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強者集いし帝国 ~空から攻撃してくる敵は大抵厄介~



 急襲されたグルメ新市街。

 帝国の上空に浮かぶ謎のマリモ達の攻撃をそよ風に変換してドヤるのは、私こと、魔王城みんなのアイドルにゃんこ。

 大魔帝ケトス。


 自慢チャンスの気配を察した私の猫毛が、モッフモフに膨らんでいる。

 魔王様のような冷笑を浮かべ、バチリバチリと紅き魔力の輝きを身に纏い。

 ドヤァァァァァ!

 さあ、誉めよ!

 いますぐ讃えよ!

 そんな、ウズウズわくわくな視線を向けてやり。

 人間たちに向かってフフンと、したり顔をしてやったのだ!


 ステーキ店を守る用心棒にゃんこ誕生である!


 にゃーはっはっは!

 事件が起こるのはあんまりいい気分じゃないが、こうしてドヤチャンスがあるのだけは悪くないのである!

 その時。

 こちらに気が付いたのは空の謎のマリモ達だけではなかったようで。


 ざわざわざわ。

 なにやら後ろが騒がしくなってきた。


 周囲のダンジョン化と、上空に漂う謎の気配。

 ステーキ店内にいた冒険者たちも外の騒動に気づいたのだろう。

 さっきまで私が寄りかかっていた扉が開いて――。

 バン!


『さあ、我が魔力で君達を――ぶにゃ……っ!』


 口上の途中で、おもいっきし……扉にぶつかったし……。

 弾き飛ばされたし。

 すっごく、ダサくコロコロしちゃったし。

 にゃぁぁぁぁぁ!

 魔王様に愛されし我がモフ毛が、レンガ道に擦れて汚れちゃったじゃないか!

 ……。

 ゴゴゴゴゴゴゴ!


『天に遍く星々……』


 いや……まあ。

 あんなところでドヤってた私も悪いから今回は我慢するか。


 天体召喚無差別攻撃魔術の詠唱をキャンセルした直後。

 中から出てきたのは冒険者パーティーっぽい連中だ。


「どうした!? すでに全滅でもしていたのか?」

「違いますぅ、ドアの前に猫ちゃんがいたんですぅ! ど、どどど、どうしましょう! あたし、猫ちゃん吹っ飛ばしちゃいましたよぉ!」

「助けてあげればいいじゃない。もう、あんたはいつだって大慌てなんだから」


 男一人と、女二人の三人組である。

 ステーキ用、紙エプロンを装備した高レベルな人間たちが、次々と武器を片手にやってくる。

 彼らは先ほどの私の活躍を知らないのだろう。

 長い腕が伸びてきて――、


「はーい、猫ちゃん。動かないでくださいねぇ。よっと、あ、この子。おっもーい!」


 あれ? 私、抱っこされちゃった。

 今の私は、神官ぽい女性の腕の中。

 しっぽとアンヨをだら~ん。

 たぶん、ブスーって尖った顔をしていると思うのだ私。

 さっきまでカッコウイイセリフを言っていたのに、ちょっと台無しになってしまったからである。


 どーしよ。

 私に警戒して動けないでいるマリモ達も困ってるじゃん。


「ふふふ、やはり魔物が発生していたのね。さあ、戦いの香りよ」

「舌なめずりするなよ、この戦闘狂女」

「猫ちゃんはあたしが避難させますから、皆さんは上空の敵をお願いします!」


 男戦士と女神官と、魔女。

 三人組のパーティなのかな。

 その後ろにも別のパーティーを組んでいるだろう冒険者たちが、ズラリと並んでいる。


「任せときな、このグルメ街は俺達が守るんだ!」

「そうよねえ。せっかく遠路はるばるやってきたのに、食べる前に潰されてしまうのは、嫌だものね」

「おめぇはもう先に食っただろうが! いいからとっとと補助魔術で強化しろっての!」


「いいわ! あなたの命令に従うのは癪だけど、帝国を、いえ、グルメを守るためにこの魔導を使ってあげるわ! 他のパーティーのあんたらも、今だけは協力しなさいよ!」


 おおおおおおおぉぉぉ!

 と、上がるかちどきがグルメ新市街の大地を揺らす。


 って、……ええ!

 この人たち、私を……というか、グルメ街を守ろうとしてるの?

 嬉しいには嬉しいけど、守りづらくなるから下がっててほしいんだけど。

 私、自慢だけど高レベルを超えた高レベルだからね。


 守るように私を抱く腕の中から、ヨイショヨイショと抜け出して――。

 地面に着地!

 肉球で押した大地から魔法陣を展開!


『我、久遠の時を生きる者――』


 発生する魔力波動が私のモフ毛を靡かせる。

 ネコ手を翳して、空飛ぶマリモを捕獲する魔術を構成しようとするが。

 神官ぽい子の腕が再び私の身体を抱き上げる。


「こーら、勝手に抜け出ちゃだめでしょ!」


 ぶにゃ!

