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衝撃の事実 ~我わるくないもん!~後編


 ものすごい的中率の猫の勘を働かせた私は――神の自業自得を確信し。

 ぶにゃーん……。

 姿勢を崩して、後ろ足で首元をカッカッカッカッと猫のように掻いてしまう。


 そんな私を相談相手であるホワイトハウルが咎めないのは、おそらく予想が的中しているからだろう。

 はぁ……と犬の吐息を漏らし、尾を下げて彼は言う。


『魔猫よ。きさまの予想の通りだ。その者は暴走し、国を食い物に私利私欲を満たすようになったらしくてな。まあその……つまりは、主のせいでトラブルが起こったのだ』

『そんなん神の裁きで消しちゃえばいいじゃん』


 言葉を遮り、フォックスエイルのコンビニで買ったセンベイをつまらなそうに、ばっりばっりと齧りながら私は言う。

 そんなに面白い話でもないので、尻尾がびたーんびたーんと亜空間を叩く。

 だって、ねえ?

 私、ホワイトハウルはまあ……気に入っているけれど、神、嫌いだし。


『そう簡単な話ではないのだ。神とは魔とは違い、感情で動くわけにもいかぬ。それになにより――主にはそのものを裁けぬ大きな理由があったのだ』


 魔狼は頬に一筋の汗を流し、言った。


『主……その者に一度力を与えた後に……すっかりそんな事を忘れていたらしくてな』

『えぇ……?』


 やっぱり、自業自得でやんの。

 ジト目になる私に構わず彼は続ける。


『暴走していたとは知らず。それを知ったのはその者が何者かの裁きに遭い、死んだあとであったというのだ』

『ん? なんだ、ちゃんと裁かれたんならいいじゃないか。誰がやったかは知らないけれど、運がよかったね』


 神の祝福、力の伝授とは一種の呪いでもある。

 過ぎた力を与えられた人間がどうなってしまうか、それを考えずに動いてしまう神とは身勝手な存在だと私は感じていた。

 はっきりと言ってしまえば、余計な事をした可能性が高いのである。

 神が変な介入をしなければ、その人間は道を間違えずに正道を進んだのかもしれないのだから。

 まあ結果論かもしれないから、なんとも言えないが。


『主や我らのような眷族ではなく、その、見知らぬ何者かに悪行を裁かれたという点が問題なのだ』

『あー……力を与えた人間は神の使徒。勝手に裁かれたのが気に入らなかったわけね』


 肯定するように魔狼は頷く。

 神。

 めんどくせー。


『まあ、その……うん。主は忙しいからな。べ、べつに、あんなに悪行三昧しまくっていた事を見過ごしていたとか、サボっていたとか、気付かなかったとか、そういうわけではないぞ。うん、優先順位の問題だったのだ、うん』

『どうせ人間の事なんて信仰を持ってくる働き蟻とでも思っているんだろう? まあ、その辺の神の思考なんてどうでもいいけどさ。で? それがどう弱体化と繋がるわけさ』


 じぃぃぃっと呆れ眼な猫ちゃん。

 主を想い、目線をささっと逸らすワンちゃん。


『主は自分の失敗をあまり認めたがらない方でな。その時の生は試練であったと決めることで問題を解決、来世で善行を積ませてやればいいと、その者を転生させてやる事にしたらしいのだ』

『んー、話が見えないんだけど。それがうまくいったんなら問題は解決したんだろう? 事件なんてなんも起こってないじゃないか』


 魔狼は首を横に振った。


『転生が、失敗したのだ』

『はぁ? どういうことだい。人間の輪廻を操るのは神の十八番だろう?』


『何者かに転生空間を乗っ取られたのだ。恩寵を妨害されたことにより力の一部を失い、弱体化してしまったのだよ――それが、全ての始まりだった』


 ホワイトハウルは真剣な表情を浮かべ始める。

 おそらく――魔狼にとっても、そこがターニングポイントとなったのだろう。

 しかし……。

 神の作り出した転生空間を乗っ取るとは――相手はよほどの大物なのだろう。

 さきほどから神を馬鹿にしている私だが、その力は本物だ。

 奇跡、祝福と呼ばれるスキルや魔術の源になるほどの力を維持しつづけているのは伊達ではない。

 転生を妨害、か。

 そしてそれを原因とした、神の権威の失墜。

 失墜によってもたらされたのが、いわゆる弱体化なのだろう。


 そいつが余計な事をしてくれたおかげで、色々と事件が起こり始めた可能性はある。


 神は力を失い、人間を監視する目が衰え――悪がはびこる。

 裁きが起こらないと知ると、人間は暴走を始めたのだろう。

 それで迷惑を被ったのは――私だ。

 最近。

 人間世界のトラブルを解決しまくっていた原因は神と、その神を弱体化する原因をつくった迷惑な野郎のせいだったのか。

 通りで、事件が多発していたわけだ。


『それで、転生を妨害した相手ってどこの誰なのさ。そんなのが野放しにされてるってのも、ちょっとやばいんじゃないかな? 魔王様に手を出そうなんて考えられても困るんだけど、わりとまじめに』


