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大規模戦闘 ~にゃんこ無双とダンジョン領域~

 時間がない。

 それは確かだから私は遠慮せずに大魔帝たるその力を奮った。

 並みいる敵をにゃっはにゃっはと無双したのである。


『にゃっはーーー!』


 死せる猛毒巨人ポイズンジャイアントゾンビの頭を魔性の霧で別次元へ飛ばし。

 エンシェントドラゴンゾンビの首を爪で撥ね。

 意思なき死霊騎士団(ワイルドハントナイツ)の群れを虚無空間へと返還する。


「クソ……っ、これではキリがないぞ!」

「ギルマス! ケトス様が大物を蹴散らしている間に、わたしとあなたでとりあえず時間を稼ぎましょう!」


 魔女やギルドマスターも負けじと手のひらに浮かべた魔力球を操り、不死たる悪鬼王ジェネラルオーガゾンビを一掃している。

 鑑定役の受付娘も魔術で編んだ懐中時計を顕現させ、敵の動きの俊敏さを著しく低下させる妨害魔術を展開している。

 時属性の魔術とは珍しい。

 暗黒三兄弟も見事な連携で、大群相手にうまく立ち回っている。


 だが。

 特に突出しているのはやはりダークエルフのギルマスか。

 常に魔力球で敵を攻撃、牽制しながら。同時に仲間への支援魔術を範囲で掛け続けているのだ。

 攻撃魔術と支援魔術の同時発動はそのセンスに全てがかかっている、頭や訓練でどうこうできるレベルの領域ではないのだ。

 たぶんこの男。

 魔族幹部に並ぶほどの実力があるな、こりゃ。

 ともあれ。

 今この場は。

 人間同士で行われる、並みの戦場よりも遥かに大きな力が動いているだろう。


『ふむ』


 ウズウズウズとヒゲが疼く。

 私は目立ちたいのである。

 ドヤりたいのである。

 それが大魔帝の戦場というものだ。


 蠢く魔性死骸王(リッチキング)の首を刈り落としながら魔術ステップの舞い儀式を行い、私は九重の魔法陣を展開。

 もきゅもきゅ肉球に魔力雷光が轟き。


『来たれ、我が眷族』


 なんとなく対抗して。

 攻撃魔術と支援魔術と、さらに召喚魔術を同時に発動させてやった。

 私の影がダンジョンの壁に広がり、分散する。

 現れたのは、超ステキでプリティな幻影黒猫の群れ。

 召喚された荒れ狂う影猫の群れが。


 シャアアアアアアアアァァァァァァァァァ!


 と、唸りを上げて次々と敵の首を撥ねる。撥ねた首から魔力を奪い取り、周囲の味方の魔術的防御力を向上させ、更に体力魔力を回復させていく。

 更に物陰から、ネコの声が鳴り響き始め。

 ダンジョンの影という影から、新たな闇の影猫が生み出される。

 そう、この魔術。

 影さえあれば無限に眷族を召喚できるのだ。


 にゃふふふふ、人間ごときやダークエルフごときでは真似のできない高ランク多重魔術である。

 全員が私に目をやった。


 無論、私はここぞとばかりのドヤ顔である!

 にゃっはー!

 みたか!

 肉球を掲げて勝利のポーズ!


 影の猫たちも全員ドヤ顔で決めポーズ!