 また、抱っこされちゃったよ……。


「そうよ猫ちゃん! あぶないわ!」

「早く俺達の後ろに隠れるんだ!」


 いやいやいや、相手はマジで謎の生物だし。

 下手にアレに攻撃して欲しくないんですけど。

 そんな私の懸念を知らずに。

 ネコちゃんこと大魔帝ケトスを抱えて彼らは結界を展開、守るように前に出てしまう。


 んーむ。

 平和が続いているからか、人間、本当に猫にも優しくなってるなあ。

 誰のおかげかは敢えて語らないが。

 いやいや、ほんと。

 誰がこの平和をもたらかしたかなんて、ぜーんぜん自慢するつもりはないけれど!


 ぶにゃーっはっは!

 どうだ! かつて我を虐めた人間どもよ!

 貴様たちがあのとき我に優しくしていれば、五百年は早く平和になったかもしれないのだ!

 反省しろ!

 まあ、反省しようにも――もう転生できない程に魂を崩壊させて復讐してあるから無理なんだけどね♪

 さて、冗談はさておいて。

 それなりに安定している今の世界のおかげで、人間たちの心も変化しているのだろう。

 それでもまあ……さっき突っかかってきた疾風のなんちゃらみたいな人間が、消える事はないんだろうけどね。


 私、この時代に転生していたら、もうちょっとマシな野良猫ライフを送れたんじゃなかろうか。

 そんな感慨に耽る私の横で、魔術波動が展開され始めた。

 グルメを守る冒険者たちが、それぞれに魔術を行使しだしたのだろう。


 私を片手に錫杖しゃくじょうをしゃらんと鳴らし、女性神官が神に祈りを捧げ始める。


「慈悲深き大神よ! 白銀の如き輝きよ、気高きその咆哮にて弱き我らを守り給え!」


 輝きが、周囲全体を包み込む。


神狼の慈悲深き咆哮(ホワイト・ハウリング)!」


 へえ、これホワイトハウルの力を借りた防御の祝福だな。

 効果は――範囲内の味方のダメージを大幅カットか。ダメージに対する限度はありそうだがなかなか面白い、高ランクな奇跡である。

 初めて見たかも。

 確かに。

 大いなる光や私の力を借りる魔術や祝福があるのだから、白銀の魔狼として名を馳せているホワイトハウルの魔術や祝福があっても不思議じゃないのか。


 じぃぃぃぃっと他の人も鑑定してみると。

 ああ、なるほど。

 この人たち、かなりの高ランク冒険者なのね。

 なんか、伝説級の装備を持った人もいるし。

 魔帝クラスとまではいかないものの、それなりの超越者レベルの人間もいる。

 んーむ……。

 なんか人間達、平均レベル上がってるよなあ。

 おそらく遠方から滞在している客とはいえ、西帝国……ちょっと戦力が偏り過ぎてるんじゃないか、これ……。


 それでも、おそらく。

 あのマリモ相手には少し力不足だ。

 ここは私の強さを知っている人間達に「へへー、グルメ魔獣様。どうか弱き我らを御守りくださいましぃ、このお肉の年間パスポートを差し上げますからぁ」とか。

 イイ感じに乞われてから、助けたい所だが。


 人間たちが私を褒め称えるよりも先に、上空のマリモ達の方が動いていた。

 なにやら仕掛けてくるつもりらしい。


 案の定。

 マリモが放ってきた第二弾の超音波で結界は崩壊する。

 情けないとは言うなかれ。

 今回に限っては相手が強すぎるのである。


「きゃぁぁぁ……っ!」

「なに! こいつら、魔竜並の強さなのか!?」


「ちょっと、魔竜クラスの敵が複数体だなんて聞いてないわよ!」


 列に並んでいた一般人は私がちゃんとガードしていたから問題なし。

 高ランク冒険者たちは次の攻撃に構え、各自で同時に詠唱。

 魔法陣を形成し始めている。

 さて。

 さっき列に並んでいた彼らにドヤってなかったら、そのまま彼らの健闘を見守っていても良かったのだが。

 もう、私が強いって最初にいた人には気付かれてるからね。


 お前! 強かったのか!

 ができないので、勿体ぶる必要なんてなし。


 肉球の輝くお手々をにゅぎゅ~と開いて閉じた私は――女神官が手放した錫杖を魔力で浮かべて、しゃらんしゃらん♪


『我が友、我が戦友――白き魔狼よ。汝の眷属を守りし力を我に貸したまえ。白銀魔狼の障壁咆哮(シルバー・ハウリング)


 放った魔術はホワイトハウルの力を借りた、防御魔術。

 むろん。

 ドヤるために敢えて同じ神獣の力を用いた魔術を使ったのである!


 超音波攻撃から人間たちを守る結界を張った私に、例の三人組の視線が集まる。


「な……っ、ホワイトハウル様の力を用いた防御結界魔術……?」

「バカな! 白銀様の力を借りることが出来るのは俺らだけじゃないのかよ!」


 んむ。

 すばらしきドヤポイントである!

 我は満足なのだ!

