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移動要塞ゴエティア編 ~潜入、死と破壊の神その3~



 幼女シャーマン、コプティヌスくんを引き連れて――大魔帝ケトスは今日も行く!

 現在、どこどこバコーンな快進撃。

 重圧魔術で鈍くなっている蟲人ローカスター達を殲滅中!


 この枯れ木みたいな蟲人達。

 その正体が実は――魔力飛蝗と人間の外道たちが遺伝子レベルで混ざり合い、進化した、なーんて、ダブルぶっ飛ばしてもいい存在の組み合わせなので――。

 狭い廊下を走りながら、私は瞳を紅く輝かせる。


『血に染まれ――!』


 宣言した、それだけで魔術が発動。


 指先も見えぬ暗闇の中。

 地に這い、ギギギギと唸るローカスター達の細い身体が風船のように膨らんでいき――。


「ギギギ?」

「ギ……ッ――!?」

「……」


 ブシュゥゥゥッゥゥッゥゥゥ……ッ――!


 暗闇の中で輝くのは鮮血の閃光。


 細きその身が破裂し、弾け飛び。

 木っ端みじん!

 大魔帝の呪殺によって、完全消滅である!


『その憎悪――、その恨み。我が喰らいて力としよう……くくく、くははははは―――! くわーっはっははは!』


 倒した蟲人の断末魔と憎悪を喰らい――テレテレテッテテーン♪

 レベルアップ!

 私、憎悪の魔性で猫魔獣だからね。


 憎悪の感情を喰らう力。

 そして。

 俗にいう次のレベルまでに必要な経験値。

 レベルアップに必要な力の吸収が低級猫魔獣仕様なため、大量な憎悪の経験値が入ると――もうそこそこ強いのに、いまだに成長できるんだよね。


 これもまた、私の強さの秘密だったりするのだ。


 普段は相手に遠慮して。

 転生できなくなるという事もあり。

 故あって殺した相手でも――憎悪する魂(経験値のエサ)を喰らう事は避けているのだが。

 目の前の連中は、ほんっとうにどうしようもない奴ら。


 うん。

 今回に限っては遠慮する必要などなし!

 だって彼らは、女子供を殺し……無辜なる民間人を虐げていたのだから。

 つまり!

 我、わるくないもん!


 レベリングじゃあぁぁぁぁああ!


『滅びよ! 滅んで我の力となるがいい!』


 影から伸びる呪殺の魔術が、虫さんの身体をニャッハニャッハと引き裂き、砕く!

 発動した魔術効果をちゃんと確認しながら。

 私は、唇を優雅に動かしドヤ!


『ふーむ、人間が混じっているっていうのは本当のようだね。人属性専用の範囲呪殺魔術がちゃんと発動する』

「おー! なんか防ぐ手段がまったくない外道な術ばかりみたいじゃが、さすがじゃのう! これが本物の大魔族なのじゃな! 妾も負けてはおれんのじゃ!」


 隣でわっきゃわっきゃと喜びながら――コプティヌスは目を輝かせて、魔術を発動。


黒き花弁の殺戮衝(ブラックローデス)――!」


 ちっちゃなプクプク手のひら。

 まだ幼い肌の上に顕現させた黒薔薇の花びらを――……ふぅ~っ。

 風に乗せ、敵に向かい飛ばしてみせる。


 その花弁、一枚一枚には死の呪いが付与されていて――。

 触れたらアウトなのだろう。


 案の定、重圧に潰されながらもギギギとこちらを狙い跳ねてくる飛蝗に直撃すると。

 ズゥゥゥゥゥン……シュィィィイイイン――ッ!

 途端に花弁から浮かび上がってきた黒衣の死神が、蟲さんの首を刎ね――分断された首を担いで闇へと消えていく。


 ……。

 なんか、死の属性のシャーマニズムだな、これ。


 ちなみに。

 シャーマニズムとはシャーマン系統の職業が扱う奇跡のようなもの。


 僧侶や神官が仕える神――すなわち大いなる光の加護を受けて奇跡を発動させるのと同じ。

 呪術精霊魔術師――。

 すなわち邪神に仕える巫女にも分類される彼女は、永遠なる死の皇子と呼ばれる死の神の力を借りて、攻撃的な奇跡を行使できるのだろう。


 ふふーん、ドヤァァァァァ!

 幼女、渾身のにんまりでこちらをニヤり。


「どうじゃ! 見たか! 妾の禁術を!」

『いや、確かに人間の器としては最上位みたいだけど。その年で禁術を使うってのは――どうなんだろうね』


 うーん……。

 いつぞやのヤキトリ姫もそうだったが。

 それなり以上の実力を持つ人間の女の子って、妙に性格がぶっ飛んでる子が多いよね……。


 例に漏れず、彼女もやはりぶっとんでいるようで。


 手足をバタバタさせて敵に突っ込み、魔術効果を発動。

 幼女は今までの鬱憤を晴らすかの如く――目を尖らせて唸りを上げる。


「いままで散々我慢しておったのじゃ! 外道であっても人間であったからと、我慢我慢我慢――命までは取るまいと耐えてやっていたが、その道を外れたのなら問答無用! これ幸い! 一朝一夕、色即是空。大魔帝という最強の後ろ盾を得た今、妾は止まらぬ! 止まれもせず! 遠慮せずにぶっ潰してやるのじゃあああああぁぁぁぁ!」


 よく分からん四文字熟語を呟いて、幼女は走る!


