お、おい。もう帰ろうぜ…
私は今、絶体絶命のピンチを迎えています。
「ねぇ、包み隠さず言ってくんない?椎原くんとどういう関係なの?」
「今なら許してあげるからさ。…ね?」
「白状ーしてくんない?」
私の目の前に現れているのは、クラスで派手な女子のグループ達。
そのリーダー格である鎌倉さんが、私を問い詰めていている。…正直に言います、めちゃめちゃ怖いです。
OK、言うから落ち着いてください。その殺意の視線をやめてください。ビビりな私にこれ以上刺激しないでください、おねがいぃいいいい!
「ひ、ひぃいいい!」
高校生になって私、叫びまくっているような気がするが気のせいであってほしい。
まず、なぜこうなったかを話そう。
事の始まりは10分前ぐらい。
ビビりながらも椎原くんたちと一緒にアトラクションを回った時、お化け屋敷に行きたいという提案が出た。
私はお化けより男子の方が怖いと思う人なので、別に構わないと承諾した。
野乃葉は少し嫌がっていたけど、せっかくの遊園地だし行こうよ!と私が誘ったらOKしてくれた。
森重くんは興味なさげだったし、提案者である椎原くんは楽しみにしていた。
ここまでは、まだいい。
不気味な音楽が鳴り響いているお化け屋敷は、洋館だった。洋館ってホラーの定番だし「これは絶対子供が入ったらトラウマ確定だろうなー」とその時の私は呑気に考えていた。
四人一緒でお化け屋敷に入った時、思った以上に周りが暗くてあまり見えなかった。
「うわ、思った以上に暗いな…」
「…寒い」
男子二人のリアクションは、薄かった。
しかし、椎原くんは少しテンションが上がっていて「はやく、お化けでないかな?」と言い、私たちより先に進んでいた。
提案者の椎原くん。ここはジャングルじゃないんだから、お化け捕まえてー!というその目をやめなさい。
「とととっと、永久!こ、怖い!もう帰ろう!」
「野乃葉、それをいうなら『お、おい。もう帰ろうぜ』でしょ」
「何言ってるの!?こんな時に冗談やめてよ!」
いや、そんなマジにならなくても…。
とあるホラーゲームの名台詞を言って笑いを取ろうと思ったけど、ダメだった。
今の野乃葉は御乱心のようだ。下手な刺激はよそう。
「にしても、ほんと暗い…」
お化け来てもわかんないかもしれないこれ。
洋館だから、お化けはやっぱりヴァンパイアとかゾンビとかかな。ベダだけど。
「それとも、洋館だからジェイソンとか出るのかな?」
「それ、お化けじゃなくて殺人鬼でしょ!?こ、怖いこと言わないでよ!」
「え、ジェンソン出るの!マジで!?」
「出ねぇよ。あと出てきたらお前何する気だよ」
椎原くんのことだから、捕獲してホッケーマスクを取ると思う。でも、マスク取ったら多分後悔するぞ。マスク取った方があれ怖いし。
「さっさとここから出よう!ほらあそこに案内が書いてあるし!」
「せっかちだな…もう」
しかし、私が無理に誘ったこともあって少し罪悪感がある。壁際には血文字で書かれた案内があり、怖さを演出している。凝っているね。
えーと何々「この先右」。ふむ、次は右に曲がればいいのか。
「…へ?」
廊下の曲がり角を曲がった時だった。
後ろにいる誰かに、腕を掴まれた。
「…ちょ!?」
そのまま私はずるずると後ろに引っ張られ、前にいる三人の距離が離れていった。
これも怖さの演出!?にしては少し乱暴なんだけど。
三人は気づいていないくて前進んでいるし、てか気づけよ!薄情だな!あんた達!
「の、ののはぁ――むぐ!?」
「静かにして」
声を出して呼ぼうとしたら、口を塞がれた。
いやこれ絶対演出違う!何、誘拐!?私、海外に売り飛ばされるの?
「んー!むぐー!」
「私たちは、話に来ただけ。質問に答えれば返すから」
拒否権はないんですか!強制イベントなんですか?
