家に匹敵しそうなほどに、大きな……。
まあ、時代の流れのせいか。
どうやらとっくに規模は小さくなっていたみたいだが。
隠し通路の奥。
かつてのヴァルス君たちが閉じこめられたきっかけも、組織が潰され――施設ごと封印されたせいだった可能性は高い。
そして、何食わぬ顔で救出を装い教皇は彼等を掘り起こした。
契約を強制し――手駒として使っていた。
なかなかの外道である。
施設が封印されたあの時期に、革命やら、国家による殲滅作戦に類似する何かがあった可能性も高い。
外道を滅ぼす自浄作用が、この世界の人間にもあったのだろう。
まあ。
気付かれずに百年単位で封印されてしまったヴァルス君達は、なかなかどうして可哀そうなのであるが……。
そしてまた、私は周囲を見渡し。
試験管の中に浮かぶ肉塊を眺め、耳を後ろに倒して。
うへぇ……。
『ここも、酷いね――どうして人間って不老不死なんてモノに憧れるんだろうか。試験管の中でなんかよくわからん肉の塊を培養するのも、大好きだよね……』
何が起こっていたのか、どうやって女神を滅ぼしたのか。
神殺しの秘密を探りながら――。
ただ作業のように。
一連の悲劇を生んだ、女神を堕とした連中と資料を処分して回る。
世界中に存在する彼らのアジトを惨殺して回っている間に、情報も集まっていた。
消し炭にした悪党の魂を抜き出し、錬金術で物質化。
記録情報を持つアイテムの素材として人の魂を使った訳である。
まあ、これをされちゃった魂はもう二度と転生できなくなっちゃうんだけど。
別にいいよね?
不老不死は本来なら二度と死なないのだ。
輪廻の輪から外れた時点で、転生の権利も捨てていたようなもんなんだし。
やはり流れ作業で。
転移と殺戮を繰り返して施設内を巡った私は――トテトテトテ。
そして。
たぶんここがその終着点。
◇
たいそうな祭壇と神殿の中。
世界の裏で動き続けていた不老不死の女神教徒たち。
彼等をアイテム結晶化。
かつて人間だった魂を鑑定し、情報をゲットして――終了だ。
殺戮の終わった神殿。
静寂の闇の中。
私は赤い瞳に魔力を灯らせる。
情報を集結させているのだ。
情報を繋ぎ合わせて、ウォールス君から模倣ったスキルを使い……見えてきた答えは――。
私の尻尾は揺れていた。
たぶん、少し不機嫌になっていたのだと思う。
『供物に強力な呪いを忍ばせ――献上。それを装備させて神を弱体化させる……か。なるほどね』
結晶化された魂の情報。
これらを並べて見えてくるのは、大いなる導きを堕とすために仕組まれた――人間達の卑劣な罠の数々。
私は読み解いた情報を映像として投射。
赤き瞳を光らせる。
はじまりは、悪意でもなんでもなかった。
本当にただ、美しく心優しい女神に貢物を贈っていただけ。
踊りと音楽。
そして、宴が大好きな大いなる導き。
人間は祈りと願いによって神を呼び、ただ楽しく交流していた。
人間は女神を畏れ敬い、尊敬していた。
女神も人間達を愛していた。
全員を平等に、愛していた。
けれど距離を徐々に近づけて――親しくなっていく中で、距離感が分からなくなっていたのだろうか。
女神はある日、禁忌を侵した。
慈しみとは違う愛を知ったのだ。
それは燃えるような愛。
どうしようもならない程に、心を動かす愛。
そう。
女神は――知ってしまった。
あろうことか人間に――恋をしてしまったのだ。
相手は人間世界の王子だった。
黄金よりも美しい金色の髪に、夕焼けよりも儚く艶やかな赤い瞳を持つ――気品ある王子。
運命と呼べるものが本当に存在するのなら、彼らの出遭いがそうだったのかもしれない。
彼等は溺れるように愛し合った。
女神が人の美しさに惹かれたように、人もまた、女神の美しさに惹かれたのだ。
神と人。
禁断の恋。
禁忌を破る背徳と享楽。
それはきっと、とても甘くて濃密で――蜂蜜よりも甘美な愛だったのだろう。
二人は愛し合った。
愛し合った。
愛していた。
その愛は本物だった。
互いに、愛していたのだ。
だからこそ、気付かなかった。
相手もまた女神を愛していたからこそ、周囲が見えなくなっていた。
女神もまた王子を愛していたからこそ、周囲が見えなくなっていた。
悪意が身近にあったのだと。
二人は、気付けなくなっていたのである。
女神はある日、恋人からの贈り物だという羽衣を受け取った。
王子の臣下が献上してきたのだ。
美しい金の刺繍が見事な羽衣だった。夕焼け色の透かしが肌に映える羽衣だった。
それはまるであの美しい王子のようだった。
香りも魔力も、王子そのもののようだった。
女神は蜜月の前の湯浴みの後。
夢のような気分の中で羽衣を手に取った。
人間の恋人のために、その贈り物を身に纏い――舞を披露するのだと微笑んだ。
逸る心をおさえて、その羽衣を身に着けた。
その瞬間に、女神は呪われた。
羽衣がきつく肉体を戒めて、神としての力を封じたのだ。
戒めの魔道具だと気付いても後の祭り。
罠だと気付いても、もう遅かった。
女神の力をもってしても、その呪いの布が外れないのだ。
引きちぎっても、解けないのだ。
人間達がやってくる。
見知らぬ恐ろしい者たちがやってくる。
その中に王子はいない。
