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再び急襲、魔王城! ~冷静すぎる大魔帝、もう暴走なんてしないよ?~前編



 時はわくわくドキドキおやつタイム、場所は穏やかな最強魔族が暮らすラストダンジョン。

 その最奥にある私の部屋。

 シグルデンの騒動も落ち着いて、はや数ヵ月が経っていた。


 魔王様の御城に、改心した魔狐ことフォックスエイルが経営するダンジョンコンビニも出店され、大盛況。

 新たな仲間も迎え絶好調な魔王軍。

 さあ集え! 魔王様を守りたい者は名乗りを挙げろ! 今ならコンビニ夜勤の仕事やら、唐揚げ生産工場のバイトだって待っている!

 運が良ければ、超絶可愛い猫ちゃん大魔帝とラストダンジョンの廊下ですれ違えるかもしれない!

 さあさあ大チャンス!

 入隊したいものは、我に捧げる供物を持参してくるべし!

 できたらチーズとかササミとか、食べ物系だと嬉しいな♪

 と、言った感じで。

 毎日が平和な魔王城には、今日ものんびり気ままな時間が流れている。


 かくいう私ものんびりとした時を過ごしていて。

 空に浮かべた紅蓮のマントから、そよそよと落ちてくる弱冷気の冷房魔術を受ける私はとっても可愛らしく、ネコの身体をぐでーん。

 にゃふふふふ!

 伸ばす足先で動く、猫のアンヨもお爪も美しいのである!


『なにゆえ我はこれほどまでに可愛いのか! それは、魔王様のペットだからである! くははははははははは!』


 ビシっとポーズをとって、自らの美しさにうっとりなのである。

 おっといけないいけない。

 平和ボケのせいか。

 ついつい独り言が漏れてしまう。

 ごろ~んとクッションに転がり、肉球をぺろぺろ。


『あぁ……やっぱり、やるべき仕事をサボってのゴロ寝って最高だよねぇ……♪』


 生え変わりの時期の爪とネコ毛をベロと牙でお手入れしつつ。

 更に身体をびみょーん♪

 足を伸ばすと何かの束が、ずざぁぁぁぁっと崩れる。


 書類代わりの羊皮紙だ。


 それなりに重要な案件の時には安い紙ではなく、伝統的な羊皮紙を使うのだが……。

 はて、これは……。

 なんの書類だったっけ?

 やっぱり猫の頭だと、記憶容量が少ないのかついつい忘れがちになるんだよね。

 うんしょ、うんしょと肉球でそのまま引き寄せて――内容を確認し。

 げんなり。

 たぶん。

 眉間に深いシワが刻まれているだろう。

 ポイっと投げ捨てる。

 急がないし……あとでいいや。

 承諾済みであると証明する私の魔印鑑が必要な書類を、大量に放置しサボ……ちょっと休みながら、私はゆったりと目を閉じる。


『うーむ、平和じゃ。素晴らしきことかな、にゃっはっは! さてちょっとオヤツでも食べて、もうひと眠りするかにゃ。書類整理とか、そういう面倒なのは……あー……あとでちゃんとやるから大丈夫だよね……? うん! 大丈夫かな! あとでちゃんとやるんだし!』


 そんな。

 溜まった書類を見なかったことにする愛らしいニャンコこと私、大魔帝ケトスが。

 もはやのんびり魔王様のお目覚めを待つだけだと、コンビニで買ったカップアイスをがじがじと齧っていた時の出来事だった。

 それは――突然やってきた。


 ズドドドドドズズズズドゴォォォッォォオ――ッ、ン!


 響く轟音。

 轟く魔力。

 私の張った魔王城周囲の結界を打ち破るほどの衝撃に、我ら魔族は驚天動地の大騒ぎ。

 大物魔族たちの声が響く。


「な……っ、一体なんなのよこれは!」

「ケトス様がまたなにかをおやりになられたのか!」

「やはりお腹を冷やすしプクプク太ってしまうからとアイスは一日二回まで、グルメ食欲大魔獣のあの方にそんな約束事をさせたのがまずかったのでは?」

「いや、待つのじゃ! これは、あの御方の魔力ではないぞよ!」


 かくいう私も大慌てしてしまった魔族の一人。

 美味しいアイスのつめたさと甘さでウットリ。歓喜に膨らませたモフ毛をそのままに、飛び跳ねていた!


『ニャニャ!? にゃ――ッ、にゃにゃにニャ! にゃにごとニャ!?』


 思わず、アンテナのように膨らむ獣耳を立て叫んでしまう。

 結界内に突如侵入してきた強力な魔力。

 敵襲か!?


 城内の結界は破られていない。

 魔王様の結界も勿論無事だ。

 侵入者はまだ城外で立ち往生しているのか。


 しかし。

 これはまずい。


 私は緊張に息を呑み、カップアイスの底を舐めながら考える。

 敵かどうかは分からないが、侵入してきた何者かは黒マナティの守りを突破してやってきた存在、ということになる。

 そんな大物がこの魔王城に攻め込んできた?

