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エピローグ、メルカトル王国編 ~事後処理は猫トイレ砂とともに~後編



 平和を象徴する世界樹。

 その太い枝の上で思い返すのは、つい先日までの出来事。

 会議のだいたいの流れは――ネコちゃん目線で語るとこうなる。


 どうしてだいたいの流れなのかだって?

 そりゃ……。

 世界会議という名の主神討伐の事後報告なのだ。


 ほんとうに、めっちゃ面倒な流れになったからである。

 私こと大魔帝ケトスは、ぶにゃぁぁぁぁぁぁ……と珍しく猫のため息。

 あの日々を思い出し。

 げんなりと尻尾を垂らして深い息を吐いてしまった。


 ◇◇◇


 世界が平和になり。

 私が新たな主神をこっそりと作り出した後の話。

 何事もなかったように帰還した、メルカトル王国。


 国王カルロスと神官長ミディアムくん、そして宮廷魔術師ワイル君。

 ちょっと影は薄いが、後方でずっと仕事をしてくれていた魔女の婆さん。


 主要メンバーたちも回復したので、さあ宴じゃ!

 カリカリでも、ねこちゃん用スナックでもどーんとこい!

 とはならず。

 王国軍は書類仕事の数々。

 ものすっごい面倒な事後処理を行っていた。


 いわゆる初の世界会議開催である。


 王族を失った帝国の統治などを話し合う会議で各国は、大慌て――。

 そもそもの経緯。

 かつての主神。

 大いなる輝きが実はヤバイ奴だった。

 その消滅の事実も勿論伝わる事となったのだが――。


 まあ、長年この世界を支えていた主神が実は諸悪の根源で、それをもう滅ぼしました。

 なーんて。

 いきなり異国の王と猫魔獣に言われて信用できないのも、無理はない。


 ――が。

 異界の邪神こと私、大魔帝ケトス。

 そして、四大脅威である蟲魔公ベイチト君。

 更に異界の主神――大いなる光を降臨させた神官長ミディアムくんがいたので、一応はなんとかなったりもした。


 私の保存していた記録クリスタル。

 衝撃映像と共に録画されている戦闘記録、それをありのままに伝えたのである。


 もし変に嘘をついて見抜かれたら、全てが嘘と思われてしまう。

 そもそも隠す必要なんてないし。

 だったら、これまでの流れを全部見せる――という事になったのだ。


 今、この記録クリスタルを見ている君達が、内容を閲覧していた物語と同じである。


 この世界に降り立った私が見てきた記憶。

 それらを最初から最後まで……いや、世界樹創世の流れや、私や王国軍のプライベートな部分はカットしたから、それ以外の流れを全部見て貰ったというわけだ。


 もちろん、悲惨な場面も多々あった。

 ベイチト君との死闘や滅んだネイペリオン帝国の惨状。

 私と王国軍が共に戦った制圧戦。

 地下監獄ダンジョンの攻略と、神に狂わされた聖職者ジェイダス神父との戦い。

 そして。

 私が大活躍をした、あの聖戦。


 つい先日まで行われていた世界会議に集まった王族は一同騒然。

 流される映像に目を奪われ――固唾をのんで見守っていた。

 そりゃ、まあ本物の聖戦。

 神話レベルの戦いだからね。


 四大脅威と戦い続けていたこの世界の王族は、腕の立つ者が多かったのだろう。

 それなりのレベルにあった者には理解ができたのだ。

 目の前にいる……ジュースをストローでちゅるちゅる啜っている黒猫。

 その本来の実力と深い闇を。


 私という存在が、本物の大邪神であると悟った者達は賢かった。

 すぐにカルロス王の言葉が真実であると見抜き、これからの世界に関して様々に考え始めていたようだった。


 一部の王族は……やはり、そうであったのかと沈痛な面持ちで事実を受け入れたのだ。


 それになによりだ。

 あの外道主神。

 他国でもそれなりに悪さをしていたらしく、彼女が滅んだことでその証拠が次々と上がっていたのである。

 奇跡や祝福。

 魔術による洗脳が解けていたのだろう。


 それにあれほどの戦いを繰り広げていたのだ。

 衝撃は世界全土を揺らしていたはず。

