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魔猫王ケトス ~史上最強の敵ボス獣~その1



 私こと、可愛い猫ちゃん大魔帝ケトスがやってきた今日。


 この日、この世界。

 この大地で命を育む、生きとし生けるモノの運命は大きく変動した。


 世界に――極大悪性猫魔獣が発生したのである。

 そりゃ。

 運命すらも改変できる魔力を持つ私が、敵として顕現したのだ。定められていた運命とか、宿命とか、そういうの全部ぶっこわして世界の流れを変えちゃうよね~。

 仕方ないよね~。

 だって――。

 愚かにも――、この世界の住人は。


 魔王様の世界を襲ってきたのだから。


 私は存外、普段よりも冷徹な微笑を浮かべていたと思う。

 魔王様のいない世界。

 それは私にとって価値の低い世界だ。

 クールミントな渋い顔で、私はドヤりとネコの口をつり上げる。


 魔力の脅しを引っ込めて、私は大笑いで、とてとてとて。


『ぶにゃーはははは! 我の世界に喧嘩を売り、あまつさえ民間人を浚った。その愚かさを呪うがいいのだ!』


 あー、大声をだすって気持ちがいい!

 ビシっとポーズを取ってやったのである!

 うにゃにゃ、にゃーーにゃー、にゃんにゃにゃー♪ ゲームかなにかで、能力が上がった時に取るようなポーズになっていただろう。


 それにしてもだ。

 スナック感覚でこの世界に干渉したけど、実はこれ、こっちの世界の人にとっては笑い事じゃないのかもね。

 こう見えても普段の私は謙虚なのだ。

 世界を満たす力のバランスや法則などを、極力壊さないようにコントロールして生きているのである。

 強すぎる力を自覚した上で、慎ましく行動しているというわけだ。


 けれど――今は違う。


 やりたい放題しちゃっていいかな~♪

 なーんて、思いながら行動しているのである。世界に与える影響など考慮せずに、魔力も魔術も奇跡も、なんもかーんも遠慮せずに使いまくってやっているのだ!

 おそらく、世界を支える魔力リソースのうちの九割を私が無断で拝借している計算になる。

 絶対に、色々な弊害が発生している筈なのである。


 私は見た目こそかわいいネコちゃんだが、その実は、自分で言うのもなんだが最強で危険なモフモフ毛玉。

 世界にいきなり、全てを破壊しかねない邪悪な猫(バランスブレイカー)が顕現したわけだからね。


『たぶん、今頃――。この世界の人たち、きっと大慌てで情報を集めてるんだろうな~』


 ま、自業自得だよね。


 だって、今回の私はちゃんと歩み寄ったのだ。


 この世界の主神ぽい輝きが見に来ていたから、わざわざ交渉しようと譲歩してやったのに、アレはいきなり襲ってきたからね?

 十重の魔法陣による雷撃なんて、私じゃなかったら消し炭だったからね?

 私だったから静電気ビリリのギャグで済んだけど、最大級の敵対行動だからね?

 まあ所詮はネコ魔獣と甘く見て、交渉するよりも楽な手段として、力尽くを選んだようだが。

 一度チャンスは与えたのだ。


 何が言いたいかって言うと――。

 今回の私は、まぁぁぁぁぁったく悪くないのだ!

 うん。


『うらまないでねー! 私、ちゃんと警告したんだからねー! だーかーらー、私、なーんも悪くないからねー!』


 と、天を揶揄い。

 他人事みたいに大笑いしながら尻尾をフリフリ。

 さて。

 楽しんでこの世界に報復するための準備をするのにゃ!


 そうそう!

 どうして誘拐された人がいるのに、こんなに余裕かつ悠長にしているのか。

 早く助けに行け、この駄猫!

 そうお叱りの声を受けるかもしれないが――。

 のんびりしているのにも、もちろん理由がある。


 この世界にいる私側の世界の人間は全員、どうやら無事のようなのだ。


 探知する私の魔力に返ってくる民間人の魂の反応に、怯えや恐怖はない。

 浚われた民間人は皆、なにか特殊技術……おそらく道具を作ったり、加工したりを得意とする生産系の職業(クリエイター・クラス)に該当する人間だっただろう。

 その技術を買われて招き入れられたらしく、酷い扱いは受けていないようなのである。


 ま、これはこの世界の人? にとっても幸福な事だった。

 もし、現段階で浚われた民間人の生命反応が一つでも亡くなっていたのなら――私は何の躊躇もなく、この世界をその場で滅ぼしていたのだろうから。

 もう、ほんと。

 世界にブラックホールを顕現させて、星ごとドカンだったね。

 救出するにしても、一度私の魔力で世界を崩壊させ、全てを滅ぼし、虚無状態にしてから蘇生させた方が迅速に済むからね。


 本当に一瞬、瞬きする間で終わるので――この手段ならば痛みもないし。

 恐怖や不安を味わう前に楽になれるし、すぐに蘇生してあげられることから、ある意味人道的。効率的ではあるのだが……。

 一度とはいえ、本人もほとんど感覚に残らないとはいえ。

 私の手で殺してしまうわけだから、あまりとりたくない手段ではあるのだ。


 まあ、それでもやる時は躊躇せずにやるつもりなんだけどね。

 状況次第では、一番有効な手である事は確かなのだ。


 懸念材料があるとしたら――状況が変わる事だろう。


 現時点での誘拐された民間人たちの身の安全。

 肉体的、精神的な無事を両方ともに断言できるが、これはあくまでも今の状況での話。

 一週間、二週間と経てば状況が変わり酷い扱いを受ける、そんな可能性もゼロではない。


 そうなったら、私はこの世界を一瞬で滅ぼす。

 我が御飯にたかる蟻んこを肉球でベシリと叩くように、バンなのだ。


 私にそうさせないためにも。

 探査が完了次第、なんとか手を打つべきだろう。


 すぐにでも助けに行きたいのだが――。

 さすがに見慣れぬ世界で私も魔力をつかいにくく、全世界をサーチするのに一晩程度の時間が掛かっちゃうんだよね。


 だから!

