禁忌 ~ロイヤル寝具は誰のモノ~中編
月夜がキレイな王宮の寝室。
この国を治める妖艶な女性――金赤女帝さんとの会談の中。
語られたのは女神教徒どもの不死の秘密。
奴らは神を喰らったのだと、女帝は涼し気な顔でそう告げた。
……。
ん-みゅ、もしその話が本当なら。
そりゃ、呪われるわ……この世界。
そんな。
ごく当たり前な感想を抱いた私は素敵で最強な猫魔獣!
ブリ照りで招かれた偉大なる存在!
同情と暇つぶしからこの世界に干渉を始めた大魔帝ケトスである!
ででーん!
女帝さんのフカフカお布団の上。
ヘソを上にしてうにゃーんと寝たいのを我慢して。
肉球を顎に当てた私はふむ……と真面目な顔をする。
『なるほどね、もし君の推察が当たっているのなら――この世界は最上位の呪術、主神の呪いを受けているという事になる。確かにそれなら神の加護がなくなっているのも、他の主神クラスの存在が柱になりにこないのも頷けるね』
魔力で浮かせたおつまみセットを召喚して。
五本目の高級ワインをグラスに注ぎ、渇きを潤す私をじぃぃぃっと見ながらも――女帝は瞳を閉じていく。
「そうか――やはり、この世界は神に呪われておるのか」
『この私が自分よりも先を見る力があると認めている魔鶏と、彼には視る力で劣るけれど……占術が得意な水神龍のお墨付き。喜びたまえ人間の長よ、加えて滅びの神託ともいえる彼らの詰んでる発言もいただけた世界だ。もしこれがボードゲームならチェックメイトがかかっている』
人ならざるモノの顔で、滅びを告げる私。
ちょっと格好いいね?
『彼等にはきっと神の怒りと呪いが見えているんだろうね。守護を失ったどころか守護してくれる者を軽んじて堕とし、詰んだ世界。即ち――終わりの定めを与えられた価値なき世界だから諦めよと……私にお節介な助言をしてしまうほどにね。私に諦めろっていうのは、結構珍しいんだよ。君達、大変だね』
「そうか、詰みであるか」
くくく、と女帝は笑い。
垂れる前髪を掻き上げ、一頻り笑った後――月を見ながら切なそうに言う。
「そのような世界で女帝となる定めを与えられたとは、妾も貧乏くじを引かされたという事か。まあせいぜい抗ってみせるが……血の濃さのみで身分も未来も決められるのは――残酷なモノだな」
『平時ならそれが特権なんだろうけどね。生まれる時代が変われば受けられる恩恵も、責任も変わるということさ。それでも。君はまだ恵まれている方だと思うよ。無責任なネコの視点から言うと、キミよりも不幸な民草はごまんといる。ま、比べるべき問題でもないけれどね』
ここ。
魔猫と女帝のなんかイイ感じの会話ポイントである!
後で記録クリスタル映像を自慢しとこ。
自らも喉を潤したいのだろう、女帝はグラスを顕現させてワインを注ぎ。
一口味わって、唇を濡らすように呟いた。
「分かっておる。その日を暮らす事さえままならない者達が、世界のどこかにはいるのだろうからな。全ての民を平等に幸せにできているなどという驕りを漏らすつもりもない。ただ……妾も王家の紋章が浮かび上がるまでは、娼街の掃きだめの片隅で、膝を抱えて震えておったからな――少しならば、泥水を知っている。今も尚、日陰で怯える者達の気持ちも分かるつもりだ」
え?
いや……なんか、重いんすけど。
私、空気読めないキャットみたいなんですけど。
まずいまずいまずい!
急いで話題を変えるべく、いざ行動!