 神に近い何かが戦っているとは、彼らも薄々察していたのだろう。


 もっとも、素直に事実を受け入れてくれたのは全ての国ではない。


 魔導に長け――魔術による捜査や占いができる国。

 大魔帝たる私とベイチト君、そして大いなる光を降ろしたミディアムくんの絶大なる力をちゃんと把握できた国。

 大いなる輝きについて、元より胡散臭さを感じていた国。

 そもそも大いなる輝きを信仰していなかった国は、話を聞いてくれたのだが。


 そうでない国は、信用できないの一点張り。


『何を企む、この詐欺師ども』


 と、ニヤニヤねちねち。


『いっそ、その口を黙らせるべく戦争でもしてやろうか』


 とまでぬかしおる――過激な聖職者国家まであったのだが。

 ……。

 今、この国。

 メルカトル王国を落とすのは……絶対に不可能、なんだよね。


 大いなる光がミディアム君に授けた神器と神装、更に私の授けた神器が二本。

 聖杖と王が持つ雷鳴の剣を所持している。

 更に言うのなら、王国軍の精鋭は神との戦いに参加していたのだ、当然、レベルが上がりまくっている。

 なんつーか。

 並の人間国家じゃ絶対に勝てない程に成長……してるんだよね。


 その辺の事を脅しに使えば簡単に話が終わるのに。

 カルロス王は人がいいからなあ……そういった脅しを避け、あくまでも対話で事実を伝えるべく、終始、冷静に行動していたのだ。


 反面。

 私はイーライライラ。

 しっぽを膨らませ、ブスゥゥゥゥゥっと魔力を滾らせていた。

 まあ別に信用されなくてもいいんだけどね、もう滅ぼしちゃって、新しい主神も顕現しているんだし。

 と、思っていたのだが――会議は進まず。


 お相手さんは、いつまでもグダグダぐだぐだ。

 文句ばっかり言っていて、カルロス王を困らせていたので私が重い腰を上げて――。

 一言。


『別に信用してもらう必要もないし、ネイペリオン帝国の事に関与するつもりがないのならもう用もないし、とっとと帰ったらどうだい?』


 と。

 煽った私に――異国の王族である彼らは言ったのだ。

 

『それほどに強いのなら、どれ、そこの猫よ。世界を危機にでも陥れてみろ』


 と。

 まあその間。

 私の強さを知っている主要メンバーは汗でジトジト。


 異界の邪神、大魔帝ケトスの伝承を知っているだろう国家の人間もビシりと硬直。

 うちは関係ないですからねと、茶菓子をスススと私の前に差し出し無関係アピールをしている国もあったのだ。

 既に食べ物に弱いとバレているのは、まあご愛嬌かな。

 智略に長けるカルロス王が、まともな国には事前に教えていたのかもしれないが。


 ミディアムくんを依り代に現場を見ていた光。

 主神である大いなる光も、無礼な異界の人間達にはさほど慈愛もわかなかったようで、フォローもせずに……いや、むしろ私に向かってニヤリ。

 やっちまいなさい! と視線で合図。


 神のお墨付きも貰った私は目を輝かせてニャハーン!

 よっしゃ!

 これで全部解決じゃ!

 そんな内心を隠し、静かに告げたのだ。


『ほぅ……構わないよ。じゃあ契約だ。私はこの世界を気に入ったからね、滅ぼしたり、不幸にしたりはしたくない。だから――君達の国の貴族と王族だけを危機に陥れてくるよ』


 と。

 その瞬間に魔力を解放し――空間転移。

 大いなる光に見送られながら、ネコちゃん飛行。


 災厄の許可を得られたという事で、魔導契約書に記入し、にやり。

 まあ。

 人が死なない程度に、それなりの災厄を起こしてやったのである。


 お相手さんが強気だった理由は単純。私をただの低級魔物。

 レベル一の猫魔獣だと鑑定したのだろう。

 あまりにもレベル差が離れてるとそうなっちゃうからね。


 まあ、あのわざとらしい態度にも一応の理由はあったのだろう。


 これから起きるだろう戦後の権力争い。

 その主導権を握り、優位に働かせるための国家戦略だったのだと思う。

 強気な姿勢を各国にアピールすることは、まあよくある事だからね。


 それが完全に裏目にでてしまったわけである。


 具体的に私がなにをしたかって?