 つい数ヵ月前にも魔王城が攻め込まれるなんて事件も起きたが、攻城阻止自体は黒マナティのワンタッチで簡単に解決した。

 けれど。

 今回は違う。

 敵は少なくとも既に、外の結界を一つ破っているのだ。


 カップアイスの底に溜まっていたバニラを全部舐め切って……しばし、私は考える。


 肉球の隙間についたクリームをしぺしぺしぺ。

 うーん、甘い♪

 そっかー、魔王城。

 また襲われちゃったか。


『にゃはははははは! まさか、そんなバカな奴がまだいるとはねえ。ま、ここは冷静に。ちょう冷静に。すっごくぜったいに、冷静に対処しないと、ね』


 ……。

 ズズズ、ズドン、ドゴゴゴゴゴゴゴゴ!


 魔王城全体が、魔力の波に包まれ揺れ始める。

 これは敵の手による攻撃!

 ではない。

 なんというか、その。

 なんとか冷静さを保とうとする私の魔力が、ちょっと漏れてしまっているのである。


 しかし、私は偉い。

 二度目の襲撃なので、とっても心は落ち着いているのだ。

 クールミントなアイスカップよりも冷静なのである。

 経験が活きているのだろう。


 とりあえず現場にはもう少し心を落ち着かせてから向かわないと不味いかもしれない。

 暴走してしまう自覚があるのだ。

 召喚契約で繋がっている黒マナティ達は無事なようなので……その点だけは救いだが。

 彼らに何かあったらちょっと危なかったかもね。

 と、他人事のように頭で考える――。


 自分の事だと猫の思考を動かしちゃうと、たぶん……怒髪天モードになっちゃうからね。

 実際。

 私、かなり成長してるんだと思うよ。うん、偉い。

 さすが魔王様の愛猫♪

 ふぅと息を吐き。

 私は魔王軍最高幹部としての顔を作り――魔法陣を展開。

 魔術音声ではなく魔力による魂に直接語り掛ける伝言魔術で、幹部達に頼みごとをした。

 素直に言うことにしたのだ。


 魔王城の幹部達の心に直接、猫ちゃんの素晴らしいお言葉が届き始める。


『やあ君達、聞こえるかな? 私だよ、私。みんなの猫ちゃん大魔帝ケトスさ。さて今回、君達にお願いがあるのだけれど、聞いてくれるかな? 聞いてくれるよね、だって私ネコだもん』


 サバスくん辺りがうんうんと頷いて、ジャハルくん辺りが苦笑している姿が見なくても分かる。

 私は呼吸を切り替え、魔族幹部としての声でゆったりと告げた。


『襲撃発生の件は把握している、私は――魔王様の事で暴走してしまう可能性がある。すまないが頭を冷やしてから現場に向かうから、それまでは――頼むよ』


 ワンクッションを作り。

 本当に心の底から、普段の感謝と信頼を告げるように私は続けた。


『君たちを信頼しているが、私が行くまではあまり無茶をしないでおくれよ。もし手に負えないようだったらすぐに連絡をくれたまえ。即座に転移して、敵だか侵入者だか知らないがぶっ飛ばしてあげるからさ! あ、冗談みたいに言っているがこれは本当だからね。私は……君たちのだれ一人も失いたくないんだ、これは本当の気持ちさ。魔力による会話だから、ま、嘘じゃないって伝わってるよね。それじゃあ健闘を祈っている。さて、こんな感じかな! 私も落ち着き次第向かうから、手柄を私に取られたくない幹部達は頑張ってね~……にゃは!』


 と。

 魔王軍内部に広がるみんなの魔力。

 士気の高揚が確認できる。

 百点ではないけれど、まあ及第点だったのかな。


 任せるという判断は実際、間違っていないと思うのだ。

 この場所は魔王様の寝室に近い場所にある、もしあの方の命が狙いなら――ここからが一番対処しやすいのだ。

 それにだ。

 モフ耳をちょっと揺らして私は思う。


 私の部下は私よりも頼りになるしね。

 なにより部下を信頼するボス猫って感じで、なんかイイ感じだし!


 部下たちは、なぜかありがとうございますと喜んでいたが。

 はてさて。

 それが戦果を挙げる機会を与えてくれた喜びなのか、暴走しない努力をしてくれてありがとうなのかは分からないが。

 やっぱり、魔王軍って……いいよね。


 まあ……実際、本当に少し頭を冷やす必要はあるだろう。

 私は込み上げる魔力の渦をちらり。


 なんか、すっごい荒れ狂ってる。

 ラストダンジョンでの死闘の末、倒した後に世界を道ずれにしようとするタイプの敵とかラスボスっているよね?

 なんか、そんな感じの破壊を具現化したような魔力が可愛い私の周囲をぐーるぐる。

 いつ解き放ってくれるの?

 ねえねえ、早く壊そうよ! きっとスカっとするよ!

 と、わくわくドキドキ、待っているのだ。


 じぃぃぃぃぃっと、私は自らの魔力の渦をジト目で睨む。

 はたから見ると、自分で発生させた魔力をぶにゃんと眺める愛らしい猫ちゃんなのだが――実際はかなり危険な状況である。


 いや、君――解き放ったらとんでもない事になるからね?



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