13 お布施を頂きましょう
SROにログインすると、暗闇だった視界に色がともり、徐々に鮮明になってくる。
気が付くと、聖書台の前に、黒いローブを纏い、銀のロザリオを首からかけた神父が立っていた。
「……あなた方はここに来るのは初めてのようですね」
あなた方……隣を見るとニアがいた。約束通りログインして、同じくここにスポーンしたようだ。
前回はネクロマンサーたちになすすべもなく殺され、自動でログアウトさせられた。
神父にコクリとうなずき、続けられる言葉に無言で耳を傾ける。
「この世界では、全滅した冒険者は等しくここに運ばれることになっています。冒険者でない多くの人々はそのまま朽ち果てるか、アンデッドとなりさまよい続けることに……痛ましいことです。しかし、神の祝福を受けたあなた方とて、死は平穏なものとは言えません」
平穏でないもの……さっきから気になっている、まとわりつく紫の靄のようなものがデスペナルティということだろうか。身体が怠い。
「冒険者にとっての《死》とは呪いのようなものです。あなたを殺したモンスターに、生命力を奪われ、ステータスが大幅に低下します。試しにご覧になりますか?」
ニアと二人でステータスウィンドを開くと、HPの最大値からSTRまで軒並み死ぬ前の1/10以下になっていた。
「呪いのようなものと私は言いましたが、積み上げてきた経験が失われたわけではありませんし、時間をおけば徐々にもとの状態に戻るでしょう。……しかし、あなた方は強すぎる。全快まで24時間といったところでしょうか。」
そんな時間、待っていられない。街でぶらぶらするか、格下のモンスターとたわむれるしかないのか。
「すぐに冒険に出かけたいのであれば任意ではありますが、我々の教会では、お布施を頂くことでペナルティを軽減する儀式を行うことが可能です。呪い、とあえていいますが、それを解くには特殊な聖水などをはじめ高価なアイテムを消費しますし、私どもからしても経済的、身体的な負担が少なくありません。特にあなた方のような高レベルの冒険者では一層厳しいものとなるでしょう。ヤマタさんは33万G、ニアさんは28万Gでお引き受けしましょう」
資金は潤沢だ。確かに高いが、背に腹は変えられない。神父に解呪を任せよう。
「それでは胸の前で指を組んで、目を閉じてください」
軽くなった身体で、ニアと歩きながら、ギルドに向かう。道中完了したクエストの報告だ。
「デスペナけっこう痛かったな」
「うん、下手に死に戻ってを繰り返してたら、資金もすぐ尽きて、あっという間に何もできない身体になっちゃう。ネクロマンサーのことは気がかりだけど、まずは力をつけてからだね。あの余裕で向こうが手の内を全て見せていたとも思えない。前回の教訓をもって多少対策したところで返り討ちにされると思う」
「クエスト報告したら次の街に行こう。あいつらと戦ってみて、身に染みて感じたことがある。2人じゃあまりにもできることが少ない。雑魚相手はともかく、格上複数を相手どるには頼れる仲間が必要だ」
「それは私も思ってた。誰かアテがあるの?」
「……ない! ここは初心者の街だ。強いやつはとっくに先に進んでいるだろ。次の街で地道に探そうか」
ギルド内に入り、ロントみたいなやつがいたらどうしようかと思ったが、他のパーティは各々の談笑に夢中で特に問題は起きなかった。
ギルドのクエストカウンターで、報告を済ませていく。
【火吹き草10体の討伐】
報酬
7万G
ファイアストームの呪文書
【ゴーレム1体の討伐】
報酬
12万G
身代わりの石人形
ゴールドの方はまぁ妥当なところだろう。アイテムの詳細が気になるな。
【ファイアストームの呪文書】
詠唱なくファイアストームを即時発動できる。威力は使用者のINTを参照とする。
使用後、このアイテムは消滅する。
【身代わりの石人形】
このアイテムは所持していることで効果を発揮する。所有者が死亡したとき身代わりとなって破壊され、所有者のHPを半分まで回復する。
どちらも使い捨てアイテムではあるが、十分便利だ。どちらもニアに持たせておけば、うまい感じで使ってくれるだろう。石人形の保険はいざというとき相当心強いものになるはずだ。
蹂躙されているようなときは無駄遣いにしかならないだろうけど……いかん、トラウマが……。
ファースの街の南は初期スポーン地点の神殿、その裏は切り立った崖の下に海が広がっていた。
西は俺がルーンベアと戦った森。北は洞窟。どの方面もさらに進めば何かあったのかもしれないが、俺たちが向かうのは東だ。
掲示板の情報によれば、セコンの街はとりあえず行ってみるにはあまりにも厳しい道のりだとあったが、さすがにこのレベル、熟練度で死ぬことはないだろう。
あれ、この感じ、前にも……?
…………死なないよね?




