02 まったく、今時のゲームときたら
俺は半壊した神殿の中央に立っていた。
選んだ職業はバーサーカー。兜は無しで、黒い全身鎧の大剣装備。
背中の鞘から得物を引き抜き、構えてみる。
背丈ほどもある、幅広で武骨な形状の片刃大剣である。
しばらく思うまま振り回して感触を確認する。
ゆっくり振るうくらいなら片手で扱えなくもないが力が乗らない。実践的な速度と威力が必要なら両手で扱うのが無難だろう。
巨大で重厚な見た目と、ずっしりとした感触の割にここまで振り回せてしまうのが面白い。
SROでは基本的な太刀筋は自由である。資質や練習、ステータス次第で通常攻撃の威力や命中率が大きく変わる。
俺はまだ一つもアクティブスキルを習得していないが、太刀筋だけではどうにもならない部分を補うのがスキルらしい。
ただ強い斬撃、素早い連撃というのなら、通常の動作で十分ということだ。
誰しもが職に応じた基本スキルをあらかじめ所持しているが、その他のスキルの習得条件は明らかにされていない。
『ステータス』
ヤマタが使用をイメージすると正面に文字列が表示される。
ここで自身のステータスの確認と、アイテムや装備の管理ができる。
スキルも含めてこういう感覚で使えるのは助かる。これまでのVRゲームは技名をいちいち叫ぶのが恥ずかしかった。
ヤマタ【バーサーカー】Lv1
HP 50
STR 12
VIT 6
DEX 3
INT 3
AGL 4
LUK 2
───《スキル》───
・バーサク
戦闘時HP30%以下で自動発動。攻撃力・俊敏上昇、防御低下
STRは物理攻撃力、VITは物理防御力、DEXは器用さ、INTは魔法攻撃力と魔法防御力、AGLは俊敏、LUKは状態異常の成功率や抵抗確率に影響するらしい。
レベルアップに応じて職の特性や、プレイスタイルによってステータスは自動成長する。
任意でステータスを振り分けることはできない。
ステ振りに失敗して詰む人が出ないようにするための仕様である。
自由なステ振りを望むプレイヤーも少なくないが、この仕様も誰もが感覚的に楽しめることに主眼が置かれている。
今身に着けている鎧は飾りに過ぎない。プレイヤーのVITが物理防御力の全てなのだ。
ゲーム内通貨や課金などでアバターの変更ができるが、どれも特殊効果や防御力はない。
武器のほかに装備できるのは一つだけ着用できる指輪の枠のみ。
ただし俺はまだ指輪を持っていない。
DEXは、自由な挙動ができるVR内において曖昧な概念である。
公式情報によると本来のプレイヤースキルに補正が入り、意図した動きが正確にとりやすくなるという。
特に、点を穿つような繊細な攻撃が必要とされるレンジャーやアサシンではかなり重要になってくるだろう。
AGLも似たようなものだ。例えばAGLが100ある人が、走っている姿がAGL4の俺にとっては残像しか見えないなんてことはないはず。
そんなことになったら、プレイヤー自身の感覚も追いつかず壁に激突するしかない。
移動や攻撃速度の補正程度のものだとみていいだろう。
武器は高級なものほど、攻撃力や魔力、スキルの発動速度などに高い補正がかかる。
打撃系の武器の威力は本人のSTRに直結するが、切断系の武器は切れ味係数と本人の STRをかけ合わせた数字が実際の攻撃力になる。
しかし最も大事なのはどこにどうヒットさせるか、である。
攻撃に勢いがなかったり、ヒットした角度が悪かったり、当てた部位が硬すぎたのでは高い攻撃力もたいした意味をなさない。
俺のはバスターソード。バーサーカーの初期装備だ。
切れ味係数は1.0。特殊効果は特にない
革新的とはいえ、時代はまだまだVR黎明期。全てが試行錯誤の段階だ。
しかし試行錯誤の中でも一つ確かな事がある。
SROも人間が人間を楽しませるために作ったゲームであるという事だ。
SROは直観的なイメージや意志表示だけで現実でできる動きは全て再現できるし、現実では不可能な摩訶不思議なスキルも実現できるが、ゲームである以上「なんでもできる」などありえない。
地理も物理法則も分からない未知の世界で、「好きにして」と言われたらユーザーは困惑するしかない。
そもそもゲームの中で自分にできることを知らなければ、プレイヤーとしては行動のしようがないのだ。
具体的に何ができるか知りたくても、鈍器のような厚さの説明書や、煩雑な攻略サイトを読まなければ理解できなければまともに遊べないのでは意味がない。
かといって長々としたチュートリアルがあってもライト層はうんざりするし、理解も追いつかない。
そんなよく分からない状況で、たまたまうまくいった人だとか、運動神経のいい人だけがド派手に無双するゲームは万人向けとは言えない。
要するに、たとえ多様性やリアリティを損なうとしても、ゲームを楽しむためには制限が必要なのだ。
誰だってゲームの中くらいは主人公でありたいと願う。現実で自分が主人公だと思える人が一体どれほどいるだろうか。
誰でも、努力さえすれば自分の物語の主人公になれる。このゲームはそういう作品だ。
神殿には特に何かがあるわけでもなく、一面の野原に城壁へ続く石畳の一本道があるのみである。
道を歩いていると草原にぽつぽつと人影が見えたが、冒険者じゃないな。
クレイゴーレムだ。
ちょうど脇の地面が盛り上がり、粗雑な泥人形が身を起こす。
試しに抜刀からクレイゴーレムを肩から袈裟切りにし、ダメ押しで胴体に横一閃。
前にやったソロゲーと比べて、イメージと動きのシンクロ率が段違いだ。
三分割になったゴーレムはあっさり地面に溶けていった。
視界の片隅にログが流れたが、手に入った経験値とゴールドは雀の涙。弱すぎる。
VRゲームに初めて触れるようなガチ初心者の遊び相手ポジションなのだろう。へっぴり腰のプレイヤーがあちこちでゴーレム相手に苦戦している。
だめだ、こんなことをやっていたら他の先発隊に先をこされてしまう。
石畳の道を急ぎ城壁と着くと、門は開け放たれていた。出入りに制限はないようだ。
2人の衛兵が剣の泥をぬぐっていた。
そのうちの一人が声をかけてくる。
「新しい冒険者だね。この門をくぐった先がファースの街だ。冒険者の出入りは自由だよ」
出た。ゲームの定番、街の名前紹介おじさん。