中学時代のトラウマのせいで、陰で生き抜くことにしました。
人は皆、生まれた時から全部が決まっていると私は思う。
お金、才能、そして容姿。
私は、最初から全てが決まっているこの世界が嫌でたまらない。
私、立花 永久自分の容姿が嫌いだ。
顔はモブ顔だし、スタイルなんかよくないし、胸が小さい。
自分の容姿に関しては、本当にいいことなんてなかった。
このコンプレックスのせいで彼氏は疎か、男子に話しかけられただけで、ビビって逃げてしまうのが日常茶飯事。
自分の容姿も嫌いだけど、それ以上に男子が嫌いかもしれない。
そもそも自分に自信が持てなくなったのが中学3年生の頃、好きだった子が笑いながら「あいつ、地味でブスだよな」と聞いたことから始まった。
たまたまその言葉を聞いた私は、一瞬にして絶望した。
身体が恐怖で支配され、告白する前に私をこんな風に思っていたんだという自分の惨めさで心が壊れた。
失恋した一か月の間の私は最悪なものだった。
ショックで体重5キロも痩せたし、その人の顔を見るのが怖くなって人間不信になった。
友達の慰めでポッキリ折れた心は取り戻せたけど、もう二度恋愛なんてしないと思った。
かと言ってレズに目覚めるかというと、それは違う。
要するに私、一生独身だね。わーい(白目)。
これから私は一生恋愛なんてすることないだろう。面倒くさいと考えて、拒絶しながら生きていくだろう。
でもその方が、寂しいけど楽だと思った。
心の傷は癒されることなく、こうして私は中学時代のトラウマのおかげで、高校は静かに平穏に過ごしていくことを決意したのさ。
★
「あーだるいー。次、数学とかまじ卍」
高校生になって初めての5月。
新しくなったクラスに溶け始めたこの頃。
私の親友野乃葉は、数学に向かって文句を言っていた。
「そんなこと言うなら、私だって文句言いたいことあるよ」
「何?」
「今日、私日直なんだけど相方が男子。マジ死ねる」
「それだけ!?」
それだけとかいうな。私にとっては一大事なんだよ。
過去のトラウマから男子に関する拒絶反応。女子高に行けばよかったと思うが、県外出ないと女子高ないし、あるとしても私立だ。裕福ではない家にお金の負担をさせたくない。
何度か男子に慣れようと思った、けどそのたび「あいつ、地味でブスだよな」という声が頭から離れなくて結果逃げてしまう。
負の連鎖だ。どうして私がこんな目に合わないといけないのだろう。
「あ、でもさー。日直の相方、椎原くんじゃん!ラッキーだと思いなよ!」
「椎原?誰それ?おいしいの?」
「お前ひでぇな!そろそろクラスメイトの名前覚えろよ!」
基本男子の名前を覚えることはあまりない。
未来栄光男子に話す機会すらないからな。まぁ、多少なりとも不便だけど。
「椎原くん、めっちゃ女子に人気高いよ!頭も良いし、バスケ部で運動神経良いって聞くし!あと何といってもあの、爽やかさ!可愛いんだよ!本当にもう!」
「…へー。ソウナンダ」
「うわー…。めっちゃ興味なさそう…」
実際にない。私もそういう相手を好きになって裏切られたのだから。
私の相変わらずの態度に、野乃葉はため息を吐いた。
「いい加減さー、過去のこと断ち切りなよ?」
「…断ち切りたいよ」
「…あんた、失恋して本当に変わったねー。いきなり眼鏡とか着けたし、髪とか三つ編みなんてしちゃってさー。どこの真面目ちゃんかよ」
「そのほうが気軽でいいの。高校生活は地味で陰ながら生きていくって決めたんだからさ」
「そうだけど…。はぁ。あんた本当は可愛いのに」
「…嘘、つかないでよ」
地味でブス。それが私だ。
気が付いたらチャイムが鳴っていて、数学の先生が教室に入って来た。
いつになったら、私は自分に自信が持てるだろう。
ぼんやり黒板を眺めていると、誰かの視線が感じたような気がした。
★
放課後。
日直の仕事がある私は、恐怖で身体が震えていた。
「立花さんー!一緒に日直の仕事しよう!」
何故なら、椎原くんが私と一緒に日直の仕事をしようとするからだ。
社交レベル半端ない椎原君は、男子嫌いの私に近づいてくるので反射的に逃げそうになってしまう。
「あ、俺黒板消すよ!他に何かやってほしいことある?」
「え、あ、えっとぉ?」
メーデーメーデー。突然のことにコミュ障発揮。
何故だ!何故なんだ!
男子は生物は、日直の仕事を女子に押し付けたりするのが当たり前なのに!
