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隣町は魔物ひしめく廃墟。俺は彼女のヒーローになる  作者: 立川ありす
第2章 SAMURAI FIST ~選ばれし者の証

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第三機関2

「フィクサー。未登録の異能力者を連れて来ました」

「入りたまえ」

「……失礼します」

 小夜子は年季の入った鉄のドアを開ける。


 俺は小夜子に促されるまま、打ち放しコンクリートの物々しい大部屋に入る。

 長机と椅子が並んでいるので、会議室なのだろう。


 その奥に女がいた。

 冷たい雰囲気の女だ。

 黒のスーツに身を包み、屋内だというのにサングラスで目元を隠している。


「わたしのことはフィクサーと呼んでいただきたい。【機関】において執行人(エージェント)の統括を任されている」

「はじめまして、日比野陽介俺です」

 一礼する。


 そして天井に右の拳をかざして念じる。

 握りしめた自分の拳が光と熱に包まれる様に、異能力を使った俺自身が高揚する。


 俺の拳に宿る異能の炎を見やり、小夜子も驚愕の表情を浮かべる。

 そんな表情を見やって得意げな笑みを漏らす。

 だが、すぐに小夜子も自分と同じ異能の使い手であることを思い出す。


 ふと思う。

 小夜子はいつから執行人(エージェント)だったのだろうか?


 どうして、今まで【機関】や怪異のことを黙っていたのだろうか?


 でも、それを言うなら俺も彼女に自身の異能力のことを話さなかった。

 小夜子が側にいる日常と、異能力がある非日常を結びつけるのが怖かったからだ。


 たぶん小夜子も同じなのだろう。


 だから、お互いにちょっと気まずい雰囲気になって、なんとなく目をそらす。


「【火霊武器(ファイヤーサムライ)】か」

 一方、フィクサーは、冷徹な表情を崩さない。


「本来は手にした武器を炎で包む異能力だが、拳から直接火が出るタイプは珍しいな」

 とくに驚くふうでもなく批評されて、俺は内心がっかりする。

 だが彼女は異能力者を束ねる【機関】のまとめ役だ。

 今さら異能力を見て驚いたりはしないのだろう。そう思いなおす。


「一般には公開されていないが、君のような異能力を持つ存在は大勢いる。その中には異能を悪用して世に仇なす犯罪者や、そもそも人間ですらない怪物もいる」

「怪異ですね」

「知っていたのか」

 フィクサーは意外そうに俺を見やる。

 俺はちょっといい気分になって、ニヤリと笑う。


「――そうか。仕事人(トラブルシューター)の戦闘に巻きこまれた際に覚醒したという話だったな」

「はい、【機関】のことも、その人たちから聞きました」

「差し支えなければ、その仕事人(トラブルシューター)が誰なのか教えてもらえないだろうか?」

「【掃除屋】です」

「ああ、彼女たちか」

 途端、小夜子がジトッとした目つきで俺を睨んだ。

 彼女という単語に反応したらしい。


(陽介君、今度は女の子の仕事人(トラブルシューター)とも仲良くなってたんだね)

 小夜子の目は、そんなことを訴えていた。


 俺は嫌な汗をたらした。

 誤解だと弁明したい。


 だいたい舞奈と明日香は小学生だ。

 焼きもちを焼くような相手ではないだろう。


 だが今はそんなことを言っている場合ではない。

 そのうち何かプレゼントでもして機嫌を直してもらいつつ、誤解を解こうと思った。


 一方、フィクサーは口元に苦笑を浮かべる。


「ならば【機関】についても彼女から説明は受けているのだろう」

 明日香の説明好きは【機関】でも有名なのか、と俺も苦笑する。


「怪異の存在については表ざたにできない事情がある。だが、それは怪異による被害を放置する理由にはならない。奴らを秘密裏に排除するための組織が【第三機関】だ」

 フィクサーは言葉を切って、俺が頷くのを確認する。


「【機関】において、実際に怪異との戦闘にあたる実行要員は2種類に大別される。

 ひとつは【掃除屋】のように、怪異を排除する見返りに報奨金を得る仕事人(トラブルシューター)だ。いわば裏の世界の傭兵と言ったところだ。そして――」

 フィクサーは俺を見やる。


「【機関】の手足となって怪異の動向を監視し、時には奴らを排除することで治安維持に努めるのが執行人(エージェント)だ。こちらは、いわば裏の世界の警察だ。先ほどの大屍虫の戦闘の際に君と共闘した異能力者たち、そしてデスメーカー……如月小夜子君も執行人(エージェント)だ」

「うん、ごめんね」

 話をふられた小夜子は、自信なさげに頷く。


(何故そこで謝る!?)