 風と時を操る魔術で、短い手足を加速させ。

 ダダダダダ――と猛ダッシュ!


 蟲人ローカスターを発見すると、ニヒィと口角をつり上げ。

 幼き手を翳す。

 六重の魔法陣が瞬時に展開――!


「偉大なる貴公子よ――妾が願いに耳を傾けたまえ!」


 呼びかけによる詠唱で、引き出した魔力を舞踏による祈りで倍増させ。

 パンパン!

 黒い花弁を連想させる衣装を魔力波動で揺らし――キリ!


「人を捨てた哀れな者どもよ。蟲を捨てた愚かな飛蝗よ。汝らの罪。この妾、コプティヌスが名のもと、死の救済で拭ってやろうではないか!」


 倍増された魔術が、彼女の足元から広がり蟲に向かって放たれる。


「秘術! 血塗れ淑女(カクテルドレス)死の舞踏(メメント・モリ)


 幼女、颯爽としたかっこういい魔術発動である。


 魔術名を解き放ち、世界の理を書き換えた――。

 その次の瞬間。

 重圧で行動遅延状態になっているローカスター達の身体が、ミシシ!


 蠢く群れとなる数十匹の周りを、魔力の血による結界が覆う。

 結界は広がり――現実を巻き込み、世界の物理法則までも書き換えていく。


 蟲人達の周囲が、血の紅で染まり上がった頃。


「汝らの卑しき魂は、もはや妾の手のひらの上。全てが終わりじゃ……――さあ、死の舞踏を舞うが良いぞ」


 終わりを告げるように、彼女は囁きかける。


 妖艶な魔術波動の灯りの中。

 浮かび上がる巫女の顔にあるのは、一流の魔術師のみが持つ冷淡な貌。

 幼女と言えど、戦士なのだろう。


 祭司長コプティヌスは艶っぽいダークな微笑を浮かべ、指を鳴らし……!

 ぷにゅん……っ!


「あれ? おかしいのう……」


 じぃぃぃっぃいいっと指先を見て――。

 もう一回、ぷにゅん。


 あー、指の鳴らし方……分からないんだ……。


『な、鳴らし方……教えようか?』

「べ、べつに指が鳴らないからと言って! 妾がチンチクリンなわけではないのだからな! 勘違いはするでないぞ!」


 顔を真っ赤にしながらも。

 幼女は後ろに隠した指で、ぷにゅんぷにゅん、ぷにゅぷにゅん。

 ……。

 ぷくーっと口の中に空気を溜めて更に、ぐぬぬぬぬ! ゆ……指を鳴らそうとしても音がでないので、ペチンっと自分で呟いて――。


「ええーい! どうせ指鳴らしはただの演出なのじゃ! いいから、とっとと発動せい!」


 魔術効果を本格的に発動――!

 あれ、何の意味もない演出だったのか……。


 なんか、ちょっと変な親近感が湧いてしまうのである。


 ともあれ。

 血の海から浮かび上がってきたのは――鮮血のように紅いカクテルドレスと髑髏の仮面を身に着けた貴婦人たち。

 レディ達が優雅な仕草で顕現し始める。


『おや――初めて見るタイプの魔術だね、召喚系統の邪術かな。個性的な美人さん達だけど、強いのかい?』

「なはははは……っ、まあ、見ているが良い!」


 まるで仮面舞踏会のような景色が広がっているが、その舞台は血の池地獄。

 案の定。

 髑髏マスクな貴婦人たちは、それぞれに蟲人の前で淑女のお辞儀をして見せる――と。


 甘き抱擁を与えるように抱き寄せて――ぎしり。


『ぁぁぁぁぁぁぁああああああぁあっぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁ』


 形容しがたき死の悲鳴を上げ、その身を溶かして敵を包み。

 血の海へと共に沈んで消えていく。


 後には血の池だけが残されて、やがて死の舞台も魔力の喪失と共に消滅していく。


「妾、完全勝利である――!」

『即死魔術……だね、これ』


 ゲームだと、ラストダンジョンとかの中ボスが使ってきそうな大規模儀式魔術である。

 けっこうえげつない……。


 これも、永遠なるなんちゃらさんの力を借りた魔術だろう。

 間違いなく。

 奈落とか地獄とか冥府とか、そういった側面を司る神だ。


『死の属性の神――か。魔術となって力が発動するということは、空想の神ではなく実在する存在だということだが……魔王様と敵対する存在だったら嫌だなあ』

「なははははは! 案ずるな! あの方が魔王殿と敵対することなどありえぬ!」


 カツカツカツ! ずささささささ!

 全滅させたローカスター達の屍を越えて、私達は進む、進む――進む!


