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グルメ魔獣の正体 ~踊る会議のアニマルズ~その3



 騒動は落ち着いて――全員を魔術による再チェックをしたが問題なし。

 これでスパイはいなくなった。

 ようやく会議を開始できるのだ。

 もっとも――各国に入り込んでいたスパイ、間者を炙り出すという意味の強かったらしいこの会議。あのマリモキング(仮)を捕獲した時点で、作戦の意味はほとんど終わっているのだろうが。


 使者達の一部が今回活躍した私達に駆け寄ってきて、瞳を輝かせる。


「そ、その魔術と奇跡。並々ならぬ強さは――あ、あなた達こそが、やはり……グ、グルメ魔獣さま、だったのですね!」

「なるほど――百年の眠りから目を覚ました大いなる獣たちが、グルメを守るために帝国と密約を交わしているという噂。アレは帝国の情報工作ではなく真実……だったということですか」


 やはり上がってくるのはグルメ魔獣の声ばかり。


「あなた方の噂はかねがね。なんでも強力な魔術を扱う帝国の守護聖獣だとか」

「我が国にもグルメはございます、機会がありましたら是非――」


 皆が皆、グルメ魔獣認定をして納得しているが。

 いやいやいや。


『えぇ……? 私、グルメ魔獣ってよりは大魔帝ケトスって呼んで欲しいんだけど。どうしよ、今の人間達にはグルメ魔獣で覚えられ始めちゃってるのかな?』

「大魔帝……?」


『うん。大魔帝ケトスだよ?』


 首をかわいらしく傾けて私は告げる。

 あれ? 信じて貰えないのかな、なんか沈黙しちゃってる。

 仕方ないので――うんしょ、うんしょと亜空間から大魔帝セット一式を取り出して、装備!

 空に浮かべた玉座にピョンと飛び乗って、ドヤァァァァ!


『初めまして脆弱なる人間諸君。自己紹介を省略して申し訳なかったね――私は大魔帝ケトス。魔王軍最高幹部。麗しき御方、魔王様第一の腹心――殺戮の魔猫とは私の事だよ』


 いつもの素晴らしい名乗り上げである!

 さすがに王族や国を代表してやってくる使者ならば、正体を明かす私の姿と言葉に偽りがないと察したのだろう。


 空気が、完全に変わった。


 大魔帝ケトス。

 私のその言葉に、周囲が騒然とし始める。


「だだだだ、だ、大魔帝ケトス……! あの伝説の殺戮の魔猫!?」

『コラコラー! 無遠慮に指をささないでおくれよ。まったく、満腹じゃなかったらその指を噛み千切っていたかもしれないんだよ?』


 大魔帝の名はそれなり以上に効果があったのだろう。

 さっきの騒動で大人しくなっていた遠方貴族たちの顔が更に、どよーん……。

 どんどん白くなっていて、ぷぷぷー! 超わらえるんですけど~!

 ねえねえ! 大魔帝だと知らずに喧嘩売っちゃったってどんな気分だい?

 うにゃはははは! 大失態だよね!

 愚か者! おーろかもの! おろかーもーのー!

 ぶにゃはははは! と笑いながら聞きたくなって、猫ヒゲがウズウズしてしまうが――我慢我慢。


 もう十分、反省も感謝もしてくれているみたいだしね。

 人間、失敗したとしても必要以上に落ち込む必要も、責める必要もない。

 その失敗を次に活かせばいいだけなのだ。

 少なくとも――私はそう思うのだ。


 まあ、魔王様の受け売りだけどね。


 戦士っぽい男が額の汗を拭いながら、呆然と呟く。


「プリティドヤ猫で名を馳せているグルメ魔獣の正体が、あの古の大魔族、大魔帝ケトスだって……いうのか。そりゃ……たしかに、いまの戦いでも、器もレベルも、とんでもない領域だったが……」

「百年前の戦争の中心となった災厄の獣……! 天災や戦争悪の擬神化、伝説だけに語られる実在しない大魔族なのではなく、まさか……本当に実在していた、だ……なんて。我が国の魔導書を一部……書き換えなくてはなりませんね」


 魔法学校の先生っぽいオバちゃんの声に反応し、私はニャハハハと笑みを浮かべる。


『あー、私の逸話ってけっこう大袈裟なモノが多いもんね。想像上、というか事実を誇張された創作上の魔族って思い始めてる人も多いのかな。残念、それがだいたい真実だったりするんだよね』


 ざわざわざわ!