けれど、気配が確かにある。
近くにいる筈なのに、いない。
そして。
女神は悟った。
その羽衣の正体を知った。
それは愛する王子の魂と血と遺骸によって作られた――赤き布。
呪われし聖骸布。
女神は見た。
愛する王子の無惨な亡骸と、醜い人の心を見た。
黒幕は王子の兄だった。
神を捕獲し、王子である弟を殺し――神の身体をもって不老不死の命を得て、王の座に登ろうとする兄王子の醜い野心と顔を見たのだ。
全ては王になるため。
欲望のため。
兄王子は神と弟を殺したのだ。
主神と恋仲となった弟に玉座を奪われると思い込み、次第に病んだのだろうか――それとも、初めから狂っていたのか。
断片的な情報だったせいか。
それは私には読み解くことができなかった。
女神は殺された。
人間は、不老不死の素材を手に入れた。
女神の力を封じ戒めた、愛する者の聖骸布。
女神の遺骸。
おそらく不老不死となった者がリポップする時には、その紅き布の模造品に包まれて顕現するのだろう。
女神は聖骸布となってしまった愛する男を再生させようと――祈った筈だ。
それは際限のない愛。
際限のない再生。
すなわち、不死。
かつて人だった情報媒体から手を離し、私は言う。
『なるほどねえ。かつて女神の愛した王子。その兄王子が――教皇様、か』
もしその王子の兄が教皇で、本当に黒幕だった場合。
女神を殺した時から生きているのなら、既に不老不死の筈。
なのに。
まだ世界の裏で暗躍していた――その理由は想像することしかできないが、おそらく。
適合者であるヴァルスくんやウォールス君とは違い、彼は完全な不老不死ではなかったのだろう。
それにしても、この教団は規模が大きすぎる。
維持するのも大変だっただろうが……。
元が王族であったのなら、まあ分からなくもない。その資金源は潤沢であったのだろう。
次は息のかかった王族や貴族を探ってみるか。
いや、それは金赤女帝くんや学園の教え子たちに託してみるのも一興か。
一番醜い部分は、既にもう私が処分したのだから――。
後は。
彼らに任せても……いいか。
うん。
せっかく鍛え上げたんだし。
別に面倒になってきたわけじゃない。
私は静寂の世界の中で、息を吐く。
おそらく。
これで世界の膿はだいぶ減った筈だ。
後は、まあ。
十年後の人間次第なのだが――。
私は周囲を見渡した。
隠されていた神殿。隠されていた教団内部の玉座の前。
つい数分前に合成したアイテムの前。
教団のトップとして生き続けた男。栄光の椅子の上で、二度と死ねなくなって苦しみ転がる肉塊を見ながら。
私は瞳を細める。
『おめでとう人間よ。これで君は完璧な不老不死だ。大魔帝の合成だからね。絶対に壊れないし、死なないし、アンデッド化もできないから――もう二度と死ねなくなった。君の願いは成就した。もう不完全な状態の不老不死に怯える事はない』
言って、私は肉球を鳴らし肉塊を消滅させてやる。
けれどコレは――私の合成技術によって生み出された完成品、完全なる不老不死の塊。
ソレはすぐに空間に再生し、苦しみ蠢き転がり続ける。
『君は一生、そのままだ。人間には戻れないし、戻させない。そういう呪いをかけておいた。私よりも強大な存在なら呪いも解けるだろうけど、あまたに存在する全異世界を探しても、そうそう存在するレベルじゃない。まあ、これからずっとそのまま生きるんだ。それは悠久ともいえる膨大な時間の渦の上。いつか、私も知らない強大な誰かが救ってくれるかもしれないよ? 私の未来視によると、一生来ないみたいだけど。私の予知は完璧じゃないからね、限りなくゼロだけどゼロじゃない――まあ、一生わずかな望みを持ちながら待つんだね。にゃはははははは!』
念のため、もう一度鑑定。
鑑定結果は。
かつて教皇だったモノ。
『さて――世界を滅ぼしかけた愚かなる王族よ。私は君を許そう――助けようとは思わないけれどね。それじゃあ、さようなら』
肉球をコミカルに振って。
魔法陣を展開。
不老不死の成功を確認した私は、教団本部の壁を塞ぎ――。
封印。
人々が神と少年の物語を追体験する、静寂の世界。
動く生き物がいない世界の中でただ一つ、蠢く塊。
かつて不老不死を求め全てを壊しかけた男を見捨て――転移をした。
おそらくコレは何百年と生き続けるだろう。
なにもない空間。
何もない世界。
私の未来視が外れる事を信じて。
わずかな希望はむしろ絶望ともなる。
望まなければ自我も意識も途絶えてしまうだろうが、もし、助かるかもしれないと思ってしまったら……おそらく外道は一生、待ち続ける。
永久に。
転がり悶え苦しみ続けるのだ。
◇
転移した先は、落ち着く場所。
乗っ取った神殿。
勝手に自宅にリフォームしたニャンコなこたつ神殿に顕現したのだが――。
違和感がネコちゃんの鼻先とモフ耳を揺らしていた。
コタツの上に、箸置きとお箸のセット。
そして取り皿が置かれていたのだ。
はて。
地下に潜った時には置いてなかったはずなのだが。
殺意はない。
敵意も無い。
けれど、この世界でも動ける誰かがいる。
大いなる導きはまだ舞を通して、世界に自らの想いを伝えている筈。
では、誰が――。
私は周囲を見渡した。