ハムとキャベツをむしゃむしゃする私の猫口は、呪われた世界について語りだす。
『しかし参ったね。もし殺され喰われたことにより性質が反転したのなら――厄介なんてもんじゃないんだよ』
口の中の生ハムとしゃきしゃき野菜を飲み下し。
本当にシリアスモードで考え込む。
『大いなる導きは神にしては珍しい善神。まあ大魔女君の扱いについて思う所はあるが、人を愛し、人を導く女神であったと考えられる。良き神であればあるほど、善心があればあるほどに――反転した時の憎悪はすさまじい。愛憎は表裏一体。もし女神が人を愛していたのなら――その分が丸々と人間への呪いとなっている筈だからね』
金赤女帝はワインごしに、空を見る。
月光を透けさせながら、赤の中で揺らぐ金色を覗き込み。
「愛憎の反転かえ……ふふ、まるで人間と同じではないか」
『神なんてもんはただ強いだけの存在。別に人間よりも性格が優れているわけじゃない、むしろ人よりも苦労を知らない者が多いからね。子どもで幼稚な神は珍しくもないのさ』
もし楽園から逃れた住人なら、魔王様を追放した連中なわけだし。
私個人としては、善神であったとしても別に好印象になるわけでもないんだよね。
だって。
本当に正しい神ならば、魔王様に手を差し伸べていただろう――私はそう思うのだ。
弱き人間に手を差し伸べ追放された魔王様。
自らの行いの果てに兄を殺され嘆き悲しんだだろう魔王様。
あの方はどのような気持ちで、どのような決意と絶望をもって楽園を滅ぼしたのだろうか。
分からない。
分からないが――私だけは、どんな時でも魔王様の味方だ。
魔王様を肯定しつづける。
あの方に思いを馳せる私。
静かに生ハムをむしゃむしゃするニャンコを見て――金赤女帝さんはそっと動く。
「しかし呪いか……そうじゃのう。少し、心当たりがある。神の呪いの証拠かどうかは分からぬが――」
呟き言って。
金の封蝋が施されたワインを取り出し、盛大にパカり。
コルクの香りを周囲に放ちながら、コトコトコト。
注いだグラスを私の前にそっと差し出し――女帝はふふっと微笑んでみせる。
「見て欲しいモノがあるのじゃ。このワインは年代物でそれなりに値が張ってのう、代金を寄越せとは言わぬが――大魔帝殿、いかがか?」
にゃはははははは!
グルメを交渉に使うとは、なかなかいい判断である。
『ああ、いいよ。それになにか心当たりがあるのならこちらからも頼みたいぐらいだし――神の呪いを直接目にできればそこから色々と見えてくるからね。神の属性も、神の性質も……透けて見えるかもしれない』
言葉を受け。
自らの指をかけていたワイングラスをそっと置き。
女帝は私に背を向け――月に向かい、両手を広げる。
「では――少し見苦しいだろうが」
シュルシュル……。
金赤女帝は髪を掻き上げうなじを覗かせ――羽織ったばかりのガウンと薄着を下ろし。
その肌を露出した。
◇
そこにあったのは、王家の紋章。
私はそれを知っていた。
かつて目にしたことがあったのだ。
王家の男が腕にその紋章を刻んでいたと記憶しているが――金赤女帝が見せたいのは、おそらくそこではない。
その下にある。
明らかな異質。
禍々しく睨む肉の亀裂。
肉の隙間から魔力の塊がギラギラギラと、肌に喰い込み鎮座していたのだ。
そう、まるでこれは神の瞳。
人類を監視し、常に睨みつけているかのような呪いの波動が漂っている。
『なるほど――ああ、これは間違いなく神の呪いだ。禁忌に触れし世界への罰だろうね』
「そうか」
私は鑑定の魔術を発動し、肉の瞳をじっと見る。
私のモフ耳がぴょんと立つ。
遠見の魔術の波動を感じたのだ。
女神教徒の連中は神の瞳と言っていた。
関係ないとは思えない。
神は全てを見ている――という事は、様々な人間、様々な拠点に、この呪われし神の肉腫ともいえる瞳が発芽している可能性が高い。
あるいは、南の学園にも該当者が……。
『この瞳を通じて、何者かがキミの行動を監視していた可能性もあるね。思い当たることは?』
しばし考え、女帝は答える。
「ああ、ある。ありえない場所、ありえないタイミングでの女神教の襲撃が続いたことがあったからな。だから妾は魔力満ちる満月の夜が来ると、必ず、この瞳を切り裂き封印し――魔術の発動を妨げていたのだが。ふふ、そうか。万が一とやっていた月夜の儀式は無駄ではないどころか、正解だったわけだな」
瞳を切り裂くとは、まあ自分の背を裂くということだろう。
……。
あれー……この女帝さん。
めちゃくちゃ不幸じゃん。私、さっきすごい空気読めてなかったね。
肉球にべちょべちょと汗を感じながら。
私は慌てて猫口をうなんな!
