魔法少女失格
急な電子音。
まだ覚醒しきっていない脳を、無理矢理起こす。
眠たかったので、少し強めに目覚まし時計を叩いて止めた。
「んにゃ」
重たい体をゆっくり起こし、眠気まなこをこする。
「ちょっと愛稲!何時だと思ってるの!?」
「んー......?」
目覚まし時計を見ると、時間はとっくに七時を過ぎていた。
やばい。セットするの間違えてた!
「遅刻遅刻ぅ!!」
家の中はもう、ドッタンバッタン大騒ぎ。
仕方が無いので食パンを咥えて、まるで少女漫画の始まりみたいに家を出るのであった。
「ひっへひまーふ!」
「はいはい。行ってらっしゃい」
私の名前は雷雲時 愛稲、普通の中学三年生!
もう受験生なのだけれど、また遅刻しちゃったみたい。
あーもう、サイドテールが綺麗に結べてない!
こうして食パンばっか咥えてる毎日だけれど、私にとってはそれが至上の喜び!
きっと私は、食パンを咥えて毎日遅刻するために生まれてきt「もうちょっとやめてッピ!僕の魔法少女だッピ!?」
「いーじゃねぇか別に、減るもんじゃねぇし。どうせ『あの曲がり角で、運命の人と出会っちゃったらどうしよう♡』なんて思ってんだろ」
「どの時代の話しだよ......あと、その裏声やめてくれないかピ?気持ち悪いッピ」
「あぁ、悪い」
それを言うならお前の語尾も、充分気持ち悪いけどな。
俺達は空高くから、その少女、雷雲時 愛稲を見ていた。
こいつは違う。俺の魔法少女では無い。
「はぁ、それにしても。これから死ぬことが分かっているってのに、何も出来ないなんて気分が悪いッピね」
そう。
この少女はもう時期死ぬ。
それが分かっていて、俺達は追っているのだ。
俺達は、人間からして一番わかりやすく言うと、妖精みたいなものだ。
魔法少女を作るのが仕事。
そしてその魔法少女ってのは、死人から選ばなくちゃいけないという決まりがある。
どうせ死人なら何やっても構わないからとか、そんな理由だろうがな。
ちなみに死ぬ時期は、こちらで予め分かる。
俺達の頭の中に、これから死ぬ少女の記録がデータとしてなぜか残っているのだ。
「ちょうど三人、同じ学校に通っている奴だからな」
「うん。失敗は出来ないッピ」
まぁ、失敗なんてのはほぼ無い。
少女ってのは、みんな大体魔法少女に憧れている。
これは男でも、魔法が使えるってのには憧れを持つだろう。
それに、魔法少女になるデメリットが無い。
「あ」
ドゴーンっと、鈍い音が聞こえた。
どうやら、例の少女が車にはねられて死んだようだ。
こうして見ると、人間の死というのは随分と呆気ないものだな。
「ほら、行ってこい」
「任せるッピ」
魔法少女になる条件は、二つある。
一つは、生き返ること。
もう一つは、職務をまっとうすることだ。
職務とか言うとちょっとお固いイメージだが、要するに魔法少女として悪魔と闘えってことだ。
それ以外もあるけどな。
「やぁ、僕はホイッピーッピ。ギューっと抱きしめるッピ」
どうやら始まったようだ。
少女が死んだ後、すぐに魔法で結界を作り、二人だけの世界に入る。
二人というか、一人と一匹かな。
そして、何とか説得して魔法少女になってもらうって流れだ。
っと、もう終わったようだ。早いな。
事故現場は魔法でなんとか隠蔽し、怪我も治しておく。
「ふぅ。もの分かりのいい子で良かったッピ」
「良かったな」
「それじゃあ僕は魔法少女の説明をしてるから、また明日ッピ」
それがめんどくさいんだよなぁ......
「次は私マロ」
おっと、すっかり忘れていたぜ。
俺達は、三人で組んでいる。
俺、ホイッピー、マシューだ。
ホイッピーはよく喋るが、マシューはあまりお喋りではないので、忘れてしまう事がある。
「確か、郡山 麗葵。だっけか?」
「そうマロ。大人しめで、少し冷静な子らしいから、嫌って言われるかもマロ」
そんなことはないと思うがな。
俺達はその麗葵って子の所へと行く。
郡山 麗葵の死因は、自殺。
友達が特にいないという訳では無いし、いじめられているわけでもないのだが、単に自分への劣等感や、ストレスだと思われる。
しかし、自殺の最もな理由として、中学生にしては考えにくいが、親への配慮。にしてはやりすぎなのだが、親に迷惑をかけないよう、お金を自分のために使わなくてもいいように、家族の為を思って死んだらしい。
だが、それは返って家族を困らせたり、悲しませることになるというのを知らないのは、やはり中学生と言ったところか。
「発見マロ」
飛び降り自殺。
それも橋からか。
どうかその勇気を、魔法へと変えて欲しいものだ。(我ながら良いこと言った)
長い髪の毛、サラサラのロングヘアーが風になびいている。
目をつぶっかと思うと、両手を広げてそのまま身を重力に任せた。
「それじゃあ行ってくるマロ」
「あぁ」
それじゃあ、俺で最後だな。
俺の担当はこれまた中学生の少女。
というか、さっきも言ったが三人の友達中から選んだから、魔法少女三人とも仲がいいことは確認済みだ。
園静 園姫。
魔法少女ものの主人公にしては少し大人しい気もするので、脇役かな。
真っ黒なショートヘアー。これは、ショートボブってやつなのか?よく分からんが、そんなような髪型だ。
......というか、どこにいるんだ?
