時間よとまれ!
「人には何か一つ特技があると言いますが、頭山さんには何もありませんね!? 」
会社の飲み会で年下の係長は真っ赤な顔をして、私に言った。
その日、係長と二人で得意先周りをしていたらトラックが猛スピードで突進してくるのが見えた。
私は呟いた。「時間よとまれ! 」
……。
“ドーン”。 鈍い音がして、係長の体が宙を飛んだ……。
“ドサッ”。 係長の体が地面にたたきつけられた。
トラックは一端止まったけれど走り去った。
××-××……。ナンバーがはっきり読めた。
「“もう、ダメだ! ”と叫んで係長は道路に飛び出しました。何が原因か知りませんが、最近の係長は少し変でした。何か悩んでいました。……。ナンバー? すみません、突然のことで覚えていません……。分かりません 」 私は警察の事情聴取にそう答えた。
それでも、警察はたいしたものだ、二日後にはトラック運転手はひき逃げで逮捕された。
「突然、男の姿が目の前に出現した。飛び出したのでなく、急に目の前に現れた。あれでは誰が運転していても避けようがない」 運転手はそう言っているそうだ。
警官は鼻の先で笑ったのが、私はそれもありえるかも知れないなと思った。
死んだ係長は「人には何か一つ特技があると言いますが、頭山さんには何もありませんね!? 」と言ったけれど、実は私にも特技があるのだ。
時間が止められるのだ。
「時間よとまれ! 」と呟けば時間が止まる。それで、私が「時間よ動け! 」と言えば再び時間が動き出す。
係長が死んで次は私かな? と、思ったが世の中、そんなに甘くなかった。
次の係長は、前係長よりさらに若かった。
次の係長は「人には何か一つ特技があると言いますが、頭山さんには何もありませんね!? 」なんて言わなかったけれど、その目は私を見下していた。
社内旅行だF県のT坊に行った。海に突き出した高い岩場で、自殺の名所で有名なところだ。
係長が岩場から下を覗きこんでいた。
「時間よとまれ! 」と、私は呟いた。
皆、動きを止めた。中には宙に浮いたまま止まったままの人もいる。私は勢いよく走りだし係長を突き飛ばした。係長の体が宙に浮いた…。でも、私も勢い余って高い岩場から落下した。係長の体は宙に浮いたままだが、私の体は水面に落下、海底の岩場に頭を強く打った。
それで死んだ……。
それで、時間は動き出した?
あなたは私の話をよく聞いていなかったようたようですね? 言ったでしょ、私が「時間よ動け! 」と言わないと時間は動かない。それが私は「時間を動け! 」と言わないまま死んでしまった。
つまり、時間は止まったままだ。約百三十七億年前のビック・バンで始まったこの宇宙全体が止まったままだ。でも、いいではないか!? その時間に事故・病気で死にかけていた人は永遠に死なないで済む。(時間が止まっているのに“永遠”にとは変な、矛盾しているような表現のような気もするけれど……)
なら、今、この駄文を読んでいられるのは何故だ?!
と、言う人がいるかも知れない。
そこのあなた、そんな細かなことは気にしては出世できない……。
ヤフーブログに再投稿予定です。