 まるで衝撃の事実!

 みたいに反応されても、困っちゃうんですけど。


「皆の者――しばし落ち着いてくれると余は助かるのだが。おーい、余、無視されると悲しいのであるが……ふむ――仕方あるまい」


 場を治めるためだろう、皇帝ピサロが腕を上げて統率の魔力を放つ。


 会議場に覇者のみが扱える行動支配スキルが発動する。

 それは一人の男。

 広い領土を治める若き皇帝、西帝国代表のピサロ帝から放たれた魔力の言霊だった。


「静粛に――」


 自分よりも魅力カリスマの低いモノを強制的に黙らせる、皇帝や王者、最上位指揮官クラスに該当する者が扱う上位スキルである。

 先ほどの戦いで確信した。

 ピサロくん――私が膝でグースカグースカよく寝ているせいか、はたまた、夜中の飲み会で何度も私と、皇帝とは、リーダーとは! と語り合っているせいか。

 私の魔力の影響を受けて、どんどん皇帝レベルが上昇してるみたいなんだよね。


 本来なら戦闘職じゃないのに、全員に効いてるでやんの。

 まあ私達三獣にはもちろん効かないんだけどね。


 落ち着いた場を見渡し――皇帝が告げる。


「魔術を用いての制御、失礼した。しかし――会議が始まる前に余が頭を下げ、そなたら使者に失礼のないようにと頼んだ理由と重さ――これで理解して貰えたと思う。まあその約束は一部、果たされなかったようであるが――無礼を受けた彼ら三獣神がさきほど人間に見せた寛容、破壊ではなく戯れのみで許しを与えてくれた慈悲に感謝するしかない。もし――彼らが、本気となって我ら人間を敵と認定するのならば……今の戦いを見て想像も容易いであろう? 我ら人間種はおそらく三日と経たずに絶滅していたであろうな」


 皇帝の眉間には僅かな緊張が走っている。

 もし、この中の誰かが私の存在に苦言を呈したり。万が一にでも魔王様を愚弄する言葉がでるのならば――全てが滅ぶと知っているのだろう。

 ……。

 私は歩く時限爆弾かい。


 ちょっと脅かす意味も込めて――私は紅き瞳をすぅっと細めて魔族としての声を出す。


『ありがとう、我が友――皇帝ピサロ。まあ君が思っているよりも今の私は丸くなっている――少しくらいなら戯言も気にしなくなっているけれどね。さっきも君の顔を立てて、戯れで済ませたんだ。まあ――それでも、これ以上、無駄ないざこざはない方が良いだろう。今日の私は皇帝の賓客として招かれている、もし気に食わない事があったとしても……この場で暴れたりはしないさ』

「し、失礼しました……まさかグルメ魔獣様が、あの伝説の……方々とは知らなかったもので――」


 言葉が次々と続く。


「あの愉快で小粋なグルメ魔獣が……大魔帝」

「あの宴会にいつのまにか紛れ込んで、旧知の仲のように大騒ぎをすることで有名な飲んだくれグルメ魔獣様が……大魔帝……」

「あの行列に素直に並んで、近所のおばちゃんと談笑しているグルメ魔獣さんが……っ」


 頭を下げる使者達を見て、私はちょっと考える。


 あれ?

 なんか。

 マジでグルメ魔獣の方が有名になってるみたいでやんの。

 ほんと、百年変化がなかったのに。

 どうも最近、私を取り巻く環境が急激に変化しているようで戸惑ってしまう。


 ま、まあこんな風に注目されるのは嫌いじゃないんだけどね。

 ドヤりポイントに私の猫毛がウズウズとしてしまうが。

 そんな私の横で――。

 ふぁさ! ばっさー!

