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15 血の洗礼

 俺たちが砂浜を進んでいくと、海岸線が右手にそれていくのがみえた。

 掲示板によると、セコンの街はひたすら東に直進した先にあるという。

 やがて、海岸の砂浜を抜けると殺伐とした砂漠が広がっていた。

 爽やかな海岸線から一転して暑苦しい空気が漂い始める。

 この気候の変化は不自然すぎる。仕様なのか、なんらかのからくりがあるのか判断はつかなかった。

 風紋が織りなされる緩やかな砂の丘陵を進むうち、野生のラクダを見つけた。

 サボテンを呑気に食べているラクダも俺達を見つけ、歯をむき出し威嚇してくる。

 攻撃してくるか……?  剣の柄に手を伸ばし身構える。

 しかし俺もラクダも動かない内に砂中から音もなく巨大なミミズが飛び出してラクダを丸のみにした。

 なんだそりゃ!?

 巨大ミミズはラクダ一頭で満足できなかったらしい。蛇が鎌首をもたげるように俺達を睨み、耳障りな黒板を引っ掻くような鳴き声を発すると黄色の霧を吐きかけてきた。

 酸だろうか。

 かわそうと思ったが、まき散らされた範囲が広い。

 攻めるか、退くか。少し迷ったが、このミミズの質感、斬撃がよく通りそうだ。攻撃対象がニアに向くのはできれば避けたい。

 万が一失敗してもニアのサポートがある。

 霧の薄い部分を縫って斬りこみに行こうとしたが、直前で体の自由が利かなくなる。

 麻痺ときたか……!

 麻痺耐性指輪のあるニアはホーリースラストを打ち込み、ミミズは少し身をよじった。


「ヤマちゃん、いまさっき覚えたやつ! リフレッシュ!」


 ニアが杖を握り祈りを込めると、身体が軽くなるのを感じた。

グッジョブだ。即座に大剣を薙ぎ払い、ミミズは真っ二つになって崩れ落ちた。

 先に進もう。


「ヤマちゃんまって、死体消えてない! まだ生きてる!」


 うん? ピクリともしてないが死んだふりか? ストンストンと輪切りにしてみるが、反応はない。首をかしげていると、音もなく砂から飛び出たミミズになすすべなく丸のみにされた。


「ちょっ」


 視界が暗闇につつまれ、ねっとりとした食道の感触に不快感を覚える。

 強い圧迫感と自分の身体が溶けていく痛みに耐え、無我夢中で大剣を目の前に突き立てると光が差し込んだ。

 そのままねじ切るように大剣を捻り、体内から脱出するとともに俺はずしゃりと巨大ミミズと一緒にに崩れ落ちた。


「こいつの中、スゲー臭かった」

「はぁ~、こんなヤツにヤマちゃん殺されたらどうしようかと思った。何こいつ、2匹いたの?」


 二つの死体が同時に地面に消えていく様子を見ながらニアが思い立つ。


「分かった! こいつら地面で繋がってたんだ。両側に頭があってそれで一匹。分裂して各自動けるようになるわけじゃないから魂? 抜けた方が動かなくなったとか」


 東に向かって歩きながら反省会をする。


「いまいちしっくりこないけど、そういうことなのかね。さほど強くもなかったけど、両端引っ張り出さなきゃ倒せないってのはなかなか面倒だな」

「多分だけどね、縦に裂くとかして、斬って分断させなければそのまま削り切れてた。体力は共有してるから。強力な魔法でしとめるとか、いろいろやり方はありそうだね」


 話しながらどこまで続くかも分からない砂漠を、街を探しさまよう。

 さらに次の砂漠の丘をのぼりきった先に先ほどのミミズをむさぼる体長10mはあろうかというサソリが遠くにみえニアがげんなりした。


「うげぇ~、砂漠に入った時点で絶対いると思った。気持ち悪ぅ~」

「そうか? サソリかっこよくない? 俺は好きだぞ。男のロマンだからな。それはともかく、あのサソリは少なくともあのミミズよりは生態系としては上位ってことだよな。まぁ捕食シーンを見るまでもなく一目瞭然なんだが。苦戦するかもしれない。間違いなく毒針はある。俺は聖銀の指輪があるからいいが、ニアは特に気を付けるように。立ち位置はいつもの布陣で」

