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ハイエルフさん罷り通る!  作者: 黒六
第12章 誰がために鐘は鳴る
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矛盾の村

前回の予告より早まりますが、更新します!

14日の更新が危うそうなので、今日のうちに更新しておきます。

 そこは村という規模ではなかった。

 簡素ではあるが様々な店が軒を並べており、宿屋や酒場もあった。

 唯一存在しないのが各種ギルドくらいのものだ。


「何故この村にはギルドの支部すら無いんだ?」

「ここはなかなか人が通るような場所ではありません。ここまで大きくするのも大変でした。いつ廃れるかもわからないような村に態々支部を出すつもりもないのでしょう」


 護衛のリーダーだった冒険者が初老の神父に問いかける。

 神父は少し残念そうに話すが、リーダーにはその理由も尤もだと思えた。


 ギルドの支部を出すのはかなり大変だ。

 冒険者ギルドに例えるなら、まずはギルドマスターを選定するところから始まる。

 ギルドマスターには、登録する冒険者よりも頭2つ分以上は飛びぬけた実力が必要になる。

 それも当然のことで、もしその支部のある街が魔物の襲撃を受けたり、冒険者達が良からぬことを企んだ場合、単独でそれを防ぎきる程度の実力を求められるからだ。

 

 それに、定期的に依頼を出してくるような街でなければ運営が成り立たない。

 ギルドの支部に必要な人材は多岐に渡る。

 受付を担当するのは事務能力に長けた者、素材買取には素材鑑定能力に長けた者、育成担当者には教育技術の高い者、そしてその全てに求められるのは高い戦闘能力だ。

 そんな技量を持つ者はそうはいない。

 

 さらに運営の資金なども考えると、人材、資金ともにかなりの投資が必要なのだ。

 見返りの望めない街に支部が無いのも無理はなかった。


「それでも、出張所くらいはあってもいいんじゃないか?」


 出張所とは、街の有力者がギルドの受付を代理するような場合を言う。

 もちろん、素材の買取などは出来ないが、近場の依頼などは個人の裁量で冒険者を斡旋したりする。


「こんな僻地に留まってくれる冒険者などおりません。採取依頼だけではやっていけませんよ」


 苦笑いする神父に、リーダーは納得いったようだ。

 ふと周りを見回せば、楽しそうに走り回る子供たち。

 建ち並ぶ店からは活気あふれる売り子の声。

 こんな僻地にはありえない平和な光景だった。

 リーダーは何かを考えている様子で仲間の待つ酒場へと足を向けた。


 ラウラは相変わらず人間の偽装をしていた。

 店での買い食いを一切せず、持参した水筒の水を飲みながら、村の中央にある広場のベンチに座っていた。


「隣、よろしいですか?」

「…考え事の邪魔をしなければな」


 ラウラの隣に神父が座った。

 ラウラは神父が近づいてくるのを気付いてはいたが、あえて気付かないふりをした。

 神父の足捌きや体捌きはごく普通の人間レベルだ。

 それに、村人も皆普通の民間人レベルの強さだった。

 