 フィクサーは困った顔になった。


 これから新たな執行人(エージェント)を迎え入れるのに、それでは話しづらくて困るだろうに。

 相変わらずのネガティブな反応に日常を思い出して安堵する。

 そして普段と同じように微妙になった空気を変えようと「そうだ」とわざと場違いな明るい声で、思っていた疑問を投げかける。


「異能力者は男にしかなれないんですよね? それじゃあ小夜子は……」

「ああ、そうだ。彼女は魔道士(メイジ)だ」

 わかりきていたことだが、はっきりと聞いて少し驚いた。

 異能力の秘密を解き明かし、自身の力で奇跡を成す魔法使い。

 そのうちのひとりが、今までずっと隣にいた小夜子だったなんて。


 けど思い起こせば、小夜子は学校では目立たないものの成績はいい。

 そして俺は、彼女が真面目で努力家だってことを知っている。


「彼女はナワリ呪術と呼ばれる魔法を使う。古代アステカ文明で栄えた流派で、天地に満ちる魔力を利用して奇跡を成す」

 フィクサーの説明に、俺はうなずいて先をうながす。


「ナワリ呪術師が得意とする魔法は炎や疾風を操る【エレメントの変成】、術者の身体を強化して戦闘能力を上昇させる【心身の強化】そして――」

 そこで何かに気づいたように、不意に言葉を切る。


「他にも、魔法によって魔法を強化することもできる。彼女の魔法は我々の活動の助けとなっている」

 そう言って笑う。

 俺にはその笑みが、何かを誤魔化しているように感じられた。

 だがフィクサーは構わず、俺をじっと見つめる。


「そこで相談なのだが、君にも彼女とともに、執行人(エージェント)として働いてもらいたい。危険な仕事だが、それに見合うだけの報酬は約束しよう」

「もちろん、やります」

「ほう、即答だな」

「はい、僕、昔からヒーローに憧れてたんです。自分の力でみんなを守るって、いいことじゃないですか。それに――」

 フィクサーのサングラスから目をそらし、でもはっきりと、言った。


「危険に見合うだけの報酬って言いましたよね? お金もらえるなら、欲しいから」

「浪費するタイプには見えないのだが。目的を聞いても差し支えないだろうか?」

「妹が、いるんです。心臓が悪くて、でもうちじゃ手術代も払えなくて、だから、大金が手に入るなら、欲しいなって……」

 その答えに、フィクサーは口元に微笑を浮かべた。

 彼女の冷たい印象からはやや意外なほど、あたたかな笑みだった。


「了解した。直接の便宜を図ることはできないが、妹さんの為にもできるだけのことはしよう」

「ありがとうございます」

「では早速だが、規定により君に教導担当官(レクター)の【祝福】を授ける」

 フィクサーの言葉に、小夜子の表情が変わった。

 その表情が気になって俺は尋ねる。


「【祝福】ですか……?」

「ああ。機密保持の観点から執行人(エージェント)に施される、ある種の魔法だ」

 その説明に、小夜子は特に何も言わないのだから間違ってはいないのだろう。


 だが小夜子は不満を覆い隠すときによくするように固い表情で、上目使いにフィクサーを見ている。

 それが少し不安だった。

 ふと俺が最初に屍虫に襲われたとき、記憶を消されそうになったことを思いだした。


 けど、小夜子が表立って反対してないのに拒否するわけにもいかない。

 その【祝福】とやらによって何が起こるのかはわからないが、覚悟は決まった。


 まるでその決意そのものに反応したように、目の前に誰かがあらわれた。

 白いスーツの小男だ。

 いつの間に?

 部屋の中には俺たちしかいないと思ってたのに。


 小男の頭頂は綺麗な円形に禿げあがっている。

 そして口髭と繋がったアゴ髭は、几帳面なほど丁重に切りそろえられている。

 その風体は、まるで歴史の教科書で見た――


「――教導担当官(レクター)ザビエルと申しマす。お見知りおキを」

 俺の心を読んだかのように名乗り、小男は一礼した。


 喋っている時も、喋り終わった後も、彼の両眼はランダムに動き回っている。

 とてつもなく不気味だ。


「彼が執行人(エージェント)への【祝福】を担当している。……始めてくれ」

「かしこまりまシた」

 ザビエルはうやうやしく一礼すると、焦点の合わない瞳を俺に向ける。

 絶え間なく動き回る両目を目で追ううちに気が遠くなり――


「――申し訳ございまセん。彼が持つ異能ハ、通常ならざる異能にございマす」

「彼が魔道士(メイジ)になり得るというのかね?」

「それハ、わかりまセん。ですガ、唯一のものにございマす。規定により条件付けを行うことはできまセん」

 フィクサーとザビエルは、よくわからない会話を交わす。


 だが俺に【祝福】(条件付け?)を施すことはできないらしい。

 それに俺が……魔道士(メイジ)に!?


