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シグルデン攻城戦 ~ 侵入編その4~


 どうしたもんかと悩んでいた私はロックウェル卿に目をやった。

 たぶん、事情説明は……要らないだろうなあ。

 きっと。

 なんだかんだで全てを見ていただろうし。

 案の定。

 スヤスヤおねむモードだった筈のロックウェル卿が、真面目な表情で口を開いた。


『ふむ、余に任せよ。そなたらが魔女をどうにかしているうちに、神鶏ロックウェル卿として一度西帝国に転移し戻ろうではないか。話の分かりそうなあの賢者と、皇帝……ピ……ピサロ? とやらの手を借りて蘇生と救助を行おうぞ』


 鶏のくせに精悍なその貌はかつて魔帝として動いていた時のモノ。

 民間人の犠牲を少なくする。

 魔王様の意志を彼もちゃんと継いでいるのだろう。


『君、どこから話を聞いていたんだい?』

『安心せよ。余は全てを見通しておるからな。最初から全てを知っておるぞ』

『やっぱり……だったらもっと早く目覚めてくれればよかったのに……』


 ロックウェル卿は鳥目を微かに伏しながら、苦笑する。


『そうしたい所であったが、なにやらプライベートな話をしておったようだったからな。余が入るとギャグになりやすい事もある。そなたらが過去の感傷に浸っている場面で、唐揚げさんをむっしゃむっしゃするわけにもいかんし……空気を読まずに起きるわけにも、のう?』

『あー、そっか……気を遣わせちゃったみたいだね。ごめん。私はただ君がグースカクケークケー寝ているだけだと思っていたよ』

『クワーーックワックワ! 余の心遣いに感謝するとよいぞ!』


 ビシ、バシ! バサ!

 と、まーた変な舞を披露し始めちゃったよ。

 確かに。

 淡い泡沫の記憶がなんちゃらとか、二度と掴めない記憶がなんちゃらとか。

 そういう。

 ちょっとまじめなはなしをしているときに、後ろでバサ、ビシ! なんてやられていたら、この大陸ごと魔術でぶっ飛ばしていたかもしれない……。

 なんか。

 頭の中で……さっきのシリアスな場面で踊り続けるニワトリの姿が自動再生されてしまう……。


 本当、ロックウェル卿ってシリアスブレイカーだよなあ……。

 まあ、それが助かる時もあるけど。

 私みたいに、いつでもキリっと落ち着いてダンディ素敵魔族をしていれば、そこそこカッコウイイのに。

 私は舞って空気をぶっ壊すロックウェル卿をちらり。

 ていうか、よく氷漬けの人間たちの前で踊っていられるよね。

 まあ……。

 ちょっと色々と残念だけど。

 食事に汚いし、魔術で暴走するし……石化をばらまくし。

 それでも良い鶏なんだよね、卿って。


 それはともかく。

 私はロックウェル卿の翼と嘴と羽と鶏鱗を見て――。


『人質を任せられるなら、任せたいんだけど――君、私と一緒に居ないと石化能力が暴走するけど、大丈夫なのかい?』

『魔王軍の幹部達のおかげで、ある程度は平気になったからな。まあ、そなたの結界の影響が残る間はだが――問題なかろう。余も友であるそなたに、いつまでも甘えてばかりもいられないからな』


 翼を広げた卿は、片目を瞑るニワトリウインクをして見せた。

 ちょっと下手だったけど。

 まあ、そこは突っ込まないでおくか。

 私はかつての戦友としての顔で頷き、ネコのお口を動かした。


『オッケー、頼むよ。君になら、任せられる。なにしろこの私のと、とと、その……まあ、友達? だし……にゃ』


 なんか照れ臭い。

 ロックウェル卿も、ちょっと恥ずかしそうに顔を逸らして。

 余とそなたは、友だと目線を逸らしながら嘴を動かした。


『ケトスよ。ブレイヴソウルを数体借りるぞ。あやつらの能力は、余と組み合わせると治療に便利だからな』

『了解。転移してくるように伝言魔術で呼ぶから。ちょっと待っててね』


 肉球でオーケーサインをだし私は頷くが。

 ニャンコとニワトリさんの横。

 触手生物の正面で。

 顎に手を当て、ファリアル君がなぜか深く考えこんでしまっている。


 さっきからちょくちょく驚愕しているところを見ると、共に行動することで私の偉大さを更に深く実感し始めているのかな?

