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16 足の小指に心臓

 俺の血呪槍によって、全身を抉るように貫き通されたサソリは、即死。

 地面に溶けていく死体を確認してからニアが語りかけてくる。


「ヤマちゃんのあの技、怖すぎ……、私も体力けっこうもってかれたんだけど……いきなり変な技使うからびっくりしちゃった」

「久しぶりの新スキルにテンション上がってな。ヤバそうだと思ったが、好奇心を抑えられなかった」

「犯罪者みたいなこと言わないでよ……」

「いいんだよ。いつかは試してた。それにしてもこの砂漠どこまで続くんだ……」


 熱風とギラギラした直射日光に支配された殺風景な砂漠を歩きながら話していると、延々と続いていた砂丘の先にとうとう目新しい景色が現れた。

 一際大きな砂丘を登り切ると、見えたのは次の砂丘ではなく広大な平地だった。一気に開けた視界の中心にぽつんと取り残されたような街が見える。

 2番目の街、セコンだ。

 オアシスの湿気を帯びた涼やかな風に乗って聞こえる街の喧騒と、新天地に着いた高揚感に同じ景色ばかりで鬱屈していた気分が和らぐ。


「セコンは本当にあったんだ……」

「デマじゃなくてよかったな。この段階じゃ、来てみなきゃ真相はわからん」


 ここからは街の全貌を俯瞰できた。

 砂レンガで作られた塀の中に、同じような砂レンガの建物がごちゃごちゃと建てられている。

 正直どれがなんの施設なのか、ちょっと見ただけでは分かりづらい。看板で判断するしかないな。

 街の中央にはオアシスがあり、砂っぽいモノトーンの街の景色をいくらか彩ってくれている。

 砂の丘を滑りおり、街に近づくと地面はきちんと固められていた。

 安心した。砂漠に入ってからは一歩一歩が砂にめり込んでずっと歩きづらかった。街の中まで同じだったらどうしようかと思っていたところだ。

 ファースの街の門の守衛は剣を携えていたが、セコンの守衛はかなり長い槍だ。付近のモンスターに合った装備をしているのだろう。


「セコンの街にようこそ。君らはファースから二人で来たのかい?」

「そうですけど、二人って珍しいんですか?」

「珍しいね、特にバーサーカーとヒーラーのコンビでこの街に来たのは君達が初めてだ。しかもまだ余裕がありそうに見える。単純に戦力と安定感のある四人組とか、アサシンやレンジャーみたいな俊足で斥候、隠密が得意な職の二人組はよくくるんだが……君達は一味違うようだ。歓迎するよ」


 照れ臭くなって頭の後ろをかいていると、横にいるニアが守衛に問いかける。


「この街に冒険者はどれくらいきてます?」

「んー、ここの門以外からも出入りはあるから正確な数は分からないが、冒険者ギルドの酒場はそこそこ繁盛してるようだよ」


 ニアがほっと胸をなでおろす。


「良かった。それなら酒場に行けば良さそうだね」

「ああ、一人も仲間が見つからないなんて事は無いだろ」


 別れ際、衛兵に軽く会釈すると頷いて持ち場に戻っていった。


 さて、まずは情報収集だ。

 セコンの街は入り組んでいるように見えて、意外と冒険者にはやさしい作りになっていた。

 門から入ると大通りがまっすぐ通っていて、冒険者にとって主要な建造物が大体そろっている。

 細かい路地があちこちから伸びているものの、丘の上から見て知っている。奥は迷路同然だ。

 大通りの真ん中、街の中心部にはオアシスが広がっており、それをはさんだ向こう側にあるのが冒険者ギルドである。

 オアシスの周囲に茂った草木を迂回してギルドの前まで行き、扉を開けた。

 ファースの街よりかは少ないが、それなりに賑わっている。

 建物内に入ると、何人かの冒険者が興味深そうにこちらを見てくる。

 装備が充実している冒険者も多い。


 あたりを見回すと、見覚えのある白銀の鎧の背中が……

 向かいのウィザードとはちらりと目が合ったが、気づかないフリをしてくれた。


「どうする……? 出直す……?」


 前回はノリノリで相手をしていたニアだが、今回は露骨にめんどくさそうだ。

 しかし、ロントがいるだけで逃げ回るというのはこれからの自由な活動に支障をきたす。絡まれたらその時だ。多少気を付けるが、堂々といこう。

 にぎやかなギルド内でも、ひときわに盛り上がっている集団がいた。

 木箱の上に乗ったレンジャーの前に20人くらいが集っている。

 レンジャーはパンパンに膨らんだ金貨袋を掲げると、高らかに宣言した。


「よーし、おまえら! いまから対人戦(PvP)すっぞ! 優勝賞金は300万ゴールドだ! 参加制限はPvP資格最低値のレベル20以上、PT構成は二人一組のトーナメント式だ! 参加条件を満たしてるヤツなら誰でもいい。やりたいヤツは手ぇ上げろ!」


 うぉおおおおお!!

