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メガネで巨乳で先生で ~吾輩の辞書に不可能はにゃい~その2



 大魔帝ケトスこと異邦人な私。

 最強ネコちゃんの目覚めはコタツの中で始まる。


 私の召喚主で、聖女で先生で聖職者で巨乳で眼鏡で不死能力者のシュー=マイル女史には、一緒のお布団で寝てもいいのよ?

 と、純粋な御誘いを受けたのだが、紳士な私はさすがに断った。


 こうして召喚された神殿を無断で占領。

 ネコちゃんキャンプ地として棲み着くことにしたのである。


 あれから一日が経っている、現在は早朝。


 握手を交わしたあの後。

 実は一度元の世界に戻った私は、向こうでの用事を済ませて即帰還してきていた。


 占領した神殿に戻ってきたのは八時間前。

 ネコの仕事として本来ならグッスリと睡眠をとらないといけないのだが――あまり睡眠を取れておらずちょっとお眠なのである。

 だが……まあ。

 せっかく巨乳メガネ先生マイルさんが案内をしてくれるというので、くわぁぁぁぁっと目を覚ます。


 コタツからウニュっとモフ耳を出す私、かわいいね?


 どうして一度帰還したのかは単純。

 超本気を出し、どーしても目を通さないといけない書類をチェックし、許可印を押しにいっていたのである。


 ――なんで、こんなにポンポン一つの間違いもなく神速の仕事ができるなら、とっととやってくれなかったんすか!

 と、ガミガミガミ。

 炎帝ジャハル君に怒られたりもしたのだが、まあこういうのは夏休みの宿題みたいなもんだよね。

 いざやらないともう後がないとなったら、全力を出してしまうのである。


 朝の身だしなみを整えるべく、こたつから出した猫腕をしぺしぺしぺ。

 ザラザラな舌で舐めて、お顔をキュッキュ♪

 ふっ――完璧な毛繕いである!


 お前は綺麗好きだなあ、と微笑んでくれる魔王様がいないので少しだけ寂しいが。

 ともあれ!

 私はコタツから出ようとして!

 ……。

 寒いので、すぐにコタツにもぞもぞっと戻ってしまう。


 そんな、朝の風景はのんびりとしていて。

 たまにはこういうのもいいよね、と私はコタツの中で丸くなる。


 ウトウトとし始めていたのだが、ふと、私のモフ耳を揺らす声がどこからともなく聞こえてくる。


「大魔帝ケトスちゃーん! 起きていたらお返事をしてくださいませんかー! 朝ごはんに今朝獲れたばかりのトマトと、暴君豚鳥で煮込みロールキャベツを作ったのですけれどー! 一緒に食べませんかー!」


 へぇ、こっちの世界にもやっぱりロールキャベツがあるのか……とむにゃむにゃむにゃ。


 聞きなれない暴君豚鳥というのは……コタツの中で私は異世界魔導書を取り出し、チェック!

 ああ、なんだ。

 この世界に棲む、ただの伝説の魔物。

 豚と鳥の特徴を併せ持つ、危険度Sの討伐対象モンスターのようである。


「とっても美味しくできたのー! わたくしー! 誰かと一緒に朝ご飯を食べたいのー! とりあえずわたくしですら破れない結界を解いてくれないかしら―!」


 言って、彼女はお鍋を顕現。

 パカッとお鍋の蓋の開く音がして、美味しいブイヨンスープの香りと湯気が私の鼻腔を擽る。

 むろん。

 モフ耳をぶわっと膨らませた私は、ガバっとコタツから抜け出し、


『くはははははは! 我の贄にふさわしき香りである! 今行く! すぐ行く! 転移とんでいく!』


 ロールキャベツな聖女様を迎えるべく、駆けだした♪


 ◇


 私専用コタツで二人、美味しいロールキャベツを味わった後。

 身だしなみを整え直した私は、出勤する聖女マイルさんの横を肉球あんよでトテトテトテ。

 学食見学!

