20 光と闇が合わさり
「……勝者、にゃまたのおろち!!」
たけしは一瞬あっけにとられていたが、思い出したかのように宣言した。
「いい試合だったわ。あなたたち、とっても面白いわね」
復活したアイリスがさし出した手を俺はぐっと強く握り返した。
「そっちもすごい強さだった。連携に隙がなさ過ぎて本気で負けるかと思った」
俺はちらりとロントに目を向けたが、ロントは少し離れたところで背を向けたままうつむいていて、表情は見えない。
「あの人、ものすごく負けず嫌いなのよ。そっとしておいてあげて。…………あんまり大きな声で言えないんだけど、ああ見えて裏では凄い努力家なのよ。確かに見栄っ張りなところもあるけれど、全然根拠のない自信ってわけでもないの。まぁ、どこまで本気で言ってるのか分からない発言も多いけど、そんなところも含めて一緒に冒険していて面白かったのよね…………」
そこでアイリスが少し寂しげな顔でうつむく。
「どうしてそんな……ここで終わりってわけでは……」
「いえ、……実はね、あの人子供っぽいようでいて、ああ見えて働いているみたいなのよね。別に、リアルでの知り合いでもなんでもないんだけれど」
俺と、近くで聞いていたニアが目を丸くする。
「嘘でしょ、絶対、中学生かそこらの男の子かと思ってた」
「……それでね、リアルの都合で明日から当分ログインできないんですって。繁忙期とかかしらね。彼っていつもあんな調子だからあんまりはっきりとした言い方はしなかったけれど、多分彼の言葉を要約するとそんなところ。そんな中、たけし君の誘いを聞いて、相当はりきっていたわ」
ロントが会社で働いているイメージが全然つかないのだが。いったいどこまでがオモテでどこまでがウラなのか。彼の本性は最初から冒険を共にしてきたアイリスですら、いまいちつかみきれないといっていた。
「ずっと一緒にやってきた仲だし、寂しい気持ちはあるわ。ただ、彼はいずれここに戻ってくる。そんなときまた、ゲームのどこかで彼を見つけて、また味方になるか、ライバルになるか分からないけど、プレイヤーとしてSROの世界に再び迎え入れてあげられるようにしておきたいと思ってる。だから私は冒険を続ける。だけど、私としての一番は、これからも面白くゲームがしたい。それだけ。彼と組んだ理由もそれだったから」
確かに、ロントといれば退屈しないだろう。俺はちょっと、精神が持ちそうにないのでお断りなのだが。
「それで、あなたたちと戦ってみて思ったの。ロントとパーティを解散したあとも、あなたたちと一緒に冒険ができたら、きっとものすごく面白いんじゃないかなって」
アイリスはそういうと少し照れ臭そうに微笑んだ。
「まだあなたたちには決勝戦が控えてるし、ロントもトーナメントの最後まで行く末を見届けると思う。返事はあとでいいわ。試合がんばってね、期待しているわ」
アイリスはそう俺たちを激励すると、ロントのもとに駆け寄って、彼の肩をポンと叩いた。
「これ、決勝戦負けられないぞ」
「下手すると、やっぱり私たちの対戦相手の方が面白そうだったとか言いだしかねないね。面白いからって理由でロントとパーティ組むくらいだもん」
そしてついにトーナメントの決勝。
案の定、勝ち進んできたのは、主催者たけしの『たけし軍団』であった。
俺は準決勝の賭けで手に入れた大剣レーヴァテインを振るい、感触を確かめる。
炎のような赤い刀身に、白銀の刃が縁どられた荘厳な装飾の大剣である。
少し角度を変えるだけで、光の反射が刃こぼれひとつない刃をなぞるように照らした。
今まで使ってきた大剣とは明らかに格が違う、一級品の業物であることは一目で分かる。
俺たち『にゃまたのおろち』が提示したベットは、現在の全財産にも近い334万G。
さらに、アサシン、リゼの需要を狙った、ルーンダガー【幻影】である。
ルーンダガー【幻影】は、序盤に手に入れた武器ではあるが、短剣のスペシャリストであり、隠密や撹乱を得意とするアサシンにとって、幻とはいえ、自身の分身を作り出すレアスキルまで使えるこの短剣は、喉から手が出るほど欲しいものだろう。
さらに、攻撃ヒット時のダメージ判定にプラス補正がかかりやすくなる【クリティカル率上昇】は、アサシンの攻撃スタイルとの相乗効果が高い。
あくまでたけしとリゼは一時共闘なので、個別で交換条件を決める。
まず、たけしが提示したのは瑠璃色の宝玉である。
武器屋から得た情報だそうだが、セコンの遥か北西部に広がる、森の最深部に潜む、樹木の魔物【エルダートレント】の素材と組み合わせることでウィザードとヒーラー兼用の杖が作れるそうだ。
かなりの僻地まで遠征したとき、仲間と共に苦労して手に入れたが、作ったところで杖はパーティメンバーが誰も装備できないうえ、トレント戦までの道のりが険しいので素材のまま持て余していたらしい。
要求ベットは334万G。次のイベントの資金源にしたいそうだ。
しばらく悩んだ末、リゼが提示したのは魔眼の指輪。霧や暗闇などの視界の制限をうけず、物陰に隠れたモンスターやプレイヤーの気配がぼんやりと見えるようになるそうだ。アサシンなら絶対に手放したくないアイテムのはずだ。
悩んだところを見れば、絶対というほどではないが、結構な自信があるとみえる。
たけしが前にでて、声を張り上げる。
「私はどのようなときであろうと、手を抜いたことがありません! 主催の立場ではありますが、決勝戦、一切の忖度なしで臨ませていただきます!……あ、リゼ準備いい? アイリス! 合図よろしく!」
「我らがリーダー、たけし主催、トーナメント決勝戦!『たけし軍団Vs.にゃまたのおろち』……試合、はじめ!!」