大人になること
大人たちが夏の暑さに襲撃されている頃、無邪気な子どもはかき氷を夢中で頬張る。
リスのように膨らませた口を針で突いたらぴゅーって液体が飛び散るのかな。
それはきっと綺麗な赤色のシロップだろうね。
かき氷食べると頭がキーンってするのを知ったのはいつだっけ。テレビで見たんだっけ。ママからきいたんだっけ。覚えてないや。
子どもたちが炎天下を駆け回っている頃、身勝手な大人はエアコンの吐息で身を休める。
それから子どもに内緒で高級ジェラートなんかを丁寧に味わう。
多分頬を針で突いても綺麗なシロップは湧き出ないね。
高いアイスの味を知ったのはいつだっけ。親戚のおじさんからお土産で貰ったんだっけ。パパが買ってくれたんだっけ。
人はだんだん同じものでは満足しなくなる。次々に良いもの新しいものが恋しくなるんだ。
100円のアイスは気が付けば200円のアイスになって400円のアイスになって、さらにもっと高いアイスになっているのかもしれない。一度覚えた甘さは忘れられないんだね。恋と同じだ。体の快楽と同じだ。
私はそんな風にはなりたくなかった。ハーゲンダッツよりもスーパーカップの美味しさがいつまでもわかる大人でありたかった。
初めて繋いだ汗ばんだ手を。初めて触れた柔らかな唇を。忘れない大人でありたかった。
体の快楽よりもキスの幸福を忘れない大人でありたかった。
エアコンの吐き出した冷たいため息が充満したピンクの部屋で、私はハーゲンダッツをスプーンですくいながらそんなことを思った。
横には裸の男が寝ている。
この人誰だっけ。
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