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09 天国の扉

 洞窟に入ってしばらくは下り坂の一本道だった。

 少し薄暗いが、中には発光性のコケやキノコが自生していて視界には困らない。

 その先はドーム状の空間に繋がっており、通路からギリギリ飛び降りられるくらいの段差がある。

 俺は通路の床に手をかけてぶら下がると、ズダンと音を立てて着地した。

 これは一人で登るのは厳しそうだ。


「どんな感じ? 大丈夫そう?」


 上の通路から見下ろしながら、ニアが聞いてくる。

 なるほど、こういうことか。

 敵の姿は見えないが、あちこちに白骨死体や武器などが散乱している。

 さらにドームの最奥正面に伸びる通路からはカタカタ、カラカラと怪しげな音が響いている。


「ニアはそこで待機してたほうがいいかもしれない」

「了解」


 見回せば、通路はそこだけではない。

 高さも大きさもまちまちではあるが、横穴があちこちに開いている。

 無数の視線を感じるが、まだ襲ってくる様子はない。

 このまま先に進ませてくれるとも思えない。どこで来るか分からないがタイミングさえ分かれば対処できるはずだ。



 慎重に歩みを進め、とうとう正面通路に差し掛かろうというとき、後ろからガタガタガタッと大きな音がした。

だが奥に引き込み、退路を塞ぐこの戦法はルーンベア戦で経験済みだ。


「ヤマちゃん、ヤバいよ! どんどんスケルトン集まってきてる!」

「分かってる。その場で待っててくれ!」


 緊張で鼓動が早まるがまだ冷静だ。

 俺は即座に身を翻し、上から、横から、はたまた地面から湧いてくるスケルトンのうち、最低限の敵を切り伏せ、押しのけ、飛び越えながらニアの待機する入口通路に走った。

 当てた部分は容易に砕けるものの、こいつら意外と倒れないぞ。痛覚がないのか、怯みも少ない。

ほどなくして、この空間は骨で埋まった。

 スケルトンたちは兜や剣、槍などを身に着けているもの、丸腰のもの、見れば熊や犬のような骨格のスケルトンもいる。


 なだれこむように襲いかかってくるスケルトンの戦士たちを無心でなぎ払うが、とてもじゃないが対処しきれない。

 槍で突かれ、弓で射られながらも少しでも数を減らす。

 エリアヒールが定期的にとんでくるが、怒涛の勢いで減る体力には焼け石に水である。

 ニアのいる高台通路も完全な安全地帯というわけでもなく、横穴からの弓矢の射撃もありしばしば詠唱の妨害を受けている。


「ニア! そろそろだ!」

「わかってる! ヤマちゃん、いまならいけるよ!」


 ニアに向かって妨害射撃を加えていたスケルトンアーチャーに、ニアはホーリースラストで牽制しながら答える。

 直後、俺の身体から燃え盛る赤黒いオーラが湧き上がる。バーサクモード突入だ。

 強化されたバーサーカーの生命力が大剣に注ぎ込まれていく。死の直前までHPを絞りとった大剣が黒く輝いた。


『狂気の裁断』

『ヒール』


 スケルトンの密集した前方一帯に、生命力を注ぎ込まれた暴風のような黒の斬撃が吹き荒れ、粉々になった骨片が宙に舞う。

 さらに消費された分の体力は即座に補充された。

 魔力の集中するヒールの方が、エリアヒールより回復量が多い。

 攻撃と同時に死の淵から少しだけ離れたが、まだバーサクの範囲内30%圏内にある。


 その直後に、近接隊が壊滅したことで弾道が拓け、広間のスケルトンアーチャーの集中砲火が俺とニアに降り注ぐ。

 こんなこともやってくるのかよ。戦略性もあるなこいつら。

 避ける間もなく矢の雨を浴び、回復から間もなく瀕死になった俺にニアが再びヒールをかけた。

 俺は横穴でニアに向かって弓を引き絞ったスケルトンに目を向ける。


『ブラッディカッター』

「ナイス、ヤマちゃん」


 弓使いを仕留めると同時にニアのエリアヒール。一度割れたスケルトンの群れが空間を埋め始めた頃合いで、さらに俺の狂気の裁断が炸裂した。

 徹底されたHP管理による、ハイリスクな必殺技の連射。

 バーサク発動ギリギリの30%で撃っても、最大10%しか体力が残らない狂気の荒業である。

 微調整のしにくいこの環境では、状況を観察し先を見通す能力、シビアで迅速な行動選択、連携、タイミングなど多くの要素を求められる。

 最善の行動をとっても常に死の危険がつきまとう、レベリングというにはあまりに緊張感の伴う所業だ。

 無限に湧き続けるかと思われたスケルトンだったが、怒涛の高火力範囲攻撃の連続に、徐々に数を減らしていく。

 ブラッディカッターとホーリースラストで残党を処理していると、あることに気づく。


 広間のスケルトンが新しく湧いていない。ぽつぽつと奥の通路から出てくるスケルトンも、ついには途絶え、バーサクが解けた。

 戦闘状態が解除されたのだ。敵を全滅させた合図ともいえる。


「はぁ~……疲れたぁ~……」


 通路で座り込んだニアにいいから降りてこい、と合図するとニアが飛び降り、俺が両手でキャッチする。

 割と高さがあったが、軽いな。


「予想以上の数だったから、無限湧きだったら引き際確保できないんじゃないかと内心焦ってたわ。これ、相当いったと思うぞ」

「死ぬかと思った。私はもうやりたくないかな」


 向かい合って今回の戦闘の戦果を確認する。

 ドロップゴールドを所持金と合わせて、139万9191G。