「りょーかい、いっちょやってやりますか!」


 俺が先陣をきって、斜面を下っていくと、大サソリはこちらに気づき大きな鋏を振り上げ威嚇した。

 戦闘開始だ。


 サソリとの正面からの戦闘は危険だ。2本の頑丈そうな鋏に高く構えられた尻尾の毒針。あらゆる攻撃が予想される。

 後ろに回り込もうとすると、隙なくこちらに正面を合わせてくる。

 これでは攻め込む余地がない。

 向こうが激しく攻めてくるのならむしろ反撃の糸口になると思ったが、むしろサソリのほうがカウンターを狙っているようだ。

 ならば、こうしようか。

 ニアなら俺の意図を察してくれるはずだ。

 俺は、そのまま一定の距離を保ちつつ、サソリをはさんで対極に移動する。

 そのタイミングでニアのホーリースラストがサソリの尾の付け根あたりにヒットした。完璧なタイミングだ、ニア。

 反射的に振り向いたサソリの足元にすかさず飛び込んだ俺は、4対8本の足のうち左後ろ2本を切断。

 最大の武器である尾を狙う手もあったが、頑丈そうな甲殻をまとった付け根を確実に斬り落とす自信がなかった。それに比べたら足などヤワなものだ。

 バランスを崩したサソリの腹に、全力の斬り上げで畳みかけ、バックステップで離脱した。ニアの   ちょっかいへの反応速度をみれば、瞬発力がいかに高いか分かる。

 間もなく態勢を持ち直したかどうかというタイミングで、開いた鋏を横なぎに振りかぶりつつ俺に向き直る。

 先をとって回避行動をとっていた俺は鋏に捕まることもなく、間髪入れず一瞬で迫りくる尻尾の毒針を寸前でガードすることに成功する。

 そして、再び膠着状態へ。


『スキル:血の洗礼を習得しました』


 なんつータイミングだよ。都合がいいときだったり、どうしてもというときでも来なかったり。

 神様の運営はきまぐれだ。今だって膠着はしていたが、ピンチかといえばそうでもない。

 俺は大剣を正面に構え、精神を統一した。

 俺の足元から、血のような茨模様が砂漠の広範囲まで広がっていく。血液が吸い取られるようだ。

このスキル、イカれてる。

 俺は大剣を大きく後ろに引き、サソリに向かって、渾身の力で大剣を投げつけた。

 サソリは投擲された大剣を鋏で弾こうとしたが、予想外の行動だったのか反応が若干遅れた。

 近接職が武器を投げ捨てるなどありえない。

 あるとしたら、トドメか、回収の見込みがあるときだけであるはずだ。

 大剣は鋏にかすり、火花を散らしながら首の付け根に突き刺さった。

 血の紋章に吸い取られた生命力と、大剣の刺さったサソリの首からあふれ出る生命力が俺のもとに集中してくる。

 聖槍とも神殺しの槍ともいわれる、血塗られた槍、ロンギヌス。

俺の手に形成されていく武器は神聖なものではなく、呪いの象徴だった。

 血呪槍(けつじゅそう)ロンギヌス。捻じれた赤黒い血色の槍を構えると、全力でサソリに向かって投擲をする。

 投擲された血呪槍は衝撃波を放ちながら、2重に重ねられた分厚い鋏のガードを貫通したあげく、頭から胴体を抜け、地面に突き刺さり、溶けて血の染みとなって消えた。


【血の洗礼】

一定時間、戦闘中の敵味方全員から継続的にHPを吸い取る。

発動時間中、術者が与えたダメージと、吸収されたHP量に応じた威力の投擲槍が使用可能になる。


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