表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
210/701

対決、蟲魔公と大魔帝 ~恐ろしき異界の魔獣~前編



 たぶん私にとっての異世界であるこの世界で、最も不幸な国であろうメルカトル王国。

 人の身では敵わない大魔族が三体湧いた、哀れな国。

 そんな浄化必須な王国の王様にひょんな事から協力することを決めた私は、今、伝説の四大脅威の一柱、蟲魔公ベイチトと対峙していた。

 きっと、この戦いも後の歴史に残る事になるだろうが。


 いや、マジでこの国。ちょっとおかしいって……。

 まあ。

 他人の国の不幸を憂いていてもしょうがないか。


 黒猫モードのまま。

 しかしブラックハウル卿を名乗る私は、ふふんと魔力を浸透させ――。

 王の開いた魔導図書館を、私の魔力で上書きしていく。


『残念、どうやら君と私は敵みたいだ。いやあ、こっちのカルロス王はきっと、私が協力した事への対価に、美味しいグルメをくれるだろうし。逆に君は蜂蜜以外、他にご馳走もってなさそうだもんね』


 蟲魔公はギチギチギチ、麻袋に入ったナニかを覗かせるが。


「他の。ごちそう? 肉団子ならあるぞ?」

「うまい、にく」

「ニクニクニク」


 それ、絶対ヤバい肉じゃん。

 こりゃ、考える余地もなさそうだね……。


『というわけだ、カルロス王。この四大脅威だかなんか知らないけれど、蟲魔公ベイチトくんを倒す依頼料の相談だ。このあとでいい、宮廷料理を振舞って欲しいんだけど、できるかな? 対象は私の世界から浚われた人々と私と、眷族の猫たちさ』

「承知した。民間人の安全を確保できた後ならば、いくらでも――望むままに振舞うことを約束しよう」


 カルロス王に異存はないのだろう。

 素早く宙に浮かべた魔導ペンをサラサラサラ、魔導契約書にとっとと記してしまう。

 んーむ、判断が早いな。

 望むままって明記されたら、私、全力を出しちゃうんだけど、大丈夫かな?

 あー、名前がブラックハウル卿になっているけど……、まあ、いっか。


 よっと肉球を鳴らし。

 円卓会議室に上書きされた王立図書館。

 更にそれを上書きした私のダンジョン領域が、辺りを闇の魔力で満たしていく。


 脱出不能な空間に、属性を変化させたのだ。

 ボス猫の前からは逃げられない。

 いわゆる逃走不能ルールを強制的に付与したのである。

 が――。

 その前に。


『蟲魔公くん、だっけ? これで君は私の明確な敵となった。どうだい。王宮で暴れるのは好きじゃないんだ、一応、最後のチャンスを上げるよ。今なら逃げる権利を与えられるけれど――逃走、してみるかい?』


 ギチギチギチギチ!

 返答はないが、警戒音は増している。

 女王蜂モードになった蟲魔公は、髑髏の杖を翳し、複雑な詠唱をしはじめる。


 術の構成は、速度上昇。

 あらゆる速度を引き上げる汎用速度強化魔術か。詠唱速度すらも強化して、多重詠唱を更に加速、指数関数的に術の効果を高める――そういう戦法か。

 髑髏の杖自体にも詠唱を倍増させ、加速させる能力が付与されているようだ。

 個にして複数。

 その利点を巧みに利用した、悪くない戦術である。だが――。


『そう、交渉決裂かな。先に謝っておく、ごめんね、今から君を蹂躙する。じゃあ――いくよ』


 言って、ふぅと息を吐き。

 猫毛がふわふわっと膨らみなぎに靡いて――遅れてから。

 風が――吹いた。

 次の瞬間。

 私は魔力をドーン!


「!!!」

「!!!!」

「!!!」


 バリバリバリーン!

 蟲魔公の強化能力と魔法陣が、ガラスのように割れて消える。

 相手の強化を無効にして、私は凛々しくネコ微笑。


「強制解除魔術? な――なんという干渉力! この魔力の渦は……ブ、ブラックハウル卿、そなたは……っ!?」


 強化魔術やスキルをしまくる相手の対策など、お昼のそうめんに入れる刻みネギより軽いのである!

 ドドドド、ドヤァァァァ!

 だが。

 ギャラリーの驚嘆に構わず、あくまでも凛と佇んで私は再度、肉球を鳴らす。


 こういうときはドヤ顔をせずに、平然としていた方がドヤポイントが高いのである。


『魔力――解放。さあ、君の末路を聞かせておくれ』


 私の足元から広がった猫の影が、周囲を暗黒空間で包んでいく。

 今度こそ容赦なく――相手の足元まで蜘蛛の巣を伸ばすように。

 逃げられない無限の回廊、憎悪の魔性たる私のダンジョン領域に捕らえたのだ。

 闇の牢獄。

 最初はただの円卓会議室だった場所はいま、全ての光を遮断するような四角い空間に変貌していた。昏く狭い空間が作り出されている。

 ……。

 まあ外から見ると、ちょっと情けなくて。

 巨大なダンボールの中で戦っているみたいなんだけどね。


 逃げられない四角い空間と、溢れる魔力を逃がす場所を上部に設定したせいだろうが――。

 中からはカッコウイイ闇空間だから問題なし!


