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02.十年前、その後

 天祢誠哉。

 本当の両親を亡くした後、私たちの両親に引き取られた私のもう一人のお兄ちゃん。

 濃い色の髪が多い人間族の中にあって、誠哉お兄ちゃんの鈍い銀色の髪はこと目立った。だけど、彼の優しい人柄に触れた村人は、その珍しい髪の持ち主を自然に仲間として受け入れてくれた。

 獣を一人で打ち倒すことができる強い剣士であるということも、守備隊を持たなかった村が彼を受け入れる理由の一つとなった。そして、子供たちはみんなお兄ちゃんに憧れた。

 男の子はお兄ちゃんみたいに強くなろうと修行に励んだし、女の子はかっこいいお兄ちゃんのお嫁さんになりたいとみんな思ってた。


 誠哉お兄ちゃんを含めた村の大人たちが山に登って三日後、都から派遣された調査隊がやっと到着した。遅い、何故もう少し早く来なかったと文句を付けながら、お父さんは彼らを他の大人たちが登っていった山へ案内した。私はやっと誠哉お兄ちゃんが帰ってくるものだと思い込んで、元気一杯に一行を見送ったことを覚えている。

 たどり着いた場所で彼らが見たモノを、死ぬまでお父さんは私に話すことはなかった。成長した後にお父さんから話を聞いた疾風兄さんも、その内容に関しては口をつぐんでしまっている。それくらい、凄惨な状況であったということなのだろう。

 ただ、帰ってきた調査隊は口重く告げた。

 あれは誠哉お兄ちゃんが『邪』と内通して起こした、生け贄の儀式だった可能性があると。

 その証拠として差し出されたのは、お父さんが自信作として作り上げた誠哉お兄ちゃん専用の鎧花。文字通り鎧となる花――血に染まり、赤い花になったそれを呆然と見つめる私たちに、調査隊はさらに付け加えた。お兄ちゃんの鎧花を、証拠品として分解調査すると言い出したのだ。

 それを止めたのは、まだ幼かった私たち兄妹のわがままとお父さんの抗弁だった。


「誠哉はそんな子じゃない。それはあの子の親だった俺が一番よく知っている」


 お父さんは誠哉お兄ちゃんの父親としてそう主張し、私と疾風兄さんは誠哉お兄ちゃんの鎧花を渡すまいとしっかりしがみついて離れなかった。時間がたち、固まりはじめた血で服が汚れたけれど、私もお兄ちゃんもまったく気にしていない。幼心に、ここで手放すと二度とそれが戻ってこないと感じていたのだろう。

 さすがの調査隊も、いい加減にしつこかったこの人間族の親子には観念したのかあきれ果てたのか。鎧花に付着していた血をサンプルとして都へ持ち帰るにとどめてくれた。

 その後調査隊は守備隊として村に常駐することが決定し、私と疾風兄さんはそれぞれ修行を始めた。その過程で私は誠哉お兄ちゃんの鎧花を修復し、いつか彼が帰ってきた時のためにこまめに整備を行っている。

 サンプルの調査結果は、数年たって守備隊への入隊を果たした私たちに対してやっと公開を許された。

 見せてもらった結果は――『詳細不明』。あまりにも証拠が少なすぎ、さらに目撃者も皆無であるため、誠哉お兄ちゃんが『邪』と内通していたという事実を導き出すことができなかった、との記述だった。

 ただ、『卵』が孵らなかったのは事実らしい。誠哉お兄ちゃんの捜索は重要参考人としてだけれど継続して行っている、とエンシュが教えてくれた。

 それはそうだろう。

 『邪』とは生きとし生けるものにとっては宿敵とも言える存在。

 それを滅ぼすためにこそ、鎧花は開発されたのだから。

 力を持たない人間族の『力』として。

 弱点をカバーするための『鎧』として。

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