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ドライフルーツ

作者: 未夜 空大

前作「シリアル」のスピンオフ作品となっております。

勇者目線のお話です。

正義とは、そして悪とはなんぞや…

ここは、勇者の育成を目的とした学院。

そして本日は入学式。花も青空も太陽も、全てが、ここに集いし勇者候補生たちを歓迎している。

急に知らされたクラス編成の為の試験だが、皆がどこか自信を胸に次々と挑んでいた。

大講堂にこの日最初となるどよめきが起こり、その中央で誇らしげにニヤけながら高らかに勇者の剣を掲げる少年がいた。

星空のような髪色をした端正な顔立ちの彼の名こそ……グラニテ=ラニュートーグ!

のちに魔王を仕留めることとなる勇者である。


「ジェーラちゃーん。一緒にお昼食べましょぉー?」

廊下から弓兵の教室を覗き込んで、グラニテは意中の人をそう誘う。

やっぱり?勇者であり、なおかつ人目を引く容貌もあって?そこら中の女生徒がキャアキャアと騒ぐのはとてもカ・イ・カ・ン。もっとウェルカムさ!

しかし、こちらをジト目で見つめ返してくる少女……のように可憐な少年(ジェラ=レオジン)が、グラニテに消しゴムを投げた。流石弓兵と賞賛すべきことに、それは額にスッコーンと子気味よくヒットする。

その一部始終を観ていて、感服したとばかりに拍手しながらジェラに近付いていくこれまたイイオトコ……呪符師のリューフ=イトホワ。

グラニテとは系統の違う、優男なリューフも言わばジェラを狙うナカーマ!…じゃなくて、ザ・ライバル!

てゆーか、さり気なくジェラの肩を抱くんじゃありません!

この3人が会ったのは、先程の試験よりも前。しかも、正門をくぐる前にまで遡る。

「やーん、グランちゃんってば一番乗りぃ?」

早朝。まだ薄暗い中、グラニテは門が閉まっているのを確認する。うん、クローズ!

ガシガシガシ、とよじ登って念入りに確認していると、

「わ、ちょ、避けて、危なぃ、てか早くどけよっ」

キャー!と低音の悲鳴と、わー!と高音の叫びの不協和音。

グラニテの顔を数センチ避けるかたちで、柵に大きな矢が刺さっていた。ドキドキド……。

「こんなん刺さったらオレ死ぬわっ!てか口悪いな、お……」

お前、と言いきる前に相手の顔を見てしまった……クリーンヒット!ズキューン……パタリ。

乗ってきた矢から落ちた衝撃に耐えていたジェラだが、予期せぬ事態に困惑する。

幸いなことに相手に怪我はさせなかったと思っていたのに、目の前の人が倒れたのだ。

「……え、は?だ、大丈夫…?」

頬をペチペチと叩いてみても、どうにも反応がない。ジェラはオロオロするしかなかった。

「どうかされましたか?」

男性に対して使う言葉ではないかもしれないが、その時のジェラは“麗しい”という言葉はこの人のためにあると思った程だった。

飛ばした矢に乗って来たら、グラニテにぶつかって、矢は刺さらなかったけど倒れてしまったことを説明する。

「放っておきましょう。」

リューフの放ったその一言が理解出来なくて、ジェラは聞き返した。

「だから、このまま放っておくんです。それより、お怪我は?」

後に知ることになるが、リューフは男に対してとても関心がなくグラニテなどどうでも良かったのだ。この時、ジェラを可愛い女の子と勘違いしていたので、リューフはジェラの身体の方を心配していた。

何故か、誤解が解けてからもジェラに甘く構ってくるのだが。

「……ひーどーいー。」

気が付いたグラニテがそう起き上がると、寝てろとばかりにリューフに足蹴にされたのだが、これは未だに根に持っててもバチは当たらぬだろう。

そんな出会いの3人である。

まさに三角関係。

「こら、ジェラにくっつくんじゃありません!てかジェラ!そいつにグーパンチ、ゴー!!」

廊下でわめくグラニテに相変わらずのジト目で答えて黙らせてから、ジェラはリューフにニコッと笑いかける。

リューフが嬉しそうにするも、それは一瞬。

「触るな、ホモ男。」

固まったリューフから逃れるように身体をずらし、ジェラは購買へと向かった。

惚れた方が、所詮敗者なのだ。


爆発音がしたのは、ジェラの食べかけのサンドイッチによる間接キスをグラニテが企んだ時だった。

「ゃ、ちがっ、ご、ごめんなさいぃぃぃぃ」

ジェラの怒りの効果音かと思ったグラニテだが、そっと目を開けると2人が同じ方向を真剣に見つめていることに気付いた。

モウモウと上がる煙。ただならぬ感じだ。

答えが返ってくることは期待しないで問う。

「な、んだ?」

「……見てこいよ、勇者。」

リューフが、こちらを見ずに真顔で呟く。

「酷いっ、ヒトをポチみたいにっ!」

学院から詳細が伝えられたのは、その日の帰りだった。

未完の魔王が逃げた、と。


瓜二つの顔が、驚いた顔でこちらを見る。

それが滑稽に思えて、不思議とグラニテはすぐに驚愕から覚めた。

ニッと笑って剣を振りかざす。

憎らしいことに、相手はそれに反応する。イヤーな金属の擦れる音がした。

「よぉ、色男。……覚悟しなっ」

自分と同じ顔をしている相手を攻撃することに、躊躇いは無かった。むしろ、ジェラの顔をしてくれてなくて良かった。

力はほぼ互角。でも、負ける気はゼロ!

断然強気!正義はかぁつ、ってね!

キィン、と高い音を響かせて相手の剣が遠くに吹き飛ぶ。もらった!

魔王の喉元に切っ先を寸止め。

なぜ止めたのか。無意識だった。情けをかけるとか、そんなんじゃない。

これは……絶対的な余裕。

「グラニテ、いけぇー!」

ジェラの声援で、俺様のエナジーMAX。

「アディオス、魔王様。」

魔王の身体が霧散する。

短い戦いだった。

やがて魔王の手下たちもサラサラと消えていき、残ったのは勇者一行だけとなった。

終わった充実感。やり遂げた達成感。

みんな幸せだった。

……過去形で。


魔王たちの居なくなった世界は、グラニテたちにとって居心地が決して良くなかった。

始めのうちはチヤホヤしてくれた人達も、時が経てば日々の生活に夢中になったのだ。

そして勇者という職業は子供たちの憧れでも何でもないものとなった。

新たに職を探すが、戦術が活かせる所は限られていて、日雇いの力仕事しかろくに出来ない。

そして、願ってしまう。

魔王が再び現れることを。

水汲みに来たグラニテは、水面に映る自分の顔で魔王を思い出す。

あれは、まさに分身のようだった。

と思ってから、自分の作り上げた存在だったのではないか、とふと考えてしまった。

まさかね。

己の馬鹿な考えに、ぷふっ、と苦笑してしまう。

いかんいかん。さてと、早く水を持っていかないとまたクビにされちゃう!

グラニテは、桶に水をタップリいれて、ひょひょいと担いだ。

この後は石運びと、木材の切り出しと、確か農作物の収穫もあるのだった。

あぁ、忙しい……。


正義とは……悪とは何ぞや……。


読んで下さりありがとうございます!

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