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魔狼相談 ~再会の宴~



 魔術やスキルによる周囲からの監視や、世界の目が届かない次元の狭間。

 世界から隔絶された特殊空間。

 並の存在では侵入すら困難な場所で会談するのは、世界最強で最恐のネコちゃんとわんちゃん。

 魔王様の部下とかつての部下である。


 神魔を揺るがすほどのじゃれ合いは既に終わっていた。

 むろん、私の勝ちである!

 ……。

 が。

 正直、こいつの都合のいいように流れを誘導されたと思っていいだろう。

 つまり。

 ワンコにとっても半分は無自覚なのだろうが、犬の計算に、私はまんまと乗せられてしまったのだ。


 ここならば密談に適している。

 神として魔に本気の頼みごとをしたとしても、誰から咎められる事もなく話はスムーズに進むだろう。

 この世界って遠見や監視の魔術や奇跡、スキルもあるし、勇者の関係者が常時世界を維持しようと暗躍しているわ、世界自身がどういう意図か知らないが勝手に運命を決めちゃったりするから――色々と面倒なんだよね。

 そういう邪魔が入らないここはまさに理想の場所なのである。


 彼も私も通常のモフモフわんことニャンコ形態で、ぴょこんと椅子に座ってお茶をズズズ。

 話し合いにはお菓子が必要だろう!

 と、私がティーセットを召喚したのである。


 椅子から垂れる私のモフモフ尻尾はやはり可愛い……。

 ついでにビニョーンと椅子から足を投げ出してみると、これまたかわいい!

 柔毛で膨らむ脚のもふ部分と、ぴょこぴょこ動くネコあんよ。そしてなにより肉球が輝いて見える!

 ……。

 いかんいかん、自画自賛している場合じゃなかった。


 現実の次元。

 ここからすれば外界となる魔王城外郭からの連絡を受けた私は、目の前でポットの天辺をべっしべっしと叩いてお茶のお代わりを注ぐホワイトハウルに言う。


『今、黒マナティ達に連絡して心配するなって伝えておいたよ。それと、ついでにこの亜空間を外から結界で封じて貰った。これで外からの干渉は受けない、君が何を話しても私と君だけの秘密になる』


 たとえ神といえどここは覗けない。

 そうドヤって言ってやったら、彼は僅かに口の端を上げて微笑んだ。


『すまぬな。誰にも聞かせたくない話ゆえにこのような手段となったのだ。別にカラアゲさんのことだけで跳ねまわっていたわけではないのだぞ? うん、我、そんな間抜け駄犬じゃないな?』

