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がるがるワンコと聖職者ケトス ~極悪大魔族コンビの逆襲~その3



 祈りの力を増幅していた――その最中。

 突如。

 足元から発生したのは蒼い閃光。

 キィィィィィィィン……!

 蒼白い輝きを放つ聖光の柱が、私の身体を包み満たしていく。


『にゃにゃ! にゃ、にゃんだこれ!』


 輝きに反応する神殿風の壁。

 その表面に根付くヒカリ苔が、周囲を明るく照らし始める。

 まるでクリスマスツリーのライトアップのようである! なーんて、余裕をかましている場合じゃないよ!

 めっちゃ巻き込まれてるよ!

 しかも、あれ、にゃにゃにゃ語になっちゃってるし!


 ぶにゃにゃにゃにゃ!

 驚いて、獣人形態への変身が解けてしまったのか!

 幸い、神の眷属達はグロッキー状態で私の猫状態にまったく気が付いていないが。

 いったい、なんなんにゃ!?

 ガバっと宙で周囲を見渡し私は毛を逆立てていた。


『にゃにゃにゃ――! しまった……っ! どこにゃ! 我を襲うとは、生意気なのにゃ!』

『なにごとだ、ケトス――ッ!』


 不意に襲った現象に魔狼の貌が鋭く尖る。

 空気も一瞬にして凍り付いていた。

 魔狼の本気が周囲の魔力を凍らせているのだろう。


 黒猫に戻って床にドテリと落ちる私。

 そのプリティな落下姿に飛んでくるのは巨大な魔狼。


『我が友を襲うのは何者か!』


 グォォォォォォッォン!

 と嘶く、威嚇の魔哮が各地に散っていた魔力犬を引き戻す。

 ワンワンの群れの先頭に立ち、私を庇うのは神魔公ホワイトハウル。

 神と魔の力を同時に行使する完全殺戮モードである。

 フェンリル神を彷彿とさせる巨大な姿へと、その身を変貌させて空間を駆けてきてくれたのだ――が。


 んーむ。

 どうしよう。

 ちょっと驚いたから変身が解けちゃっただけで。

 実害、ないんだけど……。

 むしろ、精神力とか魔力が回復してるんですけど。

 久々に猫に戻ってぐぐぅーっと身体を伸ばして、くわぁっと欠伸を出してしまう。

 しぺしぺしぺ、顔を洗いながら私は考える。


 これ、罠じゃないな。


 そんな動揺を隠し。

 あくまでも冷静さを保ったまま。

 私はスゥっと伸ばした猫手で、魔狼を制止していた。

 自分では見られないが、スっと出された肉球はとってもかわいい事だろう。


『にゃははは、ごめんごめん。心配をかけたね。大丈夫、ちょっと驚いちゃったけど、問題なさそうだよ』


『本当か……?』

『うん!』

『我に気を遣っているわけではあるまいな?』


 元のシベリアンハスキーに身を戻しながら、魔狼は眉にグググと皺を作る。

 私の猫頭をポンポンと叩いて、じぃぃぃっと顔を覗いてくる。

 あ、頭をナデナデし始めた。

 心配なのだろう。

 ホワイトハウル、口ではバカ猫だの駄猫だの私を罵っていたが、いざなにかあるといつも心配そうにしてたもんね。


『ああ、私が君に嘘をついたことがあったかい?』

『いや……わりとあると思うが?』


 すっごくそれっぽいことを言ったのに。

 真面目な表情で返されて、ネコモードの肉球に一筋の汗が垂れる。

 そこは、さあ。

 空気を読もうよ、空気を。

 面倒な昔話をされても困るので、私は魔狼の口に新しいヤキトリを銜えさせて黙らせる。


『君に嘘をついたことがあったかい?』

『ないな、うん。ない。ケトス、嘘つかない』


 モチュモチュと口を動かしながら魔狼は頷く。

 よし、誤魔化せた。

 私は手にしていた筈の聖書を探して――。

 ああ、あった、あった。

 床に落ちてた。

 ポンポンとネコ手で叩いて、その変化に注目する。


 聖者ケトスの書――と、アイテム名が変化していた。

 聖書が謎の進化を遂げている。

 布教用に街で配っていた、やっすい聖書だったはずなのに……めっちゃ分厚い神聖な聖書になってしまったのだ。

 うぅぅぅ。

 ショックだ。

 私は……ちょっとくすんと鼻を鳴らしてしまった。

 枕にちょうどいい厚さだったのに……。

 これじゃあ高すぎるのである。


『まあ、仕方ないか。後でまた貰ってこよ』


 諦めを呟いて、私は聖書を魔力で浮かす。

 やはりそうだ。

 先ほどのアレは手にしていた聖書の影響か。

 簡単に言うと、レベルアップとかスキルアップとかそういう成長現象が起こったのだ。

 これがゲームだったらファンファーレでも鳴りまくっていたのかな?

