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【詩集】拙くも進もうとする試み

詩の夢

作者: につき

――(晴れている)

――(草が乾いてきた)

鹿は鹿語で語り合い、


――(誰だお前は)

――(どこそこの飼い猫だ)

猫は猫語で語り合う。


――(月が出るだろう)

――(やがて風は止む)

楠は楠語で語り合い、


――遠ざかるほどに近しく思う笑顔。

――今自分自身が故郷であること。

わたしはわたしとわたし語で語り合う。


それらの言葉たちは、

いわゆる記号化された言葉ではなくて、

もっと直接的な原始の言葉。


獣たちが、わたしが、わたしの祖先たちが、

飽きもせず繰り返してきた感覚の言葉。


通訳の無い言葉は、過ごした同じ年月で

深まっていく。


たとえ胸の中と、実在の間の果てしない

空白を経てさえも。


わたしと面影たちは語り合う。

(あるときはイメージで。)

(あるときは音の気配で。)


夢の中で見る彼らの息遣いは無い。

(いつも静かに片隅で漂っている。)

(あるいは、少し笑っている。)


わたしと彼らの間に通じる言葉があって、

目配せもなく、符牒もないけれど、

わたしの中でだけは通じている。


目が覚めて思い出せば妙な夢でも、

現れてくれたことに

少しばかり震えている。


メッセージなどははっきりとは無いが、

残っている温かみと、

気付かず埋められた記憶の空白。


月の言葉に死を聞くように、

夢は変わらぬどこかと

繋がっている。


夜の夢と、わたしだけの自分を繋ぐもの。

自分だけの言葉で夢は出来ている。


華やかでも地味でもなくて、

ただわたしから夢へと

流れる一本の川のような言葉。


そこに四季はあり、

夜明けも日暮れもあり、

暑さ寒さもあって、

実感に満ちたわたしだけの

野が周りに広がっている。


野は海へ果て、

川も海へ尽きて、

海は夢で満ちている。


夢はどこかの岸辺を今も濡らす。

波は海を越えて届いていく。


誰のものでもない岸辺を目指して、

永遠の海を渡って行く。




 *


 

 通訳の無い自分語であってはならないと思います。わたしは詩に関してそう思っています。一方で、自分語でない詩はありえないとも思います。その間で詩人は揺れています。伝えるための詩なのか、それとも伝われと祈る詩なのか。

 最後から四連目の、――遠ざかるほどに近しくなる笑顔。では、亡くした父母が記憶の中で遠くなっていくに従って、怒りや拘りが時間の中に溶けて行き、ただ親しさだけが強くなっていくのです。次の行の――今自分自身が故郷であること。とは、父母の懐の中に故郷はあり、それを失ったわたしですが、子どもたちの故郷であろうとする思いなのです。

 そして夢の話が出てきます。夢の世界は自分だけの言葉で出来ているとわたしは思います。だからこそ、突拍子もなく矛盾していて不条理でそれでいて気になってしまう。夢の中では死者とも会えます。語り合うこともあります。彼らは通訳なしでわたしだけの言葉を聞き取り、話しています。そして、夢は果てのない海でもあります。どこかの岸辺を濡らし、自在に波が渡って行きます。

どこかとは、誰かであり、わたしであり、あなたでもあります。詩の夢は、永遠の海を気儘に行くことなのであり、誰のものでもない岸辺を目指すことでもあります。

お読み頂いてありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] につきさんの詩に関する短編はいつも読ませていただき、スゲぇ……といつも感動しています 「通訳の無い自分語で~それとも伝われと祈る詩なのか。」 なるほど、確かにそうだと思いました。 詩とは詩人…
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