『おや、随分と言い切っているね。君はその永遠なるなんちゃらって神様がどんな存在なのか知っているのかい?』

「当然じゃ! 妾は祭司長にして巫女であるぞ!」

『でも、会ったことはないんだろう?』


 ちょっとした皮肉が出てしまうのは、たぶん。

 ちんちくりんで無辜なる幼女……。

 と、言ったら怒られるか――彼女が話しやすいタイプだからだろう。


「う……っ、それはまあそうなのじゃが――」

『ねえねえ、その神様が記された魔導書とか持っていないのかい? ちょっと興味があるんだけど』


 死という概念そのものを操る力は、純粋で強力なのだ。

 おそらく、私が扱えば強力な魔術となって発動するだろうし――なにより、自分の知らない神による魔術系統は大変興味深い。


「そうじゃのう、分かった。では、成功報酬などというセコイことは言わぬ。妾があの方の逸話を綴った聖典を写本したグリモワールじゃ、持っていくが良い」

『えーと……どれどれ』


 きょうもむねが育たなかった……。

 しんちょうものびていない。とてもかなしいけど、負けないのじゃ。


『これ、だれかの日記帳みたいなんだけど……』

「うなななななな! そ、それではない! まちがえた! うわあぁぁぁぁぁぁん、読むでない! か、返せ! 返すのじゃ!」


 べしっと私の手から日記を取り返し、慌てて彼女は魔術を詠唱。

 無い胸のぺったんこに亜空間を生み出し。

 日記帳を投げ込んで、細い腕を伸ばす――。


 グチャグチャなおもちゃ箱をがちゃがちゃする勢いで――がさがさごそごそ。


「えーと、ここじゃったかなあ。いや、こっちか。あれ、ないのう……たしかにしまっておいたはずなのじゃが……これは暗殺用呪術ノートじゃし……、こっちは炎の大精霊様の逸話を記した魔導書じゃし。あれー……お! あった、あったぞ!」


 と、アイテム収納空間から彼女が取り出したのは、見るからに禍々しい呪いが刻まれた一冊の魔導書。

 さすがは死を司る神の書といった所である。


「受け取るがいい! そして、そなたも我が神を崇拝するとよかろう!」

『それじゃあ遠慮なく』


 魔導書というのは基本的に高価なので、本当ならもっとありがたがるべきなのだろうが。


 堂々と受け取ってしまうのである!

 だって、私。大魔帝ケトスだし。

 偉いからね!


 敵を自動殺戮モードで殲滅しながら、さっそく魔導書を拝見。

 触れる指先が、ビリリと痺れる。

 それほどに強力な魔導書という事だ。


『ふむ――古き神々の生き残り、なのかな。いや……奈落の王ということは、死した存在か。へー、想像していた以上に興味深いね。本物の古代神、ヤンチャだった時期の魔王様と同じ時代に活躍した太古の神じゃないか』


 仲間や同族たちからの裏切りに遭い、翼を折られ――堕天。

 死の世界へと落とされ、それでも諦めずに復讐に牙を尖らせ。

 様々な冒険や苦悩を経て、再臨――力強き死の神として冥府の世界を支配し君臨した、なかなかに面倒な出自な神のようだ。


 こんな存在の魔術を使ったら、きっとすごい魔術が発動するだろう。

 ……ちょっと、この辺で試してみたくも……。


 ニャハ――ッ!


 あー、いかんいかん。

 魔術的好奇心がムクムクしてきたせいで、猫耳としっぽが生えかかっている。


 大変に興味深い魔術書なので、ちょっと夢中になってしまったせいもある。

 本当に、私の知らない知識まで記されているからでもある。


 ま……まあ。

 ところどころに途中で昼寝をしただろう幼女のヨダレの汚れとか、食い散らかしたお菓子のカスが挟まれているのだが――写本といえど、魔導書としての機能はちゃんと持っているようだから。

 別にいいか。


 しばし、私は読書に集中するべく幼女巫女に声を掛ける。


『ちょっと魔力を供給し続けるから、敵を頼めるかい? もしピンチになったら、すぐに助けるから』

「おー、任されよ! まあ、妾がピンチになることなど、ないだろうがな!」


 大魔帝である私に任されたのが、魔術師として嬉しかったのか。


 ニヒィっと満面の笑みを浮かべて、幼女は胸を張る。

 その力は黒き衣装の中で膨らんでいく。

 私の魔力供給で灯っていく紅き瞳を輝かせ、膨大な魔力を放ち始める。


「妾のうっぷん、ここで晴らしてくれようぞ! 殲滅じゃぁぁぁあぁ!」


 ぺろりと唇を舐めて叫んだコプティヌスは――魔術を放つべく。

 小さな腕と手をビシっと伸ばした。


 幼女による無双が、いま――はじまった!




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― 新着の感想 ―
[良い点] お!幼女無双ですね。 何か綺麗な感じで良いですねo(^o^)o [気になる点] 死の皇子ってモチーフは堕天使ルシファー様かな? [一言] …。たぶん違うとは思いますが、死の皇子ってレイヴ…
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