 冗談めいて言っているが、これは結構真剣な話である。

 けれど、魔狼は首を横に振るのみ。

 転生空間を掌握し、乗っ取る程の使い手だ。隠蔽も完璧だったのか。相手が――分からないのだろう。


『じゃあさ、転生させようとしていた相手は分かるだろう? どこの誰なのさ?』


 それさえ分かれば、私の過去視の魔術でその面倒な事件を引き起こしてくれた犯人を特定できる。

 後はそいつに責任を取らせて、神の力を回復させてやればいいだけの話だ。


『んーむ、なんといったかのう……正直、人間の個体など我、覚えてないし……』

『おいおい……そこは覚えといてよ』


『おう、そーだそーだ。東王国のプ、プロテイン? の第一だか第二だか知らんが皇子のはずだ』

『ふーん、どっかで聞いた国の名前……だけ……ど』


 言葉が自然と止まっていた。

 はて。

 なんだろう。

 このモヤモヤは……。

 しっぽをぶにゃーんぶにゃーんと揺らして……猫の頭がフル回転。

 なぜか不意に、おいっしいヤキトリの香りが脳を過ったのである。

 そこで。

 ふと賢い私は考えた。

 連鎖的に思い出したのは――ヤキトリ姫の事件。

 最初に私がグルメ干渉した事件である。


 尻尾をお手々で掴んでしぺしぺしぺ、と毛繕い。

 いろんなことをおもいだす。

 ……。

 突如、私の偉大なる脳裏に電流が走った!

 くわぁぁ――っと!

 猫目を見開いて、私は思い浮かんだ単語を口にした。


『ね、ねえもしかしてプロテインじゃなくてプロイセンとかいう名前じゃなかった?』

『そんな感じだった気もするが……んーむ、どうだったか。国の名前は正確ではないが、裁かれた相手はたしか稀代の召喚術師であったと記憶しておるぞ。ちゃんとした大儀式を行えば、神の御力と合わせて魔帝クラスの魔族ですら呼べてしまうほどのな』


 あー……。

 ……。

 おもいっきし。

 つい最近、そういう国に干渉していたな。

 東王国プロイセン。

 まだ教会が腐っていた頃の西帝国と戦争状態になりつつあった、人間国家である。様々な事情があって、私は東王国に協力し――全ての黒幕であり、西帝国の暗部と繋がっていた第一皇子を抹殺した。

 いや。

 まあ最終的にアレを殺したのは私ではなく。

 彼自身に呼ばれた大魔族、炎帝ジャハル君である。

 私が直接手をかけたわけではないから、抹殺とは違うか。

 人としての道を外れ、外道に落ちた男であったのでそんなに気にしていなかったのだが……。

 あの後、たしか……。

 あー……。


『どうしたのだ、ケトスよ』

『んー、いや……ちょ、ちょっとね……』


 あれ。

 私、たしかあいつが女子供を殺していたからムカついて……。

 転生空間に乱入して……魂を消滅させたような……。


 ジトジトジトと脂汗が肉球に浮かぶ。

 目がぐーるぐると泳ぎ出す。

 神が作り出した転生空間に乱入できるほどの大物といえば、数えるほどしかいないだろう。

 うん。

 めっちゃ身近にいるよね。


 ……。

 これ、もしかしてさ。

 犯人って、私なんじゃないかな?


 いやいやいやいや。

 いくらなんでも私、主神である大いなる光に喧嘩を売ったりはしてない……筈だ。


 こっそり、亜空間に手を伸ばし……記憶クリスタルを覗いてみると――。

 あ……。

 なんか可愛い黒猫ちゃんが、大いなる光っぽい何かの転生空間を虚無の力で包み込んで――乱入してるね、これ。

 あー、あれ。

 バカ皇子を転生させようとしていた光って。

 大いなる光だったんだ。


 ……。


 え、じゃあ最近の騒動の原因って、けっこう私発信のモノもあったりするんじゃ……。

 直接的に関係なかったとしても。

 私が神を弱体化させてしまったから、神の目が弱くなり……。

 人間たちが……暴走して……。

 さまざまな事件を……。


 いやいやいやいや。

 もし本当にそうだったとしても、私、わるくないよね?

 民間人の女子供を生贄にしていたバカ皇子が悪かったんだし。

 そもそもだ。

 魔王様の眷属とはいえ、低級魔獣である猫魔獣の私に負ける主神がわるくね?

 しかも自分の勝手な都合で悪人を転生させようとしてたんだから。

 うん、神がわるいね?

 うん。

 わるい。

 つまり、私はそれほど悪くない。


 いや。

 むしろだよ?

 そんな奴に。

 力を与えていた神が全面的に悪くない?

 転生なんかさせてしまったらもはや人々への裏切り、邪神へと身を貶めていた筈だ。

 ようするに。

 結果的にとはいえ。

 私は、むしろ神の暴走を止めた救世主だよね?

 うん……私。

 そこまでわるくないどころか、善行を積んだね?

 私、えらいね?

 超、えらいね?

 うん!

 私、ぜーんぜん、なーんも、悪くない!


 一人納得して、私はニヒィと勝ち誇ったドヤ猫の笑みを浮かべる。



 わたし、わるくないもんね!



 ……。

 ま、まあ……。

 たしかに原因の一端は私にもあるから、神の弱体化を直す手段……考えるか。


 ◇


 とりあえず私は、今度行われるという神回復作戦への全面協力をホワイトハウルに約束した――その準備期間の隙をつき、めっちゃ証拠隠滅に走った事は言うまでもないだろう。

 ちなみに。

 私が超本気で証拠を隠滅したので、犯人が誰だったのかは誰も特定できなかったようである。


 常勝無敗と名高い悪魔と超越者である人間錬金術師。

 事情を説明しても絶対に秘密を漏らしたりしない二人の天才の協力を得て、色々と工作したのだが――わりと楽しい体験であったとだけは記しておこうと思う。


 無責任とは言うなかれ。


 ま、半分は神の自業自得だったし。

 ちゃんと回復に協力するんだし。

 そもそも、私、神嫌いだし。

 別に問題ないよね?



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