 あー、なんか。

 神的な悟りとか、そういうの、また一歩すすんじゃったようである。

 聖書は私の成長に影響を受け、ランクアップしてしまったのかな。


 あの青白い光は――。

 おそらく、世界の仕業。

 神に関わる神託や、神力取得など。通常とは異なる神秘的な成長を遂げる時、世界が祝福するようにそれに反応。

 周囲に奇跡が発生すると聞いたことがあったが――それだったのだろう。

 まあ、ようするに。

 私がたまーに意味無く演出のためだけに派手なモヤなどを発生させるが、それの世界バージョンなのである。

 世界さあ、偉大なる私の成長を祝ってくれるのはいいけれど脅かさないでよ……。


 やっぱり。

 自分のステータスを鑑定で確認してみると新たに「神の試練を超えし者」とかいう、超うさんくさい称号が取得されている。

 習得条件は……、えー……「世界を救いし守り」を所持した状態で、世界を二度以上救った事のある者が「神の与えし試練」をクリアすること。

 だそうだ。


 世界を救いし守りなんて持ってたっけ?

 と、ネコの頭を悩ませたのだが。

 そういえばダークエルフの隠れ里事件の時に、自らの手で世界を滅ぼしかけて、それを救ったマッチポンプで入手してたんだっけ。

 世界はまああくまでも結果的にだが、もう何回も救っている。

 めっちゃ、条件満たしてるね……。

 称号名から察するにここの迷宮はやはり、神の試練ということになるのか。

 それが神が与えた試練なのか、神に与える試練なのかは分からないが。

 えーと効果は……。

 ……。

 一つの世界の主神になる権利を手に入れ……。

 ……。

 私は見なかったことにして、自らの称号を魔力消しゴムで削ってゴシゴシゴシ。

 よっし!

 これで阿呆な争いには巻き込まれずに済む!


 頭に聖書を乗っけて、再び獣人モードに変身。

 手にした聖者ケトスの書をパラパラパラ。

 どうやら私専用の祝福が使用可能なようである。


『んぐんぐ、もぐもぐ。どうしたのだ? ケト……友よ?』

『ちょっと奇跡の伝授とか、神託の現場とか……そういうのを間近で見ちゃっただけだよ。ここ、やっぱり神を試す試練が配置されていたみたいだね』


 第一の領域であった次元の狭間フィールドには、神の眷属たちの心を試す罠が仕掛けられていた。

 神々を対象にした試験やら試練の可能性はかなり高い。

 ここのダンジョン領域のボスは神族を試すだけの力を持つ上位存在だということだ。


 まあそんな上位存在が用意した迷宮をホワイトハウルの裁定が法則を上書きし、無効。

 ついでに、完全部外者である私が勝手に突破しちゃったわけだが――。

 私は自分の手のひらをじぃぃぃぃっと、見てしまう。


 貌を上げ、耳を立てた魔狼が心配そうに低い唸りを上げる。


『どこか……痛むのか?』

『んー、その逆かな。ちょっと力が満ちてきたというか。新たな力を手にしちゃったみたいなんだよ。たぶん。これ。君達、神の眷属たちが得るはずの力を、私が授かっちゃったんじゃないかな?』


 ていうか。

 ただでさえ最近手に入れた魔力が暴走しがちなのに。まーた、私が強くなってどうするんだろ。


『そうか、無事ならばいい』

『いいのかい? これ、それなりに強い力みたいだから。君達に贈与しとく? べ、別に、厄介なものを押し付けようとしているわけじゃないよ? 本当だよ?』

『いや……ここが試練であるというのなら』


 珍しく言葉を濁しながら魔狼は首を横に振った。


『今の我等には、もはや――その資格はないのだろうと我は思う。我らは――おそらく、もはや主に……――いや、それを口にするのはもはや詮無き事だろうて』


 魔狼の眼光にあるのは、諦めにも似た色。

 彼の瞳にはどんな未来が見えているのだろうか。

 おそらくは――。

 私も、ある程度の予想はできていた。


 あくまでも予想だが、大いなる光は既に自らの部下たちを諦め始めているのだろう。

 神は時に残酷だ。

 不必要と思えば、たとえ仲間であっても足切りをする。

 これから近いうちに、大きな動きがあるのだろう。


 魔狼は弱る神の眷属達に目をやって、吐息と共に言葉を漏らす。


『我ら大いなる光の神族は――既に十分役目を果たした。ただ、それだけの話。それだけの……話なのであろうな』


 今の神代は終わる。

 少なくとも、魔狼はそう考えているようである。

 他人事ながら、私も同意見なのだが。

 私は浮かんだ言葉を告げずに、何も気が付かないフリをした。

 気遣いというやつだった。

 こいつ。

 本当に困ったら、魔王城を急襲した時のように――自分から助けを求めてくれるだろうしね。


『おーい、しんみりしょんぼりしちゃって、どうしたんだい?』


 魔狼はそんな鈍感モードを演じる私を見て、困った様に苦笑をして見せた。



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