1話「怒られると思った」
「はぁ…はぁ…はぁ…」
目が覚めて、布団を思いっ切り剥ぎ取った。
僕の身体は汗でベタベタだ。
変な夢はよく見る方だったが、今回のは一番酷い。
何が酷いって、今までの中で一番意味が分からない夢だったからだ。
小学生の頃はこういう悪夢に魘されてよく両親の布団に潜り込んだりしていたっけ。
まぁ流石に今はもうない。
十六歳になった今でもママ怖いよ、なんて泣いていたら誰でも引くだろう。
僕も引く。
「シャワー浴びて寝よう」
時刻はまだ朝の七時
幸い今は春休みで、もうすぐ高校二年生だ。
近所の高校に通っているのだが、そこは不良校で良く喧嘩をしに他校から誰かが来る。
僕は関係ないんだけどね。
僕には喧嘩の才能も無ければ勉強の才能も運動の才能もない。そう、無能なのだ。
ただ一つ何か挙げるとしたら予知夢をよく見ること、かな。
…ごめん、少し盛った。
予知夢のような悪夢をよく見ることだ。
これは才能に入れたくないけどな
その悪夢も訳の分からない夢ばかりだし、予知夢かと聞かれればそれも分からない。ほらね、僕はポンコツな無能なんだ
自分を自虐しつつシャワー室に向かうとリビングには両親が起きていて何だか雰囲気はピリピリしていた。
「おはよ、珍しいね、二人共起きてるなんて」
僕がそう声をかければ両親はビクッと肩を震わせ僕の方を見た。
父はお前こそな、と言い残して何処かへ行くし母はこっちに来なさいと僕に手招きした。
何だ、怒られるのか?僕は何かしただろうか
「…マサキ…話があるの。お願い、真剣に聞いて」
母の目は本気そのもので、少し怖くなった。
だけど手招きした方へ行き、ソファに座ってしまった為に話は聞かなければならない。
ただまぁ怒られるわけではなさそうだ。
「何だよ急に改まって…何?」
なるべく平然を装っておこうと思い少し軽く話してみると逆に睨まれた。
分かりました、真剣に聞きます。
「マサキ、お母さんは今まで貴方に何か一つでも得意な事を見つけなさいと言ったわね。」
何か一つでも得意な事を見つけなさい。
それは小学生の頃から言われていたことだ。
無能な僕に何か一つでも誇れるものを、と思っての事だろう。
「それがどうしたんだよ」
それがどうした、母に聞けばどんどん母は顔を俯かせ、最終的には涙目になった。
待って、僕はついていけない。
「マサキ、私達は貴方に言ってないことがあるの。」
私達、とは父と母の事だろう、今更隠し事なんて、よほど大きな事なんだろうな。
「私達魔法使いなの」
母の突然の言葉に長い沈黙が続く。
・ ・ ・
数秒の沈黙も長く感じた。