 影猫たちは傷を負ったギルドメンバーの傷口を癒しの舌で治療し、誉めよ、讃えよ撫でろ! とせっついている。

 あ、受付娘のポーチから私の乾燥芋を盗み食いしてる奴までいるし……。

 どっちが敵の首を多く撥ねられるか勝負している個体までいるな。

 ただ。

 既に飽き始めたのか、あくびをしながら残敵掃討を開始しているが。


 なんかこの影猫たち。妙に偉そうなんだよね、いつも。

 誰に似たのかは分からないが……。


 まあ大群のほとんどは壊滅させたからいいけど。


 罠をしかけた何者かには悪いが、そもそも大いなる魔である私を呼んだのが悪いのだ。自業自得と思ってもらうしかない。

 敵の全滅を確認した影猫が、にゃっはー! とドヤ顔をしながら猫ダンスを披露し、影へ戻り消えていく。


 ギルマスも残敵をスキルで確認し。

 無事戦闘は終わったと把握したのだろう、安堵の息を漏らしていた。


「とりあえず、何とか……なったみたいだな」

『ふむ、私を褒め称える時間を与えたいところだが、先を急ごう』

「リポップ対策はしなくてもいいのだろうか。帰りもここを通ることになるだろうが」


 ダンジョン攻略に慣れているのだろう。しかし。

 にゃほほほ、私はえらーい大魔帝で猫様なのだ。


『この周囲は私の魔力で支配した。既にここはダンジョン主の領域ではなく私の領域だ。心配いらないよ』


 そんな反則な、と。全員が物凄い顔をしているが。

 そりゃ私も魔族なんだし。

 どちらかといえばダンジョンを徘徊するモンスターに類する存在なのだ。それくらい、笹かまぼこの繊維を剥くよりも容易いのである。


 全員が生きたまま、我々は更に奥へと進んだ。


 私は受付娘の腕の中に戻り、ぺぺぺぺと足を振る。

 肉球と指の間に入ってしまった砂利が気になるのだ。

 砂利と格闘しているうちに。

 光が、見えた。

 ようやく、隠し通路を完全に抜けたのだろう。

 その先に待っていたのは。


 ふむ。


 隠すからには理由がある。

 それは臭い物であったり、見たくないものであったり、見られたくないものであったり。理由は様々だろう。

 ここにはどんな理由があったのだろう。


 忘れられた鉱山の筈なのに、中には見渡す限りの街並みが広がっていた。

 次元を一つずらすことによって隠れ住んでいた何かがいたのだろう。

 植物だけは時の流れとともに再生しているようだが――。

 今はもう。

 そこに生者はいない。

 植えられた観葉植物は天井を貫き、魔力で生み出された永続弱太陽球の魔力照明に向かい、ただひたすら、その身を伸ばしていた。

 誰もいない太陽が、むなしく照っている。


 封印の理由は、これか。

 暴君であり現皇帝であるピサロ帝はこの地の存在を知っていた、ということだろうか。

 まあ、今は深く考える必要もないが。


 目の前に広がる異様な光景に、誰かが呟いた。


「こんな所に、こんな大きな街がある……なんて」


 魔女か。

 敵影がないか、トラップがないかを探り、スゥっと猫目を細めながら、私は言った。


『ここはどうやら人間とは異なる種、異種族が棲んでいた都。その古戦場だね。今は墓となっているようだが……強烈で心地良い憎悪のエネルギーを感じる』

「お墓?」

『まあとりあえず進もう、ここでボケッとしていても仕方ないだろう』


 私は受付娘の腕の中から抜け出し。

 トテトテトテ。

 私の肉球音が生者のいない植物の街に響く。

 彼らも無言のまま、私の後に続いた。


 生活の名残を感じさせる広場。

 ここはかつて市場街だったのだろうか。

 焦げて崩れた民家が見えてくる。


 ギルドマスターが眉間に濃い皺を刻む。


「ここは、我々が入っていい場所……なのだろうか」

『ロックウェル卿の他に私も引き寄せた場所だ、放置すればもっと他の災厄を呼ぶことになる。それでもいいなら引き返すけど』

「そう、ですね。申し訳ない、すこし弱気になってしまった」


 各家の前には杭が埋め込まれている。家によって杭の数が違うのは、そこに住んでいた人数による差なのだろうか。

 やはり墓か。

 ひとつひとつの杭の前に、塵の山が積まれている。

 おそらくは死者を弔う花だったのだろうか。

 塵の花が魔力に導かれ変容し、形を取り始めた。

 弔い花が一種の魔道具に似た働きを持ち、魔力を伴った残像をこの場に留まらせたのだろう。


 薄らとした映像が周囲に広がる。


 そこには一人の子供が立っていた。

 この角度だと顔は見えないが、この花を添えたのは子供のようだ。

 墓を作ったのも恐らくこの子か。


 ――みんな、つれていかれた……みんな……。

 地面を掘り、何かを探している。


 ――父さん、母さん……。どこに、いるんだ……よ。

 ザッ、ザッ、ザッ――。

 地面を掘り続ける音が途切れた。


 ――とうさん、かあさん……みんな。俺を、ひとりにしないでよ……。

 憎悪に彩られた少年の影が、立てた杭に向かい哭いていた。

 泣くのではなく、擦り切れるほどに哭いていたのだ。


 進む度に。

 墓の前にたどり着く度に何度もその子供が現れる。

 献花の灰が、過去の映像を嫌というほど見せつけてくるのだ。

 少年が。

 土を掘り、墓をたて。

 復讐を誓うように、奥歯を噛み締めていた。

 その瞳にあるのは、憎悪。


 これが物語ならば。

 きっとこの少年は復讐の意志を代価に、強く成長したのだろうと思う。

 憎悪のエネルギーの強大さは、私が誰よりも知っていた。

 彼の瞳には、それと似た強さがあった。


 ――人間を、ぜったいに、ゆるさない……っ。

 復讐者の眼光が私たちを睨んだ。


 少年が見ているのは過去のこちらだ。

 けれど。

 私の後ろに並ぶ冒険者たちは皆、言葉を失い、その少年の憎悪の貌に目を奪われていた。

 


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