菜々子 下
焼肉に行った日から3日後同じクラスのゆーいに朝一番に彼氏が出来たと嬉しそうに言われた。新しい人出来るの早くねえかとちょっと思ってしまう。
とにかく、お昼が来るまでその彼氏がいかに優しくてカッコいいのかを惚気られた、幸せそうでなにより。
そんな放課後、選択が被って一緒だった理恵とこの後マックにでも行くかと話していた時だ。
「あっ、真由子と桐谷さん」
理恵が同じクラスだという子たちの元にかけて行ったその時ちょうどスマホが揺れた。見たら、ゆーいからだった。
「げっ、安藤」
「……こんにちは」
「ちーす、桐谷さんは丁寧だねーそれに比べて真由子の反応酷い」
「酷くないですよ、普通です」
何だか付き合うにつれ酒井さんはより理恵に酷い反応を取るように思えるのだけど理恵はそれを面白がってると思う。
以前、慣れない猫みたいでかわいーと言っていたからそれは確かだろう。
「理恵、ちょっと外すねー」
「りょー」
「ちょ、安藤も連れて行ってください」
「無理ー頑張れ酒井さん」
さてと、離れた理由としてゆーいからのメッセージが見間違いじゃなければ緊急を要するものだったからだ。
『どうしよう(;_;)最低な事しちゃった。私、バレたら殺されちゃうかも、理恵ちゃんには言わないで』
……どうしてそうなったのさ。なんで私だけに言うのさ。もう、訳分からない。
『落ち着いて、ゆーい。今どこにいるのさ』
『駅前のファミレス』
ゆーいは、確か今日は4時間だ。その間、ずっとまっていたというのか?とにかく、行ったほうがいいんだろうけどはぁ……行きたくない。
『分かった、今行く』
未だにじゃれあっている理恵には悪いけど行かなくてはいけないから。
「理恵ーごめん、用事出来た」
「んー分かったじゃまた今度ね」
「ありがとう理恵」
「ちょっと安藤を置いてかないでください」
「諦めなよ、まゆちゃん」
「嫌」
よし、行くか。うう、気が重い、絶対ろくな事じゃ無いでしょ。
「って、黒井さん無視ですか」
うん、スイッチ入った理恵の邪魔をするのは後が怖いから助けられないんだ、ゴメン自分でなんとかして酒井さん。
そして、私は駅前のファミレスにいる。
「ゆーいお待たせ」
「ななちゃん」
泣いていた。最近、ゆーいの泣いている姿ばっか見てるな。とりあえず、落ち着いてくれないと話も出来ないから泣き止むのを待つとする。ほぼスッピンだからか泣いていてもウオータープルーフの化粧を使ってるのか酷いことにはなっていなかった、羨ましい。
「落ち着いた?ゆーい?」
ドリンクバーとチョコケーキを頼んで、それをチマチマと食べながら落ち着くのをただ待っていた。私は、理恵やあーやとは違って慰めるとかそういうのは向いてないしうまく出来ないからただ相手に寄り添うようにしている。
「うん、ありがとうななちゃん」
「それで?」
そう言うと、わかりやすく肩をゆらしたゆーい。我ながらキツイ言い方をしたかなとは思うけど苛立ってるのだ仕方ない。
「う、うん。あのね彼氏が出来たと言ったじゃん?勘太と付き合ったんだけどね」
「うん」
今朝のことなのだ、忘れるわけない。そういえば、楢原と付き合ったのか。
「何か、太一と別れたの噂になっていてね、さっきLINEで隣の学校の山田君がね告白してきたの」
そこで言いにくそうに切ったゆーい。何だか嫌な予感がするんだけど。
「それで?」
「断ったのに、お試しで言いからって押し切られちゃったの、これって浮気だよね、どうしよう勘太凄い嫉妬深いの浮気したら殺すってOKした時に言われたの」
「待って、落ち着いてゆーい」
情報を整理しよう、楢原勘太とゆーいは、昨日?付き合った。その時に、浮気したら殺すと言われたと。そしたら、さっき山田という他校の奴に押されて思わずOKしたと……これはゆーいが悪い。というか、やっぱりゆーいはモテるな、他校にも噂がいくってどうなのよ。
「どうしようって、山田って奴に断りを入れた方がいい」
むしろ、それしかないと思う。きっと、付き合った事も知られるだろう時間の問題だ。
「怒られるよね」
そりゃ、怒るだろうね。1回OKしたのに、一日でポイだもん。だけど今回ばかりは全面的にゆーいが悪いのだ。いつか、刺されるんじゃないかと心配なんだけど。
「怒られるよ」
当たり前の事なのにこの子は何を言ってるんだが。
「だよね……」
中々、煮えきらないゆーい。何となくだけどゆーいはこのまま二股状態なのを続けるんじゃないのかなと思う。本当に何となくなのだけども。
理恵なら、絶対に怒って必ず別れさせるんだと思う。だけど、私はそれをしない。……そんな所をゆーいはわかっていたのではと思う。じゃないと理恵に内緒なんて言わないだろう。
「ゆーいはさ、なんで私を選んだの?あーやだっていたじゃん」
ゆーいも狡いけど、私も狡い。
「だって、ななちゃん私も悪いって、言ってくれたじゃん、だから今回も叱ってくれるかなって」
「なんじゃそりゃ」
本当になんじゃそりゃだ。それだけで、重荷をこの子は押しつてきたのかと思うと改めて怒りが湧いてくる。
「奢るから、許して」
「許さないけど、奢られる」
ああ、だけど私はゆーいのことを嫌いではないんだよな。
「狡いね」
「お互い様でしょ」
奢りということで追加したパフェを崩しながら言い合った。きっと、又ゆーいに呼ばれる日が来るんだろう。
もしかしたら、来ないのかもしれない。けれど、私はいつでも駆けつけてあげるんだろう。
「あーあ、馬鹿みたい」
「本当だよね」
男がいないと生きていけないゆーいと、そんなゆーいを見捨てられずにいる私。そして、そんなゆーいに群がる男達。誰が一番馬鹿なのか。決まってる答えは――だ。
「帰ろうか」
「うん、帰ろう」
そうして、いつも通りに戻るのだ。
テーマは「二股」でした。