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シグルデン攻城戦 ~ 侵入編その2~


 ちょっとした昔ばなしが終わった頃には、魔術によるマッピングも完了していた。

 さてこれからがダンジョン攻略本番だ。

 不謹慎かもしれないが私はちょっとノリノリだった。

 立てたモフ尻尾を奮わせて、つい鼻歌なんぞを嗜んでしまう。


『ダーンジョン攻略~♪ ぜーんぶぜーんぶ、ぶっつぶせ! うにゃん!』


 ダンジョン探索って、なんかすっごいワクワクするんだよね。

 今回はファリアル君もロックウェル卿も、なんか、よくわからん触手生物もいるし。

 四人パーティなのだ。

 予備の唐揚げさんを齧りながら――肉球で地図を伸ばす。

 あ――せっかく完成した地図に涎垂らしちゃった……。

 私はこっそり周囲をチラチラ。ぐにゃは! 誰も見てないな!

 ふきふきふき……。

 あ!

 涎が伸びてじゅびじゅばぁーとなってしまった。

 まあ……問題ないだろう。

 ノリノリなのはいいけど。

 はて。

 そういや私はここに何をしに来たんだっけ……。


 ふと賢い私が考え込んでいると、外道錬金術師のファリアル君が私の顔を覗いていた。

 連鎖的に思い出すのはあのちょっと残念な魔女の顔。


『おお、そうだった! 魔女をとっちめにきたんだっけ!』

「あのぅ……もしかして、忘れかけてました?」


 ジト目が刺さるが、気にしない。

 だってロックウェル卿だって忘れかけて寝てるしね!


『にゃははは、ごめんごめん。私達って根本が獣だからね、ちょっと意識が別の所に行っちゃうと大事なことも忘れそうになっちゃうんだよね』

「それは――なんとも……」


 突っ込むべきなのか、同情するべきなのか分からないのだろう。

 ファリアル君は困っているようだ。

 血染めなんて言われているくせに、随分と甘いようだ。


「あー……すみません――安易な同情ほど失礼なことはないと承知してはいるのですが、どうもワタシはマイナス思考で――」

『マイナス思考っていうのは悪い事ばかりじゃないさ。皆が私みたいに能天気なプラス思考だと、それはそれで困るだろうしね。私、貯金とかしないで使っちゃうタイプで……つい最近まで無一文で人間の街に遊びに行ってたし……まあ、心配してくれてありがとうね』


 どうにかなるかで行動してしまうのはわりと悪い癖なのだ。

 魔王様にも叱られたことあるし。

 眉を下げ微笑んだ彼は不精髭を擦った。


「ではプラスとマイナスのコンビで参りましょうか。とはいっても、どこに向かうかですが……人質がいる場所を探すのが一番ですかね。正直、ミミズ程度の価値しかない人間を救う気はあまりないのですが……まあ、その……アレですよ。再度、人質を盾にされても面倒なだけですし……先に助けた方が良いかなあと、血染めのファリアルの戦術的には? 思ったりもするわけですが。どうでしょうか?」


 あくまでも戦術的優位に立つためですと、彼はこほんと咳払い。

 ようするに、人質を助けたいのだろうが。

 こいつ、素直じゃないなあ。

 これほどの才覚なのだ、コミュニケーション能力さえちゃんとしていれば今頃、英雄扱いされていた可能性も高いんだろうね。


『そうだね。ちょっと安全な場所を進みながら、地図で確認しようか』

『ギーギギギーギギギギ♪』


 なぞの触手生物がコンビではなく自分もいるとアピールしながら、地図を横から覗き込んでくる。

 なんか、結構……かわいいかも。

 ……。

 ん?

 いやいやいやいや、ロックウェル卿もいるから四人の筈なんだけど……。

 振り返ると。

 ファリアル君の腕の中でモコモコ羽毛をコケっと膨らませて、瞳を閉じている。


 完全に寝ちゃってるな、このニワトリ。

 まあ寒さと暗さのせいでもあるのだろうが……鶏の習性だから仕方ないか。

 しっかし。

 これで実際は世界最恐で最強クラスのチートなんだから、偶然遭遇した人間はビビるわな。

 ただのニワトリが腹を出してダンジョンや霊峰で眠っているかと思って、食糧確保に襲ったら、異次元レベルの強さで反撃してくるんだからね。

 ……。

 ゲームとかで出てきたらロックウェル卿、厄介過ぎない……?