慣れていないことで、動揺ばかりしてしまう。ああ、家に帰りたい。
「あ、窓閉めもしとくよ!」
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、ありっが…とぉ」
「あははは!「あ」が十個でありがとうか!ナイスセンスだね!立花さん」
ちげーよ。誰がウケを狙ってそんなおやじギャグ言うか。
しかもそんなにおもしろくないだろ。むしろ、ノンセンスだよ。
「…」
「…」
はいキタ沈黙ー。消えたい、透明人間になりたい。
お互い無言状況なままいると、ぽつりと椎原くんが口を開いた。
「もしかして、立花さん俺が嫌い?」
「え!?…嫌いというか、苦手というか、えっと、その」
「あはは、隠さなくてもいいよ。何というか、そのわかっているつもりだから」
柔らかく返している椎原君だけど、正直あんまりいい気はしないだろう。
初対面の人に、意味わからず嫌われているとか最悪そのものだ。
「…えっとさ、言い訳のつもりじゃないけど、私、男子が苦手なの。その緊張とかして、話すのも掛けられるのも怖くて、だからその、ごめん。うまく話せなくて」
椎原くんは一応優しそうだし、誤解はされたくない。
そう思い正直に自分の経歴のことを話すと、椎原くんは驚いていた。
「え?それだけ?」
「うん」
「てっきり、俺のこと嫌いかと思っていた」
「き、嫌いではないよ。苦手だけど」
首を振って全力否定をした。
男子と話して緊張ガチガチな私は、これまで最高級の努力をしていると思う。
目も上手く合わせられないし、逃げたい衝動が治まらない。
「立花さん」
「っ!は、はい!なんでしょう」
名前を呼ばれて、肩がビックってなった。
思わず、顔を上げると椎原くんは穏やかに笑って。
「俺、嬉しいよ。立花さんに嫌われてなくて」
そう、静かに告げた。
「…っ!」
私は、少しだけ罪悪感が湧いた。
自分がどんな過去を持っていて、それを相手と一緒にするなんて間違っている。
(わかっているよ。わかっているのに…)
あの日の光景が頭から離れない。
「あいつ、地味でブスだよな」
永遠に消えることない。心の傷。
逃げてばかりの臆病な自分が嫌い。恵まれていない自分が嫌い。弱い自分が大っ嫌い。
だから、頑張って勇気をだせ私。
「すぅううう。はぁああー」
「え!?」
精神の安定させる基本。深呼吸。
深呼吸をして息を整えると、身体が楽になったような気がした。
「椎原くん。ごめんね、その誤解するようなことして。それとね…」
「うん?」
これが今の私の精一杯、これが私の小さな勇気。
「ありがと…。嬉しいっていってくれて」
ガチガチな体のまま、真っすぐに相手を見て言った。
「…」
「…」
あー。また沈黙ですか。この沈黙は正直辛いです。
「あ、じゃ、私はぶ、部活行くから!この辺で!」
気まずくなった私はその場から逃げることにした。
ん、日直の仕事?知らんそんなの。それ以上に私のSAN値がやばいわ。
逃げるは恥だが役に立つということわざがあるけど、これは逃げるし恥だし役立たずだな。
「ま、待って!」
「ひぃい!」
逃げようとしたら、ドアの前に回り込まれた。
ちょおま、瞬間移動能力とか持ってんのかよ!聞いてないぞ!
「立花さん…」
「ご、ごめん。逃げようとして、ちゃんと日直の仕事やるから許してくださーい!」
まじで反省しているから、見逃してー!
土下座する勢いで謝ろうとしたら、椎原くんが頭を下げた。
ん?頭を下げた?
突然のことに固まっている私に対し、不意打ちを掛けるようにまたとんでもないことが起こった。
「俺と、付き合ってください!」
…。
……。
………はぁ?
…………こ、これは。
告白。そうこれは告白だ。大事なことなので二回言ったよ。
彼の告白に私は頭がついていかなかった。
なんで?どうして?どういうこと?
OK一旦落ち着こう。こういう時、冷静さが一番よ。
これは、よくある「女子に告白する」という質の悪い罰ゲームなのかもしれないんだからっ!
冷静になる私の頭の中で、三つの選択肢が浮かび上がった。
逃げる。
叫ぶ。
答える。
まず、選択し1の逃げる。
いや、ドア回り込まれているし逃げられん。
この案は使えないそうだ。
選択肢の2である叫ぶ。
いや、不審者じゃないし叫んだって意味ないでしょ。
あと、学校で叫ぶキチガイなんて思われたくない。
この案も没になってしまった。
最後の選択肢の3は答える。
もうっ…これしかないじゃないかっ!
………よし、振ろう。心を込めて丁寧に振ろう。
「ご、ごめん!私、一生恋愛できないと思わないから無理!」
「うん!わかった!じゃあ、これからアタックしまくるね!」
「君、人の話を聞いてた!?」
ポジティブなのはいいことだけど、君のメンタルどうなっているの!?
5月の風が心地よく教室に靡いてきた今日の午後。
陰で地味に生きることを覚悟した私の高校生活。
早速だけど、土足でそれを踏みにじる人が出て来たようです。
ここで自己紹介を書きますね。
<主人公>
立花 永久。16歳。血液型A。
性格、クソネカティブ。ツッコミ役。
容姿、眼鏡におさげという真面目キャラに見える。
…実は眼鏡は伊達メガネで、三つ編みもわざとしている。(地味に生きることをするため)
中学生の時、好きな相手に「地味でブス」と言われたことから恋愛をしないようになった。
男性恐怖症。コミュ障。
なぜか、人気者の椎原に好かれている。