少年は、大航海に旅立たない -4.994-
船底を拳で軽く叩いてみた。
コンコンッ と軽い音が返って来る。
(なるほど、船底は広い空間になっているわけか)
私は少年――ではなく、その後ろの荷物の山を見た。
(あの辺りに、入り口が用意されているんだろう)
私が一歩前に踏み出すと、少年は身構えた。
「く、来るなよ。カナエさんは嫌がってるじゃないか!」
「さっきも言ったように彼女を待ってる沢山の人がいる……時間がないんだ」
「じゃ、じゃあせめて話を聞いてあげてよ。なんか仕事で嫌なこととかあったんじゃないかな」
「では、それを聞くためにも……まずはカナエに会わせてくれないか?」
私がそう言うと、少年は後ろを振り返った。
暫し何かを考えていたようだが、やがて口を開いた。
「じゃあ、カナエさんに聞いてみるから……そこから動かないでね」
「分かった、約束しよう」
少年は、大航海に旅立たない -4.994- -終-