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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第12章 誰がために鐘は鳴る
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死者の笑う夜③

少々短めです。

 蝋燭の灯りに鈍く輝く剣閃がラウラを襲う。

 時には突き、時には斬り払う剣筋は驚異的な速度でラウラに迫る。


 それをかわし続けるラウラ。

 それはお世辞にも優雅とは言い難いものだった。


「ずいぶん無様だね、これがあの・・ラウラ?」

「……………」


 かつて虚仮にされた皇城でのことを未だに根に持っているらしく、ラウラの避ける姿を嘲笑う。

 だが、ラウラはそれには応じない。

 ぎりぎりのところで何とか避け続けている。

 そこにはいつもの華麗な体捌きは全く見られない。

 

 まるで蛙のように床に伏せる。

 後ろに倒れるように避ける。

 時折バランスを崩す。

 だが、何とか避け続ける。


「それとも、僕の力が君を上回ったのかな?」

「……………」


 歪な笑みを浮かべる蓼沼を無言で見るその目には、感情の動きが全く見られなかった。

 無様な舞いを披露しているくせに、そこには一切の絶望がない。

 いや、それどころかこの戦いにすら興味がないような視線に、蓼沼は苛立っていた。


「くっ! しぶといね! さっさと僕に倒されろ!」

「………………」


 煽る台詞を投げかけているつもりが、全く反応のないラウラに逆に自分が冷静さを失っていく。

 冷静でなくなる度に、剣筋が乱れていく。

 ほんの僅かではあるが、確実に。


 乱れた剣筋だからなのか、あとほんの数ミリのところで剣が空を切り続ける。

 もし蓼沼が冷静さを失っていなかったら、それが異常であると気付いたかもしれない。

 ラウラは無様に避けながらも、一度として剣に触れていないのだから。


「いい、加減に、倒れろ、よ!」

「……………そろそろ…だな」


 蓼沼の剣筋が大きく乱れたのを視認すると、ラウラは呟く。

 すると、途端にラウラの動きが見違えるようなキレを見せ始めた。

 