さっきから全然見つからない。
情報は事前のもので、まだ目で確認出来ていない。
時間が無いんだ。魂がまだ残っているうちに掬わないと否、救わないと。
「お、あれか?」
いた。
ギリギリセーフのようだ。
倒れているので、恐らくもう死んでいると思うのだ......が......!?
「おいおいマジかよ......」
死因は他殺。
マフィアか何かに絡まれて、運悪く死亡だと思っていたのだが......
場所は路地裏。
たしかにマフィアはいた。いかにも麻薬取引をしていそうな見た目だ。
だが、どれも血だらけで倒れている。
まるでドミノ倒しのように、バタバタと列になって死んでいる。
その最後尾なのか最先頭なのかは知らないが、一人の少女が倒れていた。
「まさか......な」
少女も血まみれだった。
黒髪ショートの、中学生。
園静 園姫だった。
血の水たまりの中に浮かぶ体。
その体には刃物や銃弾を受けており、とても助かる見込みはない。
そして、少女の手にはナイフ。
ナイフを持っていたのだ。
逆手に持っていた。
それだけで、自らに刺さったナイフを抜いた訳では無いということが分かる。
つまり、相手にしていた。
一体、何人殺ったのだろうか。
ここに倒れている死体の数だけでも、百は優に超えている。
一人で殺ったのか......?
「いかんいかん。早く契約をしなければ」
俺は園姫の元へ近づく。
「......ゥウ」
「ッ!?」
ま、まだ生きてやがる!
どれだけタフなんだ。
この少女。いや、化け物は。
「おい」
「......ぐ」
だが、息があるだけで目も開けられていない。
いずれ出血多量で死ぬな。
なら、もう始めてもいいよな。死んだも同然だよな。
俺は魔法の結界を張った。
「もう大丈夫だ。楽にしてやる」
「......まだ、だ............まだ、私は............ッ」
本当にすごい生命力だ。
だが、そんなに頑張ることは無い。
今すぐ楽にしてやる。
俺は結界の中へ入れた。
死んでいないのであれば、傷を治して意識を回復させるだけでいい。
「ッは!」
「お、起きたか」
「......」
警戒しているようだ。
「大丈夫。俺はお前を助けてやった命の恩人だ」
「命の、恩人?」
「そうだ」
「......ありがとうございます」
素直な子だ。
というか、あんまり驚かないんだな。
なんだか、俺だけ驚かされたようでなんか嫌だな。
「ありがたいですが、帰してくれます?」
「ん?」
「いや、命救ってくれたなら早くこの謎の世界から元に戻して」
「嫌だ。命を助けた代わりに、お前は魔法少女になれ」
「嫌」
は?
「今なんて?」
「嫌だと言ったのよ人外。耳ついてなさそうね」
「ちゃんと聞こえとるわ。なぁ、なりたくないのか?魔法少女」
「興味無い」
くぁっ。
マジでめんどくせぇ。
あー、完全にハズレくじ引いちゃったよ。
もう。
「......」
「......」
「なぁ。お前人殺すの好きなのか?」
「好き?私がそんなイカれているように見えるの?」
「見え......ないね」
「勘違いしないで。さっきのはここ一週間ほどずっと闘い続けていた結果に過ぎないの。私はれっきとした殺し屋。殺人鬼なんかと一緒にしないで」
「あ、あぁ」
なんだ?
何か変なプライドがあるみたいだな。
「......どうしたものか」
「......」
「............魔法少女になれば殺しが簡単になるぞ」
「魔法少女ってのは人を殺しても良いものなの?」
「いや、良くないわ。悪い」
今のは失言だった。
「なら、人じゃないなら?」
「ん?」
「魔法少女ってのは、人じゃないんでしょ?闘うの。なら、私はそいつらを殺す。それならいいわ」
「と、言うことはまさか?」
「なってあげるわ。魔法少女に」
ぃよし!!
なんだかよく分からないが、どうやらその気になってくれたようだ。
「私は園静 園姫。殺さないと生きていけない人よ」
殺さないと......?
まぁ、そこは何かしらの事情があるのだろう。
今は魔法少女誕生日の喜びを分かち会おう。
「俺はストロガノフ。お前の担当だ。よろしくな」
「へぇ、美味しそうな名前ね」
そうなのか?
全くわからん。
「あなた、何者なの?」
「俺?俺は......」
正直、自分でも自身が何者なのか分からない。
年齢すらも分からない。
「じゃあまず、年齢を教えてくれるかな?」
と問われれば、
「数えるのもめんどくさい、妖精です」
と言うだろう。
まぁ正確には、覚えていないだけなんだがな。
だから、いつの間にか生まれていて、いつも間にか存在しているもの。
「妖精さんだ」
「へぇ」
納得するんかい。
「よろしくね、ストロガノフ......ちょっと長いわね。ガノフでいいかしら?」
「あぁ、まぁ問題は無い」
「ならガノフ。よろしくね」
「おう」
こうして、俺の魔法少女の妖精としての生活が始まった。
なんだか、魔法少女選びに失敗したような気もしなくもないが、まぁいいだろう。
さて、明日二人と合流だ。
それまでに、少しくらい魔法少女の説明でもしておこうか。