 装備多数だが一部を除き大した代物はあまりなかった。あとで売却しよう。

 武器の方は槍と剣、弓のドロップは多かったが粗雑なものが多い。


 三本だけあった大剣のうち、二本は今まで使ってきたものと同等品。

 もう一振りは、少し刀身の幅がせまい代わりにリーチがやや長く、武骨な初期装備よりかはスタイリッシュである。

 グレートソード、切れ味係数1.2。それなりの一品だ。

 ニアから少し離れて素振りと、剣戟の型を再現して感触を確かめていると、ニアがおもむろに拳大の石を前方に投げ込んできた。

 咄嗟に下段から切り上げると、カッ、と軽い音がして真っ二つになったが、斬れたのか割れたのかよくわからない感じだ。


「いいなー、私のほうは杖のドロップ一本もなかったのに」

「あ、でもよさげな指輪あるぞ、ほら」


耐痺(たいひ)の指輪】

麻痺状態を無効化する。雷属性耐性上昇。


 麻痺状態は一定時間ほとんど身動きが取れなくなる。自力で回復する手段はない。

 もし麻痺がヒーラーに入ってしまえばパーティは相当な危機に晒されるだろう。ニアが装備していればいつか役に立つ。

 残りの装備はあとで売り払うことにする。

 次はステータス。どこまで伸びたか楽しみだ。



ヤマタ【バーサーカー】Lv28

HP 242

STR 114

VIT 58

DEX 41

INT 35

AGL 35

LUK 15

───《スキル》───

・バーサク

戦闘時HP30%以下で自動発動。攻撃力・俊敏上昇、防御低下


・ブラッディカッター

HPが残り少ないほど威力が上がる中距離攻撃。HPを少量消費して発動する


・ガードブレイク

敵のガード状態を打ち砕き、ダメージを与える。また、防御力の高い相手ほど威力が上がる


・狂気の裁断

バーサク状態でのみ発動可能。HP20%を消費して、中範囲高火力攻撃



 今回、新しいスキルの習得はなかった。レベルが一気に上がったので少しは期待していたのだが……

 ステータスの伸び方はバーサーカーという職をやっていくなら、十分バランスのとれたステータスともいえる。

 人によっては変わった成長をする場合もあるらしいが、それで詰んだという話は聞いたことはない。

 次はニアのステータスを見てみよう。隣で岩壁にもたれかかっているニアのステータスをのぞかせてもらう。



ニア【ヒーラー】Lv24

HP 201

STR 19

VIT 45

DEX 40

INT 99

AGL 34

LUK 166

───《スキル》───

・ヒール

中距離単体回復


・エリアヒール

中距離範囲回復


・ホーリースラスト

中距離単体聖属性攻撃


・ミラージュカウンター

自身に放たれた魔法攻撃の威力を軽減し、対象に受けた魔法と同等の術でカウンターを行う。

受け止めた威力に応じて、カウンターの威力には上昇補正がかかる。


・ヘブンズゲート

味方PTが利用可能なゲートで2つの地点を結ぶ。任意の地点の地面をそれぞれ触れることで発動可能



 LUK強いな。俺の10倍以上か。

 確かLUKは状態異常攻撃の成功率とレジスト率に影響していると公表されている。

 あくまでゲーム的な要素であって、運によるものならなんにでも作用するような都合のいいものではないと公式から明言されている。

 状態異常の効きにくいヒーラーがいれば相当崩れにくくなるだろう。


 一方、ニアが新しく習得した新スキル。これは強い。物理には無力であるうえ、あくまで軽減でありダメージは受ける。

 使いどころが難しく万能とは言えないが、いざというときニアなら十全に使いこなしてみせてくれるだろう。

 次にヘブンズゲート。こちらは実験してみよう。


「お、試してみる? じゃあ一か所はヤマちゃんの隣ね」


 ニアが地面に触れると、ほんのりと発光しているような気がする。よく見ればわかるが、あまり目立たない。

 そのまま小走りで広間の中央あたりまで駆けていくと、腰を低くして地面をなでる。


「このへん!いくよー!」


 その瞬間俺の隣と、遠くにいるニアの手前に青白い光の渦が出現した。

これがゲート?

 俺の背丈ほどの縦長楕円形の渦は、外周から中心に向けてぐるぐると巻き込むように青と白の光をうねらせている。

 もう一方と繋がっているらしいが、向こうの景色は特に見えない。


 謎技術に少しの恐怖を覚えたが、おそるおそる渦に向かって手を伸ばしてみる。

 怪しげな見た目の割に、表面に触れたところで特に手ごたえはないな。

 さらに手をめり込ませていくと、ふにっとした感触があり、直後に手をはたき落される。


「バカ! えっち!」


 遠くでニアが叫んでいる。

 瞬時に理解してしまった。ラッキースケベってやつだこれ。

 一緒にずっと暮らしてきて、もはや家族としての目線でしかみないと思っていた。

 しかし、ここまで直球だと普通に恥ずかしい。


 へたり込んでうなだれる俺の横にヘブンズゲートをくぐったニアが出てきて、ポンと俺の肩に手をおいた。


「そんなにしょげなくてもいいのに。大丈夫? おっぱいもむ?」


 ちくしょう、バカにしやがってよぉ!

 こんな時でもアホなことしか言わないニアに、俺の恥じらう乙女心を投げつけてやりたくなった。



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