 そりゃあもうネコちゃんによる神罰である。


 暇を持て余していたし。

 事後処理の面倒さでうっぷんも溜まっていたし、神罰執行!


 暇をしていたハロウィンキャットと猫魔獣大隊と共に、災厄の契約をした異国に出向いて、わっせわっせ!

 百匹以上のネコ軍団で進撃。

 ネイペリオン帝国の新婚ハロウィン城に足りない家具を補充したい! ということで、生意気をぬかした王家の屋敷から大義をもって窃盗。

 ついでに貴族の屋敷から食料も盗んで逃走。


 現地の猫魔獣を勧誘して、百猫夜行の珍道中。


 外貨を稼ぐ手段だったらしい砂金を全部猫のトイレ砂に変換し、わっせわっせ!

 と、持ち帰り。

 仔猫用のネコちゃんトイレを建設。

 美味しそうなグルメがあればぜーんぶ買い占めて、わっせわっせ!


 大いなる輝きを祀っている祭壇や神殿を見つけたら突入!


 いまだに大いなる輝きに魔術洗脳されていた信者を猫パンチ!

 正気に戻して、わっせわっせ!

 信仰をエネルギーに変える生贄の祭壇をぶっつぶし、まるっとさくっと魔術変換!

 これからは猫魔獣を祀るのじゃ!

 と。

 世界の猫を守る御神体――ドヤる黒猫守護神像(レベル三百の強キャラ)を設置して、わっせわっせ!


 そりゃもう、大暴れしてやったのである。


 もちろん、私や猫魔獣大隊。

 そしてハロウィンキャットが並の人間に負けるはずもなく。

 猫魔獣大隊もボス猫である私を馬鹿にされたからと怒り心頭だったこともあり、猫魔獣による窃盗スキルの雨あられ。

 三日間ぐらい暴れてやったのだが――二日にして、王族と貴族の財産はすっからかん。


 死者やケガ人はでなかったものの。

 王族と貴族の財政は大ダメージ。


 事情を知った異国の土着神が「もう勘弁してくれ、あいつらには言って聞かせるから!」

 ――と、泣きながら縋ってきたことは、まあ言うまでもないだろう。


 ◇


 そんな騒動が起こったりもしたのだが。

 まあネコちゃんのかわいい悪戯だと世界会議では納得してもらい、ようやく会議が進んだのである。


 国が傾き軋むほどのニャンコ騒動を見せたおかげ。

 そして。

 各国の聖職者の長に下った新たな神託――ようするに泣いて詫びてきた現地神の魔力ある言葉で、主神崩壊と交代が事実だったとようやく確認されたのが、更に数日後。


 普段絶対に姿を見せない古の神々が降臨し。

 宗派や縄張りなどを問わず、全員が集合し――厳格な面持ちのままにこう言ったのだ。


 人間達さあ……頼むからこの猫、キレさせるなよ――マジで。


 と。

 大いなる輝きに力や存在を封印されていた神が、次々と目覚め始めていたのだろう。

 さすがに伝承に残っていた神も多く、その言葉が真実だとも理解され。

 ようやく、大いなる輝きこそが悪であったと世界に広がった。


 私たち――異界の邪神、大魔帝ケトスと異界の主神、大いなる光の役目も終わったのである。


 いやあ、さすがに主神なんてぶっ飛ばすもんじゃないね。

 マジで事後処理がモノすんごく大変だったんだもん。


 もし今度滅ぼす機会がある時は、こっそりとやってこっそりと帰ってしまおう。


 そうそう!