 だからこそ、おかしい。

 何故、こんな僻地でただの民間人が安全に暮らしているのか。

 護衛の人間もいない。

 戦う力を持たない村人たち。

 違和感だらけの村の代表ともいうべき神父。

 鍵となる人物だからこそ、こちらの素性を知られる訳にはいかなかった。



「お嬢さんはかなりの使い手と聞きますが…少々話を聞いては貰えんでしょうか?」

「ここに残れってのは却下だ。私には戻る場所がある」


 ラウラは神父の頼みを即断した。

 まるでどんな話をされるか気付いていたかのように。


「そう無碍に断らなくても…」

「私にも都合というものがある。勝手に当てにされても困る」

「貴女はこの村が無法者に襲われてもいいと仰るのですか?」


 非難の感情を匂わせながら、神父は尚も食い下がる。


「貴女は腕の立つ魔法使いと聞きました。是非ともこの村を護って欲しいのですが…」

「くどいぞ、お前。それに、今まで襲われた形跡が無いのは自衛手段があるってことだろう? 」

「いえいえ、ここは不毛の地ですから盗賊共も魔物も来ないのですよ。ただ最近はそれなりに有名になりつつありますので、それを狙った者共が来ないとも限りません」


 確かにこの場所は人はおろか魔物すら近寄らない場所ではある。

 だが、安全に暮らせる場所が出来たなら、盗賊共に狙われやすくなるというのも道理ではある。


「とにかく、私はすぐにでもここを発つ。あの馬車に乗ったのも、ここまで馬車に乗ったほうが楽だっただけだ」

「…そうですか、でも、もう日も暮れる頃です。今夜はここに泊まっていったほうが良いと思いますよ?」

「…そうだな、明朝早くにでも発つとしよう」


 ラウラの反応にやや不満げな表情を見せた神父は、その後は何も言わずに広場を立ち去った。

 夕焼けに染まる村の家並みを見ながら、ラウラは冒険者達が滞在している酒場に向かった。






「俺はこの村に残ろうと思う」


 冒険者達は日も暮れきらぬうちから酒を飲んでいたようで、皆赤い顔をしていた。

 酒の力もあって饒舌になったリーダーが突然そんなことを言い出した。


「この村は平和そのものだ。俺は騎士にもなれない雑兵上がりの冒険者だが、ここで村人を護って暮らすのも悪くないと思っている」


 この発言に驚いたのは、仲間の冒険者と商人達だった。

 ここに来る途中に助けた馬車の商人もこの村に来ていた。

 盗賊共に襲われたとあっては単独行動もできないため、仕方なくこの村まで来ていた。

 ちなみに、その時の盗賊は皆首を斬りおとして首だけを麻袋に入れている。

 

「ちょっと待ってくれよハンス! お前はいいかもしれないが、俺たちはどうするんだ!」

「そうですよ、私達もここで店を構えるというわけではないんですよ?」


 冒険者達の今回の仕事は護衛であり、商人はこの村が顧客になり得るかどうかを確認するためだ。

 ここに永住するつもりなどさらさら無かった。


「もちろん今回の仕事は完遂する。俺が言ってるのはその後のことだ。依頼人を無事街まで護衛したら、俺はここに戻る。盗賊共の分け前は全部やるよ、餞別がわりだ」

「…そこまで言うならこっちは文句ねえよ。騎士になりたいってのがハンスの夢だってのは俺らも知ってるからな。ここが発展すれば騎士にだってなれるかもしれねえぞ」

「我々もこの村を発展させて支店を出せるように協力します」


 冒険者達も商人も納得したようで、酒宴は一層の盛り上がりを見せていた。

 ラウラは酒場の片隅でその様子を見ながら、水筒の水を飲んでいた。


「おう、どうした? お前さんは飲まないのか?」


 一人でいるラウラを見つけたハンスというリーダーが、木製のジョッキを片手にやってきた。

 ラウラは露骨に顔を顰める。


「おいおい、そんなに嫌わなくてもいいだろう? ここまで一緒に護衛した仲じゃないか」

「私は酒を飲まないんだよ。あまり酒臭い息をかけるな」


 それを聞き、大げさに両腕を広げて天を仰ぐ仕草をするハンス。

 

「酒場に来て酒を飲まないなんて、見た目通りのお子様か…」

「酒を飲むかどうかは私の自由だろう?」

「…お前、神父の申し出を断ったらしいな? どうしてだ?」


 ハンスが真面目な顔で聞いてくる。

 ラウラは鬱陶しそうな表情を見せて、直球な言葉を返した。


「この村は胡散臭い。何もかもが怪しい。信用できない。以上だ」

「…どうしてそう思うんだ?」


 ハンスの表情が変わる。

 といっても激昂するといったものではない。

 ハンスとてそれなりに熟練の冒険者だ。

 目の前の少女が見た目通りの実力ではないことくらい十分に理解している。

 その実力者がこうもはっきり怪しいと断言しているのだ。

 そこに何か理由があることを理解したからに他ならない。


「理由はありすぎて困るが、例えばお前らが食べてる肉はどこで獲れた? この付近は魔物すら近寄らないのなら、ただの野生動物なぞいるはずがないだろう? それに、水は井戸があるらしいが、枯れていない井戸は皆が情報として知っててもおかしくない。水場の情報は貴重だからな。なのに、これだけ水を振舞えるほどの井戸の情報を私達は一切知らなかったんだぞ?」