 あ。

 触手生物がロックウェル卿の首に、新しい謎マフラーをかけ始めた。

 ちなみに。

 ここに連れてきた眷族は謎の触手生物、この子だけである。

 他の眷属たちは皆、念のため集落の守りを固めているのだ。

 まあ攻め込んでいる間に、人質が増えましたってなったら困るしね。

 なによりもだ。

 辛辣な言い方になってしまうが――私がそれなりに本気を出すのなら、正直人数が多いと邪魔になってしまうのである。


『えーと、こっちだね――行くよ、触手君』

『ギィギィ~♪』


 触手生物と一緒に歩きながら私も地図に目を通し、周囲をチラっとみる。

 敵影の赤い表示が山ほどあるが、大物の反応はいまのところ薄い。

 はてさて。

 魔女はいないか、どこかに籠っているか。

 どちらにしても近くにはいない。

 本来ならサーチなどできない場所にあるこの王城。おそらく、油断している彼女はまだこちらの侵入を察知していないのだろう。


 自分で言うのもなんだけど。

 これ。

 大魔帝の魔力と叡智で、全部の法則をスルーして無理やり侵入しちゃっただけだからね。

 これだけの守りなら油断しているのが普通なのだ。


『さて。ファリアル君の言う通り、まずは人質を解放したい所なのだが……場所は……この奥かな。敵ではない青い反応がこの奥に無数に表示されている。ちょっと異常な量だね。どうみても怪しい』


 しばらく魔導地図を眺めて、私は提案した。


『んー、今、あのオバさんはここにいないようだけど……気付かれるのは時間の問題かな。とりあえずこの隠し通路を破って、結界に侵入しよう。露骨すぎて罠の可能性もあるけど……人間の反応がいっぱいある』

「ん? なぜ隠し通路の場所が分かるのですか」

『だって、もうマッピングしただろう?』


 二人はいつかのように、互いにハテナを浮かべていた。


「歩いた場所の周囲の情報が自動的に地図に記される、マッピングの魔術を張り巡らせたんですよね?」

『何の話だい? 歩いた場所? そんな面倒なことはしてないよ??』


 しばし沈黙が走り。

 彼は、はっ……と何かを思い出したように私に言う。


「えーと……どうも話が噛み合いませんね。その地図、ワタシにも詳しく見せて頂いても構いませんか?」

『うん、ちょっと待ってねえ……うにゃにゃにゃのうにゃ!』


 亜空間から取り出した猫目石の魔杖を翳し――古い魔術なので猫語で詠唱。

 魔導地図の存在をボヤかし……複製したのである。

 さすがに自分の涎で汚れた地図を渡せる程、私は図々しくはないのだ。


『よーし、できた。はい、君はこっちの複製コピーを持ってていいよ』

「またサラっととんでもない言葉が聞こえたのですが……複製、したのですか? 今の一瞬で?」


『そうだよ? もしかしてオリジナルの方が欲しかったりした?』

「い、いえ――そういう事ではなく。そんなにあっさりと複製だなんて……ただちょっと驚いて……今のが伝説のみに語られる複製魔術ですか、そう……ですか。ワタシの求めていた魔術をこうも簡単に……少し頭が痛くなってきました」


 困惑しながらも複製されたコピーの地図を受け取った彼だが。

 マッピングされた地図を眺め――。

 再度……ビシ。

 何故か、また固まってしまう。

 あれ、完璧な地図だと思うがなんか失敗してるかな。

 なんだろうか。まあそれはいいとして……んー、どうしよう。


 ふと、私は隠し通路を抜けた先の配置を確認する。

 食堂にも近いここは――!


