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10 レベリングは手段

「さぁ、ここで、今回の遠征の第一目標である超効率レベリングを完遂したわけだが」


 俺とニアの二人は、最後までスケルトンが湧き出てきていた奥の通路の前に立つ。モンスターの気配は近くにないが、通路の向こうはさらに暗く、禍々しい空気を感じさせる。

 長い道のりを経てここまで来たのだ。

 先人がたどり着けなかったこの先に一体なにがあるのか。恐怖と同時に冒険心がくすぐられる。


「行こう」


 ニアが俺の顔を見上げて言った。俺は頷き、暗闇へと足と踏み出す。

 強さとは、それを活用してこそ意味があるのだ。レベリングそのものが目的ではない。

 強敵に立ち向かうための手段なのだ。

 通路は奥へ行くほど闇が濃くなり、振り返ると遠くに広間の明かりが小さく見えた。


「だめだ、思ってたより先が長い。光るキノコを持ってこよう」

「無理だと思う。さっき広間から持って来ようとしたんだけど、摘んだ途端に光らなくなった」

「あー……このまま進むのは……いや、最悪ヘブンズゲートで逃げるか。ニア、ポイント頼む」

「了解」


 ニアが触れた地面が仄かな光を帯び、ヘブンズゲートの出現ポイントを示す。しかしゲートの光はとても光源として活用できるものではない。


「はぐれないように手でもつなぐ?」

「いや、そうするといざというとき俺が大剣を振れない。俺の肩に手を当てて、後ろからついてきてくれ」

「わかった」


 俺は迷わないよう、左手を壁に当て、ひたすらに前に進む。

 道はうねり、やがて完全な闇に包まれる。方向感覚も距離感も分からなくなり引き返そうか迷い始めたころ、ようやく明かりがみえてきた。

 洞窟の出口か?



 (ひら)けた洞窟の壁には火の灯った燭台が一定間隔でならんでいた。

 スケルトンの群れがいた場所が野球場くらいだとすると、ここはバスケットコートくらいか。さほど広くはない。

 そんな中、異彩を放つのは粗末な木造の家。


「人が住んでるの? こんな洞窟の奥深くに?」

「いや、入口が一つとも限らない。燭台に火があるってことは誰かが管理してるってことだ。家は木造だし、近くに物資を補給する出入口用の通路があるとみるのが普通だと思う。魔物がここまでするとは思えないし、SA実装以来、おそらくここはプレイヤー未踏の地。NPCがいるはずだ」

「NPCがいそうってのはわかるけど、ゲーム内の補給とかどこまでリアルなのかは分からないよ」

「それもそうか」


 一応ノックをしてみるが、反応はない。鍵はかかっていなかった。

 扉をうっすらと開き、様子をうかがうが、人の気配はない。家の中に足を踏み入れると、ギシィと床が鳴った。

 二人して跳び上がりそうになるが、床が抜けるほどでもなさそうだ。

 部屋の中央には簡素な机と椅子があり、その上に吊るされたランタンが灯されているが、家具はほとんどない。

 そのかわり壁一面には本棚がびっしりと並んでいる。

 一冊手に取って開くと、魔法陣や紋章、解読不能な文字がびっしりと描き込まれていた。 いかにも怪しげだが、アイテムとして認識されることはなく、呪文が習得できるというわけでもなさそうだ。演出用のオブジェクトだろう。

「ウィザードでも住んでるのかな」


 横から覗き込んでいたニアが呟いた。

 どうにも引っかかる。これがゲームとしたら、過酷な道中の先に大した成果も得られない部屋を配置するはずがない。お宝か、敵か。何かがあるはずだ。

 結局家の中からはめぼしいものは見つけられず、外に出る。扉を開けると正面に小柄な老人が立っていた。


「うわっ(きゃっ)、びっくりしたー!」


 二人は声をそろえて跳び上がりそうになったが、老人は石像のように固まって動かない。

 老人とはいっても、全身は黒いローブで覆われており、顔すら布の影に隠れて分からない。猫背をみてそう思っただけだ。みすぼらしい装いに不釣り合いな黄金の杖をついている。