 剣を避ける所作は流れるような優雅さを見せ、切っ先のほんの数ミリ先にいるはずのラウラに全く届かない。

 まるで、そこに相当な距離が開いているようにすら感じていた。


「何で! どうして!」

「そりゃそうだ。狙ってたんだからな」


 優雅に舞い踊りながら、ラウラは淡々と言葉を連ねる。


「今度はこちらから行こう」


 一際大きな振りをかわしたラウラは、蓼沼の視界から消えた。

 いや、消えたように見える程の踏み込みにより、蓼沼の懐にもぐりこんでいた。

 剣が引き戻されるよりも早く、ラウラの右肘が蓼沼の顎を跳ね上げる。

 一瞬意識を飛ばしたのだろう、蓼沼はその手から剣をとり落とした。

 その隙を見逃さず、ラウラの左拳が蓼沼の眼前に迫る。

 思わず両手で顔を覆ってしまう蓼沼だったが、想定していた打撃が来ないことに意識を乱してしまった。

 次の瞬間、蓼沼の頭を華奢な白い2本の手が掴むと、すぐさま顔面に膝が飛んでくる。

 避けることも出来なくなった蓼沼はその打撃をまともに喰らい、整った鼻が「ぐちゃり」という嫌な音とともに潰れる。


「……………!」


 言葉も発せずに苦しむ蓼沼だが、ラウラの攻撃は苛烈さを増す。

膝蹴りの勢いのまま、蓼沼の頭を両足でホールドすると、反動をつけて体を回転させた。

 変形のウラカンラナのような形で蓼沼を床に転がすと、即座にその腕に取り付いて十字固めで肘を壊す。

 腕からの攻撃を封じ終わると、次は自分の足を中心に足を交差させた。

 一度決まると外せない関節技、「足4の字固め」だ。


「ふ、ふざけるな! 馬鹿にしてるのか!」


 激痛に悶絶しながらもラウラに悪態をつく蓼沼。

 ラウラが仕掛けたのはプロレス技だ。

 これはラウラの蓼沼に対する挑発だった。


 元よりいつもの戦いをするつもりなどない。

 確実にここで仕留めておかなければならない。

 だからこそ、常に自分に相手の意思を釘付けにしておく必要があった。

 もしここで逃がせば、それは新たな犠牲者を増やすだけなのだ。


「この程度で…僕を倒すつもりかい?」

「………!」


 一瞬体を走った悪寒に、即座に足を解いて距離を取る。

 ラウラが離れると同時に、蓼沼が懐から取り出したナイフが蓼沼の足を分断する。


「こうすれば…いいんだよ…」


 分断した足を切り口に近づけると、断面から出てきた触手のようなものが足を接合していく。

 その姿は、最早人間という範疇を超えてしまっていた。

 再び立ち上がると、いつの間にか修復した腕でナイフを構える蓼沼。

 その周囲に魔力が集まっていく。


「もういいよ、君なんかいらない。君のかわりに西川さんを貰うよ? 彼女だって『勇者』の一人だから」


 集まった魔力は、既に視認できるほどに集束している。

 その色は、どす黒い色をしていた。

 

「そんなこと…させるかよ!」


 ラウラは己の魔力を解放させる。

 しかし、ただ解放するのではなく、まるでヴェールを纏うように、自身を包んでいく。

 

「楓に手を出す奴は…許さん!」


 蓼沼の魔力を包むようにラウラの魔力が展開される。

 

「な、なんだよ! これは!」

 

 蓼沼の表情が驚愕に変わる。

 どす黒い魔力が、ラウラの魔力によって圧縮されている。

 徐々にその大きさを減らしているのだ。


「私の魔力でお前の魔力を削り取っているだけだ。お前がもっと研究熱心だったら、いくらでも私に勝つ方法はあったはずだが…所詮は分不相応なチート能力だったってことだな」


 蓼沼の顔が苦しげに歪む。

 だが、その禍々しい魔力は底をつく様相を見せない。

 尚も抵抗しようとする蓼沼が、ナイフを振りかざす。


「…ちっ」


 ラウラは小さく舌打ちすると、大振りに振るわれたナイフをかわしつつ懐に潜り込むと、体の回転を活かした左ボディブローを肝臓に、返す右ボディブローを腎臓にねじ込む。

 

「ぐぇぇ…」


 体をくの字に折り曲げて悶絶する蓼沼。

 だが、ラウラはその両拳を不思議そうな表情で見つめていた。

 

(…何だ? 今の感触は?)


 蓼沼はようやく悶絶から復活すると、再びラウラにナイフを振るう。

 だが、先ほどまでの鋭さは見られない。

 しかし、その体からあふれ出る魔力は留まることはない。

 

 繰り出されるナイフの悉くを避けながら、的確にその拳を叩き込んでゆくラウラ。

 その拳から伝わる感触の変化に露骨に表情を曇らせる。


(まるで活力が無い。本当に血が通っているのか?)


 まるで腐りきった肉を叩いたような、全く張りのない肉の感触。

 到底生きた人間の感触ではない。

 しかし、蓼沼にそれを違和感として考えるという気配は無かった。

 そして頭の片隅で主張しはじめる、ある結論。

 それをラウラが認識すると、先ほどまでの決意が、怒りが徐々に治まりつつあった。


「なぁ、蓼沼。お前、気付いてないのか?」

「…何のことだい?」


 蓼沼の顔には、ラウラの質問に対する純粋な疑問の表情が浮かんだ。

 それを見て、ラウラはあることを確信した。


(そうか、こいつも哀れな奴だな)


 そんな感情さえ浮かんでしまう。


「お前を殺すのは不可能のようだな…」

「今更気付いたの? 僕が君程度に殺されるなんてありえないよ!」


 蓼沼の返した言葉があまりにも滑稽すぎて、逆に悲しくさえなってくる。

 あまりにも無様すぎて。

 ラウラの皮肉に全く気付いていない。

 

(確かに、殺すことは不可能だ…)


 ラウラはそう実感した。

 蓼沼の様相は、ラウラの仮説を肯定する明確な判断材料だった。

 

(もう死んでいる者を殺すのは…不可能だからな)


 そう、蓼沼は既に死者だった。

 卑しいアンデッドに作りかえられていたのだった。

 本人の全く知らぬ間に…

彼が親友と慕う者の手によって…

 


真面目な話は難産です…

次回は28日あたりを予定しています。

仕事の都合上、更新がずれるかもしれません…

読んでいただいてありがとうございます。

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