「それにもうひトつ」

 ザビエルは両目をランダムに動かしながら言った。


「彼は条件付けを施さずトも、【機関】の規定には背かないでショう。怪異について口外するこトも、異能力を悪用するこトもないでショう」

「……そうか」

 フィクサーは俺を見やって笑った。【祝福】が失敗したにも関わらず。


 わけのわからない展開だが、何となくわかったことがある。


 100人もの異能力者がいるのなら、中には異能力を悪用したり、異能や怪異のことを言いふらす者だっているはずだ。

 その対応策が【祝福】――ザビエルの言う条件付けなのだろう。

 字面からして魔法によって洗脳か何かされるのだろうか。


 だが教導担当官(レクター)は俺の心を調べ、そんなものは必要ないと認めてくれた。

 そんなものなくても、俺は信頼できる人間だと。


 なんだかそれが嬉しかった。

 ありがとう、ザビエル。

 不気味だなんて思ったりして申し訳ない。


 やはり、そんな俺の心を読んだかのようにザビエルは笑った。


 ……ごめん、不気味なのは本当だ。


「条件付けの適用外とされた異能力者には諜報部への配属を進めているのだが、やってみる気はないかね?」

「諜報部……ですか?」

 フィクサーからの申し出に、思わずオウム返しに答える。

 その部署名が、映画の中のスパイが属するそれのように聞こえたからだ。


「そう身構える必要はない。怪異との直接戦闘に携わる執行部に対し、任務のバックアップを担当する部署だと思ってもらえばいい」

 戦争映画で言う後方勤務みたいなものかな?

 そうだよな。

 実際のスパイは映画みたいな派手なアクションはしないっていうし。


「わたしもそれが良いと思う。陽介君は明るいし、優しいし、怪異と戦うよりそういう仕事の方が向いてるんじゃないかな……」

 小夜子もおずおずと太鼓判を押してくれた。


「ならそれがいいのかな。小夜子も諜報部なの?」

「えっ? ううん……」

「小夜子君は執行部に所属している。魔法による直接攻撃、防御、他の異能力者への援護と、多くの作戦で中核的な役割を果たしてくれている」

「そっか、小夜子は執行部なのか……」

 それって、小夜子を戦闘の矢面に立たせて俺だけ裏方の仕事をするってこと?

 俺だって戦う力を持っているのに、それは卑怯だと思った。だから、


「……すいません、すこし考えさせてください」

「いいだろう。後悔のないようよく考えてくれたまえ」

 フィクサーは特にこだわりはない様子で答えた。

 小夜子は少し不安そうに俺を見ていた。


「そうそう、通例として執行人(エージェント)はコードネームを使用することになっている」

 気を取り直したようにフィクサーが言った。


「コードネーム……ですか」

「ああ、適当な名前を考えておいてくれたまえ。できれば異能力に関連した名前にしたほうが、わかりやすくていいだろう」

「異能力に関連した名前ですか……」

 俺は考えるが、咄嗟に良い名前なんて浮かぶはずもない。


 ふと、小夜子の2つ名であるデスメーカーが指し示すものに想いを巡らせる。


 気弱な彼女が名乗るには不吉すぎる名前のような気がした。


 いや、それほど彼女が強いということだろうか?

 先ほどの大屍虫のように、彼女の前に立ちふさがった敵は死ぬ。

 そう考えれば、この上なく頼もしい名前ではある。


 そんなことを考えていた、その時、


「フィクサー、廃工場の清掃が終了デス! 屍虫がいたカラ一緒に退治したデス!」

 俺の目の前に、それは突然あらわれた。


「……ええっ!?」

 俺は仰天した。


 それは、抜けるように色白な女性の……裸体だった。


「でも屍虫がいるなんて珍しいデスね」

 布地は身に着けていなくて、全身に巻きつけたベルトに提げられた無数のドリル刃だけがロシア美女のグラマラスな身体を隠している。

 俺はひとしきり狼狽した後に、慌てて半裸の美女から目をそらす。

 隣の小夜子がこちらを睨んでいるような気がしたからだ。


「ごくろう、プロートニク。だが施設内での転移は控えてくれると有難い。それと作戦終了後は服を着たまえ。異能力者の大半は青少年だ」

ごめんなさい(イズヴェニーチェ)

 言い残して、美女は来た時と同じテレポートで消えた。

 フィクサーはちょっと疲れたような顔でサングラスの位置を直し、


「今のは執行人(エージェント)プロートニク」

 平静を装って言った。


超精神工学(サイコトロニクス)を操るロシアの超能力者、つまりデスメーカーと同じ魔道士(メイジ)だ。プロートニクとはロシア語で大工という意味だ。その名の通り、彼女は武器としてドリルやチェーンソーを用いる」

 だが俺も健全な男子高生だ。それどころではない。

 そんな俺の慌てようを見てフィクサーはやれやれと苦笑してから、


執行人(エージェント)には対刃/対弾機能を持つ特殊衣装が支給されるが、魔道士(メイジ)の中にはああいった服装で任務にあたる者もいる」

 その言葉に、何となく小夜子を見やる。

 小夜子のセーラー服も、その特殊衣装とやらなのだろうか。気づかなかった。


 すると小夜子は頬を赤らめてうつむいてしまった。

 次の瞬間に自分の失態に気づいて、あわてて誤魔化す。


「え、えっと、あ、そうだ、小夜子もできるの? さっきみたいなの」

 俺は小夜子がテレポートできるかどうかを尋ねたのだが、


「よ……陽介君のヘンタイ!」

 小夜子は制服の胸元を抱きしめながら顔をまっ赤に染めて叫んだ。


 結局、俺は日が暮れるまで小夜子をなだめすかす羽目になった。


 あまつさえ、夜半過ぎに帰宅したころには千佳は拗ねて寝ていた。


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