 突如出現した力ある神樹。

 ネイペリオン帝国に顕現した世界樹。

 新たな主神の存在も勿論議題に上がっていたが、主犯である私も共犯である大いなる光も気付いているけれど、知らないフリ。


 信用していいのか。

 そもそもその扱いをどうするべきなのか。

 議論は白熱した。


 その騒動をとりあえず治めたのは、人間でも私でもなかった。

 一連の流れを見かねた蟲魔公ベイチト君からの発言――。


『あれは名も無き主神の器。分類は植物神族ユグドラシル』

『伝説の中に存在する、世界を守る神樹であり母なる大神――』

『おそらく大いなる輝きによって封印されていたが……その消滅により復活し、主神の力をもって人間達を守護し始めているのだろう――』


 と。


 ものすっごいそれっぽいことを、ものすっごい真面目な貌をして言ってくれたので。

 とりあえずアレは良い樹、ということに落ち着いていた。

 もちろん、そんな伝説も逸話も存在しない。

 彼女の咄嗟の思い付きである。


 まあ実際。

 あの世界樹は世界を守る力を放ち続けている。

 探知しなくても目視できるぐらいに、母なる慈愛で人々を見守っているのだ。


 古の神々もその力と慈悲を認めて――彼女を既に主神として扱っているらしい。

 さすがに神だけあってその目は確か。

 あれがかつてこの世界を荒らしていた四大脅威ラルヴァであったとは見抜いているようだが……だれも、何も糾弾はしなかった。

 私への遠慮と、世界樹の放つ正しき慈愛を感じ取っていたからだろう。


 まあ身も蓋もない事を言うと、並んでいた古の神々が力を合わせたところで、あの神樹には勝てないんだけどね。

 城を守るハロウィンキャットも、神樹に巣を作ったベイチト君も味方するだろうし。

 そもそも私。

 結構本気で力を注いで転生させたから、ものすっごく、強いんだよねあの世界樹。


 もし何か問題が起こったら、まあ、その時はその時ってことで。

 うん!

 人間達はあの世界樹を受け入れてくれたしね!


 しかし、気になることが一つ。

 これは新たな主神となったラルヴァくんとは、まったく関係のない話だが。


 なーんか、さあ?

 私がそれなりに暴れたり、脅したりしているせいかもしれないけど。

 あんまり素直じゃない異国の人間達。

 比較的温厚で論理的で、なおかつ合理的なベイチトくんのことばかりを信用しているみたいなんだよね。


 まあ、物静かな蟲女帝であるベイチト君は人間の眼から見ても美しく。

 なんというか。

 カリスマみたいなものが滲み出ているのだ。


 恐ろしく外道だった神に反旗を翻し、人と共に歩む道を選んだ優しく賢い蟲女神。


 そう思ってくれているようである。

 その正体は、かつて人間すらも寄生対象に検討していた寄生型の植物魔族なんだけどね。

 ま、それは黙っておくが。


 あー、でも一応。記録クリスタルの映像でその辺の記録もみているから、知った上で信頼しているのか。

 えー、じゃあなんで私を信用しないんだろ……。


 こんなに可愛い黒猫ちゃんなのに、おかしいよね。

 まあやっぱり、最初に脅しちゃったのがまずかったのかな?

 それとも。

 今でもたまーに百猫夜行をやっているのも、もしかしたら駄目だったりするのかも?


 月夜の晩。

 暇になると我らは集結し、猫の尾を震わせて闇夜に徘徊!


 ちょっと圧政とかしている王族貴族の財産とグルメを全回収したり。

 大いなる輝きの神殿を猫神殿にリニューアルしたり。

 悪事を働いている悪徳商人から全部まきあげて、グルメだけを回収、残りの資財を街の人々に配ったりしているだけなのだ。

 善行だと思うんだけど、ねえ?


 大いなる光も別に悪人ならいいんじゃないの?

