これは、あれか?土下座か?土下座要求なのか?
「…どうして私は生きているのだろう。生まれ変わったら一週間で死んでしまう儚きセミになりたい」
私が部室の端っこでネカティブオーラを出すのは、もはや日常光景になったようだ。
部員の皆は、微笑ましそうに(というか楽しそうに)私を見ている。ああ、私にとっては一大事の出来事なのに。
「あらら、どうしたの?永久ちゃん?」
「佐和先輩、私はどうして人間に生まれてきてしまったのでしょうか?それならいっそ深海にひそむ貝殻になりたいですっ…!」
「そっかまた、何かあったのね。あと貝殻って生きてないじゃないそれ…」
それか、カーペットに潜むダニでもいいです。
あ、カビ生えた畳のキノコでもいいかも。捨てられて誰も自分を見てくれないから最高じゃないですか。
「先輩の声で心が立ち直ることができないなんて、これは相当重症だ…」
野乃葉がこいつはもうお手上げだぜと頭を抱えた。
ちなみに、野乃葉も演劇部所属。もともと私は、野乃葉に誘われて演劇部入った者なのだ。
自分のネカティブのすごさは知っている。だからこのまま放置しておくと自己解決して助かるのだが、私の自己解決は内容がぶっ飛んでいるそうなので、こうして周りが相談してくれる。
「もう!昨日立ち直ることできたんだからさ。今日は部活をがんばりましょうよ!」
「そうですね、発声練習から始めましょう。…アシタハ シネルカ アイウエオ」
「あめんぼ あかいな あいうえおでしょ!?」
「…アシタハ シニタイ アイウエオ」
「対して変わらないじゃない!」
先輩が、キレの良いツッコミを入れる。
ボケてやっていないけど、実際明日は死にたい。
告白されて振った男子と一緒に遊園地を回るなんて、事情を知っていたらかなりシュールな光景だ。
「よ、よりによって椎原くんと一緒に回るなんて…」
「あ、もしかして椎原くんと一緒に遊園地回るの?きゃーあの子肉食?やるー!告白した女の子に猛アタックするなんて!萌えるわー!」
先輩が興奮ぴょんぴょんしながら跳ねる。
うさぎみたいで可愛いけど、今はそんなこと考えている場合ではない。
「え!?永久、椎原くんに告白されたの!?」
「あ、えっとぉ」
そうだった。
野乃葉は、知らないままだった。
知っているのは、あの日部室にいた人たちだけだった。
野乃葉は、あの時家庭訪問で部室にいなかったのだ。
「あら、永久ちゃん?野乃葉ちゃんに言っていなかったの?」
「あ、はい。ごめん、野乃葉は知らなかったね」
「…うん」
あー。ショックって顔された。
隠す気はなかったけど、こんな形で知るのは嫌だよね。
「ごめん、野乃葉。隠す気はなかったの…」
「…」
反省しています。だから、無言止めてくださいっ…!野乃葉様!
気まずい雰囲気が流れていると、佐和先輩が前に出た。
「あらら…。野乃葉ちゃん、永久ちゃんを許してあげて?」
「…」
ナイスフォロー先輩!
さすが、部長です!けど、野乃葉さんはまだ無言なんですけど!
いやだめだ。先輩に任せっぱなしなんて!
ここは誠意をもって、自分からまた謝らないと。
「ご、ごめん!悪気はないの!」
「…」
…。もう、ギブです。
これは、あれか?土下座か?土下座要求なのか?
「の、野乃葉?怒っている?」
「うん。だって私に何も言ってくれなかったし」
やっと喋ってくれたと思ったら、この辛辣。
どどどどどど、どうしよう。遠足より私と親友の距離がピンチだよ!
「ごめん!なんなら土下座するから!」
「…土下座はいらない。けどさ、告白OKしたの?」
「へ?OK?…ししししし、しないよ!いくら椎原くんが告白しても私は男子と恋愛なんてできないよ!」
赤べこのように首を振ると、野乃葉は真顔のままだった。
こ、こわい…。初めて親友を怖いと思ったよ…!
「ほんと?」
「ほんとだって!仮に付き合いOKしたとしても遊園地誘われたとき拒否するわけないでしょ?それが証拠だよ!」
「…そっか」
野乃葉はほっとしたようなため息を吐き、頬を緩めた。
こ、これは怒っていないのかな?
「次からは、ちゃんと教えてね?」
「へ、あ、はい!肝に銘じておきます!」
なんか知らないけど、許しをもらえたみたいだ。
にしても、野乃葉嬉しそうだな。うーん?なんでだろ?
「…ふーん?もしかしてあれかな?だとするとドロドロねぇ」
「へ?どうしたんですか?佐和先輩?」
「ううん!なんでもないわよーん!それよりほら、練習するわよ!」
先輩の指示で、気まずい雰囲気もなくなったしこれで演技に集中できそうだ。
……ん?あれ、結局明日はどうなるんだろ?
自己紹介パート4
<主人公に好意を向ける人気ボーイ>
椎原 唯人。血液型A。16歳
性格、明るく皆の人気者。けど、たまに天然になる。主人公とは反対な性格でくっそポジティブ。
運動神経がよく、推薦で学校に入った。森重とは親友で、いつも彼のフォローをしている。
容姿、黒髪で猫目。童顔で少し幼く見える。