『え? でも君、女帝さんなんでしょう? お金ならあるんだろうし、人を集める力もあるんだろうし――解呪を頼めばよかったんじゃ』
「かつて王宮で囲っていた知りうる限りの最高神官の話では、どれほどの力がある者でも解呪できないそうだ。貴殿から神の呪いと聞き、もしやと思ったのもこれ――誰にも解けない程の呪いと言われた事を思い出したのがきっかけじゃ。高い給料を払っていたのであるが、ふふ――奴め、これを見て慄き頭を下げ王宮を離れおった」
細い指で生ハムをつまみ。
薄い肉身を嚙み切って――女帝は夜を見ながら言葉を漏らす。
「もう十分生きたが。妾は長く生きられないのであろうな」
揺れるワイングラス。
赤い瞳に、紅いワイン。
その水面を眺める彼女の瞳には様々な想いが過っているのだと思う。力ある私の瞳には――ワインの表面に、彼女の人生が浮かんで見えたのだ。
王となった後の苦悩。
絶望と裏切り。
それでも生きるため、せめて見知った誰かが泥水を吸わぬようにと奮戦した女帝の歴史。
怯え震え泣く少女が、王たる器になるための道程が――波紋の中で漂っていたのだ。
力があり過ぎるっていうのも、考えものだね。
見えちゃったら……。
もう、仕方ないなあ……。
はぁ……とネコ肩を落とし。
うがぁあああああああああああああああぁぁぁぁっぁあ!
っと、内心でちょっと前の自分の発言を取り消したいと思いながらも――。
私は図々しく、ロイヤルベッドをぷにぷに踏んで。
感触を味わって、ニヒィ!
『ねえ、女帝さん? どうせ逝ってしまうのなら、このふかふかロイヤルな寝具を天蓋付きで譲ってくれないかい』
「それは構わぬが……」
『おお、そうかい。でも、そうだね。私もタダでこんなロイヤルふかふかを貰っちゃうと魔王様に怒られてしまう――ああ、そうだ。だったら君に何かお返しをしないといけないね』
言って私は――ザァアアアアアアァァァァァァ!
昏き獣の身を、人型の神父姿へと変貌させる。
月光に照らされた黒衣。
くっきりと浮かんだ笑窪と、紅き瞳がきっと女帝の瞳を奪っているだろう。
だって私、人間モードでもイケてるからね。
実際、大きく見開かれた赤色は揺らいでいた。
「これは……驚いた。陽気で生意気な黒猫だとばかり思っていたが、なかなかどうして美丈夫ではないか」
『魔王陛下の部下だからね当然さ。けれど――私は悪い猫だからね、惹かれたら駄目だよ』
冗談めいた言葉を漏らして。
私は神父としての顔で告げる。
『いいかい、これは対等な取引だ。別に、君に同情したからではない――そこの所は勘違いしないでおくれよ。楽にしていたまえ』
「なにをするつもりじゃ?」
答えの代わりに腕を伸ばし――悠然と手を翳し。
構え。
祈り、念じ。
異界の女教皇ラルヴァの書を顕現させ。
女帝の寝室。私はゆったりと唇を上下させる。
『我こそはケトス。大魔帝ケトス。いと慈悲深き御方、魔王陛下の代行者なり――!』
宣言に従い、呪われし悲しき大魔族ラルヴァの書がバササササササと開く。
呪いと呪い。
悲しみの心をリンクさせ――魔力を這わせ私はスゥっと腕を横に薙ぐ。
世界が揺れる。
十重の魔法陣が王宮の天を衝く。
『人よ、神よ――聞くがいい。我を畏れよ。我を信頼せよ。我こそが汝を助く者。我は汝に祝福を与えよう。汝の世界、汝の王宮――そしてその身蝕む邪気の魂魄。我を畏れる者に祝福を――小は大。大は小。汝の家を祝福せんと欲すれば、汝もまた祝福されし小なりや』
印を結んだ指を伸ばし、神の呪いを抉り掴むように握り。
ぐじゅぅううううううううぅぅっぅぅぅぅぅぅぅぅ!