抵抗したが私は力が弱いのでそのままずるずる後ろに引っ張られ、お化け屋敷にあった何も仕掛けのない部屋に連れていかれた。
「はい、もういいよ。喋って」
「ぷ、ぷは!だ、だ誰なんですか!?いきなりこんなことをするん何て!」
自由の身となった私は、後ろに振り向き姿を確認するとクラスメイトの女子が複数がいた。…名前?わからん!けど一人だけ、知っている人がいる。
「春ちゃん。立花さん連れてきたよ」
「そ。ありがと」
私を連れてきた人が、腕を組み堂々と立っている威厳ある女子に話しかけた。
「か、鎌倉さん?」
「急にこんなことをして、ごめんなさい立花さん。…すこしお話しない?」
「お、お化け屋敷で、ですか?」
「そ。ジメジメしているあなたとお話するに、最高の場所ではなくって?」
それは誉め言葉として受け取っておきますね。
「ジメジメっというか、陰湿?」
「ふふふ、それ、一緒じゃん」
彼女の嫌味の言葉に、複数の女子がくすくす笑った。
私の目の前に現れているクラスの女子、鎌倉 春。
長い睫毛に、ウェーブの掛かった髪。モデル体型に女子である私も惚れてしまうぐらいだ。
彼女はクラスの女王であり、クラス、否、学年の美女として有名だ。
そして、椎原くんを狙っていることでも有名だった。
「話というのは言うまでもなく…わかるよね?」
「…椎原くんのことですか?」
「そ。あなた一体どんなことをして彼を誑かしたの?」
これはまた、ひどい言われようだ。
何も答えることが出来ないままでいると、取り巻きの女子たちがしびれを切らして私に質問攻めして来た。
そして、現状に至ります。
「だから、どんな関係なの?」
「そ、それは、その。うーん」
告白された、告白した関係なんて口が裂けても言えん。
ましてや、私が椎原くんを振ったことが知られたら変な逆恨みされそうだ。
「もういいわ」
「は、春ちゃん?」
鎌倉さんの冷たい声がお化け屋敷に響いた。
「は、春ちゃんが出る幕でもないよ!わ、私たちが――」
「下がりなさい。この役立たず」
「ひっ!」
鎌倉さんは取り巻きの人を睨みつけていて、肝が冷えるぐらい彼女の瞳は冷たかった。
取り巻きの人は怯えて何も言わず、小さく「ごめん…」と謝っていた。
てか、ここお化け屋敷だよね?君、お化けよりも怖いよ!?
鎌倉さんはもたれかかった背中を離し、冷たいオーラを纏いながらこちらに近づいてきた。
ビビりな私は、近づく彼女から一歩一歩下がって逃げたが、だんだん壁に追い詰められていきとうとう背中に壁が着いた。
バン!
彼女が私を追い詰めて壁が叩かれる音が聞こえた。
おおう…。これが世に言う壁ドンというやつですか。相手が氷の瞳で私を見つめる女の子なんですけど、一部の男子が喜びそうですね。
「…」
「…(ガタガタ)」
壁ドンされて、鎌倉さんの怖い顔が近くなって身体が震える。
お互い無言で見つめっている時だった。
「う゛っ!」
「え?」
鎌倉さん顔をしかめて、私から離れた。
半歩下がった彼女は、鼻を手を覆う。はて、体調でも悪くしたのだろうか?
「あ、あなた…ば、バナナ臭いわ」
あ、バナナですか。てか、そこまで顔をしかめないでください。バナナのせいでも傷つきます。
バナナの臭いに顔を青ざめる彼女を見て、取り巻きの人たちは騒ぎだした。
「ちょ、春ちゃんに何したのよ!」
「だ、大丈夫?」
「臭いでやっつけるとか卑怯よ!」
いや、あっちが勝手に私に近づいてきたんですけど…。
あと卑怯と言う言葉ブーメランです。
「…まぁ、さっきバナナ食べましたからね」
頬をぽりぽり掻きながら答えると、青ざめていた鎌倉さんが顔を真っ赤にして睨みつけた。
「あなた!どこまで私を侮辱すれば気が済むのよ!」
ここで、私は気づいた。
鎌倉さんの怒りのメーターがとうに超えていたこと。
鎌倉さんが本気に怒ったことによって、取り巻き達の雰囲気が変わったこと。
暗いお化け屋敷の中、女子の怒りの視線だけが赤く光ったような気がした。
自己紹介パート5
<学年の女王様>
鎌倉 春。血液型A。16歳
性格、プライドが高くわがままな女王様タイプ。椎原にわかりやすい好意を抱いており、椎原に気に入られている主人公を嫌う。
容姿、モデル体型にウェーブが掛かった髪が特徴。目は大きく長い睫毛。まさに美女。