 黄金の杖には豪華な装飾が施されており、柄の先端に刻まれた髑髏の死神と美しい天使が絡み合うような彫刻に、思わず見とれてしまった。


「ここの家主の方ですか?」


 老人は俺の問いかけには答えず、おもむろにカツンと杖で地面を突くと、コツコツとゆっくり空洞の奥へと杖をつきながら歩みを進める。


「ついてこいってこと?」

「多分な」


 やがて老人は、巨大な魔法陣の描かれた観音扉の前に立つと、ようやく口を開いた。


「……ワシはな、護り手なんじゃ」


 男性かも女性かも分からない、しわがれた声で老人は語り始める。


「ワシはあの時若かった。冒険者としてこの世に解き放たれ、仲間とともに世界を駆け巡った。お前さんたちのようにな」


 ニアと顔を見合わせる。

 一体何を言い出すんだ? 不信そうな顔をしたニアが先を促す。


「続けてください」

「ウィザードとして、ずいぶん多くの敵と戦ったよ。魔物だけではない。傲慢なナイト、高飛車なレンジャー、強欲なアサシン、卑怯なヒーラー…………。時に共闘し、時に競い合い、あの時のワシは輝いていた。定期開催されていた闘技大会では、ワシのいるパーティは連戦連勝。実を言えば、これもその時の優勝景品じゃ」


 老人はくるりと杖をひねる。公式大会の優勝景品。高貴な黄金の装飾を見ればとんでもない代物であることは聞くまでもなく明白だ。


「ただな、ある時を境にだーれもおらんくなった。ワシはいつものように仲間と次の待ち合わせを決め、別れた。そして宿で目を覚ました時、妙に街が静かでな、いつまでたっても仲間は待ち合わせにくることはなかった。それどころかその日から冒険者と誰一人として出会うことはなかった。武器屋の親方も、ギルドの受付嬢も平然と日常を送っているというのに」





「孤独になったワシは魔術の研究に明け暮れた。自分に残されたのはそれしかなかったからの。そして実験、応用、実践を繰り返すうち、自分の倒した魔物を使役する業すらも習得した。倒した魔物……いや、殺したか……。魔物使いなどではない。ワシが至った境地は、ネクロマンサーであった……。魔物の特性を知っているかね。魔物は戦闘に勝利するたびに強くなる。人間や魔物を誘い込む罠を作り、とうとう最強の魔物を作り出した! ガシャドクロ。スケルトンの最上位種だ!」


 だんだんと語気を強め、熱く語り始めた老人に恐怖を感じた俺は、大剣に手をかけ、問い詰める。


「要するに俺たちはガシャドクロのエサってことか?」


 呼吸を整えた老人は、再び穏やかな口調になり寂しげに話を続ける。


「……そういうわけじゃない、ワシの役割は護り手と言ったろう。最強の仲間を作りだしたと思ったが、ガシャドクロは違った。目に映る生物すべてを蹂躙する狂気の怪物だ。ワシとて例外ではない。ここまでたどり着くくらいだ、お前さんらもかなりの手練れだろうが、アレにはかなわんよ。最恐(さいきょう)の悪魔を作り出したワシは生涯をあいつの封印に費やすことにした。手放しにすればワシを含め皆殺しだからの」


 なんだ? この老人は本当に強力すぎる魔物を封じ込めているだけなのか? ただ一人この世界に残された上、自由すらも失った。

 あまりにも哀れな話である。しかし……………


「ガシャドクロとやらとの手合わせには興味はあるが、封印を解いて負けたら地上世界は壊滅ってことか、下手に手を出せないな」

「ワシとて自己責任とはいえ、封印に余生を捧げることにはいささか不満はあってな、ガシャドクロの討伐を画策しておる」

「読めてきたぞ、俺らと組んでガシャドクロを倒すんだな?」

「そんなところかの。スミス! カロリーナ!」


 老人の合図とともに、はちきれんばかりの紫色の筋肉をした巨漢ゾンビと、赤い水晶の杖をつがえ、中世の貴婦人のような衣装に身をつつんだスケルトンウィザードがどこからともなく現れた。





「奴らを殺せ」


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