 と、ネコちゃん怪盗団の衣装を作りながら言ってくれていたのだが。


 どうやらそれを見ていたらしいのはホワイトハウル。

 あのワンコに命令された犬天使達が。


『ケトスさま……さすがにやり過ぎですよ……』


 と、止めに来るまでは、毎晩のようにやっていたのだが――最近は控えているし。

 あの異国の王族達。

 まだその時の事を根に持ってるのかな。


 あー、またやりたいなあ、あの宴。

 我等猫軍団は夜中に蠢く闇の部隊。

 全員、カボチャ兜とマントをつけて、


『くはははははは! 悪人は退治なのニャ!』


 とノリノリで怪盗義賊ごっこ。

 ワンコが一番だけど、ネコも悪くないわね~と。大いなる光が作り出した衣装は、それなり以上に強力な装備だったし。

 無双状態。


 悪人も退治出来て、グルメもいっぱい食べられて、更に民から感謝をして貰えるのだ。

 いいことずくめ、だったと思うのだが。

 まあたしかに。

 ふと振り返ってみると、悪徳商人や悪党領主に、善行を積まない限り一生解けない呪いをかけたりしたのはやりすぎだったかもしれない。


 悪人が仕切っていた経済も、一時的にとはいえ、めちゃめちゃになっただろうし。


 でも、さあ……。

 やり過ぎたかもしれないが……感謝をしてくれた人もいっぱいいたし。

 そこまで私、悪くないよね?


 んーむ、やっぱり加減とかってむずかしいね。


 だから、うん。

 私のせいじゃない!

 そもそも世界を救った私に喧嘩を売った、あいつらが悪い!

 と、いうことにするのである。


 まあ。

 人間と共に歩む道を選んだベイチト君が人間に好かれ、慕われる事自体は良い流れだろう。

 そのうち。

 彼女も神として崇められる時代が来るのかもしれないが――、まあ、それはもう私が帰った後の話なのかな。



 ◇◇◇



 うんざりしてしまう程に面倒だった神討伐の事後処理。

 その微妙な記憶から戻ってきた私は、口いっぱいに頬張ったパンケーキをごっくん。

 蜂蜜ジュースで喉を潤しご満悦♪


 いやあ! やっぱりストレスには甘いものだね!

 ストレスなんかなくても、いつも食べている気がするけれど――それは、ほら! 憎悪を食欲に変換しているせいなのだ!


 色々とやらかしている気もするけれど、全ては解決したって事で。

 これでようやく落ち着いた。


 こうして、皆が笑っている。

 ネイペリオンでは平和な宴ができるようになっていた、それこそが落ち着いた証拠である。


 世界樹の大きな枝に座る私を見つけた人間の子供が、ネコちゃんネコちゃん! と手を振ってくる。

 大魔帝としてはそれに答えてあげるべきだと、私も肉球をふりふり♪


 にゃふふふふ、子どもの相手さえできてしまうなんて。

 私はなんと素晴らしい大魔帝!

 さすがは魔王様の愛猫である!


 ようやく事後処理も終わりそうで――そろそろ私も元の世界に帰る日がやってくる。

 その終わりを告げるのは今夜の宮中晩餐会。


 そう。

 全てはこの時のため。

 いままでの苦労が報われる、すばらしき馳走の数々!


 グルメ報酬二重取りの時間が間近に迫っているのである!


 けれど、それはこの世界との別れの時でもある。


 私はこの世界に長く居過ぎて、ここの空気になれてしまった――。

 気に入っているし、穏やかでいい世界になっているとも知っている。

 それでも――ここは私の巣ではない。

 家ではないのだ。


 本当に望んでいる私の幸せは――ここにはない。


 幸せに暮らす人々や、新婚ハロウィンキャットを見ていると……胸が少し痛んだ。

 もどかしさが、猫モフ毛をふぁさっと揺らすのだ。

 センチメンタルにゃんこ。

 というやつだろう。

 魔王様のお顔を拝見したいと――ちょっと寂しくなりつつもあったのだ。


 私のあるべき場所は――魔王様の膝の上に決まっている。

 そう!

 あの王者の膝の上で、ドヤァァァっとするのだ!

 やはり、あるべきところに速やかに戻るべきだろう!

 

 そして――いつか。

 異世界で散歩したこの冒険も、魔王様がお目覚めした時に見て貰わないとね。


 そのためにこうして――記録クリスタルにちゃんと録画をし続けているんだし。

 魔王様。

 私はちゃんとやっていますよ、だから――心配はしないでください。


 私はいつまでも、あなたの傍に……。



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― 新着の感想 ―
[良い点] あ~あ!見た目に騙された愚かな奴が痛い目に遭ったみたいですね! これはザマァ!ですね(笑) [一言] 怪盗猫ちゃん…。同意の元やりたい放題ですね。 金目のものだけの被害で済んで良かった…
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