 猫目をすぅっと細めて、転移で女性神官の腕から抜け出した私は空に浮かんで――ふよふよふよ。

 敵を見据えながら背中で語る。


『助けてくれてありがとう。弱者を守る君達の行動はとても尊いものだ、気に入ったよ。特にグルメ街を守ろうとする志はなによりも素晴らしい。その心、大切にしておくれよ』


 言って。

 ちょちょいのチョイと肉球を鳴らして超音波を弾き返し。

 更に続けて、毛並みを靡かせ――マリモ達の動きを戒める。


 ロックウェル卿の石化能力の応用である。

 相手の存在と命。

 魂そのものに干渉し、麻痺させたのだ。


 固まった謎マリモに錫杖を傾け、しゃらん♪ と鳴らして私は言う。


『本当なら捕獲して調べようと思ったんだけど、自爆とかされても困るからね。それじゃあ、悪いけれど――君達には消えて貰うよ』


 ついでにもう一度、魔力をドーン!

 魔力波動だけで空飛ぶ謎マリモの接近を妨げ、その存在を消滅させる。

 一瞬だった。

 ただ本気の魔力を飛ばしただけ。


 敵は、それで全滅していた。


「うそ……だろ」

「あれほど強力な魔物を……なにもせず、一撃でふきとばすなんて……」


 いや、一撃じゃないし。

 色々とやっていたんだけど、さすがにレベル差が離れすぎていて気付かなかったのかな。

 ともあれ成功だ。

 こちらに怪我人はなし、ステーキ店も無事だ♪

 本当なら魔力のドーン! で、人間も巻き込んでいたのだろうが、ホワイトハウルの力を借りた結界魔術がそれを防いだのである。

 実験が成功してよかった!

 ……。

 あ、思わず魔術の実験に利用しちゃったけど。

 これ……もしロックウェル卿に見られていたら、たぶん怒られていたな。

 まあバレてないならいいか。


 解放された私の魔力に恐れ慄いているのだろう。

 高レベル冒険者たちが――全身に冷や汗を滴らせ。

 ごくりと息を呑む。


「な……なに、この……猫ちゃんから漂う、底の見えない魔力は……っ」

「並の存在じゃねえのは……たしかだな」

「こ、この子……っ、ただカワイイだけの猫ちゃんじゃないわ!」


 おー! いいねえ!

 もっと我を褒め称えよ!

 ビシっとポーズを取りたいが、ぐっと我慢をして私はニヒルに微笑を零す。


『ごめんごめん。これでも私はそれなりに強くてね。できたら君達には救助の方を優先して貰いたい、今のうちに非戦闘員をステーキ店内に連れて行ってくれないかな?』


 次元の隙間はまだ開いたままなのだ。

 私がダンジョン領域で上書きして塞いでいるが、次の敵の侵入がないとも限らない。

 だから。

 まだ油断はしないほうがいいだろう。


『敵の援軍がないとは言い切れない。ステーキ店内なら完璧に守り切れる自信があるから――頼むよ』


 私の言葉に判断力に長けていそうな何人かが頷く。

 腰を抜かしているお姉さんや子供を店内に連れて、結界を張りながら駆ける。


 迅速に救助活動を行っているのは微笑ましいし、ありがたいのだが。

 なんつーか。

 世界各地で事件が起こりまくったせいか、人間、こういう事に慣れ始めてるなあ……。

 まあ、だいたい私が絡んでるからあんまり他人事じゃないんだけどね。



 しかし、やっぱりなんかまた。

 事件、起こってるよなあ……と、ゲンナリした私は割れた空を流れる雲を見るのであった。


 ◇


 あの後。

 護衛料代わりのステーキを挟んだサンドウィッチを食いまくりながら――じぃぃぃぃっと、空を監視していたが、変化はなく。

 しばらく警戒もしていたが、あれ以上敵が発生する事はなかった。


 さすがに。

 次元の穴を塞ぐ私のダンジョン領域を上書きできるほどの敵は、いなかったのだろう。


 今回の防衛戦は無事終了したのである。

 まあ大魔帝と元魔帝が三柱いたのだ。

 いわゆる無理ゲーである。

 ここを落とすことができるのなら、それこそ世界なんて簡単に征服できるレベルになっちゃうからね。


 グルメ街を襲った謎生物の帝国侵入。

 これが――今回の事件の始まり。

 はてさて、これからなにが起こるやら。


 とりあえず、今の私にできることはただ一つ。

 ステーキ完食にゃ!


 可愛いのに強い猫ちゃんねえ――と、冒険者おねえさんたちに頭を撫でられながら。

 じゅーじゅー煮詰まる肉汁。

 蕩ける旨さの菜牛ステーキ♪

 店主からお礼だからたーんと食べてくださいと――頭を下げられた私はニャハニャハ!


 念願の鉄板焼きステーキを山ほど平らげる私を探しに、帝国からの使者が来たのはその日の夕刻の事だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] ケトス様お疲れ様でした。 今回はドヤるのに少し失敗してましたね♪ でも、そんなケトス様もかわいいです! [一言] さすがの異界のマリモも大魔帝三人衆もといグルメ魔獣三人衆には敵わなかった…
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