 まあ仕方ないけどね!

 私、えらいし、つよいし、すっごいし!


 ファリアル君は私ではなくニワトリ卿に目をやり、口を開いた。


「ブレイヴソウルと仰いますと、まさかあの……?」


『血染めのファリアルよ、主もアレを知っておるのか?』

「ええ、五百年ほど前。魔術の祖たる魔王陛下が偶然招き入れてしまった災厄、世界を壊しかねない憎悪と嘆きの魔性だと記憶しておりますが――あれは確か封印されたはずでは」


『うむ、ケトスのやつがのう……。なんか知らんがあやつらの封印を解き、黒マナティと呼び、よりにもよって眷族として使役していてのう。ほれ、おまえたちも見ただろう。集落の護衛をしていたあの黒き無貌の死霊たちだ』


「いや、軽く言ってますが……封印、解いちゃったんですか、それに、アレを使役ですか……」


 不精ひげを擦りながら彼はしばし考え込み。

 ぷすぷす~。

 頭をショートさせたようで……尊敬と混乱を含んだジト目で私をちらり。


「あのぅ……どこをどうするとそうなるんですか? ワタシも魔術の師匠に『アレだけはオマエにもどうすることもできない、けして目覚めさせるな』と、頭をぶん殴られて説教をされたのですが……。ケトス様はかなり破天荒な御方だとは思っておりましたが、まさかそこまで……」


 すんげえドン引きしてるし。

 自分以外で、常識はずれで破天荒な存在をあまり見た事がなかったのだろう。

 まあ、ファリアル君……人間としては間違いなく最上位の存在だろうしね。ぶにゃはははは! 普段は人を驚かせる側だから、驚かされるのに慣れてないでやんの!

 ぷぷぷー、めっちゃ混乱してるぅー!


「ケトスさま……常識を学んでくださいとか、言われたことありません?」

『いや、君にだけは言われたくないんだけど……。まあいいや。おーい、黒マナティ! ちょっと集合!』


 私の掛け声に、モキュキュキュキュキュと嘶きを上げ。

 空間を壊し、転移しながら集合してくるかわいい黒マナティ達。

 それはさながら漆黒のイルカショー。

 もはや私の私兵軍隊その二になった彼らは、ビシっと愛らしく敬礼してみせる。


 ケートース様! モキュ! ケートース様!

 モキュ!

 と、私を讃える怪音波までだしてくれている。

 ちなみに私兵軍隊その一は、絶賛世界で暗躍中のモフモフ部隊、スパイワンワンズである。


 私は彼等の手拍子にあわせて猫ダンス!

 ビシっと決めポーズ!

 ふっ……決まったのである!


『いやあ、やっぱり君たちはかわいいなあ!』

「ふむ……本当にブレイヴソウルですね。なんかケトスさまが頭をふつーにナデナデしていますけど、伝承では知っていたのですが実在……したのですね。いえ、まあケトス様が実在したのですから……その可能性も普通にあり得るのでしょうが。しかし、なぜ大人しく使役されて――」


 またしても。

 彼は不精髭を擦って、端正な顔立ちにハテナを浮かべまくっている。

 賢いだろう頭から、ぷすぷす~と熱の抜ける音が聞こえる。


 あ、思考を放棄したようだ。

 つまりは我の勝ちである!


 彼は混乱した自らの頭をトントンと軽くたたいて深呼吸。

 私のモフモフボディをタッチして、癒しを得ながら……ふぅと、呟いた。


「ケトスさま。これ……とても眷族にしていいレベルの存在じゃないでしょう。誰かに怒られませんでした? ……やろうと思えば一晩で世界を征服できてしまうでしょうし――」

『ニャハハハハハ! この世界は今も昔も我の手の内にある! 人類よ、世界を滅ぼされたくなければ、我においしい馳走を差し出すのじゃあ!』


 魔王様の愛猫としてのドヤ顔をしてやった。

 マフィア映画とかでボスの膝の上に抱かれている、あの高級ドヤ猫イメージである!

