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  作者: 夏目洋介
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第六話 ユウタとミズハ

 バイト先につく頃には息も切れ切れに、足もパンパンだった。普段の運動不足をたたった。現場には作業着の人たちばかりでどこにユウタがいるのか分からなかった。一人一人を見て回っていき、一人一人に何だ何だと驚かれ、何人かを見た先にユウタが見えた。ユウタもミズハに気づきこちらを見つめた。

 「ミズハさん・・・なんでここに?」

驚いた表情を浮かべるユウタに、近くにいた親方らしき人が、

 「おっ、ユウタ、彼女か?こりゃべっぴんさんだな。もう時間だし、あがっていいぞ。学校に行く費用がたまったからって女に明け暮れてちゃオレみたいになるぞ。」

親方は笑いながらそう言うと、ユウタはお疲れ様でしたと一言おじぎをしてこっちに向かってきた。


 学校に行く費用?あの100万円はまさか・・・。考えがぐるぐると頭の中で回っているミズハの手をとると、行こうと一言言ってユウタはすたすたと歩き始めた。

 

 近くの公園のベンチに座り、ユウタがため息を一つ吐いてミズハに話しかけた。

 「びっくりしたろ?医者の息子のはずが、工事現場でアルバイトしてるなんて。」

あの時と同じ笑顔でミズハに話しかける。だが、そこには前のような優しい目ではなく悲しい目をしていた。

 「なんで・・・なんで嘘ついたの?医者の息子だなんて・・・」

ミズハが下を向いたままユウタに聞いた。ユウタはしばらく考え込んだように口に両手を当ててまっすぐに前を向いた。そして、一つの答えが出たかのように上を向き、

 

 「ミズハさんの事が好きだったから・・・」


とつぶやいた。そして、

 「援助までしてるなんて、どうしてもお金が必要なんだと思ったから。でも何とかして援助をやめさせたかった。貧乏人がお金持ちの振りをするなんて悪いとは思った。でもこの気持ちは譲れなかったんだ。ごめん・・・」

そうつぶやいたユウタはすごく小さく感じた。年下だから?違う。これはユウタの今の気持ちの大きさだ。本当に謝らなくちゃいけないのは私なんだ。彼をここまで追い込んだのは私なんだ。


 ユウタ・・・

 

 うつむいているユウタをミズハはそっと抱きしめた。突然のことにユウタは驚き体を震わせた。

 

 「ユウタ、ごめん。ごめんね。私が悪かったんだ。私お金なんかほしくないんだ。元彼と別れた悲しみを援助という形で補っていただけなんだ。」

 

 「愛が欲しい。その一点が私が援助をしていた理由。本当の愛なんてここにはないのに。分かっているのに。偽りの愛しかないって分かっているのに・・・」

  

 ミズハの目から大粒の涙が出てきた。涙は頬を伝わり、ユウタに流れた。ユウタはそれをぬぐいもせず、そのままを受け入れてくれた。まるでミズハの心、そのものを受け入れてくれているかのように・・・

 


 夜の公園は誰も人がいなかった。

 

 誰も見るものがいない舞台の上で、作業着の王子様は涙するお姫様に優しく初めての口づけをした。


 まばろう夢から覚めたお姫様は、驚きながらも微笑みながら王子様をやさしく抱きしめた・・・


 暗闇だけがお話の終わりを告げるのであった。 


 


 


 


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