 ロックウェル卿がニワトリの舞を披露して、余もおるのだぞと猛アピール。


『ケトスよ。使者どもに余の名を教えてやる権利を与えよう。それ、もそっと伝えよ。ささっと伝えよ! この偉大なる余の名をな!』

『えぇ……自己紹介したいなら自分でやりなよ、ロックウェル卿』


 私の言葉に目を見開いて――誰かが叫ぶ。


「も、もしや! あなたさまは――神鶏ロ、ロックウェル卿!?」

「ひぃ……っ、あの――慈悲なく全てを石の眠りにつかせるという大魔族、魔帝ロックさま!?」


 ガタリガタリ!

 椅子から転げ落ちた人間が数名。

 悲鳴に近い声の後、人間の誰かが続けて声を上げる。


「人知れず霊峰から人間を見下ろし――世界に害をなすものを発見次第、罰を与え……久遠の彫刻として飾るとされる神の鶏……!」

「神からの啓示で我等にもその存在は伝わっておりますわ。第三の勢力と言われた海底国家を一夜にして滅ぼし、今も尚、その魂を捕え続ける闇の獣……伝説の魔鶏……まさか、あのロックウェル卿様がご降臨なされていただなんて――此度の事件は……ただごとではありませんのね」


 うっわ、面白いくらい反応してくれるな。

 ていうか、私の時よりなんか畏れられてるなこのニワトリ卿。

 じゃあ、こっちは――。


『案ずるな人間達よ。我は大いなる光の使者として参ったホワイトハウル。彼ら二名は咎なき人間を襲うことなどない。あくまでもそれはこの会合、今宵のみの話ではあるがな。この会議の安全は、天の代行者――白銀の魔狼、神の天秤、裁定の獣として――我が保証しよう』


「白銀の魔狼、ホワイトハウル様!? 人間が深き過ちを犯した時のみ現れ、厳正なる審判を下すとされる裁定の神獣……まさか貴方様までもがグルメ魔獣でしたとは……いやはや」


 あ、また聖職者の人たちが拝み始めた。

 ホワイトハウル。

 こいつマジで尊敬されてるんだなぁ……。


 えー……。

 なんか私、中途半端じゃん。

 畏れられるか、尊敬されるか。

 どっちでもいいからもっとリアクション欲しかったんだけど。


 これじゃあ私。

 相手の心を読んでネチネチチクチク、延々と嫌味を言うだけのなんか嫌なネコみたいじゃん!

 ……。

 い、いや、まあ実際……他の二人は我慢していたけど、私はネチネチ仕返ししちゃったわけで。

 あれ?

 私って、実はけっこう短気だったりするのかな……?


 そんな私のブスーっとした心境を察したのだろう。

 皇帝ピサロくんが私を見て。


「コホン……余はケトス殿が一番モフモフで可愛いと思うのであるが? できる事ならば、魔王様がお目覚めになるまで、ずっと滞在していてくれても構わないのであるが?」


 なんかよく分からないフォローをしてきたよ。

 一番かわいいなんて分かり切っているのに。まったく、仕方のない男である。


 しかも、だ。

 他の人間の前なのに私に気を遣って魔王様と、ちゃんと様呼びになっているし。

 人間にとっての魔王様はまだ、恐怖の対象の筈なのに。

 一国の皇帝が、それを敬称をつけて呼んだのだ。

 下手をすれば人間族の裏切り者とか言われ兼ねないのに。

 ……。

 実はこれって、けっこう……いや、かなり――私に重きを置いているのだろうと思う。


 もー、しかたないな~♪

 一番かわいいなんて、あったりまえなのに~!

 まあ、仕方ないか!


『ま、話が進まないから。そういうのは今度にしてよ。私たちが素晴らしい存在だっていうのは理解しているからね! ともあれ……この三獣が集まる程の事態だって言うのは君達も理解できただろ? 魔族と人間が争わなくなって百年、君たちが人間同士で争うようになって百年か――いざこざやわだかまりはどうしてもあるだろうが、今は皆、協力をしてくれると信じているよ』


 言って、私はファリアル君が解析した空飛ぶマリモの資料を天井に展開する。

 魔術による投影である。


『実は既に――我ら魔族は人間の知恵者協力の下。あのマリモの生体や能力についての解析を完了している。先ほどの戦いを有利に運べたのもそのおかげさ――つまり、君達だって事前に準備すれば十分対抗できるんだよ。人間と魔族、価値観も生きる道も違う。そちらとこちら――これからも多少のトラブルはあるだろう、いつかまた、戦争をするのかもしれない。けれど――今は、共通の敵を持つ者として……協力をしよう。君達にはこの情報を国に持ち帰り防衛を有利に働かせてほしいんだ――では、説明を開始したいのだけれど、いいかな?』


