"泣き子さん"
「あれ?山本さんじゃん」
「うわ、最悪…」
山本さんと呼ばれた少女が呟いた一言を聞いて、少年達は笑いだす。
「誰が山本だよ、そいつは"泣き子さん"だぜ」
「ああそうか、悪い悪い」
全く感情がこもってないその言葉を少女は、またか。よく飽きないな、と思いながらやり過ごす。
先程の少年達のリーダー格、石井 颯馬。
幼馴染みだったが、今は話すこともない。いや、話したくもない。
"元"幼馴染みを平気でいじめるようなやつだからだ。
休憩時間が終わる三分くらい前、先生が来る前に席に座るところだけをみると真面目な人達なんだけど。と思う。
放課後、教科書やノートを鞄にいれ走って下校する。
そうすれば誰にも絡まれずに済む。
家の玄関を開けリビングに行き、ソファにもたれ掛かる。
少女は、山本 花。
14歳。中学2年生。
先程笑いだした少年達は同級生である。
中学1年生の時はこんなことはなかった。
むしろ"いじめる側"だった。
少年達が"泣き子さん"と言うのには理由があった。
ーーーーーーーーー
「ねえ、知ってる?この学校には"泣き子さん"がいるんだって。その"泣き子さん"、実は……」
数ヵ月前、放課後のとある教室で数人が集まって話をしていた。
「………へえ、"泣き子さん"、ねえ…」
そんな話を盗み聞きしていたのは、学年一の人気者で噂好きの、寺野さんである。
寺野さんは噂好きであるため、この日もいろんな人に噂を流していた。
「友達から聞いた話なんだけど…この学校には"泣き子さん"って人がいて、その人に……すると…」
根拠もない噂でも、寺野さんのせいか、あっという間に学校中に知れ渡る。
もちろん花もその噂を聞いていた。
馬鹿馬鹿しい。噂なんて、所詮噂。
最初に思ったのはそんなことだった。
自分には関係のないこと。
月日が経てば、いつものように忘れ去られる。
でも、今回はそうではなかったようだ。
"泣き子さん"の噂がまだ出回っているとき、些細なことがきっかけで、いじめにあったのだ。
昔から泣き虫だったが、それは隠していた。
しかし、今までいじめにあったことがなく、耐久性がなかったため、不覚にも泣いてしまった。
その姿を見た者は、噂を重ねて、口々に"泣き子さん"と発した。
ーーーーーーーー…
たったそれだけである。
実にくだらない。
大きくため息をつく。
正直面倒臭い。
人間関係もなにもかも。
学校に行きたくはないから、暫く休むことにした。
それから約1ヶ月後のある日。
朝起きると体が軽く感じた。
調子も良かったので、久々に学校へ行くことにした。
通学中はずっといじめの事について考えていた。
大丈夫、きっと。
考えてばかりいたせいか、気づけば学校はもう目の前。
下駄箱見るの久々だな、なんてちょっとテンション高めで靴を上履きと履きかえる。
教室前まで走っていき、深呼吸を一回してから扉を開ける。
開けた途端、シーン、なんて効果音が似合うような静けさになった。が、皆チラッとは見たものの、たいして興味もなさそうに話が再開される。
少しホッとして自分の席につく。
授業がどこまで進んだかわからない。
悩んでいると、隣の席の子が「はい」と小声で言いながらノートを貸してくれた。
「ありがとう」小声で返事をし、今までの授業分を補うためにノートを写す。
朝のホームルームが終わると、先程ノートを貸してくれた子が話しかけてきた。
「あの、前はごめんね。助けられなくて」
すごく申し訳なさそうに言うものだから
「あ、ううん。大丈夫。もう過ぎたことだし!」
そう答えると、その子は少し笑顔になって
「そっか、本当にごめんね、あの…もしよければなんだけど」
「なに?」
「その…花ちゃんて、呼んでいい?」
照れたような顔をしながら言うから、
「うん、じゃあ…」
「あ、私は遠藤 果奈」
「じゃあ果奈ちゃん、でいいかな?」
「うん、よろしくね」
仲良くなりたい、という想いが強くなる。
「それにしても花ちゃん、なんかかわったね」
「そりゃ、変わったよ」