「絶対退避不能、空間!?」

「危険、危険」

「世界、乗っ取られた?」


 私が本気を出しちゃうと、いつものお約束ではあるが……この王宮ごとドカーンとやりかねない。

 超強化ダンボール領域といっても、壊してしまう自信がある。

 これの相手を私が直接するのは、避けた方が無難だろう。

 さて、そうなると。


 私はニヒィとネコの笑みを浮かべて、おヒゲをピンピン。


『自らでその蜂の身体から退け――って言っても、素直に言う事は聞いてくれないよね。じゃあ、仕方がない。おいで、私の眷属達』


 言って、大魔帝風ホットサンドを詰め込んだピクニックバスケットを翳した私は、世界に干渉し。

 ダンジョン化させた結界空間から、魔力を引き出し召喚陣を組む。

 暗闇の中。

 鬼火のように紅く揺らめく私の影が――、


『キシャアアアアア!』


 魔猫の雄たけびを上げた。

 それだけで術は完成していた。


 魔力と大魔帝風ホットサンドにつられて、ダンジョン化しているダンボールの四隅から、にょきりとネコ達の影が生まれ始めた。

 ぐぐぐーと延びてくる猫の腕。

 輝く肉球。

 現れたのは、カボチャの被り物を身に着けた、二足歩行の闇の猫魔獣。

 その手に握られるのは、鉈やチェーンソーや両刃の斧。

 ダンジョン猫の一種である、ハロウィンキャット。

 主にホラー系のダンジョンに徘徊するダークな猫たち、むろん――私の眷属である。


「うなぁぁぁぁぁあご!」

「うにゃ? うにゃにゃ!」

「うにゃ……うにゃにゃ、うにゃ!」


 ケ……ケトスしゃま!?

 と、言っているが、まあネコ語だから私以外には聞かれなかっただろう。

 一応、いま私は謎の黒猫紳士なのだからね!


 カボチャ兜の闇の獣たちが、ホットサンドを受け取りながら私に礼をし、モキュモキュと食べきった直後。

 ようやく、武器を握って。

 けたたましい鳴き声を上げていた。


 王を呪うための呪殺フィールドが展開されていたせいで、呪いネコが顕現してしまったのだろう。

 いや、それとも……。

 あの魔術による王立図書館の影響か?


地獄招きの殺戮猫(ホラー・ザ・ビースト)!? よもや、伝説の魔物を容易く召喚してしまうなど。いや……あり得ぬ……しかし、王家の叡智に……該当するのは、ただ一つ。ブラックハウル卿、そなたは……まさかっ!?」


 大魔……と言いかけ、その言葉を切ったカルロス王。

 武人としての側面もある彼には珍しく、あからさまに動揺した様子を見せていた。

 翳す彼の腕が手にしていたのは――……一冊の書。

 鑑定に浮かんできたタイトルは――。

 異説・邪猫異聞録。

 魔竜の首元に食らいつく黒猫が表紙に描かれた魔導書だ。

 おそらく……私、大魔帝ケトスについてより詳しく書かれた王家秘蔵の書か。


『それ――猫魔獣について記された書かい?』

「……っそれは、そうなのであるが――」


 封印王立図書館に収録されていた魔導書。

 蟲魔公ベイチトの資料を召喚した際に、回収していたのだろう。

 まあ、私は魔猫王城で大暴れしていたんだし、情報を集めるのも当然か。

 しかし。

 なるほどねえ。王のあの魔術の仕組みが読めてきた。

 自分が求む情報を念じると、過去の王族達の記憶庫から該当する知識を魔導書として排出する――特殊で高度な魔術だったのだろう。

 私の記録クリスタルと基礎技術は同じか。


 ならば、あの図書館には無数の戦争の歴史もあるのだろう。

 少し、興味が出てきた。

 クリスタルもキラキラしていて嫌いじゃないけど、本の形に変換しておくのも悪くなさそうである。


 まあ、無から魔力で記憶媒体を生成する私の記録クリスタルとは違い。王様のはどうやら……人間の魂を用いた禁術を使用しているようだが――。

 これは、歴代王族の魂……なのかな。

 ま、本人たちが納得して魂を囚われているのなら、私も文句はないけれどね。

 ともあれ。

 後で魔王城に帰ったら、私、異世界でも名が売れてるって自慢しとこ♪


 しかし――あれ、これ。

 私が大魔帝ケトス本人だって、バレ始めてるのかな。

 まあ尻尾を出していないとは思うけれど、相手は賢王とまで言われるオッちゃんだしなあ。


 それに気付かぬ駄猫のフリをして、私は白々しく言う。


『へえ、この子達。こっちの世界だとホラー・ザ・ビーストって呼ばれているんだ。大丈夫、彼らは私の眷属だ。ちゃんという事も聞くし、攻撃されなければ人間を襲ったりはしないよ……たぶん』

「たぶん……?」


 貫禄溢れる王様の、ワイルドハンサムなジト目が私の眉間に突き刺さる。


『いや、異界で召喚した時って、どうなるのか、あんまり考えてなかったから、にゃはははは! まあこの王宮の人間は全て私がマーキング済み。たとえ死んじゃったとしても蘇生できるから、問題なし! ぶにゃははははは!』

「うにゃはははははは!」


 私の笑いに釣られたのだろう。

 召喚された猫たちも、うにゃはははは! と私と合唱するように猫笑い。


「いや、あの……さすがに我が民を攻撃されると、その。民の命を預かる君主としては困ってしまうのだが、ふーむ……どうしたことか。この子らもかわいくて、注意できんし……これは困った問題であるぞ」


 このオッちゃん。

 本当に猫好きなんだね……。


 さて、まあオッちゃんの嗜好は置いといて。


 さあ、今からが本番。

 ハロウィンキャット。可愛いネコちゃん達による、蟲狩り(さつりく)の時間だ――!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 何かかわいいハロウィーン猫がきたあぁぁぁぁ!! [一言] これは間違いなく、ブラックハウル卿=ケトス様って王様にバレてますよね。 そしてケトス様のホットサンドを食べてご満悦の猫に狩られる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