06 最強なんだが
ルーンベアの爪を加工屋に預け、街の散策をしているとメッセージが来た。
『《ニア》からフレンド申請が来ています』
あー、あいつのキャラネーム聞き忘れてたな。多分莉和だろうが。違ったら除名すればいいか。『受諾』
直後にフレンド通話がかかってきた。
「あ、オレオレ! 今から指定する口座に……」『プツッ』
とっさに切ってしまった。間違いなくあいつだ。直後に再度通話がくる。仕方ない、相手してやるか。
「なんだ、金ならやらんぞ」
『ごめんて、タケちゃんいまどこいるー?』
「あー、ファースの街のギルド前あたり。あと、ここではタケちゃんやめろ。キャラネームに所以がないあだ名は、関係や身元が割れかねん。ネットリテラシーな」
『ヤマタ……じゃあヤマちゃん!』
「どっかのお笑い芸人みたいな呼び名だな。まあいい。どうせクレイゴーレムを杖でペチペチ殴って、飽きたあたりだろ。とっとと来い」
『なんで分かるの? 今行くよー』
程なくしてニアが来た。アバターはだいたいリアルそのままで二つ結びのピンク髪か。白いローブに杖というオーソドックスなスタイルだ。
一瞬身バレしないかと不安になったが、いざとなったらしらばっくれれば断定まではできないだろう。
アバターを自由変更できるのに見た目が「似てる」くらいでリアルまで特定できる他人はまずいない。
知り合いや芸能人に似せたとか、たまたま似てしまったというケースがあるからだ。
設定次第じゃ声や性別まで偽れるからな。
「ごめーん、待ったー?」
「いまきたとこだ。それはそうと、運命の女神に会いにいくからついてこい」
「まじ? 女神様に謁見できるの? すごいねぇ!」
悔しいが、こいつの運の良さはとびぬけている。
なんでもかんでもうまくいくというほどではないが、大きな賭けになるとめっぽう強い。
そもそも専用VRヘッドギアも高校生が買うにはちょっと敷居が高い値段だが、懸賞であっさり当ててしまった。
なんとか爪ガチャでそのご利益にあやかれないものか。
「おっちゃんアレできてるか?」
「お、ちょうどあがったとこだぜ。なんだい、彼女つれてきたのか?えらいべっぴんだな!」
「べっ別に彼女なんかじゃ……」
迫真のテンプレ反応だ。照れ臭そうにしているが、俺には分かる。ただの演技だ。
ニアは突然真顔になったかと思うと俺の耳元でささやいた。
「……あ、あのー、まさかとは思うけど、このおっさんがヤマちゃんの言ってた女神様?」
「人を見かけで判断してはいけませんと先生に習わなかったか?」
女神様がカウンターの上に差し出したのは白地に赤い模様の入った短剣だ。
反りのある刀身に沿って、背から伸びる陽炎のような赤は紋章のようにも見える。
禍々しくも鋭く、美しい。
手に取ってみると、見た目以上に重い。骨のようでいて、鉄に近い重厚感がある。
間違いなく業物だ。装備して使いこなせないのが口惜しい。
見とれる俺と、脇からのぞき込み感心しているニアの反応を見て、満足気におっちゃんが解説する。
「短剣としちゃ、会心の出来だ。なまくらは作らねぇが、いくらか調子によって差はでる。スキルの方は珍しいが……どうだろうな、使い方次第だろう」
【ルーンダガー】
切れ味係数 2.0
《スキル:幻影》
祈りを込めることで、自身の幻影を発現させる。幻影は自立して行動するが、視覚のみでしかモンスターやプレイヤーに干渉することはできない。
時間経過、もしくはあらゆるダメージを受けた時点で消滅する。
いや、これは便利ではあるが……戦闘中に隙をみて使えば撹乱にはなるな。
戦力にはならないし、あらゆるダメージということは、ウィザードやヒーラーがポコンと杖で殴っただけで消えるのだろう。
確かに強いとも弱いとも言い難い。
「おっちゃん、ありがとう、また頼むな!」
おっちゃんは軽く手を上げ俺達を見送ってくれた。その足でギルドに向かう。
扉をくぐると、入口付近でやたらセクシーなウィザードと相席していた、派手な白鎧の銀髪ナイトが、おい、と声をかけてきた。
この鎧、確か課金アバターだ。あれの一式ともなれば、けっこうな値段だった気がする。
ナイトは席を立つとそのまま俺たちの前に立ちふさがる。細身だがけっこうデカいなこいつ。
「そこのヒーラー。自慢じゃないが、俺は伝説の最強装備をしている最強のナイトなんだが。パーティに入れてやってもいい」
「いや、私はでもぉ……ヤマちゃんと一緒に……」
ニアがもじもじと弱気に答えた。
お前、そんなキャラじゃないだろ。
押せばいけそうと思ったのか、ナイトはさらに畳みかける。
「そんな雑魚装備のバーサーカーより、俺のほうが絶対強いんだが。パンチングマシンで100とか普通に出すし。俺についてきた方が為になることは確定的明らか」
「うぅ……、怖いよぉ~……。ヤマちゃん助けてよぉ」
ニアが不安そうな表情を作ってチラリとこちらを見る。肩が震えているが、多分笑いをこらえてるやつだ。
相変わらず役者だな、こいつ。
どう収拾をつけようか考えていたところで、後ろで頬杖をつき、事態を眺めていたウィザードが見かねて助け船を出した。
「ねぇ、ロント。その辺にしときなよ。その子怖がってるよ」
「……俺は心が豊かなので、彼女の嫉妬にも余裕の心くばりができる。この謙虚さが人気の秘訣。もう勝負ついてるから」
ロントとやらは俺に指を突き付けると、自分の席に戻っていった。なんの勝負がついたんだ……。
俺たちはロント達から一番離れた席に座り声をひそめて話し合う。
「──バカ! 絶対関わっちゃダメな奴だろ、目をつけられたらどうする!? あんなの相手にすんなって」
「だってさ……しょうがないじゃん。あんなお約束乗るに決まってんじゃん。ホントならヤマちゃんが華麗に立ちはだかって、ぶっとばすとこまでがワンセットじゃないのぉ?」
「そんなヒロイン願望捨てちまえ! ……それでニアのステータスは?」
「あー、こんなかんじ?」
ニア【ヒーラー】Lv1
HP 50
STR 3
VIT 6
DEX 5
INT 11
AGL 5
LUK 18
───《スキル》───
・ヒール
中距離単体回復
ん? 妙にLUKが高い気もするがこんなもんなのか?
まぁ、他は予想通りだ。
「OK。それでこれからの予定だが……」