 使者達はそれぞれ頷き、協力をする姿勢を見せて席に着く。

 遠方の貴族たちも汚名返上をしたいのだろう、真剣な貌で着席する。

 ま、水零してカリカリ固まる、といったところか。


『ありがとう。百年前、協調性という名の最大の武器を活かして我ら魔族を苦しめた人間、その子孫である君達。時に愚かで、時に残酷で――けれどけして輝きを失わない君達人類が協力しあえるならば、今回の事態にも対応できるさ。それじゃあ、説明させて貰うよ』


 私がそのまま説明を開始したので、会議は事実上進み始めたのだが――。

 私の視界の隅で、しょぼーんとしていたのは皇帝ピサロ君。


 あー……そういえば、彼が始まりの挨拶とか、皆が一丸となってこの事態に協力してぇ――など、鼓舞を含んだ演説をする筈だったのだろう。

 私、全部やっちゃったね。


 ともあれ、まともな会議はようやく始まった。


 ◇


 さすがにさきほどのスパイ騒動を経て――大魔帝と事を構える気のある人間はいないらしく、会議は順調に進んでいる。

 こういう会議はそれぞれの国家の思惑が水面下で動くのだが、そういう流れは一切ない。

 皆が皆、今回の事件解決を第一に考えて意見が出ている。

 これ。

 ピサロくんの作戦だな。たぶん。

 私という人間世界には適合しない大きな爆弾を置くことによって、無駄ないざこざを全部取り除く。

 そういう意図があったのだろう。


 どこまでが皇帝の作戦だったのか、それは分からない。

 されど、停滞していた会議は踊る。

 次々に建設的な防衛論も上げられ、皆が協力の姿勢を見せている。


 まったく、ホワイトハウルもそうだけど――。

 私をうまく利用してしまう存在って、どういうわけか厄介で……。

 大抵、私自身も相手を気に入っているから――その、なんというか、あんまり利用されて悪い気がしないんだよね。


 進む会議を目にしながら、私は肉球を上げて意見をした――。


『ちょっといいかな、提案があるんだけど――』


 その提案というのは――私一人で、敵の世界に侵入すること。

 この世界の魔王様ラスボスさまと主神に代わり、猫ちゃんが文句を言いに行ってやるつもりなのだ。

 まあようするに、カチコミ――殴り込みである!


 誘拐されているのは民間人だし――ここの人間たちも根は悪い連中じゃないらしいし、協力してもいいかと、そう思えていたのだ。


 世界の境界を越えて、誘拐された人を助けるなど――誰にでもできることじゃないしね。

 単独で異界渡りができて、単独で行動しても絶対に負けなくて――蘇生や回復の奇跡も行使可能な猫ちゃんが、まあ――ここにいるわけで。

 それに――だ。


 異界にはまだ見ぬご馳走もきっと……ニャハ!

 ホワイトハウルもロックウェル卿も私の思惑はしっかり把握していたらしく、お土産をもってこいと目を輝かせている。

 大いなる光の言葉じゃないけれど。

 ウチの縄張りで好き勝手やってくれたのだ。

 相手だってやり返される覚悟はある筈だろう。


 仕返しに、この大魔帝ケトスが大暴れ、やつらの食料を全部喰らってやっても何も問題なし!

 住人全部を黒マナティ化してお持ち帰りしても問題なし!

 普段は世界の崩壊が怖くて使えない魔術の実験だって、拉致されたこちらの人間を救出した後ならなんだって、自由……!


 くは、くははははは!

 完璧な計画ではにゃいか!



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― 新着の感想 ―
[気になる点] >ま、水零してカリカリ固まる、といったところか。 先生! カリカリはふやけると思います!
2022/03/13 01:38 退会済み
管理
[良い点] あ、ケトス様達名前名乗りましたね(笑) グルメ魔獣達の名前しって皆さん騒然となりましたか。 ピサロ皇帝お疲れ様です。 [一言] ケトス様、かちこみ頑張って下さい♪ 騒動が終わったらきっ…
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