「それは…そうなんだが…」


 言い澱むその姿に、ラウラはその理由に大方の見当をつけた。

 

「…子供か?」

「ああ、あれを見ちまったからな…」


 ラウラもその様子を見ていたから知っていた。

 無邪気に遊ぶ子供を見るハンスの優しげな視線を。

 この男がそんなに悪い男ではないことは想像できた。

 だからこそ、ラウラは忠告しておくべきだと考えた。


「この村の全てを信じるな。大人も子供も、食べ物も飲み物も全てだ」

「…それには確証があるんだろうな?」

「ここに来るまでに遭遇した冒険者がいただろう?」

「ああ、ここがどれだけ素晴らしいか教えてくれた連中だろ?」

「…あいつら、昨日の夜全員死んでたぞ」

「何だと!」

「実際に見てきたから間違いない。生存者なしだ」

「何故、お前がそれを知ってるんだ? まさかお前が…」


 ハンスが腰の剣に手をかけようとしたが、ラウラは視線に籠めた殺気でその動きを止めてしまった。


「あいつらがやけに饒舌だったんで気になったんだよ。あの時、あいつらは村のことしか話さなかった。いくらここが素晴らしいといても、それ以外のことを話さないってありえんだろう。まるで村のこと以外は話せないようにされてるみたいだったんだよ」


 ハンスを射竦める殺気を緩め、水筒をハンスに手渡すラウラ。

 その中にはまだ結構な量の水が入っているようだった。


「私はまだ予備があるから気にするな。それから、これを渡しておくから飲んでおけ。今すぐにだ。仲間にもな」


 手渡したのは小さな瓶に入った丸薬だ。

 ハンスはそれを訝しげに見つめている。


「それは呪いや疫病の類を中和する秘伝の丸薬だ。この村には何かあるからな、予防策は早めに打っておいたほうがいい」

「そんなに危険なのか、ここは?」

「ああ、死んだ連中は少なくとも外傷は無かった」


 ラウラが野営を抜け出した時、ラウラはすれ違った冒険者達に異常を感じて様子を見にいったのだ。

 案の定、状況は最悪だった。


「…わかった、これはありがたく受け取っておくよ」

 

 ハンスは水筒を掲げて感謝の意を示すと、仲間たちの輪に戻っていった。

 その様子を眺めていたラウラは、ここぞとばかりに女給が持ってきた酒と肉を断ると、鞄から新しい水筒とパンを出して腹ごしらえをした。


 何とか腹の虫を静まらせたラウラは、指定された宿には向かわず、村のはずれに生えていた1本の古樹に昇り、太い枝の上で器用に寛いだ。

 幹を背もたれにして、鞄から小さな薬瓶を取り出すと、古樹の幹に振りかけた。

 すると、古樹の周りにうっすらと光の膜のようなものが現れた。

 それはラウラに何かを訴えかけているように彼女の周りをたゆたう。


「…なるほど、やはりここは異常だってことか…事情を知ってるのは…やはり神父か」


 酒場以外の家で灯りのついているのは2箇所だけだった。

 宿屋と…教会だった。


「ハンスはあの薬を飲んだだろうな? でなければとんでもないことになるぞ」


 ラウラとしても、無関係な者を巻き込むつもりは無かった。

 だから、ハンスに薬を持たせた。

 あの薬は、とある呪いを無効にする効果を持っている。


「まさか、冒険者全員がアンデッドになっていたなんて、誰が信じるかよ…」


 ラウラが様子を見に行った彼等は、全員アンデッド化してラウラに襲い掛かってきた。

 つまり…既に生存者はいなかったのだ。

次回更新は16日あたりを予定しています。

確定できなくてすみません…

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