『さあ、どうだろうか』


 実際、こいつ。

 最終的にはなんだかんだで目的を達成するから侮れないんだよね。

 自らを道化へと貶めても、確実に勝利や目的の尾に噛みついて、喰らい、放さないのである。

 どこまで計算なのかは知らないが、狡猾で、勝利に貪欲な魔性の将なのだ。


『ところで我の思い違いではないとしたら、そなたが眷族として使役しているアレは……ブレイヴソウルに見えるのだが……』

『そうだよ?』


 犬のジト眼が、ぐらりと揺らぐ。

 しばし、何かを言いたそうにしていたが――。


『……、まあ……ケトスだからな』


 と、ため息と共に肩を落として彼は考え込む。

 何故かワンコは、呆れ眼で私をじぃぃぃぃいいっと見るばかり。

 やはり気になるのか、牙を覗かせる咢をちょっと動かし彼は問う。


『アレは我が主ですら浄化に失敗し、捨て置くことにしたのだが……いつのまにかそなたに従属していたとはな』

『従属ってのは大袈裟だね。私とあの子たちはそういう重苦しい関係じゃないんだけどなあ』


 軽く答える私に、重い視線を投げつけるワンコ。


『暴走、せんよな?』


『大丈夫だってー♪ あの子たち、本当に良い子だし! 黒マナティの事でなにか心配なら、一から事情を説明しようか? ちょっと長い話になるけど』

『いや……また頭痛の種が増えそうなので遠慮しておくぞ、我』


 ホワイトハウルはまるで現実逃避するかのように、目線を逸らしてお茶をズズズ。


『まあ黒マナティの事はいいじゃないか。それよりも、大事な用があるんだろう。君の事の方が私は心配だ』

『そうであるな……だが、その前にケトスよ。今回の非礼を今一度、詫びさせてもらおう。すまなかった――』


 穏やかに瞳を伏して、私は告げた。


『いや、私も久々に君と遊べて楽しかったよ。現存する存在で、今、私がある程度全力を出して遊べる相手は君とロックウェル卿ぐらいしかいないからね。まあ……一応他にもいるけど、会いたくない相手もいるし……』

『そうか――そう言ってもらえると助かる。それと頼みの前に、頼みがある』


 真剣な口調に、凛々しい顔立ち。

 もう、このパターンは読めている。

 どうせ――。


『我にも、唐揚げを召喚してくれんかのう? ニワトリから聞いたぞ。きさま、唐揚げ召喚魔術を奴に使ったそうではないか。きさまから唐揚げを分けて貰ったと散々に自慢されてしまってな。それで、まあその……つい。頭に、血が……うん、我、悪くないな?』

『あー、やっぱりね。そういうだろうと思ってもう召喚準備はしてあるよ』


 カラアゲだから、仕方ない。

 そう何度も自分と私に言い聞かせるように魔狼はピョコピョコとモフ耳を動かし、ドヤァ!

 まあ確かに。

 カラアゲだから仕方ないか。

 私も逆の立場なら絶対、なんかやらかしていただろうし。


『何味の唐揚げを召喚しようか。君、神の使いとして行動しているからあまり自由に唐揚げを食べられないんだろう?』

『いーや、人間モードに変身して毎日買いに行っているが? 我、超常連客だが? 今やグルメ最先端となった西帝国では様々な唐揚げ店が並ぶようになっておるしな?』


 ワンコは頭の上にでっかいハテナを浮かべて、顔をこくりと傾ける。

 ……。

 だったらカラアゲパーティに呼ばれなかっただけで暴走するなよ……。


『のうのう、ケトスよ! せっかくならば再会を祝して宴会をしようではないか! 我は酒を持っている、そなたは食事をどんどん召喚せよ! な! な! よいアイディアではあるまいか!?』

『私は構わないけれど、相談は大丈夫なのかい? けっこう……、深刻な話みたいだけど』


 次々と唐揚げを召喚しながら私は問う。

 そう。

 ホワイトハウルがあそこまで追い詰められていたほどの、ナニかが起こっているのは事実なのだ。

 しかし。

 そんな私の心配をよそに彼はじゅるりと涎を垂らす。

 素直に召喚が終わるのを待ちながらお座りして、ハッハ♪ ハッハ♪ と犬の呼吸。


 いや……。

 その影から伸びる闇と光、複合属性の魔力手マジックハンドが、唐揚げを摘まみ食いしようと伸びていた。

 聖魔混合の、無駄に高等な摘まみ食い魔術である。

 じぃぃぃぃっと睨んでやると、光と影の手を引っ込めて――。

 突如、キリっとドヤ顔をして私に言う。


『なーに、問題が起こっているのは事実だが。年単位で行動する我ら神や魔にとって、一時の宴など泡沫の祭り。無限に続く時の流れの中では、一瞬の夢――些事に過ぎぬだろうて』


 妙に大人びた声を出しているが、その口は涎でじゅっるじゅるである。


『そなたとこうして食を味わい、酒を交わす。それに勝る優先事項など、魔王様以外の事では何一つもないであろう? そうであろう! そうであるから、我、はやく食べたいのだが!?』