 のついでに、魔導学園だか学校だかの見学をしに、施設内へと肉球を踏み入れていた。


 本当は、マイルさんが可愛いネコちゃんを抱っこしながら歩きたいと、スマートでモフモフな私を抱いて歩いていたのだが。

 彼女は聖女……。

 どうやら箸より重いものを持てなかったのか、すぐに休憩してしまうのでふつうに横を歩くことにしたのである。

 まあ聖女だもんね、仕方ないよね。


 マイルさんがくるりと髪を靡かせ回りながら、乙女の笑みを浮かべ。

 広いキャンパスに手を翳す。


「はーい、ここがわたくしが通う職場でございまーす! うふふふふ、なーんて、ちょっと観光ガイドさんみたいに見えました? ここに通う者も、ここに通う者を見る方々も皆――ここを聖地と呼んでおりますの。なんでもかつてここに顕現した……っと、ああ! いけない!」


 よそ見をしていたからだろう。

 彼女の顔から零れた大きなメガネが、大きな胸の上に乗って――ボヨン。

 胸にバウンドしたメガネが逃げるように跳ねる。


「お止まりなさい――」


 慌てて白く細い指を伸ばしたマイルさんが魔力を放ち――眼鏡を空中で空間固定。

 次元の操作というそれなりに高度な術で、メガネを拾い上げる。


 術を使う時だけは、無機質な女神のような微笑を浮かべるのだが――それが終わるといつもの、のほほん顔に戻っていて。

 マイルさんが失敗を誤魔化すように言う。


「今のは、そう! ここの教師であるわたくしの力を自慢したかったのです!」

『……まあ、凄かったけどね。で? 本当のところは?』


 ジト目で問われて目線を逸らし、汗をタラタラ。


「そ、それよりも! どうですか? この学び舎の印象は! 由緒と伝統のある魔術学校らしいのですが――外の方から見るとどう映るのか、少し興味がありますの」

『ふむ――大事な施設(がくせいしょくどう)をチェックできていないからまだ何とも言えないが……』


 周囲を見渡し、鑑定の魔術でじぃぃぃぃぃぃい!


 いかにも魔導学園といった施設。

 どことなく、巨大な図書館を彷彿とさせる作りでもあるが――。

 戦闘訓練も行っているという事は、この世界でも戦争や、他種族との戦いは日常的に起こっているとみるべきか。


 実際、聖女マイルさんも今朝は暴君豚鳥を狩っていたみたいだしね。


 気を付けないといけないのは、別にこの国? だか大陸だかに肩入れをしない方がいいという事か。私はあくまでもマイルさんに召喚されたからここにいるが、この学園が世界にとっては悪であったり、民間人や無辜なる人々に危害を加える組織という可能性は十分にある。