私はギシリと口角をつり上げる。
『猫よ、憐れみたまえ――キャトス・エルレイソン!』
キィィィィイイイイイイイイィィィィン――!
祝詞が祝福となって発動する。
かなり本格的な聖なる言葉を用いた解呪の力である。
この私の力をもってしても、この呪いは強力だ。
『ああ、本当に神の呪いだね。人を愛し、憎悪する心が生意気にも私の中を攻撃してきている』
静かに微笑する私の口元が――揺らぐ。
歯の隙間に、ぶじゅっと血が滲む。
久々に感じるダメージの感覚に、ネコの私がぶにゃ! っとするも、神父の姿で憐れな少女に手を翳す――人間としての私は凛としたまま。
力を注ぎ続ける。
解呪を試みていると察したのだろう、女帝が叫びを上げる。
「やめよ! この呪いはどれほどに力ある者とて解く事の出来ぬ戒め! いくら異界の大魔族といえど、その身が崩れるぞ!」
『大丈夫さ。私も人を呪う憎悪の獣――人間への恨みなら、負ける気はしないよ』
キィン! キィン! キィン!
異界からの干渉だろう。
私の周囲に樹木が実り始める。
それは――世界樹の芽。
かつてラルヴァだった異界の主神が、私に力を貸しているのだろう。
今度お礼を言いに行かないと不味いね。
そんな微笑みを浮かべて――。
前髪を魔力の渦に靡かせ、紅い瞳を月夜に輝かせ――私は魔力孕んだ言葉を宣言する。
『退け、邪よ――』
言霊が神の呪いを掴み、握り潰す。
ぐじゅぅ!
聖なる輝きと祈りをもって行う普通の解呪とは違い、闇と邪の力も並行して用いた解呪だが。
別に魔術なんて、ねえ?
発動して効果を発揮すればなんだっていいのである。
散っていく神の呪い。
叫びと共に消えていく神の瞳を眺めながら、私はロイヤルベッドをぽふぽふ手で叩き。
告げる。
『これで君のベッドは私のモノだ。いいよね、これを解いてやったんだから。うん、悪くない取引だろう?』
「まさか……本当に、解いてしまった……というのか?」
かつて少女だった王は言った。
自らの背に手を伸ばし。
女帝は呆然と息を吐く。
その瞳は揺れている。心もきっと揺れているのだろう。
「そなた、本当に何者なのじゃ。いや、大魔帝であるとは知っている。なれど――このような奇跡、主神クラスでもなければできぬであろう……っ」
私の瞳には、泣きわめく少女の顔が見えていた。
むろん。
それは彼女の過去。今の王たる女帝ではない。
もはや彼女すらも忘れてしまった弱き乙女であったのだろうが、それでも――助けを求め天に伸ばした腕を、私は見てしまった。
過去の嘆きを知ってしまった。
私には――振り払えなかった。
ただ、それだけのこと。
……。
まあ!
すんごいこと、したんですけどね!