 皆がわきたち、口々に騒ぐ。


「さすがタケシ! 太っ腹だな!」

「レベル足りてないから、優勝予想の賭博会場でも用意すっかな」

「弱そうなヤツにあたったらふっかけちゃるわ。優勝までいかなくても搾り取ってやる」

「黄金の鉄の塊でできているナイトが他職に後れをとることはありえない」


 タケシとかいうレンジャーは、沸き立つ冒険者の挙げられた手を数える。


「1,2,3……全部で13人か。半端だな。とりあえずお前ら二人組くめー」


 まてまてそれはやっちゃいけないやつだぞ! 奇数なんだって奇数!公開処刑かよ!


 言わんこっちゃない。

 結局、小柄な黒装束の銀髪アサシンの女の子だけが泣きそうな顔でそわそわとしている。いたたまれないんだが……


「じゃあお前、俺とペアな」


 主催者も参加するのかよ! 先生と組まされる感覚なんじゃないかと思ったが、パァッと輝くアサシンの笑顔を見たら何とも言えない温かい気持ちになった。

 そんな様子を眺めていた俺たちに、唐突にタケシのデカい声が向いた。


「おい、そこのバサとヒーラー、お前らも参加しろ。どうせやるなら16人にしたほうがやりやすい。どうせレベル20くらいはあんだろ!」


 なぜレベルがバレる? 装備も普通だし、特に外部からレベルは表示されない仕様のはずだぞ。

 しかし、PvPの仕様をあまり理解していなかったのでとりあえず様子見のつもりであったが、正直うずうずしていた。

 ニアもそんな顔をしている。


「参加したいのはやまやまだが、PvPの経験がない。仕様も知らん。説明があれば考える」

「めんどくせー。あー、そうだな。アイリス! 説明してやれ!」


 人込みからスルッと抜けて現れたアイリスは、ロントと一緒にいたセクシーなウィザードのお姉さんだった。


「ふふっ、また会ったわね」

「俺らと話してて、相方のナイトは嫉妬したりしないか?」

「ああ見えてあの人、芯の部分では意外と常識的なところがあったりするのよ。必要な会話を妨害しようとまでは考えないわ」


 信じられない……ただの迷惑プレイヤーかと思ってた。


「それじゃあ本題。PvPの説明ね。タケシが言ってたように、PvPの機能はLv20で開放されるの。それまでは決闘を挑むことも受けることもできないわ」

「なるほどな、挑む、受けるということは両者の合意をもって戦闘が可能になると」


 さすがに通り魔が横行するような殺伐したシステムでなくて安心した。


「そういうこと。決闘が始まる前に、お互いのプレイヤーは任意でアイテムやゴールドをベットすることができるわ」


 なんてこった。今回の大会、動く金額は300万Gどころではないぞ。熱くなった決闘者たちがどれほどの賭けをしだすのか想像もつかない。


「任意……賭けるものが未知数すぎて逆に怖いんだけど。どう決めればいいんだろ」

「自分の自信だったり、金品の価値観でベットのバランスを決めて、決闘するプレイヤー同士が合意することで賭けが成立するの。もちろんアイテムは勝者の総取りになるわね」


 なるほど。それなら強さの違う人同士が戦う理由にもなる。強さを誇示したいだけなら勝って0G、負けて10万Gなどといった賭けも成立しうる。

 いや、待てよ。


「一対一ならともかく、今回の大会は2対2だよな」

「そうね。最大4人同士、計8人でのPvPまでありえるけど、誰が何を出し合うかだとか、戦利品の配分をどうするのは味方同士の相談って形になるわ。揉めにくいからって理由でゴールドだけのベットがメジャーではあるけど。アイテムを賭ける場合は、配分のしやすさを考えて、追加のゴールドで調整するのがいいんじゃないかしら」


 さすがに何人も絡むと面倒くさそうだな。



「それじゃあ、賭けはせずにただ戦うことは可能なの?」

「そういうのもアリね。腕試しやトレーニングとして、実際に賭けなしでのPvPはよく行われているわ。負けてもデスペナルティはないし、勝った側にはいくらか経験値も入る。PvP中にスキルを習得したって話もよく聞くわね。ちなみにアイテムは使えないわよ」


 ギャンブル的要素はあるが、賭けなしで自由に戦うこともできるし、ハマる人も多いだろう。

 俺は今まで攻略のことしか考えてなかったが、今回の大会はめちゃくちゃ楽しそうだと思う。


「あ、そういえばまだ言っていないことがあったわ。PvPの会場だけど、街中ではできないわ。一般人の邪魔になるリスクがあるから、運営が制限してるの。闘技場であったり、フィールド上に一定区間の結界を張って、その空間内で戦う場合もあるわ。戦闘中、結界内には部外者は侵入できないし、中に干渉もできない。観戦はできるけどね。あえて複雑な地形を指定して、よりテクニカルな戦闘を楽しむ人もいたわね。まぁ、説明はこんなところかしら」


 脇から何人かの冒険者が一緒にアイリスの話を聞いていたが、感心したようにうなずいていた。

 よく知らないのは俺たちだけじゃなかった。


「お、終わったか? じゃあおめーら、闘技場いくぞー!」


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