 彼女を軟禁しているのも確かなのだ。


 その辺の心を覆い隠しながら、私はのほほんと言う。


『そういえば君は何を教えているんだい? たしか教師だとか言ってたよね』

「色々と教えておりますのよ。魔術に、錬金術に、召喚術に戦闘実技。恋占いなんてものまでなーんでも、わたくし、こう見えて多才なんです」


 くすりと微笑む彼女は、けっこう楽しそうである。


『はは、さすがに恋占いは私も専門外だね』

「あら、勿体ないですわね。ケトスちゃんが獣人さんでしたら、わたくしも恋人候補に立候補しようと思っておりましたのに」


 冗談だと分かっているが、ムフフーっと私はドヤ。


『それは光栄だね。まあ! もし私が獣人や人型なら、きっとそんな冗談も言えない程に見惚れてしまうのだろうけれど、ね!』


 軽い冗談で微笑みながら、聖女とニャンコはとてとてとて。


 右に行って―。

 左に行って―。

 戻ってきてー、進んで―。戻ってきてー。

 ……。


 とてとて歩きながら私は聖女マイルさんの顔をちらり。

 乙女の頬にそっと浮かぶのは、冷や汗。


「今日は王都から派遣されてくる新入生がくるんです。だから時間までに学長にご挨拶をしたかったのですが――」


 ジト目で私は彼女に言う。


『もしかして、道に迷ったのかい?』

「ち、違うのですよ! わたくしちょっと方向音痴なだけでして、あれ、あれれー! どうしましょう!」


 この人、ほんとうにダメダメだな。

 まあその分、魔力や力は本物の聖女のようだが――聖女っていうカテゴリーに属する女性ってなんか変な人、多いよね。

 いままで出逢ってきた聖女さんも、たいてい、なんかとんでもない性格だったりしたし。


 おそらくは人並外れた力持つゆえに、少し浮世離れしてしまうのだろうが。


 さて、じゃあ魔導地図を顕現させて逆に道案内をしようと思った。

 その時だった。


 ドヤる寸前の私と道に迷い、はわわわわ状態のマイルさんの前に一つの魔法陣が出現する。

 一定の領土内を自由に行き来する、転移魔法陣のようだが。


 魔力炎を放つ炎の魔法陣から浮かび上がってくるのは、赤い髪を後ろに結い上げた妙齢の女性。

 いかにも厳しいオバちゃん教師です!

 と言った感じのマダムである。


 鑑定してみると……通称はマダム・サンディ。

 教師たちを束ねる、教師長の立場にいる中間管理職のようである。

 魔力は――まあ人間としてはそれなりにあるのだろう。

 あくまでも並の人間としては、だが。


 マダムはすぐにマイルさんが迷っていると理解したのだろう、はぁ……と肩を落とし。

 またですか、とぼやいてキリリ!


「お待ちなさい、マイル先生! あなたは毎回毎回毎回毎回! いつになったら道を覚えてくれるのか! ワタクシ、さすがに開いた口が塞がらないのですが? っと、すみません……破天荒なあなたには言いたいことが山ほどにありますが、今はまあ良いでしょう。午後には王都からの新入生たちの鑑定がありますので、準備をしておいてください」


 お説教をされているのに、笑顔のままで聖女教師マイルさんはニッコリ。


「あらおはようございますサンディ先生。先日はおいしいブリ照りの作り方を教えていただき、ありがとうございました。わたくし、あの後ちゃんと作ってみたんですよ」

「そうですか。まあ、別に教えて欲しいからと頼まれたので、教えて差し上げただけであって? 別に、この聖首都で浮いた存在であるあなたを気にかけたお節介ではなく? あくまでも、同僚としての義務を果たしたまででございますので――気になさらないでください」


 このマダム教師。

 ツンデレさんか……、いまこうして転移魔法陣でここに顕現したのも迷っていたのを察知したから、飛んできたのだろう。

 ぷふふー! わかりやっす!


「おや。それで――そちらの猫魔獣は? ミス・マイル。あなたの新しい使い魔ですか?」

「んー、どうなんでしょう。わたくしにもちょっと分からないんですよね。ブリ照りで異世界召喚をしたら招かれてきてくれたので、使い魔さんというよりは、お友達? と、いった方がよろしいような気もするのですが、どうなのでしょうか?」


 マダムサンディは額に手を当て。


「知りませんよ……。どうして鰤の照り焼きで異世界召喚などという発想になったのかもわかりませんし、実際呼べているのも理解できませんが、まあいいでしょう。学内にて魔獣を連れ歩くのでしたら登録はお済ませなのでしょうね?」

「済ませてませんよ?」


 聖女マイルさんはきょとんと首を横に倒す。

 マダム教師はがくんと肩を落とす。


 なーんか、けっこうこの聖女様――私の想像以上に破天荒な人物なのかもしれない。

 大物ともいうが。


 ぶにゃははははは! このマダム教師。

 普段から絶対に、マイルさんの天然に振り回されてるタイプだな。


「よろしいですか、ミス・マイル。三十分以内にその人の顔を見てぶにゃははははと嗤っている猫魔獣を登録なさい。ワタクシが学外に追い払う前に、です」

「分かりましたわ。ふふふふ、いつもごめんなさいね。わたくし、世俗の風習に疎いので……あなたがいないとちゃんと教師生活を送れていたか、怪しい所ですわね」


 瞳と心で遠くを見ながら、けれども心よりの感謝を述べる聖女マイル。

 一見すると、同僚に向ける美しい感謝の言葉なのだが。

 マダムサンディは……はぁ……とあからさまに肩を落としたまま。


「いえ、今現在もまったく、これっぽっちもちゃんと教師生活を送れていないでしょうが……あなた……。感謝されるのは嬉しいのですが、本当に、もう少し、なんとかなりませんか?」