『ねえねえ! とりあえずここを抜けよう! ほらほら! たぶん、隠し通路を抜けた先は――食糧庫だよ!』


「えーと、ケトス様。それはよろしいのですが……」

『よろしいならいいじゃん! ほら! いこうよ!』


「先ほどからの疑問がようやく解けました……。なぜこの地図、進行していない未到達エリアまで全てマッピングされているんですか?」


 既に食糧庫に向かい足も意識も向いている私は振り返り。

 頭上にハテナを浮かべ、猫頭をぶにゃーんと傾ける。


『ん? 変な事をきくね。初めから全部わかった方が便利じゃないかい?』


 彼は頭痛を抑えるように眉間に手を当てる。


「いえ、それはそうなのですが。これ基本的なマッピングに加えて、自動で周囲のオブジェクトをサーチ、地図内にマークとして自動追尾してますよね? ――普通、ここまで完璧な地図の作成スキルなどありませんよ」

『まあまあ。もうちょっと頭を柔らかくしないと私の従者は務まらないよ? 実際、いま目の前で出来ているんだからいいんじゃないかあ。これぐらい、魔族の中じゃあ普通だよ普通』


 たぶん、魔道具にも詳しく鑑定スキルを持つ炎帝ジャハル君ならこれくらいできるし。

 ……、まあ彼も大魔帝クラスを除いたらトップクラスの使い手なんだけど。


「……いや、それは確かにケトス様の中では普通なのかもしれませんが……参りましたね。このワタシにさえも届かぬ領域にある魔術の数々……少々驚きを隠せませんよ。ワタシは……自惚れていたということでしょうか、いやしかし……これはどう考えても相手が悪いだけなような気も」


 つまり、私が凄いという事か!

 にゃふふふ、伊達に趣味でダンジョン探索をしているわけではないのだ!

 ドヤを隠し。

 私はあくまでも平然と答える。


『まあ大魔帝のマッピングだしね。それに私はラストダンジョンに登録された猫魔獣、分類するとダンジョン猫だからね。ダンジョン探索は得意なんだよ』

「それは……なんとも、まあ……そういうものなんですかね。先……進みましょうか」


 ドヤるほどでもあるまいと、モフ毛をファッサファッサと靡かせてぴょんぴょん跳ねて私は進む。

 とてとてとてと肉球足が響く中。

 魔術の基礎理論がゲシュタルト崩壊しはじめているのか、ぶつぶつと魔術理論を呟きながらのファリアル君も続く。

 私たちは転移した空間を抜け、隠し通路を通り過ぎた。


 ◇


 念願の食糧庫!

 なのだが……。

 これは――。


『んー……どういうことなんだろうね、これ』

「まるでケトス様とロックウェル卿様が通り過ぎたかのような無。空っぽ、ですね」


 いつもなら食料も容赦なく奪っていくのだが……。

 ちょっと無理そうかな。

 ファリアル君の言う通り、食糧庫は既に空っぽになっていたのである。


 ん?

 なんかさり気なく失礼なことを言われていたような気もするが、気のせいか。


「どうやら保存食の類すらも底を突いていたようですね。吹雪の宝珠の暴走による影響か、食料はもう既に尽きかけている……ということですかね」

『だね。この国、本当にもう終わりかけていたのかな。それが魔女による介入のせいか、バカと称される王族のせいかは分からないけど』


 ファリアル君はちょっと複雑な貌をしている。


「王都の食糧庫がこれでは、ワタシの集落に援助が滞っていたのも頷けますね。技術提供の見返りで食料を提供していただくという取引だったのですが……」

『そう――みたいだね。これ、人間たちを魔力で冷凍保存してなかったら全員餓死していた可能性も……あったのかな。まさかあのちょっと残念な魔女が、その辺りを憂いて氷漬けにしたとは思えないが――どうなんだろ』


 あの魔女。

 残念だし、色々とアレな女性だったが。どこかしら、人間らしさが残っていた。

 もしかして本当に……。


「まあ現状では想像する事しかできませんし、本人に聞いてみましょう。彼女が映像で見せたように、人質になっている氷漬けの人々がどこかにいるのは確かなのですから、先に進みましょうか」

『そだね』


 私たちは奥へと進んだ。

 おそらく、ここを抜けた先に人質たちが囚われている筈だ。

 まあ、罠の可能性もあるけど――見捨てるわけにもいかないよね。


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