 私は今の待機時間を有効に使うことにするのだ!


『ぶにゃはははは! 我が牙城を素敵に飾るのである!』


 建設された御城の扉を開いて、我が家から持ってきた家具を設置♪

 魔王様の素晴らしき神像を玉座に祀り。

 お供え物のチキンナゲットを一個二個、三個。

 四個目は……私が食べちゃっていいよね!


 ここを拠点にとりあえず民間人の救出と、世界を壊すか征服するか降伏勧告を出すか、しないとね。

 しかしだ。

 私はこの世界の情報――誘拐された者たちの場所を魔力でサーチしながら、考えていた。

 おそらく。

 何も知らないこの世界の住人は今、こう思っているのだろう。


 今日こそが終末の始まり。

 平和な世界の終わりを告げた運命の日。


 異界の魔王か、異界の神が顕現し――世界征服をするためにやってきたのだ。

 と。


 ここ、魔王様の愛した世界じゃないし。

 既にこっちの世界なわばりに被害を出しているわけだし。

 私――今回、あんまり遠慮するつもりがないんだよね。


 ◇


 初日は過ぎて、次の日の朝。


 新世界に居城を構えた異世界ネコ。

 大魔帝ケトスこと私は、聖者ケトスの書を片手に、じぃぃぃぃぃと魔眼を光らせ。

 世界に向けてモフ耳を傾け――ぶにゃん!

 とある奇跡を発動させていたのだ。


 バササササ――ッ!

 イイ感じに書が自動で開きだす。

 いやあ、いつみてもイイ! 空に浮かんだ魔導書っぽい本が勝手にページを捲る動作って、かっこういい!

 ともあれ私は――世界に向けて魔力をドーン!

 まず、誘拐された民間人の身の安全を完璧にする事にしたのだ。


『我が世界に住まう同胞よ、汝らに黒猫の祝福を――』


 この世界のどこかにいる民間人。

 私の世界から誘拐された人間全員に、奇跡と祝福を掛けたのだ。

 掛けた祝福の効果は単純。

 因果律をねじ曲げて、絶対の幸運を手にする加護を付与したのである。


 まあようするに、どんな困難が襲ったとしても絶対に不幸にならない完全幸福状態にしたのだ。

 大魔帝、本気の祝福というわけである。

 これで助けに行ったときには既に手遅れだった……なんて、悲劇は起こらないだろう。


 続いて私は、彼らへの奇跡をもう一度念じ――息を吐く。

 心配しないように声を掛ける事にしたのだ。

 たぶん、今頃民間人たちの思考にはスレンダーな私の麗しい全身が映っているだろう。


『親愛なる我が魔王様の世界に住まう者たちよ、聞こえているかい? 私は大魔帝ケトス、百年前に活躍した魔王様配下の大魔族さ』


 なんだ、このドヤ猫は!

 そんな反応が多くの場所から返ってくる。

 何故、あの伝説の魔族が――まさか、俺達を浚ったのは!?

 そんな声もちらほら上がってきたので、先に誤解は解いておこう。


『私は確かに魔に身を置く魔獣だ。かつての私は人類最恐最悪の敵、恐ろしき猫魔獣だったかもしれないけれどね。だからこそ分かるだろう? 私がいかに反則で、ルール違反(チート性能)で手段を選ばない極悪猫だっていう事が』


 遠距離でも分かるように、並々ならぬ魔力をボワァァァァっと発してドドド、ドーン!

 私の存在がこの世界にいることをアピールしてやる。

 民間人たちが、ごくりと息を呑んでいた。

 私の存在。

 大いなる闇としての器の大きさが、今の波動で通じたのだろう。


 コレには絶対に、誰も、なにものでも勝てない……と。


『どうかな? 今ので私が魔王様の次に最強だって分かってもらえたと思う。ああ、絶望はしないでおくれ? 大丈夫、心配しないでもいいのさ。ここで朗報がある、心して聞いて欲しい』


 一度、言葉を区切った私は――。

 大魔族として、威厳を持った顔を少し緩めて――彼らを安心させる声を出していた。


『喜び給え人間諸君、今回の私は――君達の味方さ』


 最強の敵が味方となった。

 その時の衝撃って、けっこう大きいと思うのである!


 案の定、人間たちの表情は歓喜で満ち溢れ始めていた。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 巨大猫か…。飛び付いてモフモフしたら気持ちいいだろうなぁ…。 [一言] 魔猫城に魔王様の像があるとかケトス様らしい(笑) 拐われた人達無事でよかったです。 マリモ世界さん拐った…
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