『私は憎悪の魔性。呪いは得意分野だからね。餅は餅屋……って言っても、分からないか。元より善神であった者の呪いなんて、私に掛かれば朝食のパンに乗せる薄切りチーズよりも軽くてペラペラだった。ただそれだけの話だよ』
どさりと、椅子に座り――手をピラピラさせながら言ってやる。
魔力を消耗し過ぎたのだ。
これも禁呪の領域。
おそらく、滅びの定めを打ち破る一手となる筈。
『いやあ! さすが、私! すごい! くはははははは! なーんていつもならドヤっとしちゃうんだけど――今回はさすがにしんどかったからね、そうはいかないみたいだ。悪いね、格好悪い姿を晒しちゃって。すぐに回復する。待っていておくれ』
「ああ、いつまでも待つ。待つに決まっておろう、そなたは妾の――っ」
揺れる女帝がキレイになった肌を月夜に晒しながら、私の手を握る。
「妾はなんと礼を言ったらよいのだろう。ああ、感謝しておる。感謝しておるのだ。なれど、おかしいな。ああ、おかしいのじゃ。あまりにも唐突で――言葉が浮かばぬ」
『その手の震えで十分だよ――お礼はグルメとこのベッドでいいから安心しておくれ。後から魂を寄越せ! なんて古い悪魔みたいな不正な交渉はしないよ。あ、でも。今すぐにできるのなら、メロンをいっぱい食べたいかな。用意できるかな?』
女帝は、苦笑し強く私の手を握った。
「妾の魂でも身でも心でも――なんなりと所望しても構わぬが、ふふ、そなたはそういうタイプではなさそうじゃな。待っておれ、今部下に届けさせよう」
ここ、ちょっと小粋なやりとりである!
これが大人の物語なら、メロンみたいな胸を――なーんて、阿呆な事になるんだろうけど。
私、ネコだからね。
◇
届けられたメロンをナイフで切り分け、フォークをぶしゅ!
人間モードで私は彼女の背に残る傷を治療しながら、もぐもぐもぐ。
「そなた、回復の奇跡まで行使できるのか。万能というか――なんというか。よほど優れた師がおったのじゃろうな」
『まあね、最高の師だよ。まあ、今は眠っているんだけど――早く起きてくれることを祈っている。ああ、そうだ。そのためにグルメが必要なんだ、もし世界が平和になったら協力してくれると助かるよ』
「なぜグルメなのかは理解できぬが、まあよい。無論協力させて貰う」
そろそろ動けるぐらいには体調も戻ってきたし。
なぜ魔物が学園に向かっているのか、その理由を聞こうとしたのだが。
ざざざ。
空間に違和感を覚え、私は眉をふっと顰める。
『さすがに大規模な魔法陣を展開し過ぎたか。何者かに気付かれたみたいだね』
「案ずるな。王宮の魔術師たちであろう。ふふ――恩人を無下にするほど妾も恥知らずではない。ここにいて良いモノだと説明する。ただまあ……さすがに殿方と寝室で二人、というのはあらぬ噂が立つやも知れんがな。そこは許せよ」
微笑する女帝。
私も微笑むべきなのだろうが、シリアスを維持したままに魔導書を顕現させる。
『君、護衛に暗殺者なんて使ってはいないよね?』
「ん? 女帝という立場上、たしかに暗殺に頼らないとならぬ時もあるが……さすがに護衛にはつかっておらぬし、そのような人員は王宮には置いておらんぞ。暗殺部隊には顔が割れると動きにくいからと言われておるしな」
ならば。
冷笑を浮かべた私は――浮かべるラルヴァの魔導書から聖者ケトスの書に切り替えて。
周囲を聖なる結界で覆う。
『どうやら私以外にもお客さんがきたようだね』
「なに……っ」
金赤女帝さんが、問いかけの形で口を開いた。
その時。
バン――!
寝室の扉が、開かれ――それは突然やってきた。
月明かりと聖なる結界の光で照らされ浮かぶのは、男の影。
敵、かな。
抜き身の刃をチラつかせる賊は、影渡りの術を操り顕現したのだろう。
扉の影から、ズズズとその身を出現させた。
「へえ! これはこれは! 神の瞳の消失が確認されたから飛んできてみりゃあ! まさかあの男日照りの金赤女帝さまが、そんな優男を寝所に連れ込んでいるとはな! ぶひゃっはっははっはは! まじかよ、とんだスキャンダルじゃねえか!」
サメの牙に似た歯が特徴的な、三日月刀をもつ三白眼の神父姿なのだが。
……。
はて。
この男。
つい最近、どこかでみたような。