 瞳を伏して、モフ毛を靡かせ――。

 魔狼は静かに……いや、キャンキャンキャンキャン騒ぎ出す。

 こいつ。

 こういうところ。

 ほんとうに、変わっていないでやんの。


 それが何故だろうか。

 ちょっとだけ……嬉しい。


『まあ、いいけどね。神と魔のぶつかり合いだったんだ、事情を知らないものからすれば、まだ次元の狭間で死闘を繰り広げているように見えるだろうし』


 本格的な大召喚魔術へと魔力の流れを移行した私が、宴会用の宮廷料理を童話魔術アリス・マジックで召喚し始めると。

 ホワイトハウルは、再び呆れた顔を私にして見せた。


『なーんで勇者の眷属の秘術をそなたが使えるのだ?』

『ん? まあ、いろいろとね』


 しばし瞑目し――神獣としての顔で魔狼は咢を上下させた。


『そなた――もしやウサギ司書と出逢ったのか?』

『うん、この魔導技術もあのから盗んで――、ああ、まあ戦闘したからであって勝手に盗んだわけじゃないよ、仕方なくさ、うん』

『それで、奴を血祭りにあげたのか?』


 その声音は冷徹だった。

 んーむ、ロックウェル卿とホワイトハウルは妙にウサギ司書を敵視してるな。

 まあ……世界の維持のために色々とやらかしてそうだったし……、私が知らない所で何か因縁でもあったのかな。


 勇者の関係者たちはまるで心無き虫。


 そう表現したのはロックウェル卿だったか、それともホワイトハウルだったか。

 運命という呪縛に囚われた彼等は――世界を維持するため、ただ無機質に、巣に溜まったゴミを掃除するかのように淡々と、使命を果たそうとする特性がある。

 魔はもちろん、世界の維持のために邪魔だと感じれば神さえも屠ってしまうのだ。

 私も魔王様もそれは世界に運命を狂わされた犠牲者なのだろうと同情していたが――魔狼と鶏卿の考えは違ったのだろう。

 奴らはただ残忍なだけの敵。

 そう判断しているのだ。

 今の彼女、ウサギ司書には今までにはなかった温かみが生まれ……少し落ち着いているように見えたが……。

 なにか。

 彼女を変えるきっかけ、大きな出会いでもあったのだろうか?

 分からないが――。


 ともあれ、私は正直に答えた。


『君も知っているだろう、私は――獣や獣人の女性を殺すのはあまり好きじゃないんだ』


 彼は眉間に皺を刻んだものの、すぐにため息と共にそれを消し去り。

 ホワイトハウルは犬の吐息を漏らす。


『……まあ……ケトスだからのう……』


 なにやら複雑な貌をする犬の横で、私はにゃはぁぁぁっとドヤ顔をして見せる。

 そういう暗い話はヤメなのだ!

 バササササササ、バサ!

 取り出した異界の童話書から召喚するのはもちろん!


『ねえねえ! 見てよコレ! じゃじゃーん! 実はお菓子の家も召喚できるんだよ! ウサギ司書から詫びだって貰ったんだよ、これ!』


 特大の食用お菓子ハウスを顕現させてやると。

 くわぁぁぁぁぁぁあああっ! と、目と顎を開いて魔狼が歓喜の雄たけびを上げた。

 尻尾がブフォンブフォン!

 竜巻が起こる程にモフ尾を振り回し、狂喜乱舞のブンブンブン♪


『な、なんと! あの伝説の!』

『しかも、ふっふっふ――実は複製してあるから、ここに所有者の居ない童話魔術の異界書があるのである! あー、どこかにこんな複雑な魔術が扱える伝説の魔獣でもいれば教えてあげちゃうんだけどなあ!』


 詳しく魔術構成を教えろと駆け回るホワイトハウルと、じゃれる私。

 二人は――久々に自由な時間を過ごし、楽しんだ。


 私とホワイトハウルはとりあえずの問題は先送りにし、今はただ、久しぶりの再会を祝うように美味しい宴を開催したのだ。



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