「なにがですか? え、あれれ? わたくし、また何か失敗してしまいましたか?」


 駄目だこりゃ。

 聖女を睨むジト目は二つ。

 私とマダムサンディさん。


 つい、マダム教師の方に同情をしてしまうのである。


「もう、いいですから。早くお行きなさい。ワタクシ、少々頭痛がして参りました……」

「まあ! ごめんなさい! そういう日だとは気付かないで、わたくし……デリカシーに欠けておりましたわ。すぐに退散いたしますね」


 う、うわぁ……。

 ピクピクっと怒りマークを浮かべるマダム・サンディに、ぺこりと聖女の笑みを送り。

 トテトテトテ。


「じゃあ参りましょうね、大魔帝ケトスちゃん。まずは登録しないといけないらしいので、面倒ですけど、行きましょう!」

「大魔帝ケトス? その名……どこかの魔導書で目にした覚えがあるような……」


 去り行く我等の背に向かい。

 マダムサンディは、後ろに巻いた髪を指で直しながら呟いて――私をじぃぃぃぃぃぃ。


「あら、ケトスちゃんをご存じなのですか?」

「いえ、気のせいでしょう。似た名の大魔族の伝承をかつて……碑文図書館の石碑で見た覚えがあったものですから。けれど、実在するかどうかも分からぬ異界の破壊神の名です。神ですらも制御できぬ混沌の象徴とも……。まあ……もし実在するとしても、何の繋がりもないこの世界に顕現するとは思えないですしね、失礼」


 毅然とした会釈を残しマダムは去っていく。

 なんの繋がりもなかった筈なのに、どっかの聖女と猫魔獣のせいで――もはや簡単に行き来できるほどに繋がっちゃっているとは知らずに……。


 聖女マイルは今度は魔力で強化した腕で私をヨイショと抱っこして、んーと考えながら言葉を零す。


「ケトスちゃんって、もしかして有名人なのかしら」

『さあ、どうだろうね。私の世界でなら確かに有名になってきているし、童話や昔話の登場人物として認識されているけれど――さすがに異世界にまで私の名が広まっているとは思えない。おそらく、あのマダムの知識が凄いだけさ』


 しかし。

 今の反応で確信した。


 この世界にはやはり、私と魔王様の世界とのつながりがあるのだろう――と。

 少なくとも私の情報を記した碑文――石碑を通じ知識を残す魔導書の類が存在するのは確実である。


 そんな私の薄らとしたシリアスに構わず、むぎゅっとモフモフにゃんこを腕に抱き。

 聖女は花の笑みを浮かべて言う。


「さて、じゃあケトスちゃんの登録を済ませちゃいましょうね~」

『魔獣とか使い魔の登録ってどういう手順を踏むんだい』


「えーと――たしか……」


 説明する彼女の言葉に、だんだんと私のモフ毛が膨らんでいく。

 彼女曰く。

 それは魔力や性質を鑑定――ランク付けし、使い魔証を発行するというモノ。


 つ、つまり!

 これは! ド、ドドドド、ドヤイベントではないだろうか!


 ……。

 まあ、毎回なんか失敗してるんですけどね。


 どうせ今回もギャグで終わってしまうのは目に見えている。

 本当なら――。


 な、なんだこの魔力数値は!

 信じられない! 学園始まって以来の天才猫魔獣だ!

 素敵! 優等ニャンコとして学食のメニューを好きなだけ食べてもいいのよ!

 てな、イベントをやりたいのだが――ま、無理だよね。


 ともあれ私達は、私を登録するべく登録受付に向かったのであった!


 ◇


 ちなみに。

 余談であるが、マイルさんは当然道に迷い。

 既に魔導地図でチェックしていた私が案内したとだけは、記しておこうと思う。


 ほんと、この聖女様。

 魔力と力と料理の腕以外は、ダメダメなようである……。



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