自分でも自覚するくらい雰囲気が変わった気がする。
果奈ちゃんは私の親友になった。
でも、いじめの標的は果奈ちゃんになったのか、果奈ちゃんの机の上には毎日百合が花瓶に入れられ、置いてあった。
クラスの皆は果奈ちゃんを無視しているようだが、私は果奈ちゃんに毎日話しかけた。
そんな私に、果奈ちゃんは全て話してくれた。
颯馬は私が学校を休んでる間、寂しかったのか泣いてばかりで仲間にいじめられたらしい。
その後颯馬は学校を休んでいると。
元、幼馴染みをいじめたのを心苦しく思ってたのかな。
颯馬が学校を休み始めて約1ヶ月。
そろそろ学校に来るんだろうなと思う。
ただの勘だけど。
翌日、颯馬は学校に来た。
なんだか人が変わったように優しくなっていた
数十年後ーーーーーーー…
「ねえ知ってる?」
中学生になったばかりの娘との会話。
「なに?」
「うちの中学の、七不思議のひとつにこんな話があるんだよ」
ずっと昔、"泣き子さん"ていう人がいた、
本名は違うのだけれど、いつも泣いてばかりで泣き虫だから"泣き子さん"てあだ名だったんだ。
"泣き子さん"は、毎日いじめられた。
いじめを楽しむ先輩に。
ある日、その先輩がいじめをピタリとやめた。
何故なら、"泣き子さん"がいじめを苦に学校の屋上から飛び降り、自殺をしたから。
即死だったらしい。
先輩の親しい友人から聞いた話だと、先輩はいじめを楽しんでいたわけではなかった。
先輩は"泣き子さん"が好きだった。
だが、不器用で愛情表現の仕方がわからなかった先輩は、"いじめ"を愛情表現として使った。
本人には"いじめ"をした自覚はなかっただろう。
しかし周りの人から見ればただのいじめにしか見えない。
その日から先輩は泣き虫になって、今まで仲間だった人達にいじめられた。
暫くして先輩は学校に来なくなった。
先輩が来なくなったその日、いじめたリーダー格の人は泣き虫になっていじめられ、来なくなり。リーダー格の人が来なくなったその日、先輩が学校に来て。
またそのいじめのリーダ格だった人は泣き虫になりいじめられ、来なくなり。先輩をいじめた人が学校に来て。
その、再び学校に来た人達に
「なんかかわりましたね」
って言う人がいて、その質問をされたら皆、
「そりゃ、変わったよ」
って答えるんだって。
で、つい最近新たな噂があって、と娘は付け足す。
「その"泣き子さん"、実は…いじめをすると、魂を代えるんだって。
だから、"かわりましたね"は"代わりましたね"なんだって」
「あら、まだその噂あったのね…お母さんが学生の頃もあったわよ。不思議ね…そういえば最初の"泣き子さん"て人の本名ってわかるの?」
「うん!色々な噂が出回ってるけど、先生が教えてくれたからわかるよ!
最初の"泣き子さん"の本名は…
遠藤果奈だよ」
「何言ってるのよ、果奈ちゃんは…」
"私の友達よ"
そう言いかけてハッとした。
果奈ちゃんはどんな顔をしてたっけ。
最初に話したときの果奈ちゃんの笑顔も、照れた顔も何故だか思い出せない。
果奈ちゃんはいつからクラスにいたっけ。
あの頃、私の隣の席はずっと空席じゃなかったっけ。
今になって様々な疑問が浮かんでくる。
そんな私を不思議そうに見ながら娘は言う。
「お母さん、"泣き子さん"にあったことがあるの?」
「ええ、まあ…」
私の返答に対して娘は驚いたような顔をした。
「…ねえ、お母さん…その噂で、"魂が代わった"後の特徴があるんだよ」
「あら、どんな特徴なの?」
娘は少し躊躇いがちに言った。
「遠藤果奈が見えるようになるんだって」
ねえ、お母さん?
「お母さんは…誰?」
「何言ってるのよ、お母さんは、花…」
あれ、私は…花…?
山本花…それが私の本名?
違う、何故かそう思う。
私は花…だけど花じゃない…?
私は…?私は…ダアレ?
この度は、"泣き子さん"を読んでいただきありがとうございます。
初投稿と言うことでホラーさはあまり出ませんでしたが、少しは怖いかな…?くらいで読んでいただけたら幸いです