 だって私、魔王様に愛されるネコだし。

 ちゃんとアピールしとかないとね!

 しばし考え込み。

 ファリアル君はクールな貌を保ったまま、ロックウェル卿に向かい、ジトジトと濃い汗を流しまくり言った。


「――ケトス様って実は……かなりヤバイ存在なのでは?」

『余もその点については説教をしたのだが。まあケトスだからのう。とりあえず頭を撫でてやれ、こやつ、このドヤ猫モードの時は魔王様のペットとしての側面が強くでておるからのう。寂しがりや、なのだよ』


 クワーックワクワとなぜかとても嬉しそうに笑うロックウェル卿。

 ファリアルくんはドヤる私を抱っこすると、大きな手で包みナデナデナデ。

 あ、ゴロゴロ喉を鳴らしてしまった。

 うむ、悪くない。

 悪くないのである!


 ぶにゃ~んと緩んだ猫顔を眺めていたからだろう。

 ファリアル君の顔も緩んで、穏やかな男の顔になっている。

 きっと、あの大戦終結後に彼が人間から受け入れられていたら――きっとこんな顔立ちの優しい男になっていたのだろう。


「こんなにモフモフで愛らしくてお優しいですけど。ケトス様はこんなに簡単に、人間世界に降臨していい存在ではないような気が……しますよ」

『まあその気まぐれの降臨にお主は助けられたのだ、感謝することだな』


「ふーむ。どうでしょうかケトス様、いっそワタシと……異界に向かい、魔王様を目覚めさせる手段を探しに行きませんか? 今回の事件でおそらく、ワタシはもう、あの集落にはいられなくなりますでしょうから……寂しいのですよ」

『これこれ、余の友を軽く勧誘するでない。こやつは魔王様が目覚めるまではこの世界を動かんだろうて』


 談笑しながらではあるが、その翼は複雑怪奇な魔術印を結んでいる。

 既に彼の手に握られた世界蛇の宝杖からは、無限を示す八の字の十重の魔法陣が無数に展開されているのだ。

 ひとまず、この周囲の人質だけでも帝都に転送するつもりなのだろう。

 魔女の氷封印魔術による呪縛を解き放ち、生命維持を並行しながら、同時に転移をさせようとしているようだ。


『さて、ケトスよ。こちらは問題なさそうだ。あのなんちゃらとかいう魔女を頼むぞ』


 こんな見事な魔法陣を見せられたら、信用もできてしまう。

 卿に任せて問題なさそうだ。

 くわぁぁぁっと欠伸をしながら体を伸ばし。

 肉球をピョコピョコ。

 私はファリアル君の腕の中から抜け出し、ぴょこんと床に肉球をつける。


『うん、じゃあちょっと行ってくるね。人質、ちゃんと頼んだよ』

『あーケトスよ、ちょっと待て』


 駆けだそうとする私の頭を翼で撫で、卿は言う。


『あの女、本人も気付いていないだろうが――おそらく、別の個体名か通り名でそれなりに名を残している筈だ。この結界も我らでなければ解けぬほどに強固だからな。油断はするでないぞ』


『それはいいけど、なんか……ニワトリに頭を撫でられる猫ってすっごい違和感あるんだけど』

『クワーックワクワ! メルヘンでいいではないか!』


 なんかファリアルくんといいロックウェル卿といい。

 それに出会った人間たちもそうだ。

 大魔帝たるこの我の頭を……気安く、優しい顔をして撫でる連中が増えているような気がする。

 まあ、いいけどね。


 彼らに人質を任せ。

 私とファリアル君は王城の奥へと進んだ。

 おそらく、人質を解放したことをきっかけに動きが変わるだろう。

 ここから先はモンスターや敵が出てくるはずだ。

 そう、つまり。

 ぶにゃ、ぶにゃはははは!

 ようやく、本当にやっと